日はまた昇る

コメントを残したい方は「はてなブックマーク」を利用してください。

自民党、政権復帰。しかし、圧勝に浮かれてはいけない。

昨日、第46回衆議院議員総選挙が行われた。

予想通り自民党が政権へ復帰することになった。

自民・公明の議席を合計すると3分の2を超えるという圧勝だった。

 

3年4ヶ月前、民主党政権交代を成し遂げると、世間は、今度こそ何か変わるかもしれないという期待感に包まれていた。しかし今回の政権交代には、そのような高揚感は全くない。ちまたに流れているのは、どこかほっとした安堵感と、なぜかそこに寄り添う奇妙な挫折感だ。

 

なぜこうなったのだろうか?

 

私の政治信条、立ち位置

ところで、本論に入る前に、自己紹介を兼ねて、私自身の政治信条、立ち位置を簡単に説明しておきたい。

・伝統的な価値観を大事にし、小さい政府を志向する。経済政策ではサプライサイドの施策を重視する。

・全体的な方向性を大事にし、個々の政策は柔軟に考える一方、実現可能性を重視する。

・外交においては国益、特に実利を重視する。

自衛隊を正式に軍隊にし、集団安全保障体制に移行すべきと考える。そのために必要な憲法改正を支持している。

こういった政治信条を持っている。いわゆる保守右派&リアリストと言われるポジション。詳しくは、また後日書きたいと思う。

 

(注)保守右派というのを勘違いしている人がいるようなので追記する。ポリティカル・コンパスの記述に沿っているのだが、政治的価値観が保守(右派)、経済的価値観が右派(市場派)という意味。くわしくは、こちらを参照してほしい。また、リアリストとは、リアリズム(現実主義)に法って国際関係を考える人という意味。リアリズム(現実主義)は、国際関係論における主要な理論のひとつ。概略はWikipediaで。

 

 

日本人の心の中の葛藤、更に複雑になった日本社会

さて、話を戻そう。

安堵感と挫折感の織り混じったこの空気はどこからきたのだろうか?

 

震災と原発事故によるダメージ。心情として原発に反対したいし、本当は放射能は怖いのだけど、ガレキ受け入れに対するあまりに感情的な反対運動にも引いてしまう。そして被災地を応援し手助けしたいという気持ちと、被災地に近い地域で生産された食品など放射線に汚染されていないか安全性への疑問も持っている。

中国との関係。身の回りには中国製品が溢れ、中国との貿易は身近なものになったし、多数の中国人が近隣に居住し普段から直接接することも多い。その一方でニュースから流れるのは、日本を敵視し、挑発する尖閣での中国の行動。そして日中友好を求める心は、反日暴動で意趣返しされている。近くて遠い国という印象が日増しに強くなっている。

日本の産業の雄だった電機産業。ソニーパナソニックもシャープも沈んでしまった。サンヨーなんてバラバラにされて最後は中国に売られてしまった。でもアップルの製品はかっこいいし、韓国や台湾や中国の製品はコストパフォーマンスに優れている。自国産業を応援したい気持ちと、消費者として外国会社の製品を買ってしまう矛盾。

 

この3年4ヶ月の間に、私達日本人の中には、これまで以上の葛藤が生じた。うまくいかないもどかしい思いが大きくなってきた。今までだったら、それは全て「政治=自民党」のせいにできたのかもしれない。

でも今回は違っている。政権は「自民党」ではなく「民主党」が担っていた。

それでも前回と同じく国民は政権を変える選択をした。でも変えた先は自民党で本当によかったのか? あれほど自民党を自分たちの怒りの対象にしてきただけに、手のひらを返すのに躊躇している。そういった国民の迷いと自戒が、安堵感と同時に奇妙な挫折感を生んでいるのではないか。

少なくとも、民主党政権で悪くなったことは多数思い浮かんでも、これがよかったと言えるものがほとんどない。正直に言って前回の選択は失敗だった。だからこそ、今回の選択が失敗でないと誰が言えるのか? 国民のそういった不安感を感じる選挙でもあった。

 

民主党の失敗を繰り返すべきでない

 「自民党でよかったのか?」

それは今後わかることだ。やってみなければわからない。しかし、私たちは既に一度政権交代を経験している。今後どう自民党が動けば自民党でよかったと感じ、どう動けばやっぱりダメだったと感じるのか。それくらいは考えておきたい。そうでなければこの3年4ヶ月が本当に無駄になってしまう。

そこで民主党が政権を奪取した時のことをもう一度振り返りたい。

自民党は、自民党でよかったと国民に思ってもらうためにも、民主党の成果と失敗を見つめなおし、失敗はそれを繰り返さないようにすべきだろう。

 

事業仕分け民主党の数少ない成功施策であり、全ての失敗の原点

民主党が政権をとって、最初に取り掛かったのは、「事業仕分け」だった。

マスコミが仕分け人の一挙一動に注目する中、予算の枝葉末節にすぎない案件を首切り台に並べ斬首する、派手なパフォーマンスに彩られた政治ショーが行われた。枝葉末節と書いたが、目標3兆円にはるかに届かないといえども、それでも全部集めると「1.7兆円」が国庫へ戻った。(1

賛否はあったものの、概ね世論は好意的に捉えた。

事実、鳩山政権に対する支持率は、この「事業仕分け」が行われた2009年10月~11月にかけて支持率を上げている。(2

 

事業仕分けに先立ち、2009年9月、民主党政権交代早々に、麻生政権時代の補正予算を執行停止した。執行停止した金額は2.5兆円を上回る。(3) (4)

さらに2010年度予算編成作業も一旦白紙とし、ゼロから予算編成をやりなおすことにした。

これらは全て民主党の目玉施策、「子ども手当」や「高校無償化」「高速無料化」などの財源確保を目的にしていた。特に大きな予算処置を必要としたのは2010年度から創設しようとした「子ども手当」だ。その巨額の予算を捻出するために、2009年度補正予算を凍結し、事業仕分けで事業を廃止・縮小し財源を捻出した。そして予算編成を根本から変えようとした。これらは、一見、政策として連動した動きのように思える。「大きなことをやるためには、必要な痛みだ」「政治主導たる民主党の面目躍如たる施策だ」 民主党支持者の賞賛が続いた。

 

ただし、それは「子ども手当」を創出することが、全体の利益になってはじめてなりたつ賞賛である。しかし今から振り返ると、この「一連の動き」は、全体としてみると、メリットよりデメリットの多い方向への舵取りだったと言える。

 

子ども手当」を創設した行動の問題点

はじめに断っておくが、「子ども手当」そのものにはメリットがある。これらは子育て世代への所得の再分配の機能を持つ。公の補助があれば子育て世代の生活は豊かになる。そのことを否定するつもりはない。しかし当時(今もだが)は不況下で、税収が落ち込んでいる。こういった状況で新たな所得の再分配の施策を実施すると、その財源確保のために、予算(支出)を減らした費目でデメリットが強く出てくる。

子ども手当」創設にあたってまず一番最初に考えるべきは、この施策によってもたらされる所得の再分配によるメリットと、予算(支出)をカットしたことによって生じるデメリットの軽重を比較することだったはずだ。

この観点で、「子ども手当」の財源確保のために、2009年度の補正予算を執行停止した行動について考えてみたい。この唐突とも言える判断は、当然地方自治体の反発を招いたし(5)、企業活動、ひいては日本経済全体に対する影響も大きかった。

景気対策補正予算)は需給ギャップを埋めるための施策である。2009年度に見込まれた需給ギャップは▲8%、金額換算すると約45兆円だった。(6)

2008年9月に起こったリーマンショックによる景況感は、2009年の第一四半期(1-3月)に最も落ち込み、第二四半期(4-6月)には弱いながらも上向きとなってきた。ただしその勢いは弱く、需給ギャップの解消には5年はかかると想定されていた。(7)

景気が上向いた理由として、麻生政権が行った対策、特に2009年度の補正予算がどれほどの効果があったかは、今となっては、途中で予算執行を停止したこともあり、測定不能だ。ただし、2009年9月に民主党政権が予算執行を停止したというメッセージはとても大きかった。景況が上向いた直後というタイミングがあまりに悪すぎた。この結果、民主党政権は経済政策を重要視していないのではないか、そういった疑念が政権発足早々に広まることになった。

景気にはマインドも大きく作用する。大企業や経済評論家だけでなく中小企業の経営者などにこのようなメッセージを与えたことは、民主党政権の大失策だったと思う。

子ども手当」の創設は、数十年に一度と言われる世界的な不況(ショック)に対する対策よりも、緊急度の高い課題だったのだろうか。景気対策を最優先し「子ども手当」を1年先送りにする選択肢を、なぜ民主党政権は採らなかったのだろうか。

 

スキャンダル

一方、2009年12月には、鳩山首相に、元秘書の偽装献金疑惑が生じた(こう言うよりお母さんから多額の援助をもらっていた事件といった方が通りがいいかもしれない)が起こった。(8)

2010年1月には、小沢氏の元秘書の石川氏、大久保氏などが政治資金規制法違反容疑で逮捕された。(いずれも有罪となった)(9)

こういったスキャンダルを受けて、鳩山内閣の支持率は40%台まで落ち込み、それ以降回復することはなかった。(10)

 

普天間問題と日米関係の悪化、机上の理論と実際の国際関係の解離

鳩山政権の息の根を止めたのは、普天間問題の迷走とそれによる日米関係の悪化であった。

鳩山氏は、米軍の基地問題については、かねてから一家言があったように思える。少なくとも政権交代の前から、普天間の県外移設と在日米軍再編ロードマップの見直しに言及しており、沖縄になにかの思いを持っていることを伺わせた。(11)

中国に対しては、「友愛の海」「東アジア共同体構想」を持ちかけ、中国重視の外交姿勢が顕著であった。(12)(13)

 私事になるが、この当時、私は民主支持者で民主党(鳩山氏)のブレーンといわれていた寺島実郎氏の講演によく行っていた人と懇意にしていた。その人が講演で聞いてきたのか「在日米軍の常時駐留のない日米安保」と「米国と中国との関係を等距離にする、いわば日中米正三角形の関係を作る」という理論をよく披露していた。これは寺島氏の持論だと思った。

そして私は、この論を聞きながら、鳩山氏の外交は、正にこの理論とそっくりだと思った。鳩山氏については、当時、ブレる、宇宙人(ルーピー)とよく批判されたが、「普天間最低でも県外」「友愛の海」「東アジア共同体構想」などは、ひとつの理論に基づいた展開しようとしていたのだと思う。(14)(15)

問題は、その理論が、アメリカの国益と真っ向からぶつかる一方、中国はそういった関係を望んでいないということだった。つまり実現可能性が全くない理論にもとづいて外交を展開した点であったと思う。

その結果、鳩山氏は、米国と沖縄の間に挟まれ、身動きがとれなくなり、最後には辞任に追い込まれた。それはみんなよく覚えていることと思う。

 

外国人参政権など・・・イデオロギー性の強い政策の強行

政権交代による混乱がまだ収まらない時期から、この機会に永年の懸案(願い)を実現したいという動きがバタバタと始まった。

その一つが外国人参政権であったと思う。(16)

しかしこの問題はセンシティブで、当然自民党など保守系の党から猛反発を受けるし、連立を組んだ国民新党、それから民主党内部にも個別の議員では反対する者も出た。こういった対立が先鋭化するものを、なぜ焦って国会に提出し可決しようとしたのか、理解ができなかった。議論もほとんどされていないのに関わらず、がむしゃらに制定しようとする姿勢は、異常だったと思う。

 

参議院選挙・・・最初の審判であり、覆らなかった評価

こういった失政続きの1年を経過し、国民は既に民主党に見切りをつけていた。それは2010年の参議院選挙の結果に表れている。今回の衆議院選挙とあわせて、自民党は、国政選挙で2連勝したと認識すべきだと思う。(17)

民主党政権は、実質的には1年で終了していた。その後は「ねじれ国会」の下、良い意味でも悪い意味でも、民主党民主党らしい政策を一切実現できなくなった。

そして日本は貴重な2年5ヶ月を失った。

こうやってみると、民主党政権交代直後の1年で、これほどひどい失政はないというレベルの失政を行ったように思える。野田首相になり、かなり挽回したように思えるが、それでも国民は懲り懲りしていた。それが今回の総選挙の結果になったのだろう。

 

民主党の失敗から何を学ぶか

民主党政権交代後、思いつきのような政策をとったと考えるべきでないと思う。

民主党の政策は、あるひとつの政策論に基いて実施されていた。ただし、個別の政策はそれなりに考えられていたものの、全体を見た時に、優先順位や実現可能性で齟齬がでるものが多かった。

①「子ども手当」など選挙での目玉政策を優先して、本当に必要だった景気対策を一旦停止してしまったこと。

②アメリカ、中国の国益、意向を十分に捉えることなく、机上の理論に基づく構想をたて、どの国にも理解できない外交を行ったこと。

③党内ですら反対意見が根強い(リベラル)政策を強行し、連立政権内や党内に反対者を作っていったこと。

④クリーンなイメージで売っていたのにかかわらず、政治資金にまつわるスキャンダルに見舞われたこと。

これらは、今回政権交代をなしとげた自民党にとって、他山の石にすべき事項と思う。

 

自民党政権が取るべき行動、支持者が支援すべき事項

①国民の願いは、景気回復であることを忘れない

民主党は、子育て支援が景気回復よりも重要だと見誤ってしまった。

よく言われることであるが、「好景気は七難隠す」なのだ。安倍総裁が選挙期間中、ひたすら景気対策を訴えたのは正解だった。7ヶ月後にはまた参院選がある。ここで少なくともねじれが解消しないと、国会運営は厳しくなる。衆院3分の2での再議決はできる限り避けたいところだ。

そのためには、一にも二にも景気対策日銀総裁人事と日銀法改正を視野にいれ、必要な金融緩和を実施する一方、財政出動公共投資を十分に行うこと。

最初の関門は予算の策定である。そこで今後がかなり決まっていく。

そして、景気対策が奏功し、景気が上向いてくれば、参院選の結果はついてくる。

 

②継続性を持った外交を。強硬策はちらつかせつつも必要な時まで発動させない

安倍総裁の持つタカ派のイメージは、対中外交で吉とでるかもしれない。

どんなに嫌おうとも、日本と中国は永遠に隣国として関係を続けなければならない。中国の指導層にしても、安倍総裁がどう出てくるかは、とても関心がある事項に違いない。これまでのパワーポリティックス重視の中国の出方から考えると、尖閣諸島に対して、何か仕掛けてくるかもしれない。いわゆるエスカレートだ。

そういう行動が行われた時、中国は試しているのだ。

これまで、そういった中国からの仕掛けに、日本の海上保安庁自衛隊も、とても落ち着いた対応をとってきた。むやみに挑発にのらず、落ち着いた対応を続けるべきだ。

一方、できれば最初の外遊先に中国を選択したらどうかと思う。小沢氏のような大人数を仕立てて行く外交ではなく、成果は期待せず、中国の新指導層、特に習近平氏と一対一の会談を行うだけでいい。

中国も安倍総裁の人となりを知りたがっているだろうし、面子を重視する国なので、最初の訪問国である点は、彼らに満足をもたらすだろう。期待してはいけないが、何か成果をあげられる可能性もある。

またアメリカとの関係強化は、今後の外交の死命線となる。TPP交渉参加を手土産に、早期にアメリカを訪問し、オバマ大統領との会談を持つべきだろう。

 

憲法改正や集団安全保障など、タカ派的政策は今は控える

安倍総裁の支持者は、この圧勝を受けて憲法改正や集団安全保障体制の構築を強く期待してくるだろう。正直に言えば、私もその期待している一人だ。

しかし、民主党の蹉跌を考えれば、こういった連立政権内に反対意見がある政策をゴリ押しするのは、決して得策ではない。今は参議院は比較第一党でもなく、過半数を握っているわけでもないことを、忘れないようにしたい。

私たち支持者は、あせってタカ派的政策を実現するように圧力をかけるべきでない。まだ我慢の時だ。3年4ヶ月我慢をしてきたのだ。少なくともあと7ヶ月の我慢はして当然だと思う。

民主党と同じ失敗は、決してやってはいけない。

 

④スキャンダルには十分に注意。閣僚の身体検査の徹底を

前の安倍政権の時には、閣僚に不祥事が続発し、その結果支持率を大きく落とすことになった。

政権をとれば、敵対者が必ずスキャンダル暴きを仕掛けてくる。それができなければ、マスコミを巻き込んで、イメージダウン戦略をとるだろう。

これに対抗するのはとても難しい。

閣僚を任命する際に、身体検査を十分に行い、できる限りスキャンダルに巻き込まれない体制づくりが望まれる。

 

 

最後になったが、この総選挙での自民党勝利は、スタートでしかない。日本の現状は、問題が山積みだ。もうこれ以上の時間を失うわけにはいかない。

そのためには、この圧勝に浮かれて、民主党と同じ間違いをしないように。

老婆心ながら書いてみた。

 

 

(追記)

11/17 11:14 文章のおかしいところ、重複している表現の若干の修正削除等を行いました。

11/18 11:31 誤記を修正しました。