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日はまた昇る

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日本人人質殺害。テロは所期の成果をあげた。

悲しくて、怒りがこみ上げる。

ISILが、2人の日本人を人質にとった。そしてその2人とも断首されて殺された。
いつ殺されたのかはわからない。
その報に接したのは、日本時間で湯川氏の殺害が1月24日夜、後藤氏の殺害が2月1日早朝だった。
生きたまま首をナイフで切断する。喉元から切る。あんな小さなナイフで首の骨を切断するのは相当時間がかかるだろう。それは苦痛を長引かせる残虐な殺し方だ。殺害された後の写真は見たくなかったがこらえて見た。2人とも断末魔の叫びをあげていた。
上の表現は控えめに書いている。
だが必要だと思ったので、敢えて書いている。
人質にオレンジ色の服を着せ砂漠にひざまずかせた上で、黒尽くめの通称「ジハード・ジョン」がナイフを持って脅しをかける映像を流した場合、ISILは、その映像に映ったオレンジ色の服を着た人質を、これまで全員斬首や生きたまま焼き殺すなど残虐な方法で殺している。一人の例外もない。そして、湯川氏も、後藤氏も、同じだった。
だから私は1月20日、湯川氏と後藤氏がオレンジ色の服を着せられてひざまずかされた映像を見た時、近いうちに斬首されるのだとぼんやりと思った。(私自身の懺悔は最後に書く)
映像は残酷だ。非難は多かろうと思うが、敢えてその場面の写真(のリンク)を載せておきたい。私たちはこの後の2人の運命を知っている。その上で以下の文章を読んでほしい。
http://prt.iza.ne.jp/kiji/world/images/150120/wor15012015530023-p2.jpg
(出典:日本人殺害めぐる首相の対応に野党から指摘続出:イザ!

一方、ISILの協力をえて作られた報道があった。彼らの実態を知るにはよい題材と思う。あわせて見ていただきたい。

ダーイッシュ(自称イスラム国) 野望の行方① 潜入取材編 - YouTube

ここに出てくるISILの戦闘員は、アッラーの名の下、異教徒を殺すと言う。彼らにとって、アサド政権、つまりアラウィー派もまた異教徒だ。そして子どもたちにもISILとその指導者に忠誠を誓わせ、聖戦での殉死を受け入れさせていく。

最初の動き:偽善とISIL援助、そして自己擁護

ISILの恐喝を受け政府は慌ただしく動き始めた。それに対する批判などは後で書く。
だが最初に私を苛立たせた動きは次の2つだ。

中田氏は、イスラムの専門家でISILとも近いのだから、通称「ジハード・ジョン」が出てきたらそれまで全ての人質が断首されたことを知っているだろう。にも関わらず中田氏はあたかも自分を使者にすれば情勢を展開できるかもしれないと期待をあおる発言をしている。それはなぜか?
あたかも自分には人質事件を解決する力があるように発言する。そしてそのためには2億ドルを間接的であってもISILに援助せよというのだ。2億ドルだぞ?240億円だ。ISILが2年間活動するに十分な資金を手に入れたら、それこそ世界にテロがはびこるではないか。
私は、この会見は偽善であり、ISILに援助を与えたいという目的が裏に隠れているのだと思った。
中には中田氏をイスラムの専門家として評価すべきと主張する人もあるようだが、イスラムの教えを学ぶなら日本に長く根付き共存を続ける穏健なイスラム、例えば東京ジャーミー(講座案内)などから教えを教わればよいのだ。中田氏のような原理主義的なイスラムイスラムの全てと思うべきではない。

次に苛立たしく思ったのは常岡氏のこの会見だ。氏の主張の要旨は「10月7日にISILへ行くために出国しようとしたが警察により止められた。それがなければ湯川氏と面会し裁判に立ち会えた。そうすれば湯川氏を解放できたかもしれない。警察は不当な逮捕をした」というものだ。
一方、後藤氏は、10月22日に日本を出国し、シリアで雇ったガイドに裏切られ、武装グループに拘束されてしまった。そして非業の死を遂げた。常岡氏と後藤氏の行動はどこが違うのか?
常岡氏もISILをよく知っているわけだから、通称「ジハード・ジョン」の恐喝映像が流されたら、その人質は全員斬首されたのは知っているだろう。その映像を見た後、後藤氏が失敗したことを、常岡氏が自分ならできると主張する根拠は何か?
私には自分に力があるように見せかけることで、逮捕を非難し自己擁護しているだけの会見にしか思えなかった。

イスラム教徒は殺されないか?

中田氏も常岡氏もイスラム教徒だ。キリスト教徒の後藤氏は殺されても、イスラム教徒の中田氏や常岡氏をISILは殺さないはずだって彼らは言いたいのかもしれない。
ISILは、自分たちの勢力をのばすため、恐喝まがいの行為によって、スンニ派の部族の協力を得て戦闘員を確保している。協力を要請された部族が協力を拒否すればその部族は皆殺しだ*1
皆殺しになった部族は同じイスラム教徒、同じスンニ派だ。
こういった私ですら知っているISILのやり方を、専門家である中田氏も常岡氏もよく知っているはずだ。
ISILの支配域に入っても安全なのは、ISILの協力者だけではないか? 上にあげた映像を見るといい。これはISILの主張をそのまま流すという協力をしている。だから取材できたと思われる。
中田氏と常岡氏はISILの協力者なのか?
当然彼らは否定している。ではこの会見の自信はどこから来るのか?


2つめの動き:なにがなんでも「安倍が悪い」

こういう動きはでてくるのだろうなと思っていたし、抗議の内容を見るとやはりこうなったかと思いつつ、こういう日本国内の不協和音は当然ISILの知るところとなる。

ISILにしてみれば、山本氏のこの発言は、自分たちの「脅し」の効果だと考えるはずだ。どうかわかってほしいのは、ISILは断首による殺人が目的ではないということだ。断首による殺人は手段であって、目的は別にある。
ISILの目的とは自分たちが敵だとみなした国に動揺を起こすことだ。山本氏の発言は、それにまんまと乗せられた発言だ。
山本氏については、人質殺害の後、更にこんな行動を行っている。

こういった一連の行動は、テロリスト擁護というメッセージを与えることになる。山本氏は理由らしき意見をブログに書いているが、それは決議に賛成しても意見表明できるものであり、棄権する理由としては取ってつけたものといえるだろう。
そして、この行動を賛美する人もでてきた。山本氏に対する非難は、非難決議の棄権という事実だけではなく、一連の行動を踏まえて行われている。問題を矮小化し擁護するのも、同類項だと思われる。

天木直人|テロ非難決議に反対する議員は一人も出てこないというのか
田中龍作ジャーナル | 十分な検証ないまま「対テロ非難決議」 山本議員のみ退席

もっとも、このような擁護記事を書く人の名前を見ると、さもありなんではあるのだが。


そして山田氏のこの記事。この記事が出たのは、湯川氏の断首の後だが、後藤氏はまだ生存しているとされている時期だ。
なぜそんな時期にこんな記事を出すのだろう。日本の言論における不協和音を起こすことは、それこそISILがテロを行う目的だとなぜわからないのだろうか。
100歩譲って、人質が皆殺しになった今、こういう言論を行うのは認めないわけではない。もう人質は帰ってこないからだ。
でも、なぜそんな微妙な時期に人質解放に全く役に立たない意見を表明する必要があるのか。テロリストを喜ばせる必要がなぜあるのか? その目的は何だというのだ?

似非平和主義

僕は山本氏やこの山田氏の「問題になることはするな、関わるな」というは考えは、似非平和主義だと思う。それは自分だけがよければ他は関係ないという「孤立主義」であり、それが自分たちに許されると考えるのは体の良い「選民思想」でしかないと思う。
この人たちの共通項は、山田氏のこの文に集約されると思う。

日本の平和外交は、いま分水嶺にある。国際紛争を武力で解決する国になるのか。敵を作り戦いに参加するか。
イスラム国を「敵」とするのか 分水嶺に立つ日本外交|山田厚史の「世界かわら版」|ダイヤモンド・オンライン

話し合いか武力行使か、こういう二元論を展開してそれ以外の答え、その中間の答えを見つけようとしない。
武力行使は止めるべきだ。であれば紛争地帯から、紛争当事国・当事組織から離れよ。主張はたったこれだけ。その結果、難民に対する援助すらやめよと説く。
これがリベラルを標榜する人たちが主張しているのだから始末が悪い。リベラルとは自由と人権を重視する考えではなかったのか。日本人だけがよければ、難民はしらんぷりか?
紛争地における人道援助を行わないことが、日本の国益になるとは到底思えない。
人道上はいわずもがなだ。人権を守ることは、大抵の場合、国益を守ることになる。
山本氏や山田氏のような、リベラルとも思えない自己中心的な発言に、右派である私も鼻白む。後藤氏の過去の実績を見ても、難民への共感と愛情が基本にあるのであって、援助しないという選択肢をよしとするはずがないではないか。


最後はこれ。安倍憎しに凝り固まって、テロリストやテロリスト擁護者を喜ばせてどうするんだ。情けなく思う。



3つめの動き:自決せよと迫る過剰な自己責任論

様々な人から過剰な自己責任論が主張された。その中でも一番醜悪なのはこれではないか。

彼女は『ヨルダンのパイロット>後藤氏>湯川氏』と命の価値に順番をつける。これを読みながら、『日本人>イスラム難民』と命の価値の差をつけた山田氏と同じだなと思った。
その上で、彼女はこう言い放つ。

不謹慎ではありますが、後藤さんに話すことが出来たら、いっそ自決してほしいと 言いたい。
大それたことをした 湯川さんと 後藤記者|デヴィ夫人オフィシャルブログ「デヴィの独り言 独断と偏見」by Ameba

この文は強烈だ。これをどう非難していいか私には言葉がない。

後藤氏は強い人だ

オレンジ色の服を着せられ、通称ジハード・ジョンの横でひざまずかされた映像を撮られた時点で、少なくとも後藤氏は自己の運命=斬首を予想しているように思える。後藤氏もまた戦場であるシリアやISILをよく知っているからだ。
自分の未来が非人道的な苦痛に満ちた斬首であることを理解し、それでも生きる可能性を探る人は真に強い人だ。映像に映る後藤氏の目はまだ諦めてはいない強さを持っていた。
私は、過酷で苦痛に満ちた最期を回避するため、弱い人間であればそういった殺され方より、自殺したいと思うのではないか?と思う。
そういう状況の人に「自決せよ」と迫る。実におぞましい人間の業だ。
そして、何よりもがっかりさせられたのは、こういったひとでなしの発言を、ツィッターなどで公言する人があまりに多かったこと。
仮に後藤氏が弱い人であったとしても、自殺するにもできない状況だったと想像することもできないのか?
ISILは残虐な殺害を世界に知らしめたいのであって、自殺されるとそれは達成できない。当然自殺できる環境に置くわけがない。そういったISILの異常性を顧みず、ただ「自決せよ」と迫る醜悪さは、言葉の限りを尽くしても言い表せない。彼らはISILと同じレベルの醜悪で残虐なひとでなしだ。

過剰な自己責任論も似非平和主義も同じ

こういった過剰な自己責任論も、似非平和主義も、面倒事に関わりたくないという底意が見え隠れする。
過剰な自己責任論は、全ての責任を人質になすりつけ、糾弾する。
似非平和主義は、全ての責任を日本政府になすりつけ、糾弾する。
主張していることは、一見正反対に見えて、中身を吟味してみれば、全く同じだ。
「お前が全て悪いのだ。だからお前がなんとかしろ。自分に迷惑をかけるな!」
そう言っているようにしか聞こえない。


4つめの動き:クソコラグランプリ

最初、クソコラグランプリの画像を見た時、私は混乱した。
私はテロ事件の時の反応は、その事件に対処している最中と、ひとまず対処が終わり議論が行われている時とで、その反応に対する評価軸を変えている。
クソコラグランプリのように、テロ事件の対処が行われている最中の反応に対する私の評価軸は次の3つだ。

  • その反応がテロリストに利していないか
  • その反応が次のテロ事件を誘発する方向に働いていないか
  • その反応がテロ事件を解決する方向に働くか

上にあげた3つの反応は、そのどれかに抵触しているので私は非難している。ただ、クソコラグランプリについては、どう評価していいか迷ってしまった。
クソコラグランプリは、明らかにこの人質事件を解決する方向には働かない。その点では批判すべき反応だ。
ところが残りの2つの基準はどうだろうか。
まずはテロリストを利するかという基準については、ISILは日本人に恐怖を与えようとしているのに対して、それを小馬鹿にして抵抗していることから、テロリストを利してはいないということになる。これは評価すべき点だ。
そして次のテロ事件を誘発する方向に働くかというと、これは働くとも働かないとも両方評価できそうだ。
私は、このクソコラグランプリに対する考えは、未だにまとめきれていない。
ここでは、批判的な意見と、肯定的な意見と両方を提示しておきたい。


総じて、日本の言論は批判寄りに、海外の言論は肯定寄りにあったように思う。興味深い現象だった。


5つめの動き:政府の対応

政府の対応については本来一番最初に書くべきものだが、説明の都合上5番めになった。
政府の対応について書く前に、私は自民支持者であり、安倍政権を支持していることを明言しておきたい。集団的安全保障に賛成し、憲法9条の改正を望んでいる。そういった右派である。
しかし、そういった右派であっても、今回の政府の対応に問題なしとはできない。以降は右派から見た政府の対応の問題点も含めて指摘したい。

なお、その前に少し付け加えておきたいことがある。
テロ事件の対応中に政府批判するのは、大抵の場合、テロリストを利する行為だと思う。だから私はそれを強く非難する。それはテロリストが相手国を乱したいという目的を持ってテロを起こすからだ。政府批判は大なり小なり国内の混乱を招く。
一方、テロ事件の対応が終われば、事件に対する対応を振り返るのは当然だし、その中には政府に対する批判もあるだろう。ただその批判も建設的であるべきだ。テロ対策に限らず、安全保障問題は政局にしてはいけない。
テロ事件の対処がひとまず終わった後の主張については、私は次の評価軸で評価する。

  • その主張がテロリストを「結果的に」擁護、支持することに繋がらないか
  • その主張が次のテロ事件を防止する方向の主張であるか

情報収拾能力の欠如

まずはこの記事から。

後藤さんは昨年10月下旬にシリア入りし、間もなく連絡が途絶えた。政府関係者によると、妻は同月末に外務省に相談。メールが届いたのはその後で、昨年12月初めに、このメールに気づいて開封した。メールには、後藤さんの身柄を預かっていることが英文で記されていた。
妻は内容の真偽を確かめるため、後藤さん本人しか知り得ない事柄についてメールでただしたところ、複数の質問に対して正しい回答が返ってきた。届いたメールのなかには、他の外国人の誘拐事件で被害者側とイスラム国側*2がやりとりした情報にたどり着くアドレスが記されたものもあり、情報の内容が過去の被害と合致したという。
後藤さん妻に20億円要求 「イスラム国」側がメール:朝日新聞デジタル

この記事から読み取れるのは、次の3点だ。

  • 後藤氏は12月初旬以前に何者かに拘束された。
  • 後藤氏は12月初旬の時点では生存している。
  • 後藤氏を拘束している者はISILを名乗っている。

そして次の記事だ。その記事から安倍首相の答弁の部分を引用したい。

安倍総理大臣は、先月20日に「イスラム国」のメンバーとみられる男が日本人2人を殺害すると話す映像が確認されたことについて、「残念ながら、われわれは、20日以前の段階では『イスラム国』という特定もできなかった」と述べました。
“人道支援表明 不適切ではない” NHKニュース

政治家の言い回しなので、「詭弁だ」と憤る人もあるだろうが、国会では微妙な答弁はこういう言い方になることが多いと思う。
この答弁で読み取れるのは、1月20日、湯川氏と後藤氏の殺害予告映像がネットに流されるまで、政府は拘束しているのがISILとまだ特定できなかったということだ。
その間、40~50日。
日本の情報収集能力の欠如は明らかだ。

1月20日以降の政府の対応

1月20日、湯川氏と後藤氏の殺害予告映像がネットに流れてからの政府の対応は、できるかぎりのことはやったと評価している。
そのテロリストとの交渉などは、テロ対策の原則を守り政府は一切説明しないし交渉の事実すら認めないだろう。そんな説明をすれば、テロリストが次のテロを起こす際、日本がどういう対応をするかという予測を容易にするからだ。その観点で、説明の一切を拒否する菅官房長官の対応は当然だと思う。菅官房長官の言を以って、政府の努力不足を指摘するのは短絡的といえよう。

一方、報道等で伝えられる情報として、政府が行ったとされる対応は主に次の3つだ。

トルコとシリアの国境で動きがあった1月28日、ヨルダン国内でもイスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic  State)が身柄を拘束するフリージャーナリスト、後藤健二さん(47)の解放交渉が進展したとする情報が駆け巡った。英国を拠点とするアラブ紙アルクッズ・アルアラビ(電子版)が同日早朝、ヨルダン当局がサジダ・リシャウィ死刑囚釈放を「決断」したと報道したからだ。
ヨルダン政府は「死刑囚の釈放決断」報道を否定する一方、水面下である人物の選定を進めていた。男は後藤さん殺害の2日前、トルコとシリアの国境に向かった。
検証・日本人人質事件:IS派閥、綱引き ヨルダン依頼「仲介役」国境へ 首相周辺「国難に直面した」

過激派「イスラム国」による邦人人質事件でトルコ政府が「信頼できる仲介者」を通じ、解放に全力を挙げていたが実らなかったと明らかにした。トルコの情報機関が後藤健二さん(47)らが拘束されていた場所も把握し、全て日本政府に情報提供していたとも語った。
トルコ、後藤さんの拘束場所把握 日本に情報伝達、外相と単独会見 - 47NEWS(よんななニュース)

複数の関係者によれば、後藤さんの妻は昨年12月、ISとみられるグループから届いた1500万ユーロ(約20億円)の身代金要求メールを開封後、英国に本部を置く危機管理コンサルタント会社に依頼し、救出に向けた交渉が始まっていた。
後藤さんを巡っては、国連がテロ目的の渡航者に対する各国の処罰義務付けなどの決議を採択した昨年9月以降、中東を活動領域としていた仕事からIS支配地域に入る可能性があるとみて公安当局が動静を追っていた。身代金要求メールについて、政府は「返信していない」と説明しているが、妻やコンサルはメールなどでやり取りをしていたとみられ、その内容や経過は外務省も把握していた。
「イスラム国」:人質事件交渉 後藤さんと死刑囚、交換目前で決裂か|毎日新聞

表のヨルダンルートと、裏のトルコルートと英国ルート。
人質解放交渉は、身代金を払うか人質交換をするかぐらいしか方策はない。結局は機能しなかったようだが裏のルートでトルコが『「信頼できる仲介者」を通じ、解放に全力を挙げていた』ことの本当の意味を推察してほしい。そういった交渉は秘密にせねばならない。対策本部をヨルダンではなくトルコに置くべきだったという批判があるが、裏のルートを秘密にし、耳目を表のルートに集めるという観点では、ヨルダンに対策本部を置いたのは合理性がある。
私は政府が正式にテロリストに身代金を払うのは絶対にやってはいけないと考えている。但し、アメリカが主張するように「家族や関係者がお金を集めて身代金を払うことも行うべきでない」と禁止することには同意しない。家族や関係者は人質の命を何よりも優先するのは当然だ。この主張を表面の通り受け止めて「新たな自己責任論」と批判しないでほしい。ぼやかして書くが、裏の世界には出どころ不明なお金というのは存在するものだ。それでも納得できないなら、一民間人が自分だけで英国の専門の危機対策コンサルタントに依頼するのがどれだけ困難なのか考えてみてほしい。それは誰の尽力であったろうか?

一方、ヨルダンとトルコの協力は、善意の協力ではあるが、国家間の協力に無償の協力はない。この事件が落ち着いてから、ヨルダンとトルコから見返りが求められるだろう。

自衛隊による在外邦人の救出の議論

この人質事件が起こってから、安倍首相は自衛隊による在外邦人の救出に向けた法整備に意欲を見せている。

1月下旬に事件が発生して以降、自衛隊による在外邦人の救出に向けた法整備に意欲を示してきたが、この日も「邦人が危険な状況に陥ったときに、受け入れ国の了承の(ある)なかで、救出も可能にする議論をこれから行いたい」と語った。
(中略)
一方、有志国連合がイスラム国に実施している空爆作戦に、日本が参加する可能性については改めて否定。空爆の後方支援を行うこともないとした。
人質殺害犯に法の裁き、自衛隊の邦人救出に意欲=安倍首相 | Reuters

今回のISILによる人質事件の場合、自衛隊による救出作戦が実行可能だったかと問うと、今の自衛隊にはその能力はなかったと思う。たぶんそれに同意する国民は多いはずだ。それなのになぜ安倍首相はミッション・インポッシブルなことをやろうとして法整備をしようとしているのだ? きっと裏があるに違いない。そう批判をうけていると思う。
私は、首相が想定しているのは、陸上自衛隊の中央即応集団麾下の特殊作戦群だろうと思っている。*3
http://www.mod.go.jp/gsdf/crf/pa/crforganization/sfg/sog.jpg
(出典:特殊作戦群) (参考:特殊作戦群 - Wikipedia
この部隊については、防衛機密だらけであり、部隊の能力がどれくらいのものか全くわからない。どんなことができるのかもわからない。
邦人が危険な状況に陥ったときに、受け入れ国の了承のもと、救出も可能にする議論自体は大いに行うべきだと思う。ただ今の情報量では可否を判断できない。議論の中で、防衛機密を確保しつつ可能かつ必要な範囲で情報を開示すべきだ。そうしなければ国民の理解は得られない。
一方、もし野党が議論を端から拒否する態度を示すなら、それは感心しない。

そして安倍首相にはきっと隠している真意があるに違いないと考える人たちは、安倍首相の真意を中東などでアメリカと共同して武力行使することだと疑っているようだ。
政府は「有志国連合がISILに実施している空爆作戦に、日本が参加する可能性については改めて否定。空爆の後方支援を行うこともない」という点を何度でも説明し、現在自衛隊が持つ特殊部隊の能力と今後の方針について、きちんと説明すべきだろう。野党も端から反対という態度ではなく、きちんと特殊部隊の作戦とはどんなものかという軍事知識を持って建設的な議論に応じてほしいと思う。
そして、産経などが主張するようなテロ対策を理由に憲法改正する議論は筋違いな主張だと思う。安倍政権が行った「集団的自衛権行使容認」の憲法解釈変更で、受け入れ国の同意があれば、自衛隊の邦人救出作戦実施は憲法上可能と考えるべきだからだ。憲法改正問題は、このテロの議論とは切り離して行うべきものと思う。

安倍首相の中東での演説

話は前後するが、安倍首相の中東訪問とそこでの演説がISILを挑発し人質事件がエスカレートしたという批判がある。
TBSによる世論調査では、62%がそう考えているようだ。

安倍総理は先月、日本人2人が拘束されていることを知りながら中東を訪問しましたが、この中東歴訪のタイミングについては、55%の人が「適切だったとは思わない」と答えています。また、中東歴訪時に安倍総理がカイロで表明した「『イスラム国』と闘う国への2億ドルの支援表明」が「イスラム国」の日本への対応を刺激したかどうか聞いたところ、62%の人が「刺激した」と答えました。
「安倍首相の中東歴訪 「時期不適切」55%」 News i - TBSの動画ニュースサイト

TBSの世論調査は、かゆいところに手が届かないところがあって、せっかく調査するならこれに加えて「ISILと闘う国への2億ドルの支援」は行うべきかを質問してほしかった。そうすれば、日本国民の考え方がかなり分析できたのにと残念に思う。
そこで、別な調査結果をみてみる。

安倍晋三首相が中東歴訪中の1月17日に表明した「イスラム国」周辺各国への2億ドル支援に関しては、「そのまま実行する」が53・8%。「縮小」は18・0%、「中止」は14・6%、「拡大」は4・7%だった。
【全国電話世論調査】「非軍事限定を」57% 対イスラム国の連携 共同通信世論調査 : 47トピックス - 47NEWS(よんななニュース)

別な世論調査をあわせて分析するのは、誤った分析を得ることもあるので慎重であるべきだが、今回は仕方ない。
この2つの世論調査をみると、日本国民全体としては、次のような世論だと考えられる。

  • 人質がいる以上、中東訪問は少なくとも延期すべきだった。
  • 首相の中東での演説は、人質がいる以上、言葉を選ぶべきだった。
  • 中東諸国に対する人道援助など非軍事援助は賛成。約束通り実施すべきだ。

この考え方、批判は、私も納得できると思う。
もっとも援助を行えば、中東訪問をせずともISILは人質を殺害しただろうと私は考えている。ただこれはIF論であり永遠にその答えはわからない。
一方、明らかに問題なのは、中東訪問を行う際、ISILが人質の殺害を予告し、最終的に斬首するという反応を起こす可能性を、政府が吟味できなかったことだろう。
それこそ、先にあげた「情報収集能力の欠如」の問題だ。情報がなければ、検討すらできない。

一方、日本では批判的な人が多いが、世界から安倍首相の中東訪問に対する非難がとても少ないことは理解しておきたい。
それは「『イスラム国』と闘う国への2億ドルの支援」を含めて、人道支援、インフラ改善支援など軍事関連を除く諸分野において、総額25億ドル相当の十分な支援を約束したことに対して、中東諸国も、欧米も歓迎しているからだ。

安倍首相の中東歴訪の成果は、日本・アラブ関係をモニターしている有識者や政治専門家の側から見れば、この上ない成功であると評された。中東地域の歴訪に対する反応は、今後、日本が中東諸国に対して人道支援、インフラ改善支援など軍事関連を除く諸分野において、総額25億ドル相当の十分な支援を約束したことから、最良の結果であると賞賛されている。
「中東メディアからの緊急レポート」 安倍首相の歴訪成功に反発か | nippon.com

全体的に言えば、安倍首相の中東外交は、大きな方針では間違っていなかった。
しかし、その功を劇的に見せたいという気持ちが過剰な表現につながり、それをテロリストに利用されてしまった。
そこに落ち度があったと思う。
中東外交は、今後、より一層の慎重さが求められる。

情報収集分析能力の向上は必須だ

今回の政府の対応については、上記の通り、情報収集能力の向上なくしては、次もまた同じ誤謬を犯すことになる。

イスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)による日本人人質事件に関連し、「各国の情報機関から情報の提供を受けるためには、(交換する情報が必要で)我々自身の情報収集能力を高めていかなければならない」と述べ、テロ対策のために政府の情報機能を強化することに意欲を示した。
安倍首相:情報収集能力強化の方針 外国機関との連携視野 - 毎日新聞

安倍首相もよく理解しているようだが、これがもっとも喫緊に対策しなければならない日本政府の問題だと思う。


6つめの動き:頑迷にイスラム国という表記を続けるマスコミ

日本に住むイスラム教徒の団体、あるいはトルコ大使館から次の主張が行われている。

日本のメディアにおいて「イスラム国」と称されている過激派組織の行いは、イスラームの教えとはまったく異なるものです。イスラームにおいて、テロ行為や不当な殺人、迫害は禁じられており、また女性や子どもの権利は尊重されなければなりません。
イスラム国」という名称にイスラムという語が入っているために、本来の平和なイスラームが誤解され、日本に暮らす大勢のムスリムイスラーム教徒)への偏見は大変深刻です。
「イスラム国」という名称の変更を希望します | お知らせ | 宗教法人 名古屋モスク

今回の事件でもイスラム諸国とその国民が様々な形でこの卑劣な蛮行を強く非難しました。しかし、日本のマスメディアが最近の報道のなかで、この蛮行に及んだテロ集団を「イスラム国」と表現していることが非常に残念であり、誤解を招きかねない表現であると強く認識しています。テロ集団の名称として使われるこの表現によって、イスラム教イスラム教徒そして世界のイスラム諸国について偏見が生じ、日本滞在のイスラム教徒がそれに悩まされています。いわば、これも一種の風評被害ではないかと思われます。
Büyükelçilik Duyurusu

この投稿では、引用文とこの項などやむを得ない個所を除いて、「イスラム国」を自称するテロリスト集団を、ISILと表記している。
これは次の理由からだ。

  • 日本政府がISIL(アイシル)と呼称している
  • 日本のイスラム教徒がISILかダーイッシュの表記を望んでいる
  • スンニ派最高権威のアズハルが「イスラム国」という表記は不当と声明を出した
  • それをうけて諸外国において「イスラム国」という表記を取りやめた

日本政府の公式な呼び方ではなく、日本のイスラム教徒がその表記を止めるように望み、イスラムの権威が不当だと世界に呼びかけ、世界中でその表記を止めているのに関わらず、なぜマスコミはその表記を続けるのか。理由が全くわからない。
さらに、リテラというネットメディアは、「イスラム国」という表記を続けるべきだと強弁すらしている。残念でならない。
テロリストはテロによって、相手国の内部に軋轢を生じさせ、イスラム教徒への偏見を育てようとしている。それを不満に思ったイスラム教徒からの支持をとりつけることが目的だと思われる。
なぜ日本のマスコミは、テロリストに加担するのか?


7つめの動き:イスラム教徒への脅迫

こんな報道があった。

「日本の敵だ」「出ていけ」。後藤さんの動画がインターネットで流れた一日、名古屋モスク(名古屋市中村区)に脅迫電話がかかった。ネット上には「火を放つ」と書き込みもあった。「日本に来て三十年以上たつけど、こんなことは一度もなかった」。代表役員のクレシ・アブドルワハブさん(57)が肩を落とす。
愛知県一宮市岐阜市のモスクでも片言の英語などで同様の電話があった。東京都内のマスジド大塚(豊島区)、東京ジャーミイ(渋谷区)には今のところ嫌がらせはないというが、首都圏でも緊張は高まる。
東京新聞:イスラム教徒「偏見やめて」 モスクに脅迫電話:社会(TOKYO Web)

無知ゆえの偏見。とても残念だ。
上にも書いたが、テロリストはテロによって、相手国の内部に軋轢を生じさせ、イスラム教徒への偏見を育てようとしている。それを不満に思ったイスラム教徒からの支持をとりつけることが目的だと思われる。
こういう反応こそ、テロリストが望んだ反応だ。
こんな反応を行う人間こそ、「日本の敵だ」。


8つめの動き:在日イスラム教徒の反応

1月7日、フランスで、シャルリー・エブド襲撃事件が起こった直後、トルコ大使館直属のモスクを運営する東京ジャーミーは次の文章をHPに掲載した。

イスラームの観点から、テロはどのようなものであれ認められるものではありません。なぜならイスラームでは人の生命、尊厳、信仰、財産は不可侵のものであると教えているからです。テロはその中でも最も価値ある人の命を標的としています。クルアーンでは、「人を殺した者、地上で悪を働いたという理由もなく人を殺す者は、全人類を殺したのと同じである」(食卓章第 32 節)と述べられています。
イスラムはテロを認めていません。 | 東京ジャーミー・トルコ文化センター

そして、1月20日、ISILによる日本人人質殺害予告の映像が流れると、名古屋モスクなど多くのイスラム教徒やその団体が意見を表明した。

イスラーム教の聖典クルアーンコーラン)にはこうあります。
【人を殺した者、地上で悪を働いたという理由もなく人を殺す者は、全人類を殺したのと同じである。人の生命を救う者は、全人類の生命を救ったのと同じである。】(食卓章5:32)
日本人お二人の方が拘束された事件に、深い悲しみを感じています。
このような卑劣な行為は、イスラームにおいて明らかな犯罪であり、世界中のイスラーム学者やイスラーム団体がテロ組織ISIL(アイシル)に対して厳しく非難してきたものです。
日本人殺害警告に関するコメント | お知らせ | 宗教法人 名古屋モスク

こういった反応を、日本でのイスラム教徒への偏見の増大を恐れたためのいわば踏絵とみる見方もある。こういった文章を公開する目的に、偏見を持たないでほしいというイスラム教徒の願いは確かにある。そう書いている。その一方で、これらの内容は、イスラムの休日である金曜礼拝におけるホトバ(説教)の内容そのままでもある。つまりこれは日本に住むイスラム教徒に対しても、大事なことであり伝えなければならないこととイマーム(指導者)が考えているのだと思う。それはそれだけイスラム教徒にとって、真の穏健なイスラムの教えを学ぶ上で、切実で重要なことと考えられているのだろうと思う。
私たちは、この2つの視点の両方を持っておくべきだろうと思う。

私たちは、日本にねづき、平和に共存している穏健なイスラム教徒の存在をきちんと認識し、そういった人たちとISILなどのテロリストと区別しないといけない。
そして次のような動きを歓迎したい。少なくとも心の中では穏健なイスラム教徒への応援と共感を持ちたいと思う。
http://www.tokyocamii.org/wp/wp-content/uploads/JapanFlower-400x266.jpg
(出典:ありがとう日本! | 東京ジャーミー・トルコ文化センター

イスラムの問題点

一方で、日本にはイスラムへの疑義を感じている人は多数いる。
それはイスラム教徒の側もよく認識していると思う。例えば、上記にあげた文章の中に、次の一節がある。

ただしユダヤ教キリスト教、あるいはイスラームの歴史において、宗教がテロや暴力行為を正当化するために利用されてきたことは、しばしば見受けられることです。特に 20 世紀の最後の4 半世紀では、世界中で宗教的な熱狂が高まる風潮が見られ、宗教的行為が社会状況に直面する中で、宗教的な意味づけを持ったテロや暴力が急増していることがわかります。
イスラムはテロを認めていません。 | 東京ジャーミー・トルコ文化センター

本当に残念なことに、宗教がテロや暴力行為を正当化するために利用されることが多くなってきている。
それはイスラムだけでなく、ユダヤ教キリスト教もそうだ。仏教もミャンマーイスラム教徒への攻撃を正当化する過激な僧侶がいる。他の宗教にもいる。
大事なことは、テロや暴力行為を正当化するために利用される解釈、考え方は、どんな宗教であろうと「悪」なのだということだ。
イスラムにも、テロや暴力行為を正当化するために利用される解釈、考え方が存在する。

12月28日に、敬虔なイスラム教徒として知られるエジプトのシシ大統領が、スンニ派の最高権威とされるアズハル大学で、アズハル大学総長をはじめとする権威ある多くのイスラム学者を前にして、次のような演説を行った。*4

「私たちの信仰に問題があるわけではありません。問題は考え方(al-fikr)にあるのです」
「私たちは、私たちが直面していることをよく立ち止まって考える必要があります。実際、私は、すでに数度にわたってこの話題について話をしています。私たちが最も神聖なものを有していると考えること自体が、ウンマイスラム世界)全体を、ほかの世界の全てにとって、懸念や危険、殺人、そして破壊の原因としてしまっているのです。あり得ないことです」
「私はここで宗教(al-din)のことを言っているのではなく、考え方のことなのです。私たちが過去何世紀にわたって神聖と考えてきた聖典や観念からほとんど逸脱できないと考えることが、世界の全てを混迷に陥れているのです。文字通り世界中をです」
「16億人の人々(イスラム教徒)が、そのほかの全ての人類、すなわち70億人を殺して、自らだけが生きていけるとでも思っているのでしょうか。あり得ないことです」
(中略)
「私は繰り返します。私たちには、宗教革命(al-thaura al-diniyya)が必要です。あなた方、宗教指導者は神の前に責任があります。世界中、繰り返しましょう、世界中が、あなた方が次に動くことを、あなたがたの言葉を待っています。なぜなら、この世界(ウンマイスラム世界)は引き裂かれ、破壊され、失われているからです。それも私たち自らの手によって」

(5、6ページ)


Egyptian President Al-Sisi at Al-Azhar: We Must Revolutionize Our Religion - YouTube

私もシシ大統領の演説に同意する。イスラムは宗教上の改革が必要だと思う。どんな問題があるかという指摘は長くなるので、改めて投稿したいと思う。
私はイスラム世界と全世界のイスラム教徒へ努力を求める。
イスラムの宗教指導者をはじめ、イスラム教徒一人ひとりの努力がなければ、宗教上の改革はできないからだ。


9つめの動き:有益な情報を発信する専門家

この混迷した状況の中、まるで灯台の光のように、自分の考えをまとめる上でとても有益な情報をタイムリーに伝えてくれる専門家がいた。

池内恵

池内氏は、イスラム研究者、東京大学先端科学技術研究センター准教授。専門は、イスラム政治思想。

そもそも「イスラーム国」がなぜ台頭したのか、何を目的に、どのような理念に基づいているのかは、『イスラーム国の衝撃』の全体で取り上げています。
下記に今回の人質殺害予告映像と、それに対する日本の反応の問題に、直接関係する部分を幾つか挙げておきます。
(1)「イスラーム国」の人質殺害予告映像の構成と特徴  
 今回明らかになった日本人人質殺害予告のビデオは、これまでの殺害予告・殺害映像と様式と内容が一致しており、これまでの例を参照することで今後の展開がほぼ予想されます。これまでの人質殺害予告・殺害映像については、政治的経緯と手法を下記の部分で分析しています。
第1章「イスラーム国の衝撃」の《斬首による処刑と奴隷制》の節(23−28頁)
第7章「思想とシンボル−–メディア戦略」《電脳空間のグローバル・ジハード》《オレンジ色の囚人服を着せて》《斬首映像の巧みな演出》(173−183頁)
「イスラーム国」による日本人人質殺害予告について:メディアの皆様へ - 中東・イスラーム学の風姿花伝

イスラーム国の衝撃 (文春新書)

イスラーム国の衝撃 (文春新書)

この投稿は、ISILが人質の殺害予告映像をネットに出された日に投稿されたものだ。
この投稿の指摘と『イスラーム国の衝撃』という本とを併せて読めば、この人質事件の動きを(ある程度)予想できた。それは私にとってとても有益な情報だった。
池内氏のブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」

松本太氏

松本氏は、世界平和研究所 主任研究員。東京大学教養学部アジア科 昭和63年卒。外務省入省。OECD代表部書記官、在エジプト大使館参事官、内閣情報調査室国際部主幹、外務省情報統括官組織国際情報官等を経て、平成25年より現職。

そもそも、ムスリム同胞団であれ、過激なアル・カーイダイスラム国であれ、「イスラム主義」とは、共産主義のような政治イデオロギーと同様に、現代社会の政治・経済社会の様々な課題に応えることを目的として、イスラムを手段として活用する政治的なイデオロギーなのである。
イスラム主義者の目的は、「真なるイスラム」を高らかに主張することでイスラムを自らのものとして独占し、その政治イデオロギーイスラムを従属させることにある。他のムスリムに異端宣言を下し、イスラムが宗教と政治に分割できるようなものではないと断言することで、政治と宗教の権力の源泉の全てを独占しようとするのである。
本当に撃退すべきなのはイスラム国の暴力ではなくイデオロギーだ イスラム国という疫病への処方箋:JBpress(日本ビジネスプレス)

ここで書かれている「イスラム主義」とは、「政治的イスラム」「イスラム復興主義」「イスラム急進主義」とか言われることもあるが、一番よく使われるのは「イスラム原理主義」という言葉だと思う。
つまりここで書いているのは、「(宗教としての)イスラム」と「イスラム原理主義」を混同してはいけないということ。詳しくは引用元の記事を読んでほしい。
松本氏の記事は、不定期掲載と思われるので、タイムリーとはいえないのだが、混沌とした状況を見つめる考え方を提示してくれた。
イスラム以外の記事も多いのだが、この2か月はイスラムの記事が多く、どの記事も興味深い視点を提示してくれている。
松本太氏の記事一覧

野口雅昭氏

野口氏は、日本の元外交官。京都文教大学人間学部長、現代社会学科教授。

これらの議論には基本的に二つあり、一つは最近の安倍政権の積極的平和政策が中東諸国の対日不信感を深めていたところに、今回の安倍総理の中東歴訪が、この不信感を呼び覚ましたというものであろう。
そもそも中東諸国などと一派ひとからげにできるほど中東は単純ではないが、外国の対日観という場合には基本的には政府のそれと国民感情のそれとがある。
特に中東諸国のように政府の力が強いところでは、当然政府の対日観がまず重要となるが、何時頃からか知らないが、中東諸国政府の対日観が最近悪化しているなどと言う話は聞いたこともない。
国連での議論やら、我が政府や外交官に対して、中東諸国の政府が最近公式でも、非公式でも非難めいたことを発言することが増えたなどあったであろうか?
中東の窓 : 邦人人質事件に関する「識者」の論調

今回の事件では、日本の識者といわれる人の発言に変だと思うものが少なくなかったのだが、それが本当に変なものなのか判断するために、中東の現状を知る必要があるなと感じた。野口氏のこのブログは、中東情勢のニュースをずっと投稿してくれていて、それを判断する上でとても役立った。
日本語で読める中東のニュースはとても少ないため、このブログの情報は貴重だ。ほぼ毎日、何本もの情報をアップしてくれている。原典も指し示してくれているのだが、アラビア語のものが多く、私には全く読めないのだけれども、それでも必要であれば機械翻訳はでき確認できるのもよいと思う。
野口雅昭氏のブログ「中東の窓」

岩永尚子氏

岩永氏は、中東研究家。津田塾大学博士課程 単位取得退学。在学中に在ヨルダン日本大使館にて勤務。2012年まで母校にて非常勤講師として「中東の政治と経済」を担当。
ISILに関する記事は2つだけなのだが、その他中東情勢全般についてあまり中東情勢に詳しくない人向けにわかりやすく書いている点、好感を持った。

そもそもアラウィー派イスラム教キリスト教が融合したような特殊な教義を持つため(断食・巡礼・モスクでの礼拝なし、クリスマスを祝うなど)、スンニ派からみても、シーア派からみても異端でしかありません。彼らはオスマン帝国時代にはイスラム教徒ではなく、「異教徒」として分類されていたほどです。ですから、この内戦をシーア派対スンニ派の「宗派対立」として理解するのには無理があります。ヒズボッラーはアサド政権がシーア派の一派であったから参戦したのではなく、参戦によって利益が得られると考えたために参戦したのです。
教えて! 尚子先生シリアの内戦はなぜ解決しないのですか? | 海外レポート世界の街角お金通信 | 橘玲×ZAi ONLINE海外投資の歩き方 | ザイオンライン

上記は、シリアの内戦を理解するために必要な基本的な知識だと思う。
一応、シーア派の主流派はアラウィー派をしぶしぶシーア派のひとつと認めてはいるようなのだけど、異教徒だとする考え方は根強く残っている。ISILは完全にアラウィー派を異教徒と見做している。岩永氏の記事は、ある程度知識のある人も、おさらいとしてよい記事だと思う。
岩永尚子氏の記事一覧


懺悔

人質になった湯川氏、後藤氏の殺害された後の画像を、見たくなかったがこらえて見た。同じ日本人として、同胞として、目に焼き付けるべきだと思ったからだ。そして、想像していたよりはるかに大きな衝撃をうけた。
あまりに残酷だったからだ。
最初に感じたのは、爆発するような怒りだった。そして悲しみ。それが通り過ぎるともう一度ふつふつとした怒りがわいてきた。こうやって感情をゆさぶることこそ、テロリストの目的だ。頭ではわかっていたが、冷静に見ることは全くできなかった。
それでも時間が経ち、激しい感情は収まったが、どうにも気分は優れない。鬱々とした日々が続いている。
その感情は、言葉にすると、罪悪感と無力感のように思える。

なぜ罪悪感を感じるのか?

頭ではこういう最期を迎えることをわかっていたはずなんだ。だから最初にあの人質殺害予告映像を見た時、「ぼんやりと」断首されるのだなと思ったのだろう。
ぼんやりと? ひどい話だ。
それは画像の向こうの、ネットの向こうの、遠く離れた自分には関係のない世界の話だと思ったから「ぼんやりと」思ったのだ。だけど、殺害された画像を見た時、初めて自分の身にも振りかかるかもしれないという実感を持った。そしてその実感がわいたから、罪悪感らしきものを感じているようなのだ。それもひどい話だ。
考えてみれば、1月7日に、パリでシャルリー・エブドの襲撃事件があったが、そのちょうど1ヶ月前、私はパリに旅行していて、シャルリー・エブドのある辺りを歩いていた。もし運が悪くその日テロを決行されたら、テロに巻き込まれていたかもしれない。では日本にいたら安全かというと、過去には北朝鮮が日本にいる日本人を拉致した事件もある。それは未だに解決していない。日本でだって、単独行動テロは起こるかもしれない。
他人ごとではいけないのだなとつくづく思う。

なぜ無力感を感じるのか?

では何ができるかと自身に問えば、当たり前なのだが、何もない。
『過激なイスラム主義者が確信的に惹起しようとしている不安や恐れをものともせず、英国人がいつも言うように”keep calm and carry on”(静けさを保って、日々の生活を続ける)』*5ことこそ、一般の市民ができるテロとの闘いなのは頭ではわかっている。
でも私は自分がそんなに強くないことを今回思い知った。
似非平和主義者や過剰な自己責任論者のように、自分ではない誰かに全ての責任を負わせるように考えられたら楽なのだろうなと思う。
もう中二病なんて遥か彼方な歳ではあるが、ダークフレイムマスター*6になって圧倒的な力で戦えればいいのにと思う。

最後に

気を取り直して、もう一度、自分の考えをまとめてみることにした。そして書いたのがこの投稿だ。読む人のことをあまり考えなかったので、結局かなり長文になってしまった。
それでも自分の考えは、ある程度整理できたかと思う。
ただその一方で、自分がテロに巻き込まれた時の心構えは、永遠にできそうにないなと感じた。

テロは、日本全体にも、私自身にも、所期の成果をあげたように思う。


*1:NHKスペシャル|追跡 「イスラム国」 の内容から

*2:この文章では、イスラム国を自称するテロリスト集団をISILと呼称しているが、この部分は引用であるので原文のままイスラム国という呼称を記述した。以下引用部分については同じ。

*3:海上自衛隊の特別警備隊の可能性もあるが、防衛機密だらけで情報がないのは、特殊作戦群と同じだ。特別警備隊 (海上自衛隊) - Wikipedia

*4:引用した文中には、1月1日の演説と書いているが、演説の動画には12月28日となっているのでその日付を記載した。

*5:過激なイスラム主義とどう対峙すべきか?パリ、ロンドン、カイロで示された処方箋 静かだが強い意志を示したパリの大規模デモ行進:JBpress(日本ビジネスプレス) p.8

*6:中二病で検索したら出てきたのだが、中二病の人のヒーローらしい。