読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日はまた昇る

コメントを残したい方は「はてなブックマーク」を利用してください。

北朝鮮の核実験は東アジアの平和と安定を破壊する

外交 危機管理 北朝鮮問題

北朝鮮の核実験は秒読み状態

いよいよ北朝鮮による3回めの核実験が間近になったと思われる。

ラヂオプレス(RP)によると、北朝鮮の朝鮮中央放送は27日、金正恩(キムジョンウン)第1書記が、事実上の長距離弾道ミサイル発射を巡る国連安全保障理事会の制裁決議への対応を協議するため、「国家安全・対外部門幹部協議会」を開催したと報じた。
この会合で正恩氏は「強度の高い国家的重大措置を講じるという断固とした決心」を表明し、幹部らに「具体的な課題」を示したという。核実験を強行する姿勢を改めて示した可能性がある。
出典:正恩氏「重大措置を講じる決心」…核実験強行か|読売新聞

「強度の高い国家的重大措置」が、核実験を示すと予想されている。これは、日本のみならず、アメリカ、中国、韓国など6カ国協議の参加国の共通認識だ。
北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞も「核実験は民心の要求だ」として核実験へ北朝鮮が踏み出すことを示唆した。*1


北朝鮮による2012年12月の弾道ミサイル実験

2012年12月12日に北朝鮮は人工衛星と称する弾道ミサイル実験を行った。
参考:北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射について|防衛省 *2

これは明らかに「弾道ミサイル技術を使用したいかなる実験」も禁止した、国連安保理決議第1874号に違反する。*3
また、決議第1874号より前に決議された決議第1695号、決議第1718号にも違反する行為と考えられている。
参考:国際連合安全保障理事会決議第1695号 訳文
   国際連合安全保障理事会決議第1718号 和訳
   国際連合安全保障理事会決議第1874号 和訳

北朝鮮に対する一連の国連安保理決議は、国連憲章第7章に基づくものであり、加盟国に対し法的な拘束力を持つ*4。この一連の決議には、国連憲章第7章第41条に基づく武力を用いない制裁を含む。
国連加盟国は安保理決議に示された制裁を行う義務がある。日本も決議に沿い、法律、省令を改正し、制裁を行なっている*5
参考:北朝鮮制裁について|経済産業省 広実郁郎

制裁であるから、制裁対象の国に関係する団体、個人に対するダメージや権利の抑制がある。北朝鮮を擁護する人の中にはこれを人権侵害と捉える向きもあるが、国連憲章第7章は関係団体・個人の権利を制約する行為に対して正当性を与える数少ない規範である。*6
制裁を受けた側は、決議の要求に従うしか、権利回復の手段はない。


安保理での北朝鮮制裁の議論は難航

2012年12月12日の事実上の長距離弾道ミサイル実験という北朝鮮による明確な国連安保理決議違反があったのに関わらず、この行為に対する決議の議論は難航した。中国が北朝鮮への制裁強化に反対したからだ。また決議という強い形での非難にも中国は難色を示し、法的拘束力のない議長声明とするよう主張した。*7
アメリカは粘り強く中国を説得し、結局、法的拘束力のある決議が全会一致で採択された。中国も賛成したという点は大きい。
中国がなぜ主張を変化させたかという点は不明だが、北朝鮮が本気で核実験の準備に入り実験が間近になったという点が、中国の態度に大きな影響を与えたのは想像に難くない。このまま北朝鮮に対する制裁強化に中国が反対を続け、安保理の議論が続いている間に北朝鮮の核実験が行われれば、中国に対しても大きな国際的な批判を招く。それを回避するために必要な妥協を中国は行ったと私は見ている。


国連安全保障理事会決議第2087号

決議は、今のところ日本語の全文訳がでていない。原文(英語)を読む必要がある。
SECURITY COUNCIL CONDEMNS USE OF BALLISTIC MISSILE TECHNOLOGY IN LAUNCH BY DEMOCRATIC PEOPLE’S REPUBLIC OF KOREA, IN RESOLUTION 2087 (2013)
この決議は、下のNHKの報道にあるように、新たな制裁は行わないが、今までの制裁を強化したものだ。
一方で、主文第19項で、"expresses its determination to take significant action in the event of a further DPRK launch or nuclear test"(北朝鮮がミサイル発射や核実験などの行動を取った時には、重要な行動をとる決意だと表現し)と、踏み込んだ表現で警告を発している。

採択された決議は、北朝鮮の発射は安保理決議違反だとして改めて非難するとともに、核開発計画を放棄するよう求めています。
さらに、以前の決議で定められた制裁の対象リストに、新たにミサイル発射に関わった北朝鮮の宇宙空間技術委員会とその幹部などを含む6つの団体と4人の個人を、資産凍結などの対象に加え、制裁の強化をねらっています。
また、決議は北朝鮮がさらなる発射や核実験を行った場合には「安保理として重大な行動を取る」と警告しています。
出典:国連安保理 北朝鮮制裁強化の決議採択|NHK

 

それでも北朝鮮は核実験を強行すると予測

決議第2087号を受けて、北朝鮮は反発している。それに核実験の準備は既に概ね終わっていると報じられている。*8
決議第2087号が採択されたから、北朝鮮が核実験に踏み切るのではない。核実験はそんなに短時間で準備できない。地上に被害が出ないよう地下数キロと言われる深度までトンネルを掘り、核兵器を設置した上でトンネルを塞がなければならない。*9
準備は用意周到に隠密裏に時間をかけて行われた。
異常だとはいえ、北朝鮮の決意の強さはわかると思う。核実験は遠くない将来、おそらくは数週間以内に強行されるだろう。

(小コラム)
そんなことは起こらないと十分に解っているが、それでも北朝鮮は核実験を中止し、核を廃棄すべきだと言っておきたい。
核の開発を続けるよりも、国内産業を育成し、国民へ十分な食料を配り、飢えをなくすほうが北朝鮮の国益に沿う。その方法は簡単だ。80年代の中国に習い、改革開放をすればいい。核を放棄すれば外国からの援助は大きく増える。ミャンマーを見るとわかるだろう。軍事独裁の時の経済制裁が解除され、世界から注目を浴びている。その方が安全保障上も有利なのだ。
でもそうすることは、先代、先々代の独裁を否定することに繋がり、若き世襲の独裁者の正当性を奪うだろう。だからできない。それは近隣国にとっても、ほんの一握りの特権階級を除いて大部分の北朝鮮の国民にとっても、忌まわしきことなのだけどね。でも独裁とはそういうものだ。国益よりも独裁者の利益が大事なのだ。

 

中国の反応がカギを握っている

北朝鮮が核実験を強行した時、中国がどう反応するかが今後を大きくわける。
私は2つのシナリオを想定する。

第一のシナリオ:北朝鮮を庇う

ひとつめのシナリオは、北朝鮮を更に刺激したくないという思惑が働き、国際社会の非難から北朝鮮を庇い、中国は現状維持を図るというシナリオだ。
この場合、決議第2087号で示した「安保理として重大な行動を取る」とした同意を根拠に、アメリカを中心として日本、韓国が強く反発するだろう。弾道ミサイル実験に比べれば、核実験の方が国際社会の反発が大きいので、この場合、中国非難の国際世論が生成されるだろう。
ロシアもアメリカに同調するとみる。
中国は、東アジアの現状維持と引き換えに、国際的な孤立を余儀なくされる。そして、北朝鮮へ影響力が大きいと見られていた外交上の威信が傷つけられる。
またアメリカはより一層中国への対決姿勢を強め、それは南シナ海東シナ海で起こっている領土問題にも影響を及ぼす。
今回も今までと同じように北朝鮮を庇う行為は、中国の国益とそぐわない点が多くなっているのに注目したい。

第二のシナリオ:北朝鮮から強硬派を一掃することを企図し圧力をかける

ふたつめのシナリオは、中国が決議第2087号で示した「安保理としての重大な行動」を常任理事国の威信をかけて主導的に行うというシナリオだ。
中国は、この「安保理としての重大な行動」にアメリカがイニシアチブを握ることを好まないだろう。
そこで、自らが主体となって制裁を加える可能性がある。
中国が北朝鮮との国境を完全に封鎖し、貿易を全く行わないと北朝鮮にとっては極めて大きな打撃となるだろう。特に北朝鮮は原油などエネルギー資源はそのほぼ全量を中国からの輸入に頼っている。*10
中朝国境の封鎖を行う場合、実効性を高めるため中国陸軍の数個師団(1集団軍は超える規模と思うが)を国境に移動させ封鎖するだろう。
それを脅しとして、北朝鮮の変化を迫るという行動だ。*11*12


日本はどうすべきか?

アメリカとは利害関係が完全に一致するので、足並みを揃える。たぶん、この件では韓国とも協力関係を持てる。
その上で、中国の反応を見極めるべきだろう。

中国が現状維持を選び、北朝鮮を庇う場合

中国に対する基本的な外交方針は変化させる必要はない。是々非々の態度で挑めば良い。当然、北朝鮮を庇う中国の行動については、強く非難すればいい。北朝鮮の暴挙とそれを支持する中国という構図で、北朝鮮&中国非難の世論を世界に広げる行動をとればいい。多くの国家が同調するだろう。

中国が北朝鮮に対して圧力を強める場合

これまでであれば、中国が北朝鮮に圧力を強めるなどという選択肢は全くなかった。しかし、再々にわたるミサイル実験と核実験は、少しずつ中国が北朝鮮を庇うことによる国益の損失を増やしている。中国の指導層は相当苛立っていると思う。
この場合、中国からみた日本は、波乱要素のひとつとなる。
そこでできれば日本と(一時的ではあっても)緊張緩和を図りたいと考えると予想する。中国は二国と同時に対立することを嫌っているように見える。例えば、日本と対立する時には、インドとは対立しないようにするなどの行動規範が見られる。
そこから予想されるのは、尖閣問題で対立が深まった状況の中、何らか中国から歩み寄りのサインが出る可能性がある。

中国共産党習近平総書記は25日、公明党の山口那津男代表との会談で、日中関係改善に意欲を表明した。安倍晋三首相について「高く評価している」と強調。安倍政権は中国新体制トップの習氏が歩み寄りの姿勢を示したことを歓迎し、自民党の高村正彦副総裁の訪中計画を含めた政治対話を加速させる方針だ。
出典:安倍首相を「高く評価」 習近平氏、関係改善へ意欲

この報道に注目している。今後の日中の外交に引き続き注目したい。

尖閣問題は重要な問題ではあるが、すぐに解決できる問題ではない。領土問題とはそういうものだ。例え永遠に小競り合いをし続けることになっても守りぬく。そういった達観は必要だろう。要は軍同士の衝突を回避しつつ、現状維持を続ければよいのだ。
一方で、北朝鮮の核開発は、すぐ、あるいはここ数年の東アジアの情勢を根底から覆す可能性を持った、喫緊で最重要の課題である。
日中両国とも北朝鮮の愚かな行為のために、脅威を受けている。
より大事なものを得るために、(例え一時的であっても)妥協点を探す。
時には、呉越同舟が最良の選択となることもあるのだ。



(脚注)

*1:「核実験は民心の要求」 朝鮮労働党機関紙  http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM26016_W3A120C1NNE000/

*2:添付している資料(pdf)がわかりやすい。この発表によると、『北朝鮮は発射後、「人工地球衛星」を地球周回軌道に進入させることに成功した旨発表している。これに関し、現時点においては、①北朝鮮が発射したとみられる何らかの物体が、軌道傾斜角約97度の地球周回軌道を周回していることは確認されている。②当該物体が、何らかの通信や、地上との信号の送受信を行っていることは確認されていない。以上のことから、今回の発射により、北朝鮮は軌道傾斜角約97度の地球周回軌道に何らかの物体を投入させたものと推定されるが、当該物体が人工衛星としての機能を果たしているとは考えられない。』として、明確に人工衛星でないと結論付けている。

*3:北朝鮮を擁護する勢力は、これは人工衛星だと主張するが、そういった言い逃れを許さないように、決議第1695号で「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止」としていたものを、決議第1718号では「いかなる核実験又は弾道ミサイルの発射もこれ以上実施しないことを要求」することに変化し、更に決議第1874号で「いかなる核実験又は弾道ミサイル技術を使用した発射もこれ以上実施しないことを要求」と変化した。人工衛星打ち上げロケットであっても弾道ミサイル技術を使用するため「人工衛星だから決議違反でないという言い逃れ」は完全に通用しなくなった。

*4:北朝鮮も加盟国であり順守する法的義務を追っている

*5:経済制裁措置|一般財団法人安全保障貿易情報センター http://www.cistec.or.jp/export/keizaiseisai/saikin_keizaiseisai/index.html#3_kitachousen

*6:新たに決議された決議第2087号では、主文第18項で「北朝鮮の一般市民のために不利な人道的な結果をもたらすことを意図するものではない」と人権侵害を意図する制裁でないと強調している。

*7:対「北」制裁強化 安保理決議の実効性を高めよ(1月24日付・読売社説)http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130123-OYT1T01520.htm

*8:北朝鮮、3度目実験準備ほぼ完了 中国の習総書記、核開発に反対 http://www.47news.jp/CN/201301/CN2013012301001951.html

*9:核実験場のトンネルから出る土砂や工事の進捗状況等は偵察衛星によって把握可能だ。だからこそ国際社会は核実験の準備が整ったと見ていると思われる。

*10:北朝鮮の対外貿易の特徴と展望 http://ritsumeikeizai.koj.jp/koj_pdfs/59509.pdf

*11:その時、中国軍と北朝鮮の国境防衛部隊との間で小競り合いがあるかもしれないが、全面的な衝突にはならないだろうと思う。

*12:この行動はオフェンシブリアリズムでは、ブラックメールと言われる行動だ。参考:http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50316882.html