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【2021総選挙】国民は迷いつつも明確な意思を示した選挙

はじめに

2021年総選挙が終わった。
立憲民主党共産党などが一本化した候補は激戦を演じたが、立憲民主党共産党議席を減らしてしまった。政権交代は遠かった。
自民党議席を減らしたが激戦区の多くを制し単独で絶対安定多数を確保した。大善戦と言っていい。第二次岸田政権は安定的な運営ができるだろう。
さらに注目すべきは維新の会の躍進だ。自民党にお灸を据えたい。しかし左翼政党はいやだ。そういう人たちが流れた先が維新の会だったのだろう。自民と維新の改憲勢力の合計は300を超えた。改憲発議に必要な3分の2である310を視野に入れている。
国民にとって大いに迷った選挙だった。しかし迷いながらも示した意思は明確と思う。

野党共闘は効果があったと思う。しかしそれだけでは政権交代に繋がらないという限界も示した。野党は安倍政権と菅政権批判で選挙を戦おうとしたが、自民党が岸田氏に総裁を代えたことでそれらの批判は尻すぼみになり風は吹かなかった。立憲民主党市民連合の政策を丸呑みし実態以上に左傾化した政策を掲げたことは失策だったと思う。共産党と組んだことも左傾化の印象をさらに強くした。それに対する拒否感は自民党への拒否感以上に大きかった。立憲民主党55年体制社会党のように万年野党になるのか、それとも政権交代を実現できる政党になるのか、次の総選挙がその分かれ目となる選挙となるだろう。

長期政権党となった自民党への目も冷たかった。経済政策やコロナ対策に評価できる点もあるが、不満は更に大きい。なによりも長期政権の弊害と思われる説明不足の政治が続きすぎた。モリカケなど醜聞も多かった。本当は自民党に猛省させたい。だが代わりの政党がない。左傾化した立憲民主党には政権を任せられない。だが自民党にも勝たせたくない。そんな国民の迷いが渦巻いていたことを強く認識すべきと思う。それが維新の会を躍進させた原動力になっている。
今回の総選挙は立憲民主党の失策によって消去法で自民党が選ばれたと考えるべきだ。自民党とその支持者にはそれを強く自覚し自省してほしい。私も自民党支持者なので自省したいと思う。

この投稿では、与党第一党である自民党野党第一党である立憲民主党の選挙公約を比較しながら、第二次岸田政権でどのような政策を行ってほしいか整理した。また自民党立憲民主党の選挙公約の問題点も指摘したいと思う。
 

目次

 

新型コロナ対策

新型コロナ対策については、奇しくも「命と暮らしを守る」と自民党立憲民主党の選挙公約の文言がほぼ同じだった。公約のトップにしているのも同じだった。
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ところで、私は今回の新型コロナパンデミックを5つのフェーズに分けて考えている。それは状況が変化することで課題とその優先順位が変化し、あるべき政策が変わると考えるからだ。
私が考えている5つのフェーズは次のようになる。主にワクチンの開発、認可、接種状況でフェーズを分けているが、これはワクチンがこのパンデミックのゲームチェンジャーであるという認識があるからだ。

  1. 未知の病気だったフェーズ*1
  2. ワクチンを開発、治験するフェーズ*2
  3. ワクチンが承認され接種するフェーズ*3
  4. ワクチン接種が概ね完了し脱コロナを模索するフェーズ*4
  5. アフターコロナのフェーズ*5

これまでフェーズを先取りした政策は概ね不評で批判を招いたと思う。例えばGoToキャンペーンなどだ。GoToキャンペーンは「4.ワクチン接種が概ね完了し脱コロナを模索するフェーズ」で行うべき政策だったが、これを「2.ワクチンを開発、治験するフェーズ」で行ったことから大きな批判を招いた。オリンピック・パラリンピック開催も同様と思う。*6
今回の総選挙は、「3.ワクチンが承認され接種するフェーズ」から「4.ワクチン接種が概ね完了し脱コロナを模索するフェーズ」への移行期に行われた。
それをふまえると、私は、今回の総選挙での公約は「4.ワクチン接種が概ね完了し脱コロナを模索するフェーズ」を踏まえた政策であってほしいと考えている。

両方のフェーズで共通の課題となるのは次の2つの課題と考えている。

  • 新型コロナ感染症の治療体制を更に強化する
  • 困窮者を援助する

この共通課題については、自民党立憲民主党も大きな立場の差はない。両党の公約の内容はうなずけるものがほとんどだと思う。

「3.ワクチン接種が概ね完了し脱コロナを模索するフェーズ」に重視される課題は次の3つと考える。

  • ワクチンの接種スピードを高める
  • 接触機会の減少策と検査の拡充などを通じ感染者数を抑える
  • 経済を守る

一方、「4.ワクチン接種が概ね完了し脱コロナを模索するフェーズ」では次の2つの課題が重視されると思う。

  • ワクチンの接種率を高める
  • 経済を回復させる

「3.ワクチン接種が概ね完了し脱コロナを模索するフェーズ」から「4.ワクチン接種が概ね完了し脱コロナを模索するフェーズ」にかけて(つまりちょうど今頃)ワクチンの効果等により感染数は抑えられるだろうと予想していた。実際と比較すると私の予想より早く感染者数が減り、予想より感染者数が少なくなったのでびっくりしているが、今年の秋に感染数は減るだろうと予測するのはそんなに難しくはなかったと思う。接種はほとんど終わったのだから、前フェーズで課題だったワクチンの接種スピードは既に課題とはいえないし、感染者数が減ったのだから、前フェーズで課題だった感染者数抑制も大きな課題とならない。つまりフェーズ3特有の課題は、既に過去の課題だということだ。
経済を守るという課題と、経済を回復させるという課題の差はわかりにくいかもしれないが、補助金等によってこれ以上ひどくならないようにするのを「経済を守る」と表現し、経済の自発的な拡大を促すことを「経済を回復させる」と表現した。これもフェーズ3の課題は重要度が下がっていくと思う。

上記の整理を行った上で、上記にリンクがあるので自民党立憲民主党の政策を比べて読んでほしい。一言でいえば、立憲民主党の政策は「3.ワクチン接種が概ね完了し脱コロナを模索するフェーズ」で行うべき政策で、自民党の政策は「4.ワクチン接種が概ね完了し脱コロナを模索するフェーズ」を踏まえた政策になっていると思う。立憲民主党脱コロナを模索することに腰が引けている。
公約から判断すると、経済を回復させるためのアクセルと感染抑制のためのブレーキをどうしていくか与野党で議論が分かれるだろう。経済を回せば感染数は増える。これは仕方がない。だからこそ感染数が増えても重症化させないために、ワクチン接種率の向上策はとても重要だ。
そこで自民党は「電子的ワクチン接種証明等を活用して(ワクチン接種率向上の)インセンティブを付与」といわゆる「ワクチンパスポート」を掲げ、今後頭打ちになるワクチン接種率の向上策を考えている点は評価できる。一方、立憲民主党インセンティブを与えてワクチン接種率を上げるということには消極的な印象を受ける。もしそういうインセンティブ、特に「ワクチンパスポート」に対し反対*7するのなら、ワクチン接種率向上策の対案を出すべきだ。本来は公約として出してほしかったが今からでも遅くない。その対案提示こそ立憲民主党政権運営能力を示すことに繋がる。
「5.アフターコロナのフェーズ」に移行するには、新型コロナ感染症の重症化率や死亡率をインフルエンザと余り変わらない水準に抑える必要がある。そのためには国民のほとんどがワクチンなどで新型コロナウイルスに対する中和抗体を保有する状況にするのが必要と重ねて指摘したい。それでもブレイクスルー感染は起こる*8ので、重症化を抑える治療薬を開発し、重症化を抑える治療法を確立する必要がある。その促進も図ってほしい。
 

経済政策

自民党

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まずは自民党の公約について考えてみたい。まず公約に書かれている「新しい資本主義」とは何か、それがよくわからない。だがとりあえず何をしたいのか公約にあるのでそれをみて判断したい。

  • 財政の単年度主義を是正

これはよいことだと思うので賛同する。

  • 国土強靭化、危機管理投資

これは安倍政権、菅政権でも主張されていたことで、コロナで傷んだ経済を回復させるには積極的な財政は必要なので賛同する。

  • 成長投資

これについても異論はない。問題は本当にできるのか?という実現可能性だろう。安倍政権、菅政権でも成長投資は主張されていたが、今一つ成果がでていない。これは成果が問われる。

  • 中小企業支援

従来から行われている支援の継続が中心。自民党は中小企業も支持基盤なので、その政策は心配していない。

  • 分配政策

自民党が外交右派、経済左派といわれるゆえんの政策だと思う。自民党の分配政策は企業に対する賃上げのインセンティブ付与と個人事業主に対するセーフティネットの構築が主体。この2つは歓迎したい。残念なのは所得税について書かれていないこと。日本の所得税の仕組みは、再配分機能が不十分と思うのでそこに踏み込んでほしい。

  • 全世代の安心感の創出

よくわからない言葉だがここに幼児教育・保育の無償化などがまとめられている。妥当な政策と思うが、これで日本経済が成長するとかあるいは悪化するという政策は見当たらない。粛々と行ってもらえばよいものと思う。

  • 女性の活躍

これは内容が薄い。マイクロ波マンモグラフィー以外は具体性に乏しいと思う。この分野は具体化が必要だ。

総じていえば、自民党の経済政策は、よくも悪くも堅実と思う。悪く言えば新味がない。キャッチフレーズの「新しい資本主義」という言葉はよくわからないが、公約に書かれている内容は理解しやすい。そのほとんどは当面必要な政策であることも認める。ただ将来の夢となるようなものは特に見当たらない。及第点だが高評価でもない。そんな経済政策と思う。

立憲民主党

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次は立憲民主党の経済政策について考えてみたい。どの選挙でもそうだが立憲民主党の経済政策は薄い。自民党の「新しい資本主義」というのも何かよくわからなかったが、立憲民主党の公約はさらに訳判らない用語のオンパレードだ。「地域分散・分権(内需主導)型経済」「ベーシック・サービス」「金融政策による成長条件整備」「公益資本主義」等々。それって何? 少なくともその手の論者しかわからない用語は使うべきではないと思うよ。とはいえ、気を取り直して内容を吟味してみよう。

  • 地域分散・分権(内需主導)型経済

この用語もよくわからないよね。総合すると地方に産業を興すという意味にとれるけど、実現可能性に疑問があるし、仮に実現しても数年以上先と思われるものが多い。

  • ベーシック・サービスの充実

ベーシック・サービスって何? ほんの一握りの学者が唱える造語を公約にいれられても理解できないよ。ここに書かれている内容を読むと福祉の拡充なのでは?と思える。もしその理解でよいのなら、福祉を拡充すればなぜ経済成長に繋がるのか機序がわからない。

所得税減税、消費税減税、低所得者への現金給付、最低賃金上げ。これは左派的な経済政策として自民支持者としては支持しないが理解はできる。問題は財源とマクロ経済への影響だろうね。マクロ経済への影響は短期的な効果は期待できるものの長期的な影響についてはディテール次第で経済成長にも経済悪化にもなると思う。だからこの政策はディテールこそ大事なはずだがそれは書いていない。特に所得税減税だが所得700万円以下の人はそもそもあまり所得税を負担しておらず可処分所得増効果はあまりないだろう。公約を作るにあたってきちんとシミュレーションしているのかは問いたい。

  • 労働法制・取引適正化

大枠は賛同する。もっともこれはマクロ経済に対してはマイナスに働くのではないかと思われるので、これもディテールが大事と思うが書いていない。

  • 金融政策による成長条件整備

この項は何度読んでも理解できないよ。もしこれが金融緩和政策の見直しのことを示すのであれば、コロナで傷んだ経済下でそれを実施すれば確実に日本経済は悪化する。金融緩和政策の見直しはいずれ必要だが時期を間違ってはいけない。それは今ではないのは確実だ。

  • 新たな産業の創出

これはできたらいいなと思う。でも自民党の公約の方が詳細だ。もう少し具体化してほしい。そうでないと評価が難しい。自民党の公約と同じく本当にできるか?という実現可能性が問題になる。

立憲民主党がやりたいのは結局これなのだろうなと思う。所得再分配機能の強化自体は多くの国民が必要性を感じている。だがやり方がまずいと経済を悪化させるのでディテールと時期が大事だ。だがここであげられている政策は問題がありそうなものが多い。特に法人税の超過累進税率はマクロ経済には確実にマイナスに働くと思う。賃金を上げたいと考えるのはよくわかるし同感だが、日本経済を牽引する企業にペナルティを与え活力を奪うよりも、インセンティブを与えて経済の活力と賃上げと両方実現する方がよいと思わないか? 立憲民主党の公約は持つ者、稼ぐ者に対して懲罰的な印象を受ける*9。これらの政策は本当に効果的な政策なのか? その疑問を投げかけたい。

総じていえば、立憲民主党の経済政策は、この選挙で政権を任せる期間(3~4年)で何か経済成長に繋がると思われるものがほとんどない一方*10①実現困難もしくはよくても効果が現れるまで数年以上かかりそうなもの②内容次第ではマクロ経済悪化に繋がると考えられるものが多い。この経済政策で実現するのは、経済格差は縮小するものの国民全体がより貧しくなる将来にみえる。なので評価できない。立憲民主党にはマクロ経済への影響も考慮してより具体化した経済政策立案を望む。そうでなければいつまでも政権を任せられない。

まとめ

経済政策については、自公連立政権以外に選択肢がない状況と思う。第二次岸田政権はまずは公約を粛々と実現してほしい。経済政策は国民の望む政策の一丁目一番地であることを忘れないでほしい。
 

外交・安全保障政策

自民党

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私は国際関係論でのリアリズム(現実主義)*11に基づいて外交、安全保障を考えている。自民党の外交、安全保障政策は国際関係論でのリアリズム(現実主義)に沿ったものとなっており評価している。
中国による台湾への圧力は更に高まると考えるし、米中対立は今後更に激化すると予測している。その結果、台湾とその近海、すなわち台湾海峡バシー海峡宮古海峡などのチョークポイント*12を中心に南シナ海東シナ海の緊張はますます高まっていくだろう。その状況で戦争を抑止するには、日本も一定規模の軍備増強が必要だ。それらを見据えている点で自民党の政策は評価できる。自民党の政策は、国際関係論でのリアリズム(現実主義)の用語を使うと、防御的な同盟を結成し危険な敵を封じ込めるという「外的バランシング」という戦略に沿っていて一貫している。今は「外的バランシング」が日本に最も適した外交戦略だと思う。
なお、国際関係論でのリアリズム(現実主義)のひとつ、オフェンシブ・リアリズム(攻撃的現実主義)については、7年前にその理論をまとめているので参考にしていただきたい。
thesunalsorises.hatenablog.com

立憲民主党

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立憲民主党は「現実的」外交と書いているが、どういう意味で「現実的」と書いているのはとても気になる。少なくとも立憲民主党の政策は、国際関係論でのリアリズム(現実主義)には則していない。リアリズム(現実主義)の対立概念は、アイディアリズム(理想主義)といい、国際社会における道義や倫理、国際法や国際機関を重視した理論だ。立憲民主党外交政策は明らかにアイディアリズム(理想主義)に近い。ただし、立憲民主党外交政策は冷戦時代の社会党の政策(考え)とあまり変わらず中国の台頭と民主主義への圧力、米中対立の激化という近年の国際情勢の変化を踏まえていないように思える。立憲民主党アイディアリズム(理想主義)に基づく外交政策を改めるべきとは思わないがアップデートは必要だ。そのためには、アメリカやヨーロッパのアイディアリズム(理想主義)の政治家や国際関係学者などの考えを取り入れるべきだろう。またアジアの政治家、研究者などの意見も聞くべきだ。今後日本を巡る国際情勢は、台湾問題がより重要になると考えるので、特に台湾の政治家、研究者などの意見は重視すべきだろう。外交や安保政策は、他の国の情勢や考えをきちんと踏まえたものにしなければおよそ「現実的」とはいえないことを強く意識してもらいたい。

台湾問題について

中国は一国二制度というイギリスとの約束を反故にして、香港の民主主義にとどめをさしつつある。新疆ウイグル自治区での人権弾圧も世界各国から強く非難されている。南シナ海での拡張主義的な動きも非難を招いている。台湾に対する軍事圧力はエスカレーションするばかりだ。10月月初、台湾の防空識別圏に過去最大の戦闘機、爆撃機などを進出させたことは耳に新しい。しかし中国は世界各国からいかに非難をされようとその態度を改めようとしない。
www.bbc.com
中国の、全方位恫喝外交ともいえる姿勢は、オフェンシブ・リアリズム(攻撃的現実主義)でいえば、中国がブラックメール(脅迫)戦略をとっている現れとみる。孫子の言を借りれば、「戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」という考えの現れとみる。
sonshi-heihou.com
戦わずに勝つには、人の心を攻める。台湾問題に関して言えば、中国は台湾人の心を挫くことを目指しているとみる。中国が圧力をかける地域は台湾の軍事力の弱点となる場所になる。東シナ海はまだ日米の軍事力が中国をしのぐ。だから中国は海軍や空軍ではなく日本の海上保安庁にあたる海警部隊を使って圧力をかけている。一方東シナ海よりも中国に軍事バランスが傾いている地域が南シナ海だ。特に台湾が実効支配している東沙諸島近辺は、中国の軍事力が台湾の軍事力を凌駕している。アメリカ海軍、空軍も常時展開できる地域ではない。

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中国が軍事圧力を加えている地域(台湾の国防部の発表から抜粋)

台湾では台湾アイデンティティ*13が定着し、長く中国から軍事圧力を加えられていることから軍事圧力慣れをしている。こういった状況なのでそうたやすく台湾人の心は折れないと思われるが、中国は一貫して台湾を政治的に孤立させ軍事圧力を加え台湾人の心を折れさせようとしている。
中台の軍事バランスがどんどん中国有利に傾いていく中、中国の東沙諸島奪取が現実味を帯びてくる。そしてその次に待つのは中国の台湾本島侵攻かもしれない。
ますます緊迫感が増す国際情勢の中、もし台湾有事の際どの国も台湾を助けないという状況、すなわち台湾の孤立が避けられないものになれば、さすがに台湾人も心が折れることになるだろう。だからアメリカは台湾の防衛にコミットを強めつつある*14。イギリス、カナダ、オランダ、オーストラリアなども東アジア情勢に軍事的に関与する姿勢を示している*15。台湾を孤立させないことは、アジアの安全保障のために重要なことは自明と思う。
このような情勢の中、日本は台湾有事の際、専守防衛に徹し台湾への関与をしないのか? ある意味台湾を見捨てる選択をとるのか? それが問われている。
自民党の政策は明らかで日本は台湾有事の際アメリカ軍と行動を共にすることになるだろう。そのために必要だったので解釈改憲をして集団的自衛権行使を行えるようにした。
立憲民主党はどうなのか? 公約をみる限り集団的自衛権行使に反対しているようなので、台湾有事の際にはその事態に関与せずある意味台湾を見捨てる選択をとるのだろうか? 立憲民主党はこういった今後起こりえる事態に対する想定、議論が足りないのではないか? そう思えた。それとも立憲民主党は台湾を孤立させ中国が戦わずして勝つことに貢献したいのだろうか?
 

最後に

新型コロナ対策、経済政策、外交・安全保障政策以外の政策については、長くなるので今回は詳述するのは控えたいと思う。
総じていえば自民党の政策は現状追認的であり、立憲民主党の政策は(よく言えば)理想主義的だった。
自民党の政策は現状追認的であるため高く評価もできないが現実的とは思う。
立憲民主党のその他の政策については、エネルギー政策を批判的にみる。選択的夫婦別姓ジェンダー問題などの政策について、総論としては私は批判も賛同もしない。国民の多数が望むならそれでよいと思う。
しかし、私は新型コロナ対策、経済政策、外交・安全保障政策を重視しているのであって、その他の政策の是非で投票先を変えたりしない。そういう人は多かったのではないか。
立憲民主党がもし選択的夫婦別姓ジェンダー問題などの政策を実現したいと思っているのなら、なおさら次の選挙に向けて経済政策と外交・安全保障政策を見直すべきと思う。
その2つこそ、国の根幹にかかわる政策であると強く認識すべきだ。
自民党はこの実質的な勝利におごらず謙虚な心で政権運営にあたるべきだ。コロナからの回復は絶対に必要だし、台湾問題など国際情勢は今後困難を極めてくる。立憲民主党外交政策が変わらない限り、次の総選挙で政権交代すれば日本の将来にとって痛恨の極みになるだろう。心して政権運営してほしい。
 


備考

*1:フェーズ1は、既に人から人への感染力を持った新型コロナウイルスが存在し感染が生じていたが、そのウイルスを発見していなかった段階と定義したい。私はおおむね2019年秋~2019年12月がフェーズ1だと考えている

*2:フェーズ2は、新型コロナウイルスを発見したものの投与できるワクチンが存在しなかった段階と定義したい。私はこのフェーズは、中国がWHO中国事務所に最初に感染報告を行った2019年12月31日から、イギリスが世界に先駆けてワクチンの緊急使用許可を行った2020年12月2日までと考えている。

*3:フェーズ3は、ワクチンの投与が開始されワクチン投与がおおむね完了するまでと定義したい。ワクチン投与状況は国によって大きく異なるし、ワクチンを忌避する人などもいてワクチン接種は100%にはならないので、このフェーズの終了時期は明確にはならないと思うものの、日本の場合おおむね2021年11月中旬にこのフェーズを終えると思う。

*4:フェーズ4は、接種を希望する人に対するワクチン投与がおおむね終わり、パンデミックから脱する方法を模索する段階と位置付けている。このフェーズの終わりは人の行動を制約するものが概ねなくなり、人々が新しい行動様式を受け入れ、新しい行動様式にもとづいて生活をはじめた時と考えている。

*5:フェーズ5は、人々が新しい行動様式を受け入れ、その行動様式に基づいて生活をしている状況と捉えている。この段階になれば新型コロナ感染症パンデミックは終わったといえると思う。

*6:オリンピック・パラリンピックは「4.ワクチン接種が概ね完了し脱コロナを模索するフェーズ」または「5.アフターコロナのフェーズ」で行うべき政策だったが「3.ワクチンが承認され接種するフェーズ」で行われたことから批判を招いた。

*7:河野ワクチン担当相に申し入れした時に反対を表明している。ワクチンPT第2次提言を河野ワクチン担当大臣に申し入れ - 立憲民主党

*8:中和抗体があれば感染しにくくなるが感染を数割減らす程度の効果のようだ。一旦感染すると他者へ感染させることになる。参考:ワクチン2回接種しても簡単に家族にうつす=新型ウイルスの英研究 - BBCニュース

*9:アメリカや中国のように富を寡占するような富豪は日本にはあまりいない。世界的な大企業も少なくなってしまった。

*10:立憲民主党の公約はこの経済政策以外に「財務金融・税制」「経済産業」という項もあるのだがそれを読んでも同じ評価。例えば「経済産業」のページにある「中小企業の社会保険料事業主負担分の軽減」という政策は国民に社会保障への不安を増させ規模によっては社会保障制度の破綻を招きかねず問題が大きいと思う。その他、賛同できない政策が多い。

*11:リアリズム(現実主義)についてはいろんな意味で使われることがあるので、あえて国際関係論でのリアリズム(現実主義)と書いた。特に立憲民主党は「現実的外交」と書いているが明らかに国際関係論のリアリズムとは無縁の政策のためその区別は必要と思う。

*12:チョークポイント - Wikipedia

*13:台湾アイデンティティと「一つの中国」− 李登輝政権の対中政策の展開

*14:米国、台湾の自衛支援にコミット=駐台代表 | ロイター

*15:【最新国防ファイル】英空母「クイーン・エリザベス」に存在感 “自由で開かれたインド太平洋”のためアジア太平洋地域に大遠征 (1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

海外旅行先で食べた【好きなごはん10選】

はてなブログ10周年特別お題「好きな◯◯10選
はてなブログ10周年おめでとうございます。
最近は全然投稿していませんが、このブログは、政治、特に国際関係の投稿をするために利用しています。今日はこれまでの投稿とは違い、はてなブログ10周年をお祝いして『海外旅行先で食べた【好きなごはん10選】』を書きました。
私は海外旅行も趣味のひとつなので、旅行先で食べたごはんの中から、これはおいしかったといまだに忘れられない料理をご紹介します。
順位は私の独断です。すごく迷いました。「あのおいしい料理を外すなんて!」「なんでこの順位なんだ!」というお怒りの声が聞こえそうですが、どうぞお許しください。
世界はおいしいものでいっぱいです。

目次

 

【第10位】カタプラーナ(リスボン

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カタプラーナ・ド・マール

カタプラーナというのは、ポルトガルのふたつきの丸っこい鍋*1のことをいいます。またカタプラーナ鍋で作られた料理もカタプラーナといいます。写真の料理は、カタプラーナで煮た海鮮鍋です。メニューには“CATAPLANA DO MAR”(直訳すると、海のカタプラーナ)と書かれていました。
バカリャウ(干しダラ)とカニやエビなどの海産物をトマトと魚介のブイヨンで煮込んだやさしい味の鍋でした。鍋と一緒にごはんもサーブされますので、途中で鍋に入れておじやみたいにして食べてもいいです。こう説明していると日本の鍋料理と似ていますよね。
ポルトガルではお米も海産物もよく食べますし、海産物のうま味を引き出した料理が多く日本人好みだと思います。特にお米を使った料理(リゾットなど)は本当に口に合います。
表題にはリスボンと書きましたが、厳密にはリスボンからテージョ川をフェリーで渡った対岸のアルマダという街にある「オ・マルティンス」というレストランで食べました。
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【第9位】海南鶏飯シンガポール

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海南鶏飯

海南鶏飯、日本ではシンガポールチキンライスという名前の方が通りがいいかもしれません。隣国のマレーシアではナシ・アヤム*2、タイではカオ・マン・ガイ*3と呼ばれています。シンガポールだけでなく、マレーシアやタイでも食べてみましたが、微妙な差はありますが、鶏肉をゆでたスープでご飯を炊いた料理という基本は同じと思います。
シンプルな料理ですが、鶏肉がふっくらと仕上がり、お米に鶏のうま味がしみ込んで、やはりおいしい。日本でもいろんなレストランで食べることができますが、日本人好みの料理だと思います。海南鶏飯は炊飯器でもできますし、鍋で作っても割と簡単にできます。海南鶏飯は今ではすっかり我が家の定番料理となりました。
写真は、シンガポールの「阿仔海南鶏飯」というホーカー(常設屋台)で食べた海南鶏飯の写真です。
www.tripadvisor.jp
 

【第8位】豚の角煮(杭州、上海、台北

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東坡肉(杭州

豚の角煮は中国全土で食べられていると思います。もちろん台湾でも名物です。でも料理名は地方によって違うんですよ。お恥ずかしながら私は中国や台湾に行ってみるまで知りませんでした。
日本ではトンポーロー(東坡肉)という名称が一番知られているように思います。トンポーロー(東坡肉)というのは浙江料理の一つで、杭州が本場です*4。1枚目の写真は、杭州の「楼外楼」というレストランで食べたトンポーロー(東坡肉)です。ここのトンポーロー(東坡肉)は豚の脂身の層が厚めなのが特徴です。見た目がきれいしょう? 特に皮の部分がとてもきれいです。柔らかく煮られているのですが豚の三枚肉のゼラチン質をきっちりと残していて丁寧な仕事だと思います。
味の方もしょうゆのあっさりとした味と脂身のこってりさがほどよいコントラストになっていて、これを饅頭の皮に挟んで食べるのですが、かたまり肉の入った肉まんのような感じもして、実においしいです。
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紅焼肉(上海)

2枚目の写真は、上海の「上海姥姥」というレストランで食べた豚の角煮です。上海料理の豚の角煮は、ホンシャオロー(紅焼肉)といいます。杭州のトンポーロー(東坡肉)にはない、照りがあるのがわかりますよね。上海のホンシャオロー(紅焼肉)は砂糖や水あめを入れるので照りがでて甘いです。上海のホンシャオロー(紅焼肉)はこの甘さが特徴ですね。特に一口目がおいしい!って思いました。
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滷肉(台北

3枚目の写真は、台北の「欣葉」というレストランで食べた豚の角煮です。台湾料理の豚の角煮は、ルーロー(滷肉)というんですね。欣葉の豚の角煮は、欣葉滷肉という名称でメニューに載っていました。
上海のと比較すると、照りがないことがわかると思います。ルーロー(滷肉)には砂糖が入りません。しょうゆのあっさりとした味付けです。杭州のトンポーロー(東坡肉)もあっさりした味でしたが、比較すると欣葉滷肉の方がよりあっさり味と思います。また欣葉滷肉には香辛料の味や香りが感じられなかったので、日本の豚の角煮により近い感じがしました。
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たかが豚の角煮、されど豚の角煮。豚の角煮は地方によって違い、奥深さを感じます。
 

【第7位】コレノ(プラハ

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コレノ

豚続きですが、チェコプラハで食べたコレノを7位にしたいと思います。コレノだけで十分通じますが、本来、名称はヴェプショヴィー(豚)・コレノ(ひざ肉)といいます。名前の通り豚のひざ肉をまるごとオーブンで焼いた料理です。この料理はチェコだけでなく、ドイツ(主にバイエルン地方)*5でも食べられていて、ドイツ料理になるとシュバイネハクセという名前になります。
豚のひざ肉にはゼラチン質がたくさんあって、これをじっくり焼き上げると、皮がぱりっとしていて肉がほろほろっと崩れる肉汁たっぷりの料理になります。柔らかくて肉汁と豚のうま味が口の中に広がり、実においしいです。
この写真は「ウ フレクー」という居酒屋のコレノです。写真、ブレていてすみません。
他の居酒屋でもコレノを食べたのですが、おいしさが雲泥の相違でしたので、コレノを食べるならレストランは選んでください。シンプルな料理だけに料理人の腕の差がでるのだろうと思います。
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【第6位】ガイ・ヤーン(バンコク

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ガイ・ヤーン

タイ語でガイは鶏肉、ヤーンは照り焼きにするという意味で、ガイ・ヤーンは文字通りタイ風焼き鳥です。おいしいとは聞いていたのですが、やはりおいしい。ひとりで一羽食べてしまいました。
何がおいしさの源なのか、まだこうだと得心はないのですが、焼き方とタレ(マリネ液)の味なのではないかと思います。バンコクの「サバイ・ジャイ」というレストランのガイ・ヤーンは一羽まるごと炭火で焼いているのですが、一羽まるごとをじっくりと焼くことで鶏の水分を逃さずふっくらと火が通り、甘辛い独特のタレで更に風味が増しているのではないか、そう感じます。
バンコクには他にも評判のガイ・ヤーンの店があると聞いていて、食べ比べに行こうと思っているところです。ガイ・ヤーンもシンプルな料理だけに、料理人の腕の差と料理の丁寧さの差がでると思います。
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【第5位】ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナフィレンツェ

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ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ

フィレンツェ風の牛のTボーンステーキです。イタリアのトスカーナ州で育てられているキアニーナ牛*6を熟成させた肉を使うとされていて、キアニーナ牛でないとビステッカ・アッラ・フィオレンティーナは名乗れないようです。その肉は赤身で肉質は柔らかく、上品なうま味があってとてもおいしいと思います。Tボーンの部位を5cm以上の厚みでカットして焼き上げたものが、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナです。焼き加減なんて聞かれません。レアが基本です。でも赤身の牛ステーキが好きな人だったら気に入ると思います。
写真は、「レストランテ・パリオーネ」というレストランのものです。ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナは、肉の質、熟成の仕方、焼き方などでおいしさの差がでると思いますので、レストランは選んだ方がいいでしょう。
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【第4位】鶏とモイーユのクリーム煮(リヨン)

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鶏とモイーユのクリーム煮

リヨンは美食の街として知られていますが、そんなリヨンの伝統郷土料理を出す大衆食堂をブション*7といいます。リヨン市内にはブションがあちこちにありますが、せっかく美食の街を訪れたのでリヨンの伝統料理を食べたいと思いブションをはしごしました。どの料理もおいしかったのですが、一番印象に残っているのは、「ダニエル・エ・デニス」というブションの鶏とモイーユのクリーム煮です。
リヨン近郊で育てられるフランスのブランド鶏であるブレス鶏*8のむね肉をソテーしたものにモイーユ(日本名アミガサダケ*9を加え、生クリームで軽く煮込んだ料理です。鶏肉もしっとりとしておいしかったのですが、なによりもモイーユの香りとうま味がすばらしく一口目ですっかり魅了されてしまいました。
この料理、少しアレンジ*10して、我が家の定番料理となりました。その料理を食べるたびリヨンのことを思い出します。
「ダニエル・エ・デニス」というブションですが、リヨンには4店あります。私が訪問したのは、サン・ジャン店です。
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【第3位】ターフェルシュピッツ(ウィーン)

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ターフェルシュピッツ

写真ブレブレですみません。ターフェルシュピッツ*11は、日本ではイチボと呼ばれる牛肉の部位のことです。そしてイチボ肉を野菜といっしょにブイヨンで煮込んだ料理*12もターフェルシュピッツといいます。
スープがとてもおいしいんですよ。牛と野菜のうま味が濃厚でかつ洗練された味でした。スープのあとに、柔らかく煮た牛肉(イチボ)がスライスされてサーブされます。それをホースラディッシュとりんごをすりおろしたソースか、ほうれん草のピューレ(ソース)をつけて食べます。牛肉は柔らかく煮られていますが決して煮すぎてパサパサにはなっていなくて絶妙の茹でぐあいでした。シンプルなのだけど奥が深い料理と思います。
この料理も、少しアレンジ*13して、我が家の定番料理となりました。あっさりだけど味わい深い我が家のごちそうです。
ターフェルシュピッツもシンプルな料理だけに、レストランによって味が相当違う*14と思います。そこで評判のよい「プラフッタ」というレストランでいただこうと思ったのですが、コンサートの後だったので本店ではなくコンサートホール近くの支店で食べることにしました。「プラフッタ」はウイーンとその郊外に本店と数店の支店を持っています。私が訪問したのは「ガスタウス・ツォ・オパー」という支店です。
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「プラフッタ」は本店が有名です。本店の方の紹介ページもはっておきます。次にウイーンに行くときには本店でいただこうと思っています。
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【第2位】ブイヤベース(マルセイユ

ブイヤベースは、日本のレストランでも何度もいただいていますし、私もみようみまねで作りはじめ得意料理になりました。割と自信があったので本場のものと比べてみたいと思い本場のブイヤベースを食べるためにマルセイユを訪問したのですが……
本場のブイヤベースは、日本で食べていたもの、私が作っていたものの上を行く料理でした。スープの味わいの深さが全然違うんですよ。
ブイヤベースは最初スープだけでサーブされます。スープをそのままいただいてもいいですし、カリっと焼いたバゲットにアイオリ*15やルイユ*16をつけてスープに浮かべて、スープと一緒にいただいてもいいです。

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ブイヤベース(スープ)
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カリっと焼いたバゲットにアイオリとルイユをつけスープにひたして食べる

スープは何杯でもお代わり可です。私は2杯食べましたが、それだけでお腹が相当いっぱいになります。
スープを食べた後、メインの魚がサーブされます。

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メインの魚

魚を食べる時にも新たにスープがサーブされ、魚をそのスープの中に入れていっしょに食べます。
ところで私が作るものと本場のブイヤベースとの味わいの深さの差は何が原因か、ずっとわからなかったのですが、最近妻がレシピを改良したところかなり本場の味に近づいたものができるようになりました。どんな改良かというと、スープ(フュメ・ド・ポワゾン)をとるときに使うにんじんの量をそれまでの2~3倍にして、太ネギを1本加えるという改良です。本場との違いは、スープに野菜のうま味を加え足りなかったからではないか、そう感じています。
ブイヤベースはシンプルだけど奥深い料理と思います。作るのに3時間以上かかるのでおいそれと作れませんし、3種以上のよい白身魚*17*18がないと作れませんが、我が家のお祝い料理の一つです。
マルセイユでもレストランによって相当味の差があると聞いていますので、もし訪問されるのであればレストランを選ぶことをおすすめします。私は、「シェ・フォンフォン」というレストランで食べました。
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【第1位】生フォアグラ(パリ)

パリの15区*19に「オ・プティ・シュッド・エスト」というレストランがあって、そこで生フォアグラが出されていました。私はこの生フォアグラにすっかり魅了されてパリに行くと必ずすぐに食べに行っていました。ところでなぜ過去形で書いたかというと、このレストラン、2017年4月に閉店してしまったからです。当時フランスで鳥インフルエンザが流行し、フォアグラを仕入れていた生産者もダメージをうけ確保が難しくなったから、またオーナーも高齢だったからと聞いています。
もう食べられないとなると思いは募ります。生フォアグラは「オ・プティ・シュッド・エスト」にしかない料理だったので……

ところで生フォアグラがどんな料理でどんな食べ方をするのかを説明しますね。
生フォアグラを頼むと、薄くスライスされた生のフォアグラとパンがサーブされます。

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生フォアグラ
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パン

それぞれのテーブルの上には、パンを焼くトースターがあります。

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テーブル(トースターが載っている)

パンをトースターで焼き、熱々のパンに生フォアグラをのせてしばらく時間をおくと、だんだんとフォアグラの油がとけてきてトロトロの状態になります。
次の写真が食べごろになった状態です。

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食べごろになった状態

食べごろになったらパンを手で持ってそのまま食べます。フォアグラの油がパンにしみて、なんとも絶妙な味になるのですね。写真をみてください。おいしそうでしょう? もういただけないのが本当に残念です。

ところが……

さきほど「オ・プティ・シュッド・エスト」は閉店したと書きましたが、最近、パリに隣接しているルヴァロワ=ペレというコミューン*20に同名のレストランがあることを見つけました。Facebookのページしかなく、ホームページのリンクも切れていて最新のメニューなのか確証もないですが、探し出したメニューには"Foie gras cru au gros sel"(生フォアグラ、粗塩添え)と書かれています。もしかすると後継者がレストランを出したのでは?と期待しています。メトロ3号線の終点駅から歩いて行けるようですし、次にパリに行った時にはダメ元で行ってみようと思います。もしもう一度あの生フォアグラに出会えたら涙がでるほどうれしいと思いますので……

"Au Petit Sud Ouest"のFacebookページ
aupetitsudouestelo.wixsite.com
 

最後に
日本は世界有数の美食の国だと思います。それでも世界には、私がまだ知らない、まだ食べたことがない、おいしい料理がたくさんあるはずです。そんな料理を探していきたいと思います。
世界はおいしいモノにあふれている。
自由に海外と往来できる日が戻ることを願っています。
 

備考

*1:【暮らしの道具】ポルトガルの鍋「カタプラーナ」が万能だった - mogu mogu MOGGY

*2:マレー語でナシがご飯、アヤムが鶏肉なので鶏飯という意味

*3:タイ語でカオがご飯、マンが油、ガイが鶏肉なので、鶏油飯という意味

*4:浙江料理の他、四川料理、海南料理にもトンポーロー(東坡肉)があります。

*5:オーストリアでも食べられています。

*6:イタリアのブランド牛の代表格「キアニーナ牛」 | 熟成肉の格之進

*7:リヨンのブション 伝統的なレストランを5分で解説

*8:家禽の女王・王様の家禽/ブレス鶏A.O.C グルメWORLD

*9:日本ではモリーユと表記されていることが多いのですが、私の耳にはモイーユ(モにアクセント)に聞こえるのでモイーユと表記しました。一見毒キノコに見えるかもしれませんし生だと毒があるらしいので加熱必須らしいですが、とても上品なうま味と香りをもつ高級食材です。値段はトリュフほど高くはありませんが、ポルチーニ(セップ)よりはるかに高いです。アミガサタケ | きのこ図鑑

*10:乾燥モイーユは値段が高すぎるので乾燥ポルチーニを使い、生クリームだと重くなりすぎるので普通の牛乳で軽く煮込むようにアレンジしました。鶏のむね肉は普通にスーパーで売っているものを使っています。

*11:直訳すると食卓の端っこという意味のようです

*12:サーブされた鍋の中に輪切りにした牛骨もはいっていて骨髄も食べられるようになっていました。味わいの深さからスープをとるときに牛骨もつかっているのではないかと思っていますが確信はありません。

*13:イチボ肉の塊はなかなか手に入らないので、牛すね肉の塊で代用しています。牛骨は使っていません。牛すね肉の方がイチボ肉よりもゼラチン質が多く出来栄えはややくどくなりますが、代わりに煮すぎても肉にゼラチン質が残りやすくパサパサしにくいので失敗が少ないと思います。それに何よりも牛すね肉はイチボ肉や他の部位よりも安いですしね。

*14:他の店で食べたターフェルシュピッツはあまりおいしくなかった。

*15:にんにくと卵と油を混ぜたソース。にんにくの効いたマヨネーズみたいな感じ。アイオリソースとはどんなソース?作り方はマヨネーズと同じなの? | たべるご

*16:唐辛子とニンニクをすりつぶしオリーブオイルで溶いたソース。ぴりっと辛い。ルイユソース | GMParis

*17:我が家ではタイとアナゴが必須でカサゴメバルなどの白身魚をもう1種以上加え、さらにエビを2,3尾分加えて作っています。ブイヤベース憲章には沿っていないのですけどね。ブイヤベース憲章では4種以上の魚が必要とされていますし、タイを使ってはいけないとされています。そもそも地中海の魚を使うこととされているので日本の魚を使う時点でブイヤベース憲章違反なのですけどね……

*18:正統ブイヤベースの憲章はご存知?

*19:エッフェル塔の近く

*20:フランスの最小単位の地方自治体(基礎自治体)。日本だと市町村に該当すると思います。

韓国に「さようなら」を言う日に備えよう

2年半前のブコメ*1

2017年2月、潘基文氏が韓国大統領選を撤退したという記事に、私はこんなコメントを書いた。

「英雄」潘氏、衝撃の撤退 韓国大統領選へ態勢整わず:朝日新聞デジタル

これで文在寅が大統領になる可能性が高くなった。文在寅の政策は破壊的だよ。日韓関係は完全に壊れるだろうし米韓同盟すら危なくなる。日本は米韓同盟瓦解後の対応策を練るべきと思うね。東アジアに嵐が来そう(笑)

2017/02/02 19:37
b.hatena.ne.jp

あれから2年半、着実に日韓関係は壊れ、米韓同盟も危うくなってきている。
私は自分の予測力を誇るつもりはない*2。あれは韓国の政治や社会と文在寅氏をきちんと観察していれば、誰でも容易に予測できたことと思っている。
さて、ここまで壊れた日韓関係が今後どうなるのか、韓国の他、中国、北朝鮮、ロシア、アメリカと日本の6か国の動向の分析も含め、自分の考えを整理したいと思う。


政治家としての文在寅氏の分析

ちまたには、「文在寅は無能だ」などと政治家としての文在寅氏を貶める言説もちらほら見かける。
私は、文在寅氏に問題がないとは思わない。しかし決して無能な政治家とも思っていない。自分の支持者に誠実な信念の人と思う。ただその信念は韓国の民族主義的傾向があまりに強く、妥協しないので、日本だけでなく関係各国、そして韓国国内の対立者と深刻な軋轢を起こしていると見る。

文在寅氏が大統領選に勝利した後、2017年5月に韓国在住のロー・ダニエル氏が書いた文在寅氏に対する分析は、今だからこそ読み返してもらえれば、それが正鵠を得た分析とわかると思う。
gendai.ismedia.jp
私は、文在寅氏を理解するキーワードは、彼の持つ「正義感」だと思っている。
その「正義感」は、韓国の歴史、すなわち『李承晩と朴正熙が元祖となって作り上げた、親米・親日的な発展万能国家、安保国家、勝者独食国家のさまざまな産物』に向かう。だから『それを清算しなければ「常識的社会」は具現できない』と考える。つまり「積弊清算」こそが、文在寅氏を政治家たらしめる基礎であり、原動力だと思う。

この分析記事にある、日本に対しての次の4点の指摘は文在寅氏の対日感の原点だと考えるべきだろう。

  • 1965年の日韓正常化合意を彼の父親が「悪である」といったこと
  • 2004年に制定された「親日反民族行為真相究明に関する特別法」を盧武鉉政権の大きな功績と認識していること
  • 2015年に朴恵槿政権と結んだ慰安婦に関する日韓合意を「受容することができない」と宣言したこと
  • 包括的軍事情報保護協定(GSOMIA)について、日韓の間の軍事情報の共有が日本に有利な形であるという認識をもっていること

この4つをもとに、文在寅政権の過去の動向を顧みれば、「考えもなしに(無能だから)日韓関係を悪化させた」のではなく、「自らの信念のもとに確信をもって決断した結果、日韓関係は悪化した」とわかるのではないだろうか。文在寅政権にとって、日韓関係の悪化は目的ではないが、避けて通れないものと考えているだろう。

文在寅氏本人については、もう一つ大事な指摘がある。

  • 実利より大義名分と理屈を優先すること

これが、文在寅政権の持つ「非妥協性」のもとになっていると思う。日本や他国、あるいは韓国国内の対立者のクレームに対し、一切妥協せず、逆に相手の譲歩のみ求める。その頑なさは文在寅政権の特徴の一つだ。


徴用工問題について

徴用工問題に対する韓国の判決と文在寅氏との関係

徴用工に対する賠償請求について、その訴訟の一つを初めて引き受けた弁護士が文在寅氏当人だったという事実を忘れてはいけない。
www.donga.com

そして文在寅氏は大統領になり、2017年、大法院判事を経験したことのない地方裁判所の裁判官で『反日反米の裁判官の集団である「ウリ法研究会」の会長を務めた』金命洙氏を大法院長官に抜擢した。その指名の際には『2012年の大法院の判決を引用しつつ「韓国政府もそのように望んでいる」』と述べた。
その後、「大法院が朴槿恵政権の意向を汲んで徴用工の民事訴訟の進行を遅らせた容疑」で林鍾憲前法院行政処次長を逮捕した。
こうやって、用意周到に準備した上での大法院判決だ。この判決に文在寅氏の大統領としての意向が影響していないとは考えられない。
toyokeizai.net

判決内容

この判決を、日本語に翻訳した人がいるのでご紹介したい。またその労に感謝したい。

justice.skr.jp

私の以下の指摘は、リンク先の「新日鉄住金徴用工事件再上告審判決(大法院2018年10月30日判決)」に基づいている。

この判決を、日本は到底受け入れることができないと私は考える。その問題となる部分を判決から抜粋し列挙してみる。

  • 請求権協定は日本の不法な植民支配に対する賠償を請求するための協定ではないとした部分(12p)

韓国に対する植民地統治が、不法であったかという点は、日本と韓国で意見が相違している。日本は道義的な面では植民地統治の責任を持つものの、植民地化は当時の国際法に沿ったものと主張している。韓国は不法行為だと主張している。その相違を残したまま、日韓基本条約は締結された。植民地統治の不法性は韓国側の認識であり、それをこの判決は重要な法理の一部としてあげている。しかしそもそもそれは二国間条約である日韓基本条約の解釈の問題であり、一国の判断で断定できるものではない。その解釈を決定する権限は、韓国の大法院にはない。請求権協定に対する紛争は、請求権協定に定められた手順に従い解決すべきものである。

  • 具体的な不法行為を認定することなく、不法な植民地支配によって被告が「精神的苦痛を受けたことは経験則上明白である」とした部分(12p)

不法行為について具体的に認定するのではなく、不法な植民地支配によって「精神的苦痛を受けたことを経験則上明白」とし、それを損害賠償の根拠とするのであれば、今後、韓国人が植民地支配で苦痛を受けたと主張するすべての内容について、ほぼ自動的に損害賠償が認められることになる。

  • 請求権協定第1条によって支払った金銭が、同第2条の請求権放棄と法的な対価関係にはないと断定した部分(14p)

この部分は、日韓基本条約と請求権協定の本質的性質を変更することに他ならない。前述の通り、日韓基本条約の解釈を一方的に変更する権限は、韓国の大法院にはない。

  • 韓国が「他国民を強制的に動員することによって負わせた被徴用者の精神的、肉体的苦痛に対する補償」を交渉時に求めた事実は認定しつつも、韓国の要求額に及ばないことを根拠に、強制動員慰謝料請求権も請求権協定の適用対象に含まれていたとは認めがたいとした部分(15-16p)

交渉過程で補償を求め、それを前提に二国間条約である日韓基本条約とその付属協定を締結しておきながら、その額が要求に足りないという根拠でその内容を否定できるのであれば、日韓基本条約とその付随協定の安定性は著しく損なわれる。さらにこれは日韓基本条約の解釈の問題であり、再々の指摘だが、解釈を変更したり断定する権限は、韓国の大法院にはない。

上記から、日本が韓国に日韓基本条約と付随協定という条約(国際法)の順守を求め、この紛争の解決として請求権協定第3条に基づき仲裁委員会の設置を求めたのは当然といえる。しかし文在寅政権はそれを拒んでいる。

文在寅政権が日本に対して要求しているもの

文在寅氏は自らの正義を強く信じる人と前に書いた。自らの正義を強く信じるゆえ、「一度、反省の言葉を述べたから反省が終わったとか、一度、合意をしたから過去が全て過ぎ去り、終わりになるというものではない」という言葉を述べる。文在寅氏にとっての正義は、「日本は加害者として韓国が満足するまで永遠に謝罪すること」であり、その関係を作ることが「真の友好」であり「積弊清算」なのだ。
www.asahi.com
相手国に謝罪を要求し続け、日韓基本条約のような二国間関係の基本となっている条約(国際法)すら解釈を一方的に変更し決定し、その内容によって相手国に「賠償」を求める。そんな関係は一方的な従属関係としかいえない。文在寅政権は、一連の行動で、『日本に対して「従属」を要求している』といわざるをえない。
しかし、日本とて他国に「従属」を要求されれば、それを拒まざるをえない。譲歩もありえない。日本と日本国民と、将来の私たちのこどもたちのために、私たちは頑としてそれをはねのける必要がある。


オフェンシブ・リアリズム(攻撃的現実主義)の視点

徴用工問題は、ついに日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)を韓国が破棄を通告するという事態に発展した。ここに至り、徴用工問題は、東アジアの安全保障体制の問題に変化した。第2ラウンドだ。
GSOMIA破棄の理由として、文在寅政権は日本が「輸出貿易管理令」の一部を改正し、韓国をいわゆるホワイト国からはずしたことをあげているが、そもそも日韓関係の悪化の引き金となった徴用工問題も、文在寅氏自身が仕掛けた「積弊清算」の一部であり、GSOMIAも文在寅氏が積弊の一つと考えていたと思われることから、私は文在寅政権が日本のホワイト国はずしを理由にして「積弊清算」をまた一歩すすめたのだと思っている。
GSOMIA破棄は、日本と韓国の軍事協力を難しくするだけでなく、「アメリカの安全保障の利益に悪影響を及ぼす」とアメリカの高官が発言するように、アメリカの国益に真っ向から反することになる。当然、アメリカは強い怒りと不信感を韓国に向けるが、韓国もそれを予期しなかったわけではあるまい。
web.archive.org*3

韓国がGSOMIAを破棄することで、本来、徴用工問題は日本と韓国の2国間の問題であったはずが、アメリカなど周辺各国を巻き込んだ安全保障の問題に変質してしまった。その結果、今後どのようなことがおこるのだろうか? 
そこで、今後については、国際関係論の主要な理論の一つである「オフェンシブ・リアリズム(攻撃的現実主義)」の視点で分析してみたい。
なお、「オフェンシブ・リアリズム(攻撃的現実主義)」の理論は、次の記事にまとめている。以下の文章では「オフェンシブ・リアリズム(攻撃的現実主義)」の専門用語を使用するので、わからない用語があれば、この記事を参考にしてほしい。
thesunalsorises.hatenablog.com


韓国の文在寅政権が望む国際関係とは?

日本との間で、レーダー照射事件が生じたとき、レーダー照射を行った事実すら認めず、日本を強く非難した文在寅政権は、北朝鮮に対しては全く逆の態度を示している。
ここ1か月、北朝鮮は韓国が標的と思われる短距離ミサイルの発射実験を繰り返しているが、それに対しては文在寅政権は沈黙を守り続けている。
一方、文在寅氏は、8月15日の「光復節」式典の前に「北朝鮮との経済協力で平和経済が実現すれば、一気に日本の優位に追いつくことができる」と述べ、式典では「2045年の光復100年には平和と統一で一つになった国、『ワンコリア』に向けて礎を整備する」とし、「統一すれば、世界経済6位圏の国、国民所得7万~8万ドル時代が開かれるだろう」と演説した。
北朝鮮核兵器やミサイルなど、どこ吹く風だ。
文在寅氏にとって、北朝鮮との統一がとても重要な政治目標であり、統一後の「ワンコリア」に大きな期待をかけていることがわかる。民族が分断された歴史を終わらせることは、文在寅氏にとって最大の「積弊清算」なのだろう。
www.donga.com

一方、韓国は文在寅政権になってから、大きく国防費を伸ばしている。
japanese.joins.com

軍事費を増大させる一方、同盟関係の維持には配慮をしない。北朝鮮の挑発には沈黙し、統一を訴える。
これらの動きから、文在寅政権が目指している安全保障は、強い「ワンコリア」を実現し、「ワンコリア」の自国国力による安全保障ではないかと考える。これをオフェンシブ・リアリズム(攻撃的現実主義)では「内的バランシング」という。そして「内的バランシング」のもっとも強力な手段は「核武装」になる。
文在寅政権が北朝鮮の核廃棄にそれほど積極的な姿勢をみせない背景として、「ワンコリア」成立後の「核配備」を夢見ている可能性を指摘しておきたい。


アメリ

これはとても明確だ。
アメリカは、中国との覇権争いに入った。そのために、日米同盟、米韓同盟を強固にし、アメリカ、日本、韓国の3か国の力を束ねて、中国にあたろうとしている。
この戦略をオフェンシブ・リアリズム(攻撃的現実主義)では「外的バランシング」という。
さらにアメリカは、日本が提唱した「自由で開かれたインド太平洋構想」に同意し、オーストラリア、インドなどを加えて、その構想をすすめようとしている。
一貫して、アメリカは「外的バランシング」戦略によってアジアに関与しようとしているといえる。


中国

中国は、アメリカとの覇権争いの渦中にある。当初、トランプ政権との貿易摩擦を、単に貿易問題に限定したものと捉えていたようなふしがあるが、今は、覇権をかけたアメリカとの戦いの一環と認識したようにみえる。
中国にとっては、日米同盟、米韓同盟という2つの同盟関係が強固となり、アメリカ、日本、韓国の3か国が共同歩調をとればとるほど、覇権争いという観点では不利な立場となる。
したがって、今回の徴用工問題に対する判決に端を発した日韓関係の悪化と、韓国によるGSOMIA廃棄によってもたらされた米韓同盟の弱体化は、中国にとっては福音だ。

とはいえ、日本の安倍首相とアメリカのトランプ大統領の関係は極めて良好であり、日米同盟に揺るぎはみえない。
中国はかつて韓国の朴槿恵政権と協同して日本を非難し圧力をかけたことがあるが、この状況下(米中の対立激化および日米同盟が盤石な状態)でそれと同じように韓国の文在寅政権と協同して日本へ圧力をかけると、さすがに日本も態度を硬化し、アメリカと協同して中国との対立を激化させることになると思われる。それはいらぬ敵を増やすだけで、中国に実利がない。
したがって中国は、日本とは友好的な関係を作り、アメリカと中国との対立からは距離をとらせる方が賢明と考えるだろう。

一方、中国にとって、韓国の文在寅政権の一連の行動で日韓関係を損ね、米韓同盟も弱体化させつつある状況は、とても好ましい状況といえる。この状況下で、中国が韓国に対してとるであろう戦略といえば、オフェンシブ・リアリズム(攻撃的現実主義)に基づき考えると、「ベイト・アンド・ブリード(誘導出血)」戦略と「ブラックメール(脅迫)」戦略との併用ではないかと思う。

「ベイト・アンド・ブリード(誘導出血)」戦略とは、2国間の争いを誘導する戦略だ。今回の場合にあてはめると、中国は日韓の軋轢がより大きくなる方向へ誘導する行動をとると考えられる。例えば、中国の言動というのは日本にも韓国にも一定の影響を与えるので、中国が今回の日韓の軋轢について(あとでどうとでも釈明ができるあいまいさを残しつつ)日本の立場に理解を示したとする。韓国の文在寅政権はどう反応するだろうか。自らの正義を示すため、新たな手段にでてくることはありうると思う。そして日韓の軋轢は、次の段階へエスカレーションするかもしれない。
もっとも、この戦略は、かなり難易度が高いという点は指摘しておきたい。中国がどう動くのか私は注視している。

ブラックメール(脅迫)」戦略とは、文字通り「脅す」こと、すなわち強い圧力をかける戦略だ。今回の場合にあてはめると、韓国がアメリカの信頼を失って孤立したときこの戦略の効果は大きくなる。そのとき、例えば、過去、中国は、THAAD配備問題をめぐって韓国製品不買運動、中国人の韓国旅行の販売停止などを行ったが、そういった圧力をかけていくだろう。あるいは、より直接的な軍事的な圧力をかけるかもしれない。

韓国の文在寅政権のGSOMIA廃棄は、アメリカの怒りと不信をかっただけでなく、そのこと自体が中国からの「ベイト・アンド・ブリード(誘導出血)」と「ブラックメール(脅迫)」を韓国へ引き寄せる原因となる。
日本と韓国に対しては、「遠交近攻」が中国の基本戦略になると思う。


ロシア

ロシアも、中国と同様に、米韓同盟の弱体化は、歓迎すべき事態といえる。
ただし、ロシアの関心は、どうしても対EU中心にならざるをえず、東アジアにおいて中心的役割を演じる意欲には欠けるだろう。
したがって、時に中国と協同したり、あるいは他国と歩調をあわせるなど、ロシア単独ではない方法で、自国の国益を得ようとすると思う。
www.bbc.com


北朝鮮

北朝鮮の戦略も明確だ。中国とは「血の盟約」があるとはいわれているが、中国に従属することは拒否しつつ、金一族による支配体制を維持するために行っているのは、核兵器開発など徹底した軍国化である。
北朝鮮の戦略は、オフェンシブ・リアリズム(攻撃的現実主義)の用語を使えば、徹底した「内的バランシング」と言えると思う。
韓国の文在寅政権は、しきりに経済援助を北朝鮮にもちかけているが、北朝鮮文在寅政権を信じていないようだ。それもそのはずと思う。もし文在寅氏のいう「ワンコリア」となった場合、金一族による支配体制維持はより難しくなる。それは北朝鮮の戦略目標と根本的に相いれない。

その現状を鑑みつつ、過去、核兵器を開発できた国で、核兵器を破棄した国は1か国しかないということを思い出すべきだ*4
北朝鮮は、核兵器を破棄しないだろう。核兵器の破棄は、北朝鮮朝鮮戦争以来貫いてきた「内的バランシング」戦略を決定的に毀損する。それこそ、金一族の終わりにつながる。そんな選択を北朝鮮がとるはずがない。
北朝鮮は、核兵器保有したままで、アメリカと折り合える水準を探っている。

アメリカは、ICBMのようにアメリカ本土を狙えるミサイルや、IRBMのようにグアムを狙えるミサイルの実験には強く反発する。その一方、アメリカは、韓国を射程にする短距離ミサイルには反応しないことがわかってきた。北朝鮮にしてみれば、アメリカとの折り合いがつく可能性がみえているのに、孤立している韓国の文在寅政権と組む必要はない。
北朝鮮の外交の特色は、他国がどうであろうと「我が道を行く」であり続けたことを覚えておきたい。


まとめ

北朝鮮との統一に関する予想
  • 韓国は北朝鮮との統一を外交の中心においている。
  • 北朝鮮核兵器を取り込み軍事力も経済力も強い「ワンコリア」を目指しているふしがある。
  • しかしそのような強い「ワンコリア」は、周辺国のどの国も望まない。
  • 韓国との統一は、北朝鮮も望んでいない。
  • よって文在寅政権の統一構想は実現しない可能性が高い。
アメリカと中国の覇権争いに関する予想
  • 今後、アメリカと中国との覇権争いはますます激化する。
  • 文在寅政権の北朝鮮との統一に全てをかけた一連の外交により米韓同盟は弱体化しつつある。
  • 今後、中国、ロシアは、米韓同盟の弱体化につけいるよう動く。
  • アメリカと中国との覇権争いがさらに激化し、アメリカと中国との軍事的な緊張が高まると、米韓同盟は瓦解する可能性が高い。



日本がとるべきこと、やってはいけないこと

中国の圧力は韓国へ向かう

アメリカと中国が比較的良好な関係を維持している場合、例えばオバマ政権時代では、朴槿恵政権は中国と協同したいわゆる告げ口外交で日本を非難しつつ、中国の覇権を目指す圧力を日本へ「バック・パッシング」できた。
しかし、トランプ政権にかわり、アメリカと中国が覇権争いが激化した現在、文在寅政権は、朴槿恵政権以上に日本を非難する外交を展開しているが、その結果、中国の圧力は日本には向かわず、韓国へその圧力を誘引することになろう。そして韓国は孤立していく。
この差が生じた原因の第一は、アメリカと中国との覇権争いが始まったことであるが、覇権争いが激化すると韓国に圧力が加わるのは、次項にあげる3つの弱点が韓国に存在するためと指摘しておきたい。
「ベイト・アンド・ブリード(誘導出血)」戦略も「ブラックメール(脅迫)」戦略も、弱点を抱える国に効果を発揮しやすい戦略だからだ。

韓国の弱点
  • 外交問題の根本の考え方で国内の対立が大きい。

国内問題について、様々な意見があり、その意見対立が大きいという国はままあると思う。しかし、外交問題について、どの国と同盟し協力していくかという根本でその考え方に大きな相違があり、その考えを持つ政治勢力の力が拮抗し、対立が激しいのは、韓国の弱点の一つと思う。同盟すべきは、アメリカなのか、中国なのか。北朝鮮は敵国なのか、仲間なのか。そういった根本的な意見相違は、他国からつけいられる「隙」を生じさせる。

  • 安全保障体制の構築には時間がかかる。だがその時間的余裕を韓国は有していない。

どんな同盟もその同盟を機能させるには、その同盟国同士の信頼関係が必要だ。そして信頼関係は、そんなに短い年数では醸成できない。
統一(合併)はさらに難易度が上がる。
同盟とは、安全保障などお互いに協力できる分野を絞りつつ協力を約し、関係を作っていけるが、統一(合併)は経済や生活のすべてに影響する。それは安全保障の分野にとどまらないし(逆に安全保障問題が小さくみえるほど)大きな問題を生じさせる。その解決には、もっと長い時間が必要になる。
しかし、韓国の文在寅政権は、世紀に1度しかないような新たなパワー(中国)の勃興と既存パワー(アメリカ)との覇権争いという激動の時代が始まったその時に、地理的にその真っただ中で安全保障体制の大変換を行おうと考えている。当然時間が足りない。その時間の足りなさは、必ず他国から付け入られる「隙」を生じさせる。

  • 権力者とその家族に権力と富が集中している。

他国がつけいろうとするならば、私腹をこやそうとする権力者を協力者にし、意のままに操ることができるようにできれば最高だ。
権力者とその家族に権力と富が集中した状況は、その権力者にとりいろうとする他国にとって格好の「標的」になる。

日本がやってはいけないこと

端的に言えば、前述した韓国と同じような弱点を持ってはいけないということ。

  • 例えば、非武装中立という非現実的な主張や、日米同盟を破棄すべきというようなその後の安全保障体制の構築に時間が必要な主張を持つ政党、議員を多数派にしてはいけない。それらは、こういう激動期ではなく時間があるときにのみ許される議論だ。
  • 例えば、外交問題を国内の政局のために利用する、外交政策の建設的な議論ではなく大臣の辞任を求め政権の弱体化を狙うような政治家の言動を許すべきではない。外交方針の根本的な不一致は外国の利するところとなる。こういう激動期には、政府の方針に協力しつつ、その政策について建設的な議論を行うべきものだ。
  • 例えば、たとえ国内に居住していようとも、外国人、外国の機関や企業の政治的な献金、あるいは収賄を許してはいけない。権力者の金に対する汚さは、外国がつけいる格好のターゲットであり、亡国の第一歩といえる。これは激動期か否かにかかわらず、許してはいけないことだ。

ただ、幸いに、日本の政治や言論の状況は、上記を許そうとはしていない。その点は安心しているし、それは維持しなくてはならない。

日本がとるべきこと
  • 日本の力を過信しない。

どんな国もそうだが、国の力は限定的だ。他国を意のままに動かすことなどできないと知っておかねばならない。
日本も同じで、日本には韓国を動かす力はない。日本がどんな行動をとろうとも、韓国の意図に反することを韓国に強いることはできない。
特に、文在寅政権は、自らの正義を信じ、他国との妥協を許さない性質を持っているので、文在寅政権が要求してくる内容をあきらめさせる、あるいは妥協させることはできないと割り切らねばならない。
文在寅氏は正直な人とは思う。だから彼の発言の奥に、なにか違うメッセージを持っているというような幻想は持つべきではない。文在寅氏の言は、そのままその通り受け取るべきだ。

  • レッドラインは絶対に守る。

日本が韓国に従属するような妥協をしてはいけない。文在寅氏の要求が日本には受け入れがたいものであれば、平行線を保つしかない。

  • 関係国の動向を予測しその予測をもとによりよい日本の選択を見つける。

これにつきると思う。
残念ながら、韓国が、アメリカ、日本、韓国という3か国の協力体制の枠組みの中にいつまでもいるということは、期待できない。
私は、その韓国の選択が、よい悪い、あるいは正しい正しくないと評価することはできない。韓国は、韓国の考えと事情によって、日本とは異なる選択をするのが当然だ。

韓国が長らく同じ陣営で協力してくれたことに感謝しつつ、
韓国に「さようなら」を言う日に備えよう。



*1:はてなブックマークコメント」のこと。略して「ブコメ」とよばれている。ネットスラングの一つ。

*2:でも星は一つももらえなかった。それは残念に思っている。

*3:リンク切れになっていたので、リンク先をアーカイブのものに変更した。2019/11/7

*4:当初「核兵器を破棄した国はないということを思い出すべきだ」と記述していましたが、南アフリカに1例のみ存在するという指摘を受け、修正しました。指摘いただいたcider_kondoさん、ありがとうございました。

いわゆる「フェミ」と「オタク」と「キズナアイ論争」

キモオタは近づくな問題

わあい! 心醜いの? あたしも嫌いなの多いよー。えへへ。そういう人達って、あたし見ると汚れるって言うのね? たくさんたくさん殴ってー、家畜が人間様の言葉喋んなー! とか叫ぶの。おっカシーの! あたし家畜だけど、人間の言葉喋れるのわかんないのよー?
byミミズク 「ミミズクと夜の王紅玉いづき:著

 
私は、普段、政治、外交、軍事関係のニュースを追っていて、フェミニズムも萌え絵界隈も知識が少ないのだが、いわゆる「フェミ」*1フェミニストと書いていない点は留意してほしい)とオタクな人との「キズナアイ論争」を、「なんだかな~」という目でみていた。いつものように門外漢のことと打ち捨てておけばよかったのだが、作家の水戸泉さんのツィートを追っている時に、下記のリツイートを見つけて、そういえば私も20代のころ「気持ち悪い~、生理的にダメ」みたいなことを言われたなと思い出した。私の場合は、萌えオタではなく(萌えという言葉すらなかった時代だった)、パソコンオタだったのだが、青白い顔をした痩せこけた男が、何かわからないものに夢中になっていると、そういう言葉をもらったりする。


そんなわけで、門外漢ではあるものの、キズナアイ論争について、私見を書いてみたいと思った。
この投稿は、オタクな人、特に私と同じ男性に向けて書いている。いわゆる「フェミ」に対して批判的である。そして、フェミニズムフェミニストと思う考えや人に対しては、批判していないし、ほとんど記述していない。

2つの人権の衝突と功利主義

戦いには理由が要る。だがそれは、理想であってはならない。理想のために戦うのなら、救えるのは理想だけだ。そこに、人を助ける道はない。
byアーチャー "Fate/stay night Unlimited Blade Works"奈須きのこ/TYPE-MOON:原作

 
本質はどうもそうでなさそうなのだが、今回の「キズナアイ論争」を表面的に見れば、「女性(個人)の尊厳」と「表現の自由」という2つの人権の衝突のようにみえる*2
2つの人権が衝突することはわりとありふれたことと思うが、このような場合、私は
功利主義ユーティリタリアニズム)」
的な考え方をする。もっとも私は哲学や倫理学を専門としてはないので、私のような考え方を本当に功利主義と呼ぶのかは自信がない。ただ哲学科卒業の友人に私の考え方を説明していたら「個人主義的な(修正がはいった)功利主義のようだ」と指摘されたので、以来説明の時はそれをそのまま使っている*3
わざわざ「ユーティリタリアニズム」と英語*4を併記したのは、日本語の語呂が似ているからか、「利己主義(エゴイズム)」と混同する人がいて、自分勝手な考えだと批判する人もいるので、英語だと全く異なる言葉なのがわかるのでは?と思ったからだ。功利主義は全体の幸福を重視する考えであって、自分さえよければよいという利己主義*5とは全く異なる。
功利主義についての説明は、次の文章を読んでほしい。
philosophy-zoo.com
(注)上記の説明の中にある、サンデルが話した「トロリー問題」は功利主義批判としてよく使われるレトリックなのだが、私は「犠牲は5人か1人かという究極の選択をしないですむ」すなわち「そんなトロリーには初めから乗らないし動かさない」なのが功利主義的には一番よいと思っている。前提無視なんだがどんな考え方も適用するにあたって、適不適はあるということ。功利主義も同じで、適用に適したケースにのみ適用すればよいと思う*6功利主義を適用するとよい結果を生まないのであれば、功利主義自体を適用しないのも、帰結主義、幸福主義、最大多数の最大幸福、公平性に徹するという観点では、逆説的に功利主義的なのではないかと思っていたりする。 

キズナアイ問題」と類似の事例に対する私の見解

猿を処分しなければならないだと? それが農業従事者の宿命だと? 違うな! 農業の世界は貴様が考える以上に広大無辺だ! 私のように動物を扱ったり、林業工学科のように森を管理することも農業の一分野だ! そして全ての知識と情熱を結集すれば……わ、私と貴様が力を合わせれば……ただ『害獣』として狩るだけでなく、人間と動物が共存する方法を探ることもできるのではないのか!? だ、だから……そんな悲しいことを言うな! バカッ!!
by良田胡蝶 「のうりん白鳥士郎:著

 
今回の「キズナアイ問題」と類似の事例として、架空の事例と、「碧志摩メグ」公認撤回の事例、アニメ「のうりん」とコラボしたスタンプラリー企画のポスターをJR美濃太田駅から撤去した事例と比較しながら、私がどう考えたか、説明してみたい。
 

(1)架空の事例:キズナアイの衣装を強要された事例

架空の事例だが、「キズナアイ」役として、同世代の少女(少年)にキズナアイの衣装を強要して着せ、同意をとらず無理やり撮影して今回と同じようなサイトを作った場合を考えてみたい*7
この場合、実際に存在する少女(少年)に対する強要は、刑法の強要罪を構成する可能性もあり、許せるものではない。不法な手段で作られたものは、表現の自由で守られるべきものではない。すなわち、次のような関係になる。
ちなみに実在の少女(少年)の児童ポルノも同じ整理になる。

モデルの実在の少女(少年)が受ける不法行為の苦痛、不利益 > 表現の自由

 

(2)「碧志摩メグ」公認撤回の事例

これは、『三重県志摩市が観光PRのために公認した海女のキャラクター「碧志摩(あおしま)メグ」が「性的な部分を過剰に強調していて不快だ」として、現役の海女さんを含む市民が公認撤回を要望していた』問題だ。
(1)の事例とは異なり、直接、現役の海女さんが掲出されるわけではないが、公認によって「志摩の海女さんがモデル」と公式に関連性が認知され、その結果、現役の海女さんが「性的な部分を過剰に強調した」絵のモデル(の一人)と目される状況の苦痛、不利益は確かに認められると思う。一方、公認撤回を行っても、表現そのものが禁止されるわけでなく、市の支援を失うなどのマーケティング上の不利益に限定されるため、守るべきはモデルとなった現役の海女さんの苦痛、不利益をなくすことだろうと思う。すなわち、次のような関係になる。なお、署名が多数集まったことは、参考にはするが、全体の利益、不利益の算定に大きな影響があるとは私は考えない。

絵のモデルになった実在の海女さんの受ける苦痛 > マーケティング上の不利益

www.sankei.com
 

(3)「のうりん」のポスターを美濃太田駅から撤去した事例

これは、『アニメ「のうりん」とコラボしたスタンプラリー企画のポスターについて、ネット上で「セクハラ」「不愉快」などの指摘を受け、JR美濃太田駅から撤去した』問題だ。
この事例の場合、(2)の事例とは異なり、絵の実在のモデルは存在せず、絵のモデルとなったことによる実在の女性の苦痛、不利益は存在しない。
苦痛、不利益があるのは、実際にこのポスターを見て不快な思いをした人、すなわち美濃太田駅の利用客の一部ということになる。
ポスター撤去による不利益は、この事例では、他の場所、例えば協力した各ショップの掲出は問題とされず、そのままポスターを利用できたことから、表現の自由の規制ではなく、(2)の事例と同じく、マーケティング上の不利益にとどまる。
ところが、この事例を普遍化し「萌え絵は公共の場に掲示すべきでない」と整理すると、東京の、特に秋葉原のような駅で、萌え絵のポスターに遭遇することは今や日常的*8であり、それらはほとんど問題になっていないことと矛盾してしまう。
なぜ「のうりん」のポスターがだめで、東京の萌え絵ポスターは大丈夫なのだろうか? 私にはいまだに合理的な説明ができないが、問題になった「のうりん」のポスターは胸を非常に大きく描写したキャラクター(良田胡蝶)だったので、誇張した性的描写*9の問題、すなわち程度の問題ととりあえず整理して、次のような関係としてみる。

公共の場所誇張した性的描写を見させられる苦痛 > マーケティング上の不利益

www.itmedia.co.jp
 

(4)今回の「キズナアイ論争」の事例

今回の「キズナアイ論争」は、太田啓子さんの次のツィートから始まった。


キズナアイ論争」の論点は、2点あると言われているが、最初に提起されて論争が大きくなったのは「性的な描写問題」だったのは明確だと思う。もう1つの論点とされる「ジェンダーロール問題」は、途中で追加された論点だ*10。したがって、この投稿では主に「性的な描写問題」を扱う。
さて、この「キズナアイ論争」の事例と(3)の「のうりん」ポスターの事例は、性的とされた絵を掲出した場所が大きく異なる。
のうりん」ポスターは、鉄道駅という公共空間の中に掲示され、その駅で乗降する人には否応なく目に入る状況下にあった。
一方、「キズナアイ」の場合、それはインターネットのサイトの中にあった。そして問題となったNHKのサイトだが次のような構造になっている。
f:id:the_sun_also_rises:20181109144616j:plain
キズナアイノーベル賞まるわかり授業
太田啓子さんの最初のツィートで批判された「キズナアイ」のウェストアップの絵は、「まるわかりノーベル賞2018」という入口ページにある「キズナアイ」のバストアップの絵のバナーを踏んでからでしか到達しない場所にある*11
もし、キズナアイの絵に不快感を持つ人がそれと知らずにやってきたのなら、入口ページのバナーの時点で回避したと思われる。このサイトはそういう作りになっている。バナーを批判した事例はほとんどなかったので、この作りは、批判を受けた「キズナアイ」のウェストアップの絵に対し、適切にゾーニングできている構造と考えられる*12
 
太田啓子さんは何をNHKに要求したいのか明言していないのだが、上記のツィートの直後に、「NHKへの意見を届けるメールフォームはこちらです」と「NHKおよび放送番組についてのご意見・お問い合わせ」のページのリンクを示すツィートを行った。リンク先のページからは、NHKに直接メールができるし、NHKの電話番号もわかる。
この一連のツィートで、太田啓子さんは、NHKへの抗議、批判を多数集め、サイトもしくは「キズナアイ」の絵の削除、修正を狙ったものとネットでは受け止められた。そして批判を招いた*13
 
抗議を多数集めた結果、もしNHKがこのサイトを閉じるなり、画像を入れ替えるなりしていたらどうなっていただろうか?
この絵を性的だと批判している人は相当数いるが、それでも女性全員の総意ではなく、一部の意見にすぎない。その一部の意見で、表現を変えることができる。それは正に活動家の目指すところかもしれないが、表現者にとってはとても窮屈な状況と指摘せざるをえない。幸いにして、NHKはサイトを閉じたり、修正したりはしなかった*14。よかったと思う。
以上から、私は今回の「キズナアイ論争」については、次のような関係と整理した。

見ることを回避可能インターネットの性的な絵を見ることの苦痛 < 表現の自由

 

キズナアイ論争」は、キズナアイのような萌え絵を性的だと嫌う人と、それを擁護する人の間で、ギスギスとした応酬が行われた。でもそれしかなかったのだろうか? 
引用した「のうりん」の良田胡蝶ではないが、知識と情熱を結集して共存する方法はなかったのだろうか?
 

インターネット上の有害情報対策

情緒を重んじる日本人の象徴ともいえる私たち「ヲタク」という人種がエロ本の一つも所持してないなんておかしいでしょ!
by小柳花子 「ヲタクに恋は難しい」ふじた:著

 
日本だけでなく、外国(特に欧米)でも、インターネット上の有害情報については、規制を含め、さまざまな対策を行っている。これらの規制や対策は各国とも「青少年保護」の文脈で検討されているが、「フェミニズム」の観点で対策を考えても、これらの規制や対策の延長上になると考える*15。少々古い情報だが、平成25年度に内閣府は、アメリカ、イギリス、ドイツの有害情報の対策を調査し報告書にしているので見てほしい。

第1章 8.通信・インターネット|平成25年度諸外国における有害環境への法規制及び非行防止対策等に関する実態調査研究報告書(HTML版) - 内閣府

各国とも、インターネット上の性的なコンテンツについては、「成人向けポルノ」と「児童ポルノ」対策が主体となっている。
「成人向けポルノ」は未成年者のアクセスを制限し、「児童ポルノ」は撲滅を目指していると考えられる。
日本では、マンガなど二次元著作物は、「児童ポルノ」とはされないが、欧米ではマンガなどでも内容によっては「児童ポルノ」とされる。「キズナアイ」は「成人向けポルノ」でも「児童ポルノ」でもないのは自明だが、二次元著作物(いわゆるマンガなど)で、どの水準であれば「児童ポルノ」となり、どの水準であればならないのか実例は知っておいた方がよいと思う。

スウェーデン最高裁における非実在児童ポルノ所持無罪判決
報告者:国立国会図書館 海外立法情報課 井樋三枝子

上記は、スウェーデンのケースだが、日本のマンガを所持していた男性が「児童ポルノ所持」の疑いで逮捕され、スウェーデン最高裁で無罪判決となった事件について書かれたもの(報告書)だ。
ここで私が注目するのは、判決解説の次の個所である。

  • 問題の図画は、ポルノ的であり、想像上の人物とはいえ、描かれているのは人間で、思春期の成長が完了していない「児童」である。
  • 実在の者のようなイラストの場合であれば、児童ポルノ罪に該当する。
  • 実在の者に見えず、かつ、実在しない想像上の児童を描いた38点のイラストを児童ポルノ図画として処罰の対象とすべきか否は、刑法典からは明確とはならない
  • 児童ポルノを犯罪とする目的は、立法過程の議論から判断できるように、背後に隠された虐待の可能性からの児童の保護、児童を性的な行為に勧誘するために用いられる可能性の排除及び児童一般の尊厳の保護である。
  • 想像上の、非実在の児童を描写したマンガイラストが侵害しうる法益は、その他の児童ポルノよりも、程度が低く、表現の自由及び情報の自由の制限が認められるほどではないため、想像上の児童を描写したマンガイラストの所持は、児童ポルノ罪として処罰できない

実在の者の守るという「児童ポルノ」規制の立法の趣旨からみて妥当な判決と思う。
表現の自由について、民主的社会の基礎であり、その自由を制限する場合には、制限的に解釈されねばならず、制限の必要性は、合理的な方法により説明されねばならないとした点は重要だ*16
さて、実際にどのような画像を所持していたのかだが、ネットでは「ラブひな」というマンガが入っていたと話題になっていた。「ラブひな」は実在の者と見えず違法とされなかった38点の画像の1つだ。「ラブひな」については、作者が無料公開に踏み切ったので、著作権の問題なくその内容を見ることができる。以下をクリックすると、第1巻の冒頭にある「エロティック」なページを見ることができる。ポルノ表現により厳しいとされる欧州(スウェーデン)で、これらを「児童ポルノ」でないと断定し、表現の自由を制限すべきではないとした判決は、参考にすべきだろうと思う。
(性的表現に嫌悪感のある人は開かないでください)
vw.mangaz.com
ここまで長々と書いたが、日本の法律上も、他国(スウェーデン)の事例を見ても、明らかに「成年向けポルノ」でもなく「児童ポルノ」でもない「キズナアイ」について、例えそれが少々性的な表現だったとしても、その表現を規制する、すなわち表現の自由を制限すべきとは、私には到底思えない。
 

フィルタリング

どうしてか、わかるか、客人。一途に憎むことは、楽なのだ。杜の国は良い国かもしれない。良いところがあるのかもしれないと考えたり、そのすぐそばから戦の記憶が甦り、やはり憎い国なのだと思い悩むよりは、敵と決めつけ、憎しみをぶつける方が楽なのだよ
by国王 「シンデレラ迷宮」氷室冴子:著

 
一般的に言って、どんな表現も好き嫌いがある。「キズナアイが不快だ」、そう感じる人がいるのは自然なことと思う。しかし、だからといってインターネットのサイトで「キズナアイ」を使うべきでないと規制するのは、「表現の自由」を制約することにあたり、行き過ぎていると思う*17。逆に言えば、「私が見たくないものを世の中からなくしたい」というのは行き過ぎでも、「私が見たくないものを私は見ずにすませたい」と考えるのは当然と思う。
そこで、表現の自由を侵さずに見ずにすむ、こういった住み分けができないか? こういう場合、フィルタリングの活用を検討すべきだろう。
以下に示すのは、子供のインターネット利用の調査だが、ここから読み取れるのは、日本でフィルタリングの普及が進んでいない現実である。

第2節 子供のインターネット接続機器の利用状況|平成29年度青少年のインターネット利用環境実態調査(HTML版) - 内閣府

普及が進まない理由はいろいろ考えられるが、無料で提供されている携帯電話・スマートフォンでフィルタリングの利用率が相対的に高く、その他の接続で相対的に低いことを考えると、フィルタリングが有料だと普及が進まないという状況もあるようにみえる。
また、フィルタリングは、「青少年保護」の観点で作られていて、「フェミニズム」という観点では作られていない*18。この「キズナアイ」論争が、フィルタリングに欠けている「フェミニズム」の観点を持って作るように主張していたとすれば、全く異なる展開になっていたように思える。
フィルタリングの無償化の促進と、「フェミニズム」の観点の導入を訴えることは、表現の自由と抵触するものではない。
キズナアイ」論争が、フィルタリングの普及と不備の改善を求めることが目的だったら、「功利主義」的に考えれば、「最大多数の最大幸福」に帰着するという観点で、一番よい議論だったろうにと思う。
今回の「キズナアイ」論争で「キズナアイ」が性的であるがゆえに不快だと主張している人には、それはフィルタリングでは改善できないのか?と問えばいいのではと思う。
でもそれではダメだと主張する人もいるのだろう。
それはなぜだろうか? 
そこに表面上は「女性(個人)の尊厳」と「表現の自由」という2つの人権の衝突に見える「キズナアイ論争」の、奥の姿、もう一つの姿があるように思える。
 

フェミニストはオタクの敵か? オタクの真の敵は何か?

私以外の他人が付けた評価なぞいらん。私は私の目で人を判断する。
byオリヴィエ・ミラ・アームストロング 「鋼の錬金術師荒川弘:著

 
フェミニストはオタクの敵か?」 この問いに答える前に必要なのは、「フェミニズム」って何か?という理解だろう。
正直、私にはそれがよくわからない。フェミニストと呼ばれる人の主張はさまざまである。そしてその主張がフェミニスト同士で真っ向から対立することもある。
男性は女性の敵なのか、それとも共に協力すべき相手なのか?
そもそも男女平等とはなにか?
こんな根本的なところで意見の分かれがあり多様性のある考えを、フェミニストでない私が、そして男性である私が、これが「フェミニズム」だと分かったふりをするのは論外と思う。「無知の自覚」は必要だ*19

さて、「キズナアイ」の話に戻ろう。
私の観測した範囲では、今回の「キズナアイ論争」で、「キズナアイ」に批判的な立場をとっていた人が「フェミニスト」の全部あるいは大部分とは到底思えなかった。それどころか「私はフェミニストではない」と言っている女性の中にも「キズナアイ」に批判的な人がいた。そして男性の中にも「キズナアイ」に批判的な人がいる*20。逆に、「フェミニスト」を名乗る人の中にも「キズナアイ」を擁護する人がいた。
少なくとも、「フェミニストキズナアイに批判的だ」あるいは「キズナアイに批判的なのはフェミニストだ」という考えは、明らかに過ちであることがわかる*21

話は「キズナアイ」からずれるが、私は、普段、国際関係、外交、安全保障などのニュースを中心に追っている。そして、私は、国益を中心に考える「攻撃的現実主義」に基づいて考えるので、どうしても中国、ロシア、韓国、北朝鮮などに批判的なことが多い。
一方、この界隈には、在特会など排外主義的な言動をとる人がそれなりに多数いる*22。彼らの根底にあるのは、「偏見、嫌悪、害意」と思う。彼らはデモやネットなどでそれをまき散らす。それを向けられた人が怒りを持つのも当然だ。

さて、「偏見、嫌悪、害意」を持つのは、いわゆる「嫌韓、嫌中」とよばれる界隈の人しかない特殊な現象なのだろうか?
そうではないと私は考える。さらに誤解を恐れずに言えば「怒りが正当であればあるほど、その怒りは、偏見、嫌悪、害意を持つ人を引き付けるのではないか?」と私は仮説をたてている*23。その一例として、ヘイトスピーチに対する対抗団体として作られた「しばき隊」が、些細なことでろくでなし子さんに粘着しはじめた事例を紹介しておきたい。ろくでなし子さんに向けられたのも「偏見、嫌悪、害意」であったように思う。
ironna.jp

今回の「キズナアイ論争」では、拝読すべき意見もいくつかあったが、Twitter他での応酬は、ろくでもないものも多かった。中には、脅迫や侮辱などの犯罪なのでは?と思うものもあった。オタクな人が、オタクな人や「キズナアイ」やほかの萌え絵に向けられる偏見等に怒りを持つのはよくわかる。しかし、その怒りをいいことに「クソフェミ」とか、自身の嫌悪等を投げ返す行動は、どうみても擁護できない。

私は、オタクの敵はフェミニストではなく、オタクや萌え絵などに対する「偏見、嫌悪、害意」という誤った考えと思う*24。その誤った考え方を持つ人の中には、フェミニストを自称する人もいるし、フェミニストでないと自称する人もいる。女性もいるし、男性もいる。そして忘れてはいけないのは、オタクや萌え絵に向けられるそれと同様に、相手にぶつけかえす「偏見、嫌悪、害意」も、全く同じといえる。それらは両方とも敵だ。
 

批判するときに守るべきこと

これはわたしの持論なのだけど、じつは女はみんな本当にバカである。あまりにもバカすぎる。X遺伝子はバカの遺伝子だ。
by皐月 「赤Xピンク」桜庭一樹:著

 
私は、中国、ロシア、韓国、北朝鮮などに批判的なことが多いと書いた。このうち、特に韓国に対する批判は、炎上しやすい題材でもある。
普段から、差別ではない正当な批判をと心がけてはいるが、10年ほど続けている*25と、何度か思慮、配慮が足りなかったと反省することがあった。
そういった反省を踏まえ、何かを批判するとき、心がけるべき項目をあげておきたい。それは萌え絵を規制すべきという主張に対して批判するときにも役立つと思う。

(1)発言の一部分を恣意的に切り取らず文脈で理解する

引用した皐月の「女はバカだ」という言葉は、刺激的な言葉だ。でも、優れた作家というのは、他に解釈の余地はないと思える言葉に、後で分かる別の深い意味をかぶせてくる。それは伏線というべきかもしれない。
優れたディベーターも、そういった伏線めいたものを仕掛けてくることがある。相手が主張することを、恣意的に切り取らず文脈全体で理解すべきだ。そうしないと思わぬ反論に遭遇することがある*26
小説を一部しか読まずに批評してはいけないように、相手の主張を全部理解する前に反論してはいけない*27

(2)批判の対象を正確に記述する

これも韓国ネタだが、先日韓国の最高裁は「元徴用工への賠償訴訟」で日本の新日鉄住金に賠償を命じる判決を出した。日本側は日韓基本条約などの日韓関係の法的基盤を損なうものと強く反発している。これを受けて『日韓関係の法的基盤を損なう判決だ。「韓国」はおかしい』*28と批判することは、差別やヘイトスピーチとして咎められるものではないと思われる*29
ところがこれを『日韓関係の法的基盤を損なう判決だ。「韓国人」はおかしい』と言った瞬間に、そこに「偏見、嫌悪、害意」が混じってくる。今回の判決に対する韓国人の反応は様々で意見の多様性が存在する*30
「一部の問題を、あたかも全体の問題とすり替えて批判する」
これは、とてもありふれた「偏見、嫌悪、害意」の表れだ。

(3)合理的な批判理由を明記する

批判理由を書かない、あるいは無理やりな理屈で批判する。こんな批判は強い逆批判にあうだろう。何かを信じ込むあまり、それを信じる界隈でしか通用しない理由で批判しても賛意は広がらない。
だから合理的な批判理由を明記する必要があるのだが、それを見つける作業は、私の場合、割と単純な作業になっている。
敵は「偏見、嫌悪、害意」と書いた。だから、批判対象の主張の中にある「偏見、嫌悪、害意」を見つければいい。それが見つかれば、その指摘が合理的な批判理由になる*31
敵を『自分と違う主張を行う人』と考えるから、その人に対する個人攻撃をしてしまう。それは誤ったやり方だ。
敵を『「偏見、嫌悪、害意」という誤った考え』と考えるから、批判理由を探しやすいし、説得力ある合理的な理由を明記できる。
もし、批判対象の主張の中に、探しても「偏見、嫌悪、害意」が見つからなければ、(発見能力が不十分という可能性もあるが)それはそれで拝聴すべき意見であることが多い。

 

他にもいくつかあるのだが、今回はこの3つを提示するだけに留めておこうと思う。
 

目標

メディア作品が犯罪を助長するってんなら男は老いも若きも総性犯罪者予備軍よ、
AVにしろエロ本にしろ調教だの陵辱だの性犯罪願望のオンパレードじゃないの。メディア真似して犯罪が起こるってんならまず真っ先に女性に銃の携行許可が下りるべきだわ。
by柴崎麻子 「図書館戦争有川浩:著

 
今回の「キズナアイ論争」を追いながら、少々性的とはいえ、「キズナアイ」のような明らかにポルノではない絵の流通を制約しようとするこのネットの現状は、リアル「図書館戦争」一歩手前の状況にも思えた。そういえば「図書館戦争」の物語は2019年から始まるのだったね。すごく示唆的な感じがする。

なぜ「成人向けポルノ」の是非の議論をすっ飛ばして、今「キズナアイ」が問題になったのか?
知っている人も多いと思うのだけど、「成人向けポルノ」の是非論は、フェミニストの中でも賛否が分かれている。賛否が分かれているとはいえ、その議論は深く、ポルノを消費する側、すなわち男性としては、身につまされる思いはある。
でも、重ねて言うが、今回は「成人向けポルノ」をすっ飛ばして、「キズナアイ」が標的になった。なぜ? その疑問は全く晴れない。

2年前、「ヘイトスピーチ」を根絶する目的で作られた「ヘイトスピーチ対策法」の議論で、ひとかけらも守る価値のない「ヘイトスピーチ」ですら、表現の自由との間でどうバランスをとるのか大いに議論になったことを覚えておいてほしい。

表現の自由」に対する制約は、①制限的でなくてはならず、②合理的に説明できなければならない。この原則は、日本だけでなく欧米でも共通の原則だ。
性的な絵についても同様。だからこそ次の状況を守ることが、表現の自由を守ろうという人の目標となるだろう。そしてその時には「わいせつ物」「児童ポルノ」「成人向けポルノ」「それ以外の一般作品」は分けて考える必要がある。

  • わいせつ物の配布等は、犯罪であり許されない。
  • 児童ポルノは根絶する。但し、実在の者に見えず、かつ、実在しない想像上の児童を描いた絵は、児童ポルノではない*32。一方、成人していないと思われる絵柄で性的行為の描写を含む場合、特に欧米では忌避する意識が強いので、外国向けの自主規制は行っていくべきだろう。
  • 成人向けポルノ*33*34は、青少年保護の観点で適切にゾーニングする。成人向けポルノに対してフェミニズムの観点による表現の自由の制約を導入すべきか否かは今後の議論を待つが、もし仮に制約が必要となってもその制約の導入には立法を要する。
  • 児童ポルノでもなく成人向けポルノでもない「一般の表現物」については、表現の自由に対する制約は認められない*35。自主的、自発的なゾーニングを妨げるものではないが、ゾーニングの義務はなく強制されない。

キズナアイ」が上記のどれにあたるかは、自明と思う。
 

真の炎上

ま、まず殴らせなさい……! 後で話を聞いてあげるから……! とりあえず手を離して頂戴……!
by 佐々木桜子 「佐々木家は順調に病み続けます」じんたね:著

 
キズナアイ論争」を本当に炎上させたのは、前述の太田啓子さんのツィートではなく、千田有紀さんの次の投稿だった。
確かに太田啓子さんのツィートは批判を招いていた。しかし、ツィート数等の分析を見る限り、それはいつもその辺のネットで行われているほんの小さな論争にすぎなかったと言える。
そういう小さな火に油を注ぎ大炎上させたのが、次の投稿だ。
news.yahoo.co.jp
炎上の理由は、さまざま分析されているが、次のツィートが指摘する通り『恣意的な「炎上中」宣言が、本物の炎上を生み出した』という分析は説得力を持つと思う*36

炎上がはじまったところに、さらに千田有紀さんは次の投稿を行った。これは大炎上にさらに燃料を投下する形となった。ツィート数からみる炎上規模は更に数倍になったように思う。
news.yahoo.co.jp
千田有紀さんの2回目の投稿は「表現の自由」について書いていて、この投稿の主題そのものだ。そこで千田有紀さんの2回目の投稿で私が一番問題だと考えられる点を指摘したい。(下記の1~3全体で1つの指摘)
 

(1)「キズナアイ」を性的とする基準

ここで性的とする理由としてあげられているのは、「胸が強調されている」ということなのだが、これは、千田有紀さんの持つ基準であって、社会でオーソライズされた基準ではない。一方、千田有紀さんがこの投稿で語ろうとしているのは「表現の自由」だが、「表現の自由」とは「法理論」の一つであり、そこで用いられる基準は法律やレイティングなどの公的なルールに基づくものでなくてはならない。にもかかわらず、その2つを混用し、私的な基準をあたかも公的な基準のような前提で話をすすめるから、次の齟齬が生じる。

(2)アメリカのゾーニング

千田有紀さんの投稿には、次のように書かれている。しかし、この指摘のエビデンスは記載されていない。それって本当なのか?

アメリカなどでは、性の表現にはある意味おおらかであるが、子どもの目には触れないように厳しく「ゾーニング」されている。

ゾーニング」は「表現の自由」の制約であるので、それを強制するためには立法が必要なのは、アメリカも日本も同じ。そして、アメリカの場合、法律で規制がかかっているのは「わいせつ物」「児童ポルノ」だけだ。「成人向けポルノ」は規制そのものがない。アメリカは、憲法修正第一条の言論・出版における表現の自由がとても強く、政府による規制は困難だ*37
では、どこにでも「成人向けポルノ」があるのかというと全くそういうことはなく、さまざまな自主規制によって子どもの目に触れさせないようにしている。インターネットの場合、レイティングとフィルタリングの組合せで、子どもの目にふれさせないようになっている*38
さて、ようやく事前説明は終わったが、では今回のNHKの作った「キズナアイノーベル賞まるわかり授業2018*39」が、アメリカの基準でどのレイティングになるか確認するといいと思う。私は、ESRBレイティングならば「E(Everyone)(すべての年齢層向けコンテンツ)」しかありえないと考えている*40

(3)インターネット上の情報の分類(レイティング、ゾーニングなど) - 内閣府

(3)合成の誤謬の利用

千田有紀さんの性的な絵問題に対する論法は、次のようになっている。

  1. キズナアイ(法規制やレイティングなどの公的な基準ではないが、私の私的な基準では)性的だ。
  2. アメリカではキズナアイはポルノではないが、ポルノとされる)性的な絵はレイティングに基づくフィルタリング*41を行っている。
  3. キズナアイは、性的な絵が既存の社会規範、構造を再生産するという意味で問題だ。

( )内を補うと、全く合理的でないのがわかると思うが、なぜか( )内は伏せられている。この論法は「合成の誤謬」という詭弁の一つで、詭弁を使ってはダメだよねと思う*42。3は、全く証明されていない*43

そもそも、エビデンスも示さず「外国ではこうだから、日本もこうすべき」という主張はやめてくれと思う。外国の状況は、それなりに時間をかけて探さないと資料が見つからず、資料が見つからなければその主張が正しいのか間違っているのかチェックすらできない。せめてエビデンスの提示は行ってほしい。特に「アカデミズム」な人ならば。

加えて、再々の指摘になるが、「表現の自由」に対する制約は、①制限的でなくてはならず、②合理的に説明できなければならない。これは民主的社会では普遍的な原則だ。なぜ普遍的な原則かというと、これを守ることが「国家や団体・企業等の不当な検閲や介入」を防ぐ*44と考えられているからだ。
「私はその表現が嫌いで見たくないから、配慮してくれ」というのは、制限的でも、合理的な説明でもない。こんなことがルールになったら、多数を握った側は、「配慮の要請」の名の下にいかなる表現物も制限できてしまう。「感情に配慮」するということの帰結はそういうことだ。
表現の自由」に関する議論は大いに行えばよいと思うが、上記の原則を無視する主張は、あまりに「表現の自由」を軽く見過ぎている。

3番目に引用した「のうりん」の良田胡蝶に再登場してもらい(表現の自由を制限することなく)「共存する方法を探ることもできるのではないのか!?」ってもう一度問いたい。
「フィルタリング」ではなぜいけないのだろうか?
 

援軍は来るのか?

わが部隊は現在のところ負けているが、要は最後の瞬間に勝っていればよいのだ。
byヤン・ウェンリー准将 「銀河英雄伝説田中芳樹:著

 
千田有紀さんが最初の投稿をし、本当に炎上しはじめた後、ツィッター上で作家の水戸泉さんと千田有紀さんの議論が行われた。
下記にツィートのまとめを掲示するが、水戸泉さん本人も言っている通り、「論破したわけではない(しようとも思ってない)」点は留意してほしい。タイトルは煽り以外の何物でもない。
togetter.com

<a>
話は全然違うのだけど、このやり取りを読んだとき、個人的には水戸泉さんを懐かしいなと思った。私は「涼宮ハルヒの憂鬱」がヒットした時、初めてサブカルチャーに関心を持ち、それから数年間いろいろと調査したことがある。その時、女性向けマーケットを調べようと読んだ本の中に、水戸泉さんの本が2,3冊あったなと思い出した。確か、そのうちの1冊は「ヴァンパイア・プリンセス」だったように思う。ちょうどハルヒの2期が放映されていたころだった。
 
上記の<a>のくだり、唐突感があったと思う。私は正直下手くそなんだが、こういう手法は、感情に訴える手法*45といって、論点のすりかえに使われることがある。そういったトリビアを知って、上記の水戸泉さんと千田有紀さんの議論を読むと面白いかもしれない。
結局、2人のやりとりは、「キズナアイ」の話に行き着くのだけど、水戸泉さんは「表現の自由の制限の対象としてのキズナアイ」の話をしているのに対し、千田有紀さんは「キャラクターとしてのキズナアイに対する自分の評価」で応じ、「ジェンダーロール問題」に論点を変えた。全体として、議論はかみ合ってないという印象を持った。

表現の自由」が制限されそうになった時、必ず反対の声を上げるのは、表現者の人たちだ。東京都青少年健全育成条例改正の時も、表現者の人たちが多数反対の声を上げていた。今回の「キズナアイ論争」でも、何人もの表現者の人が、「キズナアイ」を擁護し、表現の自由の制限につながると、太田啓子さんや千田有紀さんの意見に反対を表明していた。
反対意見の的確さ、反対意見を社会へ訴える力などを考えると、援軍というよりこちらの方が本隊だと思う。

オタクな人たちは、この本隊の足を引っ張らないようにしないと。
もう一度書くけど、いくら自分たちに「偏見、嫌悪、害意」を向けられたとしても、それをそのまま投げ返すのは、単に足を引っ張るだけ。誹謗中傷は止めなければいけない。

とはいいつつ、不心得者はどこにでもいるから、そういう人がいなくならないのも事実。

マジメに東アジア情勢を批評したいなら、絶対に在特会など排外主義の人に賛同したり応援したりしてはいけないのと同様に、同好の士だから、あるいは立ち位置が類似しているからと、誹謗中傷を続ける人に賛同したり応援してはいけない。それは、自分自身を、他人を誹謗中傷する愚かな人にするだけだから。
そんなわけで、この項は、水戸泉さんの次のツィートを掲示して締めようと思う。


 

最大の武器

男性のオタクな人に理解してほしいと思うのは、「俺の嫁」の作者やイラストレーターが女性かもしれないし*46、編集者など出版社の中の人や、アニメーターなどアニメ会社の中の人、プロモーション会社の人、そして声優さんたちなど、多くの女性の協力があってはじめてあなたの「俺の嫁」がそこにあるんだということ。
そしてもう少し広く見ると、女性主体のジャンルがあって、そこは、きっと多く女性のファン(オタク)がその市場を支えている。それとあなたが好きなジャンルと、他にももっといろんなジャンルがあるかもしれないが、それらが全部ひとまとまりになって、日本のオタク文化が花開いている。その環境があってはじめて「俺の嫁」はこの世に生み出されたということ。
オタク文化の黎明期、その発展を支えたのは、女性だったのじゃ?と思う。そのころ、さまざまな少女漫画の名作が女性漫画家によって生みだされてきたし、コミケなどの同人文化を支えたのは女性だった。少し時代がくだりライトノベル(文庫)の黎明期は女性作家が目立っていた。
日本のオタク文化の誇るべき点は、女性と男性とが、協力しあって、あるいは切磋琢磨しあって、発展させてきたことと思う。
今後も、オタクや萌え絵などに対する「偏見、嫌悪、害意」を持つ人からの攻撃は続くだろう。その攻撃に対抗する最大の武器は、これまで通り、いやこれまで以上、男性と女性とが協力しあって、あるいは切磋琢磨しあって、この日本のオタク文化を発展させることだと思う。
 

ーーこの世界の誰一人、見たことがないものがある。
それは優しくて、とても甘い。
多分、見ることができたなら、誰もがそれを欲しがるはずだ。
だからこそ、誰もそれを見たことがない。
そう簡単には手に入れられないように、世界はそれを隠したのだ。
だけどいつかは、誰かが見つける。
手に入れるべきたった一人が、ちゃんとそれを見つけられる。
 
そういうふうになっている。
とらドラ竹宮ゆゆこ:著

 
 
 

(補足説明)

*1:『いわゆる「フェミ」』という言葉は、フェミニズムの理論を恣意的に使う一方、その主張は全く女性の権利や自由の拡大などにつながらない、ただ自分の「偏見、嫌悪、害意」を人にぶつけるためにフェミニズムを利用しているように思える人という意味で使っている。いわゆる「似非フェミニスト」のこと。

*2:「個人の尊厳」は日本国憲法第13条、「表現の自由」は日本国憲法第21条に規定される人権だ。

*3:私の考え方を功利主義ではないという人もいると思うが、他にもっとよい言い方があれば逆に適切な言葉を教えてほしい。

*4:厳密には英語のカタカナ書き

*5:哲学的には、利己主義は自分自身の追い求める善(目的)によって定義づける倫理説とされるが、その考えとも私は異なる。

*6:私自身がわずかであっても関与できる最大単位は「国」であるので、「国」の中の問題=国内問題には、主にこの功利主義的考え方を採っている。しかし、国を超える問題、国際関係、外交、安全保障の問題については、自分が関与できないという観点で功利主義のものさしが役に立たなくなるため、私は功利主義ではなく国際関係論の「攻撃的現実主義」をものさしにしている。とはいえ、功利主義と「攻撃的現実主義」は割と親和性が高いのも感じられる。

*7:もし実在の少女(少年)の合意を得て、キズナアイのコスプレ写真を撮り、サイトを作った場合は、全く異なる見解となる。その場合は、よほどひどいコスプレでない限り、問題がないと思う。

*8:関西圏や中京圏などでも同様かもしれないが、私が普段目にするのは東京とその近郊なので、東京と限定して記述している。

*9:胡蝶さんだけに、誇張した描写だとかいう駄洒落ではない。本当に。

*10:ジェンダーロール問題」は、社会学者の千田有紀さんが10/3にYahooに投稿した文章の中で指摘し論点となった。この件については、後述する。

*11:念のため、9/27時点のアーカイブ(魚拓)も確認したが、バナーの絵は同一だった。

*12:こう書くと、もしかするとバナーに対する批判が始まるのかもしれないが、これを投稿した時点では、「キズナアイ」の絵の性的問題については論争が収束しており、それは余りに後出しじゃんけんすぎるだろうと念のため指摘しておきたい。

*13:但し、この時点ではネットはほとんど炎上していない。

*14:今回の事例と類似の事例として「駅乃みちか」の事例がある。その事例は「駅乃みちか」のスカートが不自然に透けているのが問題だという具体的な指摘がなされた。確かに、そのようにスカートが透けることは普通考えられず、それは故意というより画像ソフトのレイア設定のミスも疑われるものだった。「駅乃みちか」の事例では、具体的な指摘を修正し、問題は収束した。しかし、今回のキズナアイの事例では、「性的な表現」というとてもあいまいな主観的な基準で批判が行われている。その点が「駅乃みちか」のケースと大きく異なる点だ。

*15:フェミニズムの観点で有害情報対策を行う場合であっても、既に対応している「青少年保護」のための有害情報対策と矛盾する対策を実施するわけにはいかない。

*16:判決翻訳から抜粋『表現の自由及び情報の自由は、民主的社会の基礎である。これらの自由を制限する場合には、制限的に解釈されなければならず、制限の必要性は、合理的な方法により説明されなければならない。ここで問題となるイラストは、マンガイラストについてである。そのようなイラストは、日本文化に強く根付いており、世界にも広まっている。イラストは、明確に芸術の範疇に含まれるとまでは言えないとしても、イラストの中の何枚かは、芸術としての性質を有している。議会において言及された児童ポルノを犯罪とする理由は、前述のとおり、背後に存在するかもしれない虐待から児童が保護されるべきであることと、児童ポルノ図画が、児童に性的行為をするよう勧誘するために用いられうることである。さらに、児童ポルノ的な製作物が包含する児童一般に対する侮辱からの保護も目的とされた。後者は、イラストを犯罪とすることを認める理由としても言及された。イラストが、実在の児童を表現する可能性があることについても述べられた。たとえ、問題の38点の図画が不快に思われうるとしても、おそらく、このような図画では、性的な内容を伴う写実的な描写の場合に問題となるより、個人が特定される危険性は相当に低く、また、児童一般に対する侮辱の危険性も相当に低い。問題の図画は、なんら実際の侵害に関係していないように見受けられる。児童を想起させるモチーフを伴ったポルノ的なイラストが存在するからと言って、そのような写実的でない児童のイラストを例外なく犯罪とすることによって、表現の自由及び情報の自由をかなり長期間制限することを妥当としうるほど、児童一般に対する侮辱が発生することは、ほとんどあり得ない。性的な行為に児童が誘惑される危険性を除外するという目的の存在も、そのような制限を正当化しない。』

*17:NHKだからダメだという主張は更に問題がある。表現の自由は誰もに公平公正に適用されるものであり(だからこそ民主的社会の基礎になる)、一部の人、団体にだけ表現の自由を規制することは、憲法の精神に違反するものと考える。

*18:そのため、ポルノではない少し性的な絵を適切にフィルタリングできるアプリケーションは現段階で存在しないと思う。このあたりは、今流行りのAIなど自己学習機能を強化することで、パーソナライズされた適切なフィルタリングを提供できるアプリケーションの研究は行われるべきだし、国も援助すべきではないかと考える。

*19:マルクス主義フェミニズム、ラディカルフェミニズム、リベラルフェミニズムなどの分類は確かにあるが、そういった分類を飛び越してフェミニストの主張には個々の多様性があるように見える。そうであれば、そんなおおざっぱな分類に基づいて自分の考えを組み立てても本質的なものに近づかないように感じる。

*20:私は「フェミニズム」に理解的、賛同的な男性を「フェミニスト」と呼ぶことに抵抗がある。それは「フェミニズム理解者」とか「フェミニズム賛同者」と呼ぶべきではないか。「フェミニズム」はやはり女性が主体となる運動であり、当事者性において男性は女性とは大きく異なる。男性が「フェミニズム」を主導できるとは思えない。やはり男性のそれは追従的なものに留まるわけであり、「フェミニズム」を運動と捉えるならば男性のそれを同じ語で呼ぶことには疑義が残る。

*21:そもそもフェミニストとは何かという問いすらわかっていない。

*22:私は自分の考え方を、在特会など排外主義的な考え方と全く異なる考え方と考えている。少なくとも在特会など排外主義的な考え方に対しては、一貫して批判的な態度をとっている。

*23:「偏見、嫌悪、害意」を持つ人で、その「偏見、嫌悪、害意」を他人にぶつけて溜飲を下げたい人が、そういったことをやろうとした時に「正当な怒り」という他者に対し有利になる主張に引き寄せられていくのではないだろうか。

*24:もちろん「偏見、嫌悪、害意」は「フェミニズム」の敵でもある。そしてそれは、きちんと国際関係を考える人の敵でもあるし、日本の中にいるマイノリティの敵でもある。

*25:主にはてなブックマークだが、何通かブログに投稿もしている

*26:逆にこの手法を自分のものにしておくと、うまく仕掛けが働く展開になったときに、有利にディベートを続けることができる。

*27:Twitterなら、その人の他のツィートをできるだけ読み、その人の考え方の全体像を掴んでから批判すべきだ。

*28:厳密には、ここでいう「韓国」とは「韓国の司法」となろう。しかし、「司法」も国の機関の一つであるから、国を指し示す「韓国」という用語を使っても過ちではない。

*29:この問題について、韓国には韓国の主張がある。しかしその韓国の主張がいかなるものであろうと、日本の立場に基づきそれを主張することが差別やヘイトスピーチにあたるとは思えない。

*30:blog.livedoor.jpもっともここにあげたサイトは、韓国のニューライトが多く集まるサイトなので、ここに書かれている意見を持つ人は、韓国人の中ではかなり少数派であることは追記しておきたい。

*31:嫌悪だけでは、批判理由として弱い場合が多いので注意

*32:性的描写などが含まれない場合は、児童ポルノでもなく成人向けポルノでもない。性的描写などが含まれる場合には、成人向けポルノとなる(日本、スウェーデン)。アメリカでは、児童ポルノとなる場合があるので注意してほしい。

*33:青少年保護条例に基づく有害図書を含む

*34:性的描写などを含む絵は、成人向けポルノである点は指摘しておきたい。

*35:だってそれは「ポルノ」ではないのだから。

*36:この分析も参考になる。shioshio3.hatenablog.com

*37:(1)連邦規制機関による規制 - 内閣府

*38:(2)ウェブサイト運営者に対するガイドライン策定 - 内閣府

*39:www3.nhk.or.jp

*40:MATUREにあるsexual contentsは、非直接的な性的表現と解釈される。「キズナアイ」程度で適用される分類ではない。この分類のsexual contentsは激しい暴力や流血と同じくらい有害なものだから、異論はないと思うけども念のため。

*41:千田有紀さんはゾーニングと言っていて正確な理解ではないのだけど、そこは正確な表現に変更した。

*42:私は、詭弁は害意の表れと思っている。

*43:「ポルノではないレベルの少々性的な絵が既存の社会規範、構造を再生産する」ということは全く証明されていない。ポルノの場合であっても「ポルノが既存の社会規範、構造を再生産する」かという論点では意見が対立しており、社会的なコンセンサスはできていない。

*44:古典的な解釈だと国家等の不当な検閲や介入を防ぐだったのだろうが、昨今の経済のグローバル化とインターネットの浸透を鑑みるに、国家以上の力を有する団体や企業等が出現してきていると思われるので、このような表現にした。

*45:第3章「詭弁術」から「論点のすりかえ」の「感情に訴える」の項参照

詭弁論理学 改版 (中公新書 448)

詭弁論理学 改版 (中公新書 448)

*46:さすがにそれは知ってるだろうけど。

トランプ政権についての9つの予測

はじめに

先日、「トランプ政権発足。それは新たな世界秩序の始まり」という投稿をして、9つの予測を書いた。
予測を書いた理由は、自分なりの予測を明らかにすることで、予測が違えばすぐ自分の考えを修正できるようにと考えたからなのだけど、投稿が長文で予測部分を探すのが一苦労なので、予測部分だけを抜粋して再投稿することにした。
以下にまとめた予測について、なぜそう考えたのか詳細はこの投稿にないので、必要であれば下の投稿を読んで頂きたい。
thesunalsorises.hatenablog.com



予測1:トランプ政権の二面性

この予測は、トランプ政権の閣僚・高官の人事から予測したものである。

予測その①
トランプ政権は「オルタナ右翼」的側面と「リアリズム派」的側面と二面性を持つ。
個別の政策では、この二つが混在する形で表れてくる。
私は、トランプ政権では、「移民、国境管理、入国審査」「国内治安対策」「メディア対策」などでは「オルタナ右翼」的政策が中心となり、「外交」「安全保障政策」「通商政策」などでは「リアリズム派」的政策が主となると予測する。
総じていえば、国内向けには「オルタナ右翼的側面」が、対外向けには「リアリズム派的側面」が前面に出てくると予測する。




予測2:貿易交渉の主な対象国は4カ国

次に、就任演説、基本方針とピーター・ナヴァロ国家通商会議委員長の書いた『米中もし戦わば』という本との共通点を探し、貿易政策を考えた。

予測その②
トランプ政権が行う二国間貿易協定交渉では、雇用を取り戻すことと並んで貿易赤字の削減が目的になる。
貿易交渉の主たる対象国は、中国、ドイツ、日本、メキシコだろう。特に問題視しているのは、中国であると考えられる。一方、最も交渉を行いにくい相手と考えているのも中国と思う。
まずは、交渉相手国に交渉上の弱みがある日本とメキシコを優先して交渉する。その際、為替と関税をちらつかせ、交渉を優位に進めようとするだろう。
中国とは、十分に準備を整えてから、貿易戦争辞さずという強い態度で交渉に臨むと予測する。

米中もし戦わば

米中もし戦わば



予測3:軍事上の主たる仮想敵国は中国

貿易政策と同じく、就任演説、基本方針と『米中もし戦わば』から、軍事政策を予測した。

予測その③
トランプ政権の軍事政策では、最大の仮想敵国は、ロシアではなく中国になると予測する。
中国に対しては、軍事的により強い対応をとるようになる。
その主たる舞台は、南シナ海東シナ海、それに宇宙とサイバー空間になるだろう。
なお、軍事政策は技術的な部分が大きく影響するため、その政策実行はマティス国防長官が代表する専門家チームに任されると予測する。



予測4:国内治安政策はオルタナ右翼的

ホワイトハウスホームページに掲載された6つの政策ポイントのうち、国内の治安政策は他の5つと比べて異質であると考えられる。
その異質さと予測1から、国内治安隊政策を予測した。

予測その④
トランプ政権の「治安政策」は「オルタナ右翼」の主張が前面に表れたものになる。
その結果、トランプ政権の「治安政策」は、アメリカのリベラル層を中心に強烈な反発を招く。その一方で、共和党支持者を中心に支持、評価も広がる。
アメリカは更に分断し、深刻な亀裂を抱えることになる。
いずれそのこと自体が、アメリカの治安を脅かすことになると予測する。トランプ政権であり続ける限り、騒動は絶えない。
そして、それは世界を巻き込んでいく。




予測5:イスラム過激派のテロ対策は思惑が混在する

イスラム過激派のテロ根絶」対策については、7カ国国民の入国禁止と、シリア・イエメンの安全地帯という2つの動きから、次の予測を考えた。

予測その⑤
イスラム過激派のテロ根絶政策は、「オルタナ右翼」的政策と、「リアリズム派」的政策が、混在一体となった政策が打ち出されていく。
その一見わけがわからない組み合わせの裏側では、アメリカ国民の比較多数の支持を狙い、演出がなされていく。
それによって稼いだ時間を使い、同盟国だけでなくロシアとの協同も行いつつ、軍事作戦を遂行する。トランプ政権は、イスラム過激派に対する軍事力行使を躊躇しないと予測する。
ISなどのテロ組織は、ダメージを被る。
しかし、テロリズムはより細胞化し、ホームグロウンテロの脅威*1は、世界中に広がると思う。



予測6:環境よりシェールオイル増産

アメリカの経常収支赤字額と石油の輸入額等、各種統計を見た上で、ホワイトハウスホームページに掲載された6つの政策ポイントのうち「エネルギー政策」と見比べて、次の予測を考えた。

予測その⑥
トランプ政権は、シェールガス・オイルの開発の障害となっている規制を撤廃していく。オバマ政権時代の環境保護政策は、全否定される。
それは、環境保護を訴える人の反発を招き、トランプ政権との衝突は激化していくと予測する。



予測7:原油価格は弱含みに推移

世界第2位の石油輸入国であるアメリカがシェールオイル増産により石油の輸入量を減らす。そのことから次の予測を導いた。

予測その⑦
原油価格は、生産国の生産調整で一旦上昇すると思われるが、アメリカのシェールガス・オイルの増産が進むにつれ、弱含みとなると予測する。
それは、原油生産国の経済にとりダメージとなる。
原油価格が弱含みで、原油がだぶつき気味になる状況は、ロシアの外交にも影響を及ぼす。ロシアの石油輸出先がヨーロッパ主体である(現在約6割)状況は変化しないだろうが、ロシアは中国と日本への石油輸出を増やすよう動くだろう。
一方、OEPCの影響力は減少すると思う。



予測8:対日政策は貿易政策で曇り、安保政策で晴天

トランプ大統領の過去の発言やツィートと、貿易政策や軍事政策での予測を踏まえて、対日政策の予測をした。

予測その⑧
日本は二国間貿易協定の交渉を受けざるをえない。アメリカからの要求は強く大きく交渉は難航すると予測する。交渉では日本もアメリカに大きく要求した方がよいし、交渉が進むにつれそうなっていくだろう。
二国間貿易交渉が難航することでトランプ大統領の攻撃(口撃?)は何度もあるだろうが、日米関係全体を悪化させることはないと思う。
なぜなら安全保障と日米同盟に対する認識は一致しており、安全保障上の日米関係は良好な状態が続くと考えられるからだ。
但し、今後アメリカと中国との関係悪化が予想される。その結果、自衛隊もアメリカ軍も大きな緊張を強いられる状況になり、それが続くと予測する。



予測9:世界全体はリーダー国なき世界になる

予測その⑨
トランプ大統領は、厄災の詰まったパンドラの箱を開けた。
そして、「リーダー国なき世界」という混沌が飛び出た。
それは、たとえトランプ大統領が早期に罷免され退場したとしても、もう箱の中に戻らない。
世界は、混沌という新たな秩序(?)の時代になった。
せめて、パンドラの箱の中に、「希望」が残っていますように。

(最後は予測じゃなくて願望を書いてしまいましたね。申し訳ありません。)