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日はまた昇る

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慰安婦問題:韓国のナショナリズムに寄り添うということ

はじめに

8月5日の朝日新聞による吉田証言報道の撤回から、慰安婦問題に関する記事、投稿が、はてなのホットエントリによくあがっていると思う。そんな中、朴裕河世宗大教授の投稿が9月10日のホットエントリにあがっていた。この投稿は慰安婦問題の本質をよく説明していると思うし、考えさせられる点が多い。
今日は、この朴裕河氏の投稿や著書の主張を引用しながら、慰安婦問題について考えてみたい。朴裕河氏のような専門家と自分の意見の比較というのはとても僭越とは思うが、意見の違いの分析によって慰安婦問題が解決困難な理由が明確になると思うので書くことにした。慰安婦問題が解決困難な理由を明確にするということは、逆に捉えると、慰安婦問題の解決のために乗り越えなくてはならない必要なことを明確にするということだと思っている。
 

基本的な考え、スタートライン

慰安婦問題が表面化して以降、20年以上が経つのに慰安婦問題は解決されていません。そして、断言できますが、慰安婦問題への理解と解決のための方法が変わらなければ、慰安婦問題は永遠に解決しないでしょう。そして日韓関係は、今以上に打撃を受けることになるでしょう。

それでも慰安婦問題を解決しなければいけない理由 | 朴 裕河

朴裕河氏の投稿の冒頭にあるこの短い文章の指摘点は次の3点だ。

  • 慰安婦問題は20年以上解決されていない。
  • 慰安婦問題への理解と解決のための方法が変わらなければ慰安婦問題は解決しない。
  • 慰安婦問題が解決しなければ日韓関係は今以上に悪くなる。

この3点の指摘については全く同感だ。このまま日韓双方の政府と日韓双方の国内の言論が変わらなければ慰安婦問題は解決せず日韓関係は一層悪くなる。その現実認識は同じ、すなわちスタートラインは一緒と思った。*1
 

日韓関係の対立を増大させるメカニズム(ループ構造)

日韓関係が壊れていく構造

慰安婦問題に限らず対立を深める日韓関係の構造は、ここ10年以上全く変化がない。
日本と韓国のナショナリズムの衝突と日本国内の政治的な対立構造がちょうど三角形のような関係となり、日韓関係の対立を増大させるメカニズム(ループ構造)ができあがってしまっている。

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図1:日韓関係の対立を増大させるメカニズム(ループ構造)

構造はとてもシンプルだ。
例えば日本で河野談話の撤回を求める動きが起こると、その動きに韓国の政府、マスコミが反応、韓国のナショナリズムが高じる。そうして生じた韓国側の批判に、日本の「進歩的」と称されるマスコミなどが呼応し、日本のナショナリストを批判する。そして今度は日本のナショナリストが反応して・・・、こういったループ構造ができている。
インターネット時代になり、他国の情報が簡単に国境を超えるようになった現在、このループは簡単に一回りし、一回りする都度、日韓双方の国民感情は相手国に対して批判的になり、険悪になっていく。
このループは、「李明博前大統領の竹島訪問」と「朴槿恵大統領による一連のいわゆる反日侮日外交」によって更に簡単に回るようになった*2。ここ1年は「安倍首相の靖国訪問」、「河野談話の検証」などで日本側がループの推進力となり、直近では「産経新聞の前ソウル支局長の起訴」問題が起こり、今度は韓国主因で対立増大メカニズムが一回転したばかりだ。
 

日本における慰安婦問題に対する代表的な4つの態度

慰安婦問題の本質は、戦争における性暴力の問題であり、人道の問題であるのは間違いないだろう。
しかし、ここに日韓双方のナショナリズムが加わり、20年以上続く日韓の外交上の対立点となったため、慰安婦問題は政治問題としての性質を濃くしていった。これが純粋に人道問題だけであれば、54人と言われる存命の元慰安婦の救済を行うことが不可能だとは到底思えない*3。しかし慰安婦問題は既に政治問題と化しており、解決の糸口も見えない状況になっている。
そして政治問題であるがゆえ、その人の政治的立ち位置によって慰安婦問題に対する態度は大きく異なる。私は大きく4つに分類できると思っている。

1つめの分類軸:いわゆる左右の軸、政治目標の優先順位を表す軸

慰安婦問題に対する態度が、いわゆる左右といわれる政治的立ち位置によって異なるのは広く知られたところだと思う。
ところが、この左右の定義があいまいであるため、分類軸として有益でないことがある。そこでこの投稿では、いわゆる左右の軸とは政治目標の優先順位を表す軸と定義したい。
そして、慰安婦問題は外交問題であるので、片方(右側)の重視する政治目標を国益とし、反対側(左側)をそれの対立概念「国際協調」とする。また左派の重視する政治目標としてもう一つ「人権」もあげておく。「人権」に対する右派の対立概念は存在しない。あえて対立概念をあげるとやはり「国益」となると思う。

2つめの分類軸:考え方の軸

例えば、同じ右派であっても河野談話に対する態度などにおいて差があるのはよく知られたことだと思う。よくこういった差を極右と穏健保守とに分ける論もあるが、左右の程度の差という分析は実態をよく表していないと思う。
私は自分自身を、上記で定義した左右の軸、すなわち政治目標の優先順位の軸でプロットすれば限界に近い右側に位置すると思っている。それは国際問題を考える時「国益」を最優先に考え、「国際協調」や「人権」などを「国益」より優先することが全くないからだ。しかし、私自身はいわゆる極右と称される人たちとは考え方が異なる。例えば「慰安婦問題の存在を認め、河野談話は維持すべき」と私は考えている点などが異なる。
上記の理由で、新たな分類軸、すなわち政治的な左右双方が内包している考え方の差異という軸を導入し、2つの分類軸で分類する方法の方が、左右の1軸だけで分析するより有益だと思う。
そこでその軸の片方を、「原理的」「原則重視」の考えとする。反対側にはこれの対立概念「世俗的」「実利重視」がくるだろう。

なお、「原理」という用語は、次の意味で使っている。

事象やそれについての認識を成り立たせる,根本となるしくみ。
原理とは - Wiktionary日本語版(日本語カテゴリ) Weblio辞書

一方の「世俗的」という用語は、次の意味で使っている。

世間一般に見られるさま。世俗的とは - コトバンク

4つの象限

さて、上記にあげた2つの分類軸を図に表すと、次のように4つの象限*4ができる。
なお、左右の軸は、先に述べた通り政治的な左右に合わせた。上下の軸はどちらが上であってもいいのだが、私は「原理=根本=土台」というイメージがあり原理側を下にしたかったのでそうした。なお象限の数字は一般的なものを使った。*5

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図2:政治目標と考え方の2つの軸で分けた4つの象限

慰安婦問題に対する態度は、この4つの象限のどこに位置するかによって分類できると思う。


右派の分析

まず最初に、国益優先の考え、いわゆる「右派」の分析をしてみたい。

右下:第Ⅳ象限『国益優先、原理的で原則を重視する人』

右派で最初に分析したいのは、図2の右下、第Ⅳ象限の右派。すなわち、『国益を優先し、原理的・原則重視で考える』人たちである。
下に引用したのは8月28日付の産経新聞の主張だ。これは自民党政務調査会が政府に対し河野談話の見直しを要請したことをうけて書かれた主張になる。
これがこの象限『国益重視、原理・原則を重視する人』の代表的な考え方と思う。

自民党政務調査会は政府に対し、慰安婦制度の強制性を認めた河野洋平官房長官談話に代わる新たな談話を出すよう要請した。
事実を無視してつくられた虚構の談話を継承することは国民への背信である。政府の検証結果を踏まえた新談話によって国際的に広がった誤解を正すべきだ。
【主張】慰安婦問題 新談話と河野氏の招致を(1/2ページ) - 産経ニュース

論旨はとても明確だ。
慰安婦制度の強制性が否定されるのならば、この主張は正しいと言える。もっともこの強制性の否定については左派から強い反論がでているのだけど、それは左派の分析の項でふれたい。またこの投稿全体の趣旨は「慰安婦制度の強制性の有無」を論じることでないので、その点了承いただければと思う。
この象限の考えは前述のとおり慰安婦制度の強制性と軍関与の否定』が論理立ての基礎になる。その根本には、『過去の日本の行動は正しかった。ただ武運なく敗れただけだ』という日本の正義を信奉する原理・原則があるように見える。
『強制性の否定』さえできれば、『①強制はなかった。軍も関与していない。強制を認めた河野談話は誤りだ。②河野談話は日本の尊厳を傷つけた。③だから河野談話を否定し新談話を出すべきだ』という演繹法*6、いわゆる三段論法の論理が成り立つ。この象限の人たちは、原理的、原則重視の考え方を持つため、こういった論理立てを必要としている。そのため、この論理の基礎となる『強制性の否定』に繋がるものを探していく。そして『強制性の否定』を以って慰安婦問題そのものを否定し、それで慰安婦問題の解決とするのが、この象限『国益重視、原理原則派』の考え方だと言える。
この象限にいる人の慰安婦問題に対する基本的な態度は『反発と否定』である。

右上:第Ⅰ象限『国益優先、世俗的で実利を重視する人』

次に分析したいのは、図2の右上、第Ⅰ象限の右派。すなわち、『国益を優先し、世俗的、実利重視で考える』人たちである。
私自身は、自分をこの象限の右上の端に位置すると思っている。*7
この象限にいる人の考えの代表的な事例として、菅官房長官の発言をあげておきたい。

菅義偉官房長官は26日午前の記者会見で、慰安婦問題をめぐり韓国側が日本政府の謝罪や名誉回復措置を求めていることについて、昭和40年の日韓請求権協定に基づき解決済みとの見解を重ねて示した。
慰安婦問題「解決済み」 菅長官が重ねて見解 - 産経ニュース

菅義偉官房長官は7日の記者会見で、当時の河野洋平官房長官が行った「従軍慰安婦に関する談話」について「政府として、総理も、私も繰り返し言っているように、河野談話は継承する立場。見直す考えはない。全く変わっていない」と河野談話を見直すことはしないとの考えを強調した。
河野談話は継承する 改めて強調 菅官房長官 | 国内政治 - エコノミックニュース

この象限の考え方を端的に言えば、慰安婦問題は日韓請求権協定に基づき解決済み。一方河野談話は継承する」ということになる。これは日韓の条約と過去の談話、声明等を基本に据える考え方だ。「日韓請求権協定」では明確に請求権は完全かつ最終的に解決されているとしている。これを重視する。

第二条
1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定

韓国政府は慰安婦問題の請求権はこの協定の対象外だと考えているようだが、それを日韓の二国間外交において正式な外交上の要求としていない。*8
そこで慰安婦問題を支援する団体がどのように「日韓請求権協定」のこの条文を解釈しているかを見て、韓国政府の主張を類推することにする。

日韓請求権協定では、日本の朝鮮植民地支配とアジア侵略戦争によって引き起こされた「慰安婦」の被害に対する歴史的責任の問題が解決されたと言うことはできません。
1-3 日韓請求権協定と「慰安婦」問題 | Fight for Justice 日本軍「慰安婦」―忘却への抵抗・未来の責任

条約という国際法を扱っている文章なのに、法的責任ではなくて歴史的責任とぼやかしているのはいただけないが、この主張をまとめると次のようになると思う。

  • 国家は私人の代理人でないので、私人の権利を制限する条約を締結する権限はない。この条文をもって私人の請求権が消滅したとはいえない。
  • 交渉において慰安婦問題はほとんど話し合われていない。この条文で解決したとされる請求権には慰安婦の被害は含まれていない。

これに対する反論等を書くとこの投稿の本筋から離れてしまうので紹介にとどめるが、もしこの主張を認めると、日韓基本条約だけでなく、日本の独立の根拠になるサンフランシスコ平和条約も、日中友好条約も、その他の国との基本条約、平和条約等の全てで、その条約締結の議論の際、議論されなかった問題があれば、それらは半永久的に日本へ賠償請求できることになる。また国家間の賠償が決着しても個人への賠償は全く決着できないことになる。これは日本にとって独立の基盤すら失いかねない、つまり国の死刑宣告にもなりうる要求だと私は危惧する。*9
この象限の人が考える慰安婦問題で守らなければならない日本の最大の国益日韓基本条約」と「日韓請求権協定」などの付随協定を堅持することだろう。
この点で日本に妥協の余地はない*10。それでも韓国がこの主張を日本に認めさせたいのなら、韓国は国際司法裁判所規程*11第36条2項に基づく義務的管轄権の受諾を行い、国際司法裁判所に提訴すればよい。そうすれば日本は既に義務的管轄権の受諾を行っているので、強制的にその裁判に応ずることになる。
この象限の考えを持つ人は、それを強く意識している。
日本の「法的責任」は絶対に認められない。それは「慰安婦問題の最終解決」や「日韓の和解」より優先すべきものである。例え「日本の名誉」が傷つこうと「国際社会で孤立」しようと「法的責任」は認められない。それは国としての日本と日本人の生存を危うくする。しかしそれを逆に言うと、日本の「法的責任」さえ回避できれば、慰安婦問題解決に向けた一定の譲歩は許容する考え方でもある。
一方、現在の日本の左派には「日本の法的責任を追求する主張」と「法的責任より和解を優先する主張」が混在しており、混在を許したまま左派の主張に譲歩するのは「法的責任」追求への道を開きかねないことから拒むしかないと考える。つまり現状では「慰安婦問題」は解決不可能であり、ダメージをコントロールするしかないと割り切っている。
この象限にいる人の慰安婦問題に対する基本的な態度は『割り切りと拒否』である。*12

国益とは何か? その考え方の相違

右派の第Ⅳ象限『国益重視、原理・原則を重視する人』と、第Ⅰ象限『国益重視、世俗的で実利を重視する人』は、国益を重視するという点で共通項がある。
しかし、「河野談話」については、一方はそれを否定し見直しを主張する。一方は堅持を主張する。「河野談話」は見直す方が国益なのか、堅持する方が国益なのか。真っ向から食い違うが、それは片方の考え方が間違っているからなのか。
いろんな見方があると思う。私は、この差が生じるのは、「国益とは何か?」という考え方に相違があるからと見ている。
第Ⅳ象限『国益重視、原理・原則を重視する人』の考える国益は、ほとんど「日本の正義、日本人の名誉」と同義であるように思える。河野談話については、それは「日本人の名誉」を傷つけるものであるから見直しを主張する。
一方、第Ⅰ象限『国益重視、世俗的で実利を重視する人』の考える国益は、まさしく世俗的で実利的なものだ。河野談話については、河野談話によって世界に向けて慰安婦問題を謝罪したという事実が、各国との外交、特に韓国や中国以外の国との外交でよい効果をもたらしていることを重視して河野談話堅持を主張する。*13

日韓関係の対立を増大させるメカニズム(図1)の影響の相違

図1で示した「日韓関係の対立を増大させるメカニズム」の中の「日本のナショナリズム」は、主に第Ⅳ象限『国益重視、原理・原則を重視する人』が担っている。このループが一回りすると、日韓双方の国民感情は相手国に対して批判的になり、険悪になっていく。つまり日本側では「韓国はけしからん」と考える人が増えていく。この動きは政治的には無視しづらい。そこでそういった人を取り込む動きが生じる。
ところが第Ⅰ象限の考え方はわかりにくく「国益は国際協調に優先する」という考え方は、ややもするとマキャベリズムのように「冷たく謀略に満ちた」印象を与えることがある。だから単純に「韓国はけしからん」と考える人の取り込みに失敗している。
その一方、第Ⅳ象限の主張は「慰安婦に強制性はなかった」というこの一点さえ説得できれば、その後の論理はとてもわかりやすく「韓国はけしからん」と考え始めた人に「肯定感」を提供できる。*14
かくして図1で示した「日韓関係の対立を増大させるメカニズム」のループが回れば回るほど、第Ⅳ象限『国益重視、原理・原則を重視する』考え方を支持する人が増えていく。彼らは日韓対立の最大の受益者となっており、だからこそ彼らの日韓対立を煽る主張は止むことがない。
日中対立より日韓対立の方がこの動きが顕著なのは興味深い点だと思う。*15
一方、世俗的実利重視の第Ⅰ象限の側から見ると、第Ⅳ象限の考え方の人が増加するのは、一番重要な国益といえる『「法的責任」を認めろという要求を拒むこと』に資するので、正直最善な状況とは思えないが否定する状況でもない、すなわち致し方ない状況と考えている。
もっとも「韓国けしからん」が嵩じてしまい「韓国人排除」などの差別的言動、嫌悪表現が増加するという悪影響があり、それは問題が大きい。これについては、啓蒙活動を行う一方で、法的に対処して抑えこむしか方策がないと思う。

第Ⅰ象限と第Ⅳ象限を分けるもの

一番端的な事例は前述の通り河野談話だと思う。
第Ⅰ象限の考えを持つ人は河野談話の維持」を主張している。第Ⅳ象限の考えを持つ人は河野談話を否定し見直すこと」を主張している。
 

左派の分析

次に、国際協調・人権優先の考え、いわゆる「左派」の分析をしてみたい。

左下:第Ⅲ象限『国際協調・人権優先、原理的で原則を重視する人』

左派で最初に分析したいのは、図2の左下、第Ⅲ象限の左派。すなわち、『国際協調・人権を優先し、原理的・原則重視で考える』人たちである。
この象限の代表的な主張として、日本共産党の主張をあげようと思う。

旧日本軍の「慰安婦」問題は、当時の天皇制政府と日本軍が朝鮮半島などから多数の女性を動員し、「性奴隷」として「売春」を強制した、言語道断の戦争犯罪です。政府機関や植民地経営にあたった総督府、軍自身が組織的に女性を集め、「慰安所」の設置や管理にも関わるなど、国家機関と軍の関与は明らかです。
(中略)
韓国では元「慰安婦」の人たちのほとんどが「償い金」受け取りを拒否し、日本政府の公的な謝罪と賠償を求め、裁判にも訴えています。
日本軍「従軍慰安婦」問題 解決は世界への日本の責任

これも右派の第Ⅳ象限の主張と同じく、論旨はとても明確だ。
『①慰安婦は性奴隷として売春を強制した戦争犯罪だ。②慰安婦制度は総督府、軍自身が組織的に関与した。③だから日本は法的な責任を有し国家賠償が必要だ』という論理だ。
右派との争点は3点あって、『①慰安婦制度の強制性』『②旧軍の関与』『③韓国の請求権放棄の否定』である。特に第Ⅳ象限の『国益を優先し、原理的・原則重視で考える』右派と、①と②の争点、すなわち強制性と旧軍の関与の争点で強く争っている。
なおこの投稿の趣旨は慰安婦制度の強制性の認識について、どの考えが正しいかを論じることではないと改めて強調しておきたい。*16
朝日新聞による吉田証言を報じた記事と慰安婦と女子挺身隊を混同した記事の撤回をうけて出された日本共産党の主張を読むと、何が争点となっているかよくわかる。

河野談話」否定派は、「吉田証言が崩れたので河野談話の根拠は崩れた」などといっていますが、「河野談話」は、「吉田証言」なるものをまったく根拠にしていないということです。
(中略)
それでは、「河野談話」は、何をもって、「慰安婦」とされた過程に強制性があったと認定したのでしょうか。その点で、前出の石原元官房副長官が、同じテレビ番組で、元「慰安婦」の証言によって、「慰安婦」とされた過程での強制性を認定したとあらためて証言したことは重要です。
歴史を偽造するものは誰か――「河野談話」否定論と日本軍「慰安婦」問題の核心

この象限の考えは、前述の通り慰安婦制度は日本が国家として売春を強制した戦争犯罪であり法的責任と国家賠償が必要という認識が基本となる。*17
そしてこの認識は、韓国政府と韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)などの韓国の慰安婦支援団体の認識とほぼ一致している。*18
この象限にいる人の慰安婦問題に対する基本的な態度は『非難と要求』である。*19

左上:第Ⅱ象限『国際協調・人権優先、世俗的で実利を重視する人』

最後は、図2の左上、第Ⅱ象限の左派。すなわち、『国際協調・人権を優先し、世俗的、実利重視で考える』人たちを分析する。*20
ここでようやく朴裕河氏の投稿を引用することができる。これはこの象限の代表的な考えだと思う。*21

この場面は朝鮮人慰安婦問題の本質を明確に示しています。つまり、まず日本軍が直接、強制連行や人身売買を指示したことはないという事実、にもかかわらず、彼女をそこに連れてきた主体は他ならぬ「日本帝国主義」だったという事実です。
それでも慰安婦問題を解決しなければいけない理由 | 朴 裕河

これは1965年に制作された鄭昌和監督『哈爾浜江の夕焼け』という映画の場面を引用しながら、戦争が終わって間がない時の慰安婦に対する見方と強制性について書いている部分だ。
私が投稿の一部を切り取ったので、誤った認識を持たれるのではという懸念がある。朴裕河氏の主張を正しく解釈すべき点の第一は、朴裕河氏は「慰安婦制度の強制性」を明確に認定しているということだ。そしてその暴力性を強く非難している。慰安婦制度に対する非難の強さという点では、第Ⅲ象限の人たち、あるいは韓国の挺対協の非難の強さと何ら変わらない。
第Ⅲ象限の人、あるいは韓国の挺対協の考えと異なるのは、「強制性の責任が誰にあるか」という点だ。ここでは「強制性の責任」があるのは日本帝国主義だとしているが、その概念はわかりにくい。
上記に取り上げた投稿と朴裕河氏の著書「和解のために」に書かれている内容とを総合して朴裕河氏の考えを説明すると次のようになると思う。

  • 慰安婦問題を戦争時における性暴力の問題と広く捉えている。
  • 被害者は「韓国人」慰安婦だけでなく「日本人」慰安婦も他の国の慰安婦も同じであり、全員が被害者だと捉えている。
  • 戦後、日本と韓国両方の国で設置された米軍向けの「日本人」「韓国人」慰安婦も被害者と捉えている。
  • 更に慰安婦問題だけでなく「引揚時の日本人女性に対するレイプ」も含め、全ての戦争時の性暴力について同じように扱っている。
  • 慰安婦の強制性と暴力の責任は、日本政府、軍のみならず女性を売った親、慰安婦を募集した朝鮮人業者なども含めて加害責任があると捉えている。植民地であった韓国を含めて当時の帝国としての日本社会全体の責任と捉えている。
  • 一方、元慰安婦の経験、考えも一様ではなく、その元慰安婦への加害責任は一様ではないとし、挺対協の主張する一つの解釈を正義とする考えを批判している。
  • 従って、元慰安婦の意見をきちんとヒアリングし、それを世に伝え、それぞれの受けた暴力に対する責任を問うべきとしている。
  • 責任は複合的なものであり日本だけへ法的責任を問うのは「困難」としている。

和解のために?教科書・慰安婦・靖国・独島 (平凡社ライブラリー740)

和解のために?教科書・慰安婦・靖国・独島 (平凡社ライブラリー740)

上記は、日本が免責であるとか、日本の責任を薄く考えるという主張でないことを強調しておきたい。特に慰安婦制度を「発案」し「命令」した者に対する非難と責任追及の思いは極めて強い。
私が朴裕河氏の主張で一番注目するのは次の点だ。

今、韓国の支援団体と政府はこの問題について、「法的責任」を認め、そのための措置を取るよう日本に要求していますが、50数人が存命の元慰安婦の中には、実は異なる意見を持った方々がいます。しかしその方々の声はこれまで聞こえてきませんでした。違う声があったとすれば、これまで私たちはなぜその声を聞くことができなかったのでしょうか。
これまで聞こえてこなかった声を、違う声を聞いてみようという問いかけは、実は、元慰安婦の方々だけでなく、支援団体、さらには学者にも当てはまる問いだと分かりました。韓国はもちろん、日本の支援団体や学者など関係者にとっても、慰安婦問題の主流となっている理解、常識と違う声をあげることは、思うほど自由ではありませんでした。
それでも慰安婦問題を解決しなければいけない理由 | 朴 裕河

私は、この考えの根底に多様性を前提とする考え」が存在していると思ったので注目した。世俗的なアプローチ、つまり現実をできるだけありのままに見るためには、多様性の認識と許容はその根幹をなすといってよいと思う。*22
そして、元慰安婦のそれぞれの問題の多様性とともに、異なる意見を持つグループ同士の政治的な力の相互作用を考慮していることも注目したい。例えば以下の文章などである。

日本の右傾化は自然発生的なものではなく、韓国の対日姿勢がそうさせた側面があります。最近目に見えて増えた嫌韓現象も同様です。個人の関係だけでなく、国家の関係も相対的なものだからです。彼らの中には深刻な差別主義者が存在しますが、運動が必ずしも正確ではない情報を流布する限り、彼らに対する批判の効力は弱まるしかありません。
それでも慰安婦問題を解決しなければいけない理由 | 朴 裕河

この考え方は、原理的で原則を重視する「第Ⅲ象限の左派」には受け入れづらいだろう。一方、私はこの分析に同感する。実は「第Ⅰ象限の右派」も、「第Ⅱ象限の左派」と同様に、異なる意見を持つグループ同士の政治的な力の相互作用を重視する。*23
つまり「第Ⅰ象限の右派」と「第Ⅱ象限の左派」は、導き出す結論は全く異なるが、現象を見る目という点では共通点があるということを表していると思う。
この象限の人たちは、法的責任を日本に認めさせることではなく、慰安婦問題の倫理的な解決を目指す。それは元慰安婦の個人の救済を目標としているからのようにみえる。
この象限にいる人の慰安婦問題に対する基本的な態度は『和解と救済』である。

国際協調に関する考え方の相違

左派の第Ⅲ象限『国際協調・人権優先、原理的で原則を重視する人』と第Ⅱ象限『国際協調・人権優先、世俗的で実利を重視する人』は、国際協調と人権を政治目標として優先するという共通項がある。
慰安婦問題は人権問題であるという点において、第Ⅲ象限の左派と第Ⅱ象限の左派に認識の差はない。
一方、日本に対する「法的責任」という点では、第Ⅲ象限の左派は日本が法的責任を認めることを強く要求し、それなしでは慰安婦問題の解決はないとしている。
第Ⅱ象限の左派は、日本政府が法的責任を認めることに必ずしもこだわらず、あるいはそれを日本政府が認めることは絶対にないことを許容し、その上で倫理的解決を図ろうとする。
その差は、どこから来るのであろうか? 
これもまたいろんな意見があると思う。私には、第Ⅲ象限の左派と第Ⅱ象限の左派にとっての「国際協調」の有り様という点で、認識の差異があるように見える。
第Ⅲ象限の左派、すなわち『原理的で原則を重視する』左派は、「国際協調」の対象として、歴史的、特に日本の侵略戦争と関わりが深い国家との関係を重視する傾向が強いと思う。慰安婦問題については、韓国を中心に据え、韓国との関係性において事象を評価する。
それに対し、第Ⅱ象限の左派、すなわち『国際協調・人権優先、世俗的で実利を重視する』左派は、日韓関係は、重要な二国間関係ではあるものの、日本にとっても韓国にとっても数ある二国間関係の一つであるという意識を持っている。そのため、慰安婦問題についても、韓国人の慰安婦だけでなく、日本人や他の日本の占領地出身の慰安婦にも同じ視線を投げかける。
その差が、日本に対する「法的責任」の要求という点での差異につながってくる。
第Ⅲ象限『原理的で原則を重視する』左派は、慰安婦問題では韓国を中心に据えた国際協調を目指すため、韓国の要求を日本が全面的に認めることが目指すべき国際協調だと考えている。一方、第Ⅱ象限『国際協調・人権優先、世俗的で実利を重視する』左派は、日韓関係を重要ではあるものの数ある二国間関係の一つと認識するため、他の二国間関係と同様に日韓関係も宥和的な関係であるべきとする。それが日本政府が絶対に反発するであろう「法的責任」に対する態度の差になって現れていると思える。
右派も「国益」に対する解釈が「第Ⅳ象限」と「第Ⅰ象限」の人で違うように、左派も「国際協調」に対する考えが「第Ⅲ象限」と「第Ⅱ象限」の人で違うようにみえる。

第Ⅱ象限と第Ⅲ象限を分けるもの

一番端的な事例は前述の通り「日本の法的責任」に対する考え方だと思う。
第Ⅲ象限の考えを持つ人は「日本の法的責任」の追求を絶対のものとしている。第Ⅳ象限の考えを持つ人は「日本の法的責任」に拘らず倫理的解決を優先するよう主張している。
 

日本における慰安婦問題に対する代表的な4つの態度のまとめ

ここで、一旦、上記の分析をまとめみたい。

慰安婦問題に対する基本的態度

各象限の人たちの慰安婦問題に対する基本的態度を表すと次の通りになる。
左側、第Ⅱ象限と第Ⅲ象限の考え方を分けるものは『日本の法定責任』に対する考え方の差異である。
右側、第Ⅰ象限と第Ⅳ象限の考え方を分けるものは『河野談話』に対する考え方の差異である。

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図3:日本における慰安婦問題に対する4つの基本的態度

左上、第Ⅱ象限『世俗的・実利重視』の左派以外は、ネガティブな態度であることに注目してほしい。これについては後述する。

河野談話と日本の法的責任に対する考えの違い

河野談話と日本の法的責任に対する考えの違いが、右派、左派内での考え方の違いを生んでいる。それを整理してみると次のようになる。

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図4:河野談話に対する考えの差異     図5:日本の法的責任に対する考えの差異

河野談話に対する考え方では、右下、第Ⅳ象限『原理的・原則重視』の右派だけが、河野談話を否定し見直しを主張している。
日本の法的責任に対する考え方では、左下、第Ⅲ象限『原理的・原則重視』の左派だけが、日本の法的責任を強く要求している。
この整理によって、どの考えの人たちがどんな対立点を抱えているか、より明確になると思う。
 

日韓の和解に向けて

私は、今後数年の日韓関係について、悲観的にみている。
攻撃的現実主義ってこういうものなんだけど(実践編)」という投稿で分析を書いたが、中国の台頭により安全保障分野で日韓の国益に齟齬が生じるようになったということが、この慰安婦問題にも影を落としている。
ただ同じ分析を何度も書いても新鮮味がないと思う。
そこで今回は、日韓関係の悲観論者の立場から見た「慰安婦問題の日韓の和解」に対する分析を行ってみようと思う。

日韓の和解の原動力となる人たちとは?

当たり前だが、和解の原動力となるのは、和解を本当に心から願う人だ。図3「日本における慰安婦問題に対する4つの基本的態度」を見ると、それは第Ⅱ象限『国際協調・人権優先、世俗的・実利重視』の左派だということがわかる。
日韓が和解するためには、この人たちがもっと大きな声を上げる必要がある。ただ、この人たちは、これまでの日韓双方の葛藤によってもう十分すぎるほど傷ついている。そして沈黙していったようにみえる。それでもこの人たちが声を上げるのをやめれば、慰安婦問題は永久に解決しない問題となるだろう。

日韓の和解を阻害する人たちとは?

第Ⅳ象限『原理的・原則重視』の右派、よくナショナリストと呼ばれる人たちは、明らかに和解を阻害する。理由は言わずもがなと思う。
私が属する第Ⅰ象限『世俗的・実利重視』の右派も、それを必ずしもよしとはしないが今は意図的に日本のナショナリズムに寄り添っており、和解を阻害する。
議論があるのは、第Ⅲ象限の『原理的・原則重視』の左派が日韓の和解を推進するのか、阻害するのかだと思う。

第Ⅲ象限『原理的・原則重視』の左派も和解を阻害する

私は、第Ⅲ象限『原理的・原則重視』の左派は、第Ⅱ象限の左派の活動を批判、妨害し、その結果、日韓の和解を阻害すると見ている。理由は3つだ。

(1)連携すれば対立増大のループが回る

第Ⅱ象限『世俗的・実利重視』の左派が、第Ⅲ象限『原理的・原則重視』の左派と連携して日本の対応と日本の右派全体を批判した場合は、今の状況と全く変化がない。
朴裕河氏も「断言できますが、慰安婦問題への理解と解決のための方法が変わらなければ、慰安婦問題は永遠に解決しないでしょう」と書いている通り、それは慰安婦問題の解決を遠ざける。図1に示した「日韓関係の対立を増大させるメカニズム」のループが回り、日韓関係は壊れていく。慰安婦問題の解決からは遠ざかることになる。

(2)韓国の言論との関係

慰安婦問題は、日本と韓国、双方の問題だ。第Ⅲ象限の左派の主張は韓国政府や挺対協などと意見が一致しており、その活動を支援する構造になっている。一方、韓国の朴裕河氏などの活動は韓国の挺対協などと強く対立しており、日本で第Ⅱ象限の左派が第Ⅲ象限の左派と連携することは、韓国での朴裕河氏などの活動の足を引っ張ることになる。例えば、韓国のナヌムの家の所長が実質的に中心となっている朴裕河氏の著書の出版差し止め訴訟などを間接的に支援してしまうことになる。慰安婦問題の解決のためには、日韓双方で自由な言論が必須であり、このような韓国国内の自由な言論を抑制させるための活動を間接的であろうと支援してしまうのは、問題の解決の阻害要因だといえるだろう。

さる6月16日、ナヌムの家(注:元日本軍慰安婦の共同生活施設)に居住している元日本軍慰安婦の方々から、昨年の夏に韓国で出版した『帝国の慰安婦――植民地支配と記憶の闘い』を名誉毀損とみなされ、販売禁止を求めて訴えられるようなことがあった。(名誉毀損の刑事裁判、2億7千万ウォンの損害賠償を求める民事裁判、そして本の販売差し止め、三つの訴状が裁判所に出され、わたしにはこのうち差し止めと民事裁判の訴状だけが届いている。)刊行直後は多数のメディアがわりあい好意的に取り上げてくれたのに、10ヶ月も経った時点でこのようなことが起こってしまったのである。
慰安婦支援者に訴えられて | 朴 裕河

(3)マキャベリズムは似合わない

もし第Ⅱ象限の左派が、日本での右派との論争を優先し、それまでの期間、第Ⅲ象限の左派と連携する方法はある。(私もそうだが)第Ⅰ象限の右派が第Ⅳ象限の右派、すなわち日本のナショナリズムと寄り添っているようにだ。ただ第Ⅱ象限の左派は、私には理想主義的な人が多いように思える。こういった「敵の敵は味方」のような考え方をこの象限の人は嫌うだろうし、そのやり方は得意ではないだろう。

三者が三様に阻害する

第Ⅳ象限の右派は、慰安婦問題の存在と和解の必要性を否定するので、和解を阻害する。
第Ⅰ象限の右派は、現状のまま譲歩するのは国益を損ねるとみるので、和解を阻害する。
第Ⅲ象限の左派は、現状のままの和解は彼らの主張原則と異なるので、和解を阻害する。
 

日本の言論を日韓和解の方向へ変化させるには

上記のように、第Ⅱ象限『世俗的・実利重視』の左派以外の意見は、日韓和解の阻害要因になる。ということは、日本の言論を日韓和解の方向へ変化させるためには、第Ⅱ象限『世俗的・実利重視』の左派を増やすか、少なくともその意見に共感する人を「日本国民」の多数とする必要があろう。*24
そのためには、他の考えを持つ人たち、その中でも中庸な考えに近い人たちに積極的なアプローチをして、共感を広げる必要がある。闇雲にアプローチしても成果は上がりにくいだろう。どの順番でどの層にどんなアプローチをするか、戦略性がとても重要だ。
アプローチは、「非難や批判」「共感を示す」「説得」「妥協」などを組み合わせたものになるはずだ。この中で、「非難や批判」という手段は、実行するのはとても簡単だが他者の心を和解の方向へ動かすという点では成果を上げるのは難しい方策だと思う。「非難や批判」という手段は、その効用をよく理解して効果的に使う必要があるだろう。

非難や批判の効用

「非難や批判」がもたらす効用として、私は2つあると思う。*25

(1)非難や批判に共感する人を取り込む効用

「非難・批判」する対象(人、事象)をきちんと限定して「非難・批判」することで、その対象に対し同じように「非難・批判」的に感じていた人の共感を得ることができる。そしてその人たちを自分たちの主張を支持するグループに取り込むことができる。「非難・批判」にはこんな効果がある。
この効果を狙った時によくする失敗は、「非難・批判」する対象(人、事象)を広くしすぎて、かえって多数の反感をかうという失敗と、「非難・批判」する内容が内輪受けしかしない内容で、いわゆる内輪以外の人を遠ざけるという失敗だ。*26
具体的に言うと、日本の国内言論を動かそうとしているのに、日本社会全体を「非難、批判」するのは効果が薄いか、その「非難、批判」に反感を持つ人を増やすことが多いということだ。第Ⅲ象限の左派がよく犯す過ちだと思っている。人は自分がその「非難・批判」の対象ではないと考える時、その「非難・批判」に同調する傾向が強い。それを忘れるべきではないだろう。
一番効果的にこの方法を使っているのは、第Ⅳ象限の右派、いわゆるナショナリストだろう*27。「非難・批判」の対象を対立する外国に設定する。その外国が「領土問題」のようなセンシティブな反応を生む問題で挑発的な行動をとった場合、それに対して誰よりも激しく「非難・批判」する。そうすることで同じようにその外国の挑発的な行動に怒っている人の共感を一挙に集めることになる。図1のループがなぜ回り、誰が一番得しているかを冷静に分析すべきだと思う。*28

(2)非難や批判により緊張関係を作り相手の譲歩を引き出す効用

国と国の関係でよく見られるのだが、一方の国がある国を非難しはじめた時、他方の国もその国に対抗して非難を行い、非難合戦とする方法だ。言論での非難に留まらず、報復処置が伴う場合もある。
非難合戦によって、その二国間関係は緊張関係が高まる。そして両方の国に損害がでる。両方の国ともその損害を厭い始めた時、ひとまず緊張を緩和するため譲歩を行う。この効果を狙う方法である。
奇しくも、日韓関係は今対立が深まり、上記の状況に近くなった。

  • 日韓関係の認識

よい 日本:7%、韓国:11%|悪い 日本:87%、韓国:86% *29

  • 日韓関係の改善

すべき 日本:83%、韓国:90%|必要なし 日本:13%、韓国:9%
「日韓共同世論調査」 : 特集 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

上記の調査によれば、依然として日韓両国とも日韓関係の悪化の原因は相手国にあると考えているが、関係を改善すべきという意識は持っている。日韓の和解をめざすならば、この両国民の意識を次のステップに広げていく必要があろう。但し、日韓双方とも相手国が受け入れ難い要求をしている限り関係の改善を急ぐ必要はないと考えている点は十分考慮すべきだろう。まだ、双方が譲歩を望む状況にはなっていない。*30

日韓双方のナショナリズムから距離をとる

和解を目標にすると「非難・批判」の使い方はとても難しいものになる。特に今の日韓関係のように冷え込んだ状況の中で、更に「非難・批判」すれば、それは和解ではなく関係を壊す方向に働く。図1に表した通りだ。
もっとも、全く「非難・批判」なしに慰安婦問題の解決に向けた取り組みが行えるとは考えられない。したがって、その相反する命題の折衷点を探る必要がある。
結論を言えば、慰安婦問題の解決を阻害する最も重要な対象(人、事象)に「非難・批判」を絞るべきだろう。つまり「非難・批判」は河野談話否定に象徴される慰安婦制度の強制性否定の動き」(日本のナショナリズム慰安婦問題に対する日本の法的責任追求に固執する態度」(韓国のナショナリズムに限定すべきであり、加えてその両方に向けられるべきだ。前者だけ「非難・批判」すれば、図1に示した日韓関係を破壊するメカニズムは動き続ける。日韓双方のナショナリズムから距離をとり、両方に批判を行うことで図1で示したメカニズムは崩れる。それを図に表すと次の図のようになる。*31

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図6:日韓関係の対立増大メカニズムを動かなくした状態

今後も日韓の対立に繋がる出来事には事欠かないと思う。だが図6のように、双方のナショナリズムと距離を起き、等分に批判的な人たち、すなわち第Ⅱ象限『世俗的・実利重視』の左派の発言力が大きくなれば、日韓関係が一方的に悪化する状況は生じにくくなる。
慰安婦問題とは異なる日韓対立の事例であるが、例えば、産経新聞の前ソウル支局長の起訴の件をあげてみよう。韓国が刑事事件として起訴したことに、日本のマスコミも政党も、左右の差なく韓国を批判した。この状況では日本のナショナリストの声は目立たない。日韓の国民感情がこの事件によって大きく悪化したようには思えない。日韓双方に是々非々の態度で対することは、実は日韓関係を安定させる効用があると思う。*32

よいニュース

「日韓の和解と慰安婦問題の解決」を願う第Ⅱ象限の左派にとって、断言はできないのだが、よいニュースが2つあるように思う。

(1)第Ⅱ象限の左派はサイレントマジョリティだと思われる

私は、「日韓の和解と慰安婦問題の解決」を願う第Ⅱ象限の左派が、日本国民のサイレントマジョリティ(多数派)だと思っている。
残念ながら、物証はない。
確かにネットには嫌韓の書き込みが溢れ、書店には嫌韓本が並んでいる。一方、日本を一方的に非難するネット言論も多い。
でも考えてほしい。原理原則を重視し理論を組み立て社会はその通りであるべき、すなわちその他の考え方を認めないとする人と、少々の矛盾を許容しながら折り合いをつける、いわゆる世俗的な人は、一般的にどちらが多いだろうか。そしてその世俗的な人の中で、(私のように)国益が優先とマキャベリズム的にうそぶく人と、国際協調が大事だと考える人はどちらが多いだろうか。
しかしまだ第Ⅱ象限の左派の声は小さい。多数派である優位を活かすためには、まず声を上げることが必要だろう。

(2)朝日新聞の動き

80~90年代の朝日新聞の論調は、明らかに「原理的・原則重視」の第Ⅲ象限の左派の意見を代表していたと思う。
だが現在、朝日新聞慰安婦問題について第三者委員会を設置し、吉田証言の報道について検証を行っている。
その過程で、朝日新聞がきちんと「サイレントマジョリティ」の意見と向きあえば、これまでの論調を変えて、第Ⅱ象限の左派の意見を代弁するようになるかもしれない。
声を上げろと書いたが、個人の発言力なんて限られているのも事実だ。現状の左派の衰退は、左派系マスコミの責任も大きい。マスコミが変化しなければ、現状は変わらないだろう。その観点で、朝日新聞第三者委員会の調査結果は注目される。調査結果が第Ⅲ象限の左派の主張と第Ⅳ象限の右派の主張の両方から距離を置いたものになれば、それは朝日新聞が第Ⅱ象限の世俗的、実利重視の左派の意見を代表しようと考え始めている表われかもしれない。もしそうなれば、潮目が大きく変わるかもしれない。
 

慰安婦問題の最終解決のために乗り越えねばならないこと

慰安婦問題の解決を阻害する最大の原因は、日韓双方のナショナリズムと書いた。
しかし、日韓双方とも、ナショナリズムがなくなることはない。そもそもナショナリズムは全ての国家とその国民が持つものであり、それがない国などない。さらに言えば健全なナショナリズムはその国にとって有益でもある。
日韓双方のナショナリズムをなくそうとして活動すれば、その動きに反発してまた図1の日韓関係を壊すメカニズムが復活する。そして慰安婦問題の最終解決の道のりも壊れてしまう。

日韓双方のナショナリズムの変化を促す

「①現在の日韓双方のナショナリズムは、日韓の和解の最大の阻害原因となっている」「②日韓双方ともナショナリズムはなくならない」
この2つの命題から導き出される答えは、日韓の和解のためには「③日韓双方のナショナリズムを日韓の和解を妨げないように変化させる」しかないだろう。*33
日韓の和解への道のりでは、これが最大の難所だ。
残念ながら、私にはこの変化の道筋が見えない。だからこそ日韓関係を悲観的に見ているといえる。
道筋を示すことはできないが、日韓の和解が成り立つ状態は示すことができる。それは次の図のようになると思う。

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図7:日韓両国のナショナリズムの対立を乗り越えた状態

慰安婦問題の解決を願う人」は日韓協力して日韓のナショナリズムがお互いに尊重しあうように、説得する必要があると思う。少なくとも日韓双方のナショナリズムが互いに不干渉とならなければ、慰安婦問題の解決はないだろう。

日本のナショナリズムに変化を促すのは誰か

図7の日本側の部分を考えてみよう。
日本のナショナリズムの変化を促すのは誰ができるのだろうか。
まず第Ⅲ象限の左派にそれができるかだが、第Ⅲ象限の左派は、第Ⅳ象限の右派と深刻に対立していて説得できる状況にないし、なによりも第Ⅲ象限の左派が第Ⅳ象限の右派を説得しようと考えるとは思えない。それは全く期待できない。第Ⅲ象限の左派にはこの役目は行えない。
次に第Ⅱ象限の左派にそれができるかを考えてみたい。
一般に4つの象限の斜めの象限の関係は、政治目標も考え方も異なる一番遠い立場となる。この関係の両者は、議論すら成り立たないことが多い。いくら第Ⅱ象限の左派が説得しようとしても、そもそも慰安婦問題の存在すら認めない第Ⅳ象限の右派がそれに乗ってくるとは思えない。やはり第Ⅱ象限の左派にはこの役目は行えない。*34
消去法によって、第Ⅳ象限の右派を説得する、すなわち日本のナショナリズムの変化を促す役割は、第Ⅰ象限の右派の役割なのだろうと思う。第Ⅰ象限の右派は、ずっと第Ⅳ象限の右派、すなわち日本のナショナリズムに寄り添っている。国益を重視する政治目標も同じだ。その関係性を利用して説得していくしかないだろう。右派同士で説得する状況が生じるか、そしてそれが成功するかという点は、韓国の状況次第だと思われる。朴裕河氏も書いているが『国家の関係も相対的なもの』だからだ。
その状況を作るために「慰安婦問題の解決を願う人」の主体となる第Ⅱ象限の人は、戦略的にどう行動すべきか考える必要があるだろう。

韓国のナショナリズムの変化を促すことはできるのか

それを分析するには、韓国の現状分析が必要だろう。次項で記述したい。
 

韓国の分析

韓国のナショナリズムとは

ここで朴裕河氏の投稿から引用したい。

韓国社会の「語れない構造」は、一種類の意見と認識だけが受け入れられる、極めて硬直した社会構造が生み出したものです。(中略)
「違う」考えを持ちながらも言わなかったり、言えなかったりする構造は、今日まで韓国社会全体に強力に生きています。(中略)
その理由はもちろん恐怖ですが、それは彼らの誤りというより、むしろ一つの声以外は容認しない私たち自身が作ったものです。
それでも慰安婦問題を解決しなければいけない理由 | 朴 裕河

この状況の最大の被害者は、韓国人自身だと思う。こういった状況を生んだ理由の全てがナショナリズムだとは言わないが、この事象は、韓民族とは「抵抗・自主・忠節・純潔」が備わりそれを誇りとする民族主義と、その民族観をもとに韓国は「純潔で善良な国」と定義する独特のナショナリズムに深く結びついている。
だからそれから逸脱する発言は圧迫され、社会的に抹殺されていく。
前述の朴裕河氏に対する訴訟などは、その典型的な事例に思える。*35

各象限を代表する団体、個人とは

日本の分析で用いた「4つの象限」に基づく分析は、韓国の分析でも使うことができる。もっとも韓国の左右対立には、親アメリカか親北朝鮮かという大きな対立軸があり、一般にはその対立軸を使って分析するほうがより現実に近い分析ができることが多いのだが、今回は日本の言論との対比という側面を重視して同じ軸を使って分析してみたい。*36
そこで、慰安婦問題に対する韓国の代表的な団体や個人の主張を、私の考えで4つの象限にプロットしたのが、次の図になる。

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図8:韓国の代表的ステークホルダーのポジション

韓国のナショナリズム慰安婦問題に与える影響

日本では、政治的な左右の軸によって慰安婦問題に対する態度が大きく異なる。ところが、韓国の場合、第Ⅲ象限の左派と第Ⅳ象限の右派の慰安婦問題に対する態度はほぼ同一である。共に日本に対する法的責任を求める。
この分類法だと、ナショナリズムは第Ⅳ象限の右派に多く見られる考えなのであるが、韓国のナショナリズムは「日本の断罪」という性向があり、慰安婦問題の場合、第Ⅳ象限の右派と第Ⅲ象限の左派が一体となって日本を非難する状況になっている。挺対協などの活動がナショナリズムを土台にしているとは思わない。ただその活動は、結果的に韓国のナショナリズムを強化する方向に働いている。

日本は左右の対立構造、韓国は上下の対立構造

韓国の第Ⅰ象限の右派は、ニューライトと呼ばれる右派だが、ニューライトも慰安婦問題の実態を正しく知ることが大事としており朴裕河氏の考え方と比較的近いと評価できる。挺対協とは慰安婦問題の捉え方が異なっている。
慰安婦問題に対する国内意見の対立は、日本では左右の対立であるが、韓国では上下の対立、つまり「原理・原則」対「世俗・実利」の対立だと思う。
国内の対立構造が日韓で異なるということは、韓国のナショナリズムの変化を促す処方箋は日本のナショナリズムの変化を促す処方箋とは異なるということを示すと思う。

韓国のナショナリズムの変化を促すことは可能か

正直に言って、私にはわからない。ただ現状のままでは難しいのではないかと感じる。
ここで前述した朴裕河氏の著書「和解のために」から引用したい。これは慰安婦問題ではなく教科書問題の一節である。

すでに明らかのように、教科書問題は彼ら日本人だけのものではなく、韓国もまたともに抱える問題でもある。(中略)
韓国は開放以後もなお国語と国史に土台をおいた、愛国心を育てる戦前戦中の日本的教育、民族主義教育を受けていた。
和解のために?教科書・慰安婦・靖国・独島 (平凡社ライブラリー740) (p71)

韓国は、日本の「つくる会」が願うような愛国心を養う教育を(日本の敗戦による)開放の時から続けてきた。日本の「進歩的」と称される左派や韓国が強く批判する「つくる会」に対する批判と同じように、朴裕河氏は韓国の教育に対しても同じ批判を向けている。
私は、韓国ではそういった教育が長く続いてきたために、韓国のナショナリズムは日本以上に韓国社会に根づいたものになっていると思う。しかし日韓の和解を願うならば、韓国のナショナリズムの変化も促さねばならない。その現実は直視しないといけないだろう。

まとめ

ここまで現実性を度外視して最大限楽観的に分析をしてみた。
私の結論は、やはり慰安婦問題の解決に対しては悲観的なものになる。それは、日韓双方の国内対立と日韓の対立が構造的に複雑に絡み合っているからだ。こういう状況では、どれかの考え方を持つ人たちが一方的に勝利し決着することはあり得ないだろう。
つまり慰安婦問題の解決のためには、日韓両国の国内言論も、日韓の国と国としての関係も、複数の全く異なる考え方を許容し、建設的、友好的に話し合い、折り合いをつけていくということが必要不可欠だ。しかし、今の日韓両国は真逆の方向へ進んでいるように見える。
一方で、これは別の投稿に詳しく書こうと思うが、もう少し時間が経つと東アジアの国際情勢、特に安全保障上の状況が変化し、それが日韓の歩み寄りを促すかもしれないと思う。それにはアメリカの動向が大きく関わってくるのだが、もしかするとそういった動きが始まるかもしれない。
慰安婦問題の解決のためには、日韓の努力とは別に、そういった外部の力が必要なのかもしれない。
 

謝辞

この投稿の基礎となっている「4つの象限」で分析する方法は、もう1年以上前から考えていたのだが、残念ながらこの分析の主役だと思った第Ⅱ象限『世俗的・実利重視』の左派の主張が見つからず頓挫していた。*37
ずっとその主張を探していたのだが、「日韓関係について」という8月18日の野田元首相の投稿に対するid:hitouban氏のブコメを見つけて、手がかりを掴めたと思った。*38

hitouban (追記)↑申や★あげてる御一党を眺めてて思うのは、彼らは自分たちがずっと寄り添ってきたモノが韓国のナショナリズムだって事を認めたくないんだろうなぁ、と。
はてなブックマーク - 日韓関係について

(参考)

そこでhitouban氏の慰安婦問題に対する過去のブックマークコメントを読み直し、氏が推している朴裕河氏の著書や彼女のフェイスブック、ハフィントン・ポストなどの投稿を読み、ようやくこの投稿を書くことができた。この投稿を書こうと思ったのは8月21日なのだが、遅筆ゆえ3ヶ月近くかかってしまった。それでもとりあえず考えをまとめることができたのは、氏の慰安婦問題に対する一連のブックマークコメントがあったからだ。心より感謝申し上げたい。
この投稿のタイトルは、氏の上記のコメントから頂戴している。
もっとも、hitouban氏は本人もそういうように左派、私は第Ⅱ象限の左派だと思っているのだが、第Ⅰ象限の右上限界に近い私とは慰安婦問題に対する考え方、態度が明らかに違う。この投稿の内容は氏の考えとは全く異なる点、明記しておきたい。
 

 

(脚注と補足)

*1:細かなことであるが、慰安婦問題は解決していないという朴裕河氏の認識に同感しているという意味は、私は慰安婦問題について日韓基本条約があるからと言って道義的な責任は依然として日本にはあることを認めるという立場だということである。一方、私は慰安婦問題に対する韓国の請求権は日韓基本条約とその付随条約により既に消滅していると考えており、それが意味しているのは慰安婦問題は既に国際法的には解決済みということである。道義的な解決と国際法的な解決を私は分けて考えている。私は過去にはてなブックマークコメントなどで慰安婦問題は解決済みと断言したものを残しているが、それらは全て国際法的な解決という意味である。道義的な解決は国と国という二国間関係では必須ではない。

*2:時系列から考えて、今回の日韓関係悪化の引き金を引いたのは韓国側にあると考えるのが自然だと思う。

*3:慰安婦被害女性が死去…生存者54人に | Joongang Ilbo | 中央日報 なおこの投稿で54人と断言していないのは、永遠に口をつぐみたいという元慰安婦も存命している可能性を否定できないから。

*4:象限とは『平面を直交する二直線で仕切ってできる四つの部分の一つ一つ。』の意味なので4つの象限という表現は厳密にはおかしいのだが数を強調するためあえてこのように表現した。ご了解いただければと思う。 しょうげん【象限】の意味 - 国語辞書 - goo辞書

*5:上下は優劣を示すものではないという点を強調しておきたい。

*6:2つの情報を関連づけて、そこから結論を必然的に導き出す思考法のこと。証明はできないので単なる気づきにすぎないが、原理的、原則重視の人は論理的思考法のうち、この演繹法を多用する傾向があると思う。

*7:私は自分自身を限界に近いバリバリの右派だと任じている。時々左派と思しき人から「似非中立」と批判されることがあるが、中立を信条としたことはない。この投稿の内容も、典型的な「現実主義的な右派」の投稿だと思っている。

*8:廬武鉉政権時代に慰安婦問題は日韓請求権協定の対象外とするという方針を出したようだが、正式な外交要求となっていないと認識している。また韓国の憲法裁判所が慰安婦問題の解決に対する韓国政府の姿勢が憲法違反だとした判決後、李明博政権が慰安婦問題を正式に外交問題化したが、その際も慰安婦問題は日韓請求権協定の対象外だと正式な外交要求は行っていないと認識している。もしその認識に誤りがあり、韓国政府が既に公式に慰安婦問題は日韓請求権協定の対象外だと外交要求しているのであればこの文をすぐに修正するので、それを示す資料を教授してほしい。

*9:これに対しては、一部で韓国政府は今まで賠償を求めていないという反論もあるようだが、国の法的責任を認めれば当然次には国家賠償という流れになるのは必然だ。少なくとも日本の法的責任を求める人たちが国家賠償を求めている以上、韓国政府が賠償は必要ないと明言しない限り、国の法的責任=国家賠償と日本側が考えるのは当然だろう。

*10:日韓請求権協定の第三条の仲裁は日本は受け入れないという意味。つまり請求権の有無は日韓請求権協定第二条に明確に規定されており、第三条1項で定義される「両締約国の紛争」ではないとする考え。

*11:国際司法裁判所規程 - Wikipedia

*12:この象限の考え方は「慰安婦制度の強制性の有無」に関わりがないため、いわゆる強制性の問題にはあまり関心を持たない。もっとも強制性を明確に認めると、日本の法的責任を認める動きを誘発することに繋がりかねないので、強制性については認めたり認めなかったり、あるいはあいまいな態度を示したり、一貫性はないように見える。そしてできるだけその論争から外に出ようとする。

*13:残念ながら肝心の韓国との外交関係では、河野談話が良好な効果をもったとは思えない。それは韓国の「謝罪が不十分だ」という批判を招き、日本国内の「謝罪は屈辱だ」という非難を招いただけに終わっている。

*14:人は「お前は間違っている」と非難する人より、「お前は正しい」と肯定してくれる人を好む傾向がある。この指摘を当たり前だと言わないでほしい。現状はこの当たり前の人の心の動きを「右傾化」と呼んで非難する人がいる。そしてその非難は更に「韓国はけしからん」という人を増やす。このループはずっと回っている。図1のループが回る心理的要素だ。

*15:簡単に分析すると次のような理由でないかと思う。①日中対立は領土や安全保障などの「実利的」な対立であるため日本国内の意見がまとまりやすい。②それに対して日韓関係の対立は「実利」よりも日韓双方の自尊心であったり名誉であったり「心の問題」のウェートが大きい。そのため日本国内に過去の贖罪とそれへの反発という深刻な意見対立が生じる。③その意見対立が恒常的に存在し日韓関係を対立に向かわせる方向に作用するので、日韓関係の方が日中関係のそれより顕著なのだと思う。

*16:強制性の有無によって、この投稿全体の論旨は変わらないということ。正しい認識であろうと正しくない認識であろうと、そう考えている人がいるという事実は揺るがないし、例え片方が正しくない主張をしているからといって、反論を行い争っている事実は揺るがない。「争点」という言葉尻をつかまえて批判する人がいるかもしれないので明記した。

*17:慰安婦制度が国際法でいう戦争犯罪であるかについても政府見解および右派との相違点であるが、その点は日本国内では大きな論争にはなっていない。

*18:韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)の主張。なおタイトルは韓国語だが主張は日本語訳されているページをリンクしている。リンクはこちら→(한국정신대문제대책협의회

*19:日本政府の対応や慰安婦制度の強制性を認めない人などに対する非難を行い、日本政府に法的責任を認め国家賠償するよう要求しているという意。

*20:語弊がありそうなので「実利重視」という語について少し補足しておきたい。ここでの「実利」とは「実際の利益や効用」という意味であり、元慰安婦の実際の利益、あるいは元慰安婦の救済に向けた効用を重視して考えているということを表している。じつり【実利】の意味 - 国語辞書 - goo辞書

*21:朴裕河氏は韓国人で韓国在住であるから日本国内の考え方の代表例として彼女の投稿をあげるのは適切かどうか検討したが、この投稿は日本国内向けに日本語で書かれていること、すなわち読者と想定しているのは主に日本人であること、日本国内の少なくない人が朴裕河氏の活動を支援していること、朴裕河氏はこれまでも日韓双方に向けた言論を表してきたことを重視し、この象限の代表的な言説として問題がないと考えた。

*22:私はこの考えが正しいとも正しくないとも評価をしていない。更にこの投稿全体でどんな考えが正しいとすべきかという考察を全くしていないことをつけ加えておきたい。正しいか正しくないかを判断するのは、この投稿の趣旨ではない

*23:この投稿の趣旨は正に政治的な力の相互作用の分析なのだが、これは第Ⅰ象限の右派の典型的な考え方だと思っている。

*24:慰安婦問題は国と国と問題であり、日本の言論は日本国の主権者たる「日本国民」の多数意見が重要だと示すためにあえて「日本国民」と強調して書いた。在日韓国人などステークホルダーたる外国人の意見は、重要な参考意見ではあるのだが、日本側のこの問題の主体たりえない。その2つを区別すべきではないという意見を左派は抱くかもしれないが、右派はそれはありえないと否定するだろう。左派がそういった右派の考えを非難したい気持ちはわかるのだが、非難は和解につながるのか?と問いなおしてほしい。

*25:ある種の人たちは「非難や批判」をいわゆる「論破」するため、あるいはそれを期待して行っているのかもしれない。相手がよっぽど議論慣れしていない素人議論ならともかく、国際関係を扱う議論で「論破」は通常ありえない。外交の場ではときおり「常識を疑う」主張を行う国もありはするが、だからと言って「論破」され沈黙させられることはほとんどない。

*26:自分の意見と異なる人全てに攻撃的な非難・批判を加える人、グループが時々あるが、そういうやり方が何か効果をあげることは極めて稀である。そのやり方は、最終的に深刻な内部対立を生み分裂と対立を繰り返すことになる。そしてそれは時として暴力的になりうる。

*27:例えば安倍首相など。一部の左派はこういったナショナリスト在特会のような排外団体と同一視したがるのだが、それは評価を誤っている。ナショナリズムは日本に対する愛国心を正義とする原理原則を重視する立場であって必ずしも排外主義とは限らない。確かに排外主義的傾向を持つ人も多いし、安倍首相のとりまきには排外団体に近い人もいるが、安倍首相自身はそういった団体から適度に距離をとっている。

*28:効果をあげるためには、「非難・批判」する対象(人、事象)を戦略的に設定することが重要だ。少々「非難・批判」する内容に問題があっても効果はそんなに変わらないようにみえる。極論すれば、「非難・批判」する対象(人、事象)が戦略的に設定できさえすれば、「非難・批判」する内容が例え正しくなく間違っていたとしても効果はあげられる。一方、その逆、「非難・批判」する内容が正しかろうと「非難・批判」する対象(人、事象)が戦略的に誤っていればほとんど効果はないか、あるいはその批判者にとってマイナスの影響がある。

*29:「よい」は「非常に良い」と「どちらかといえばよい」の合計、「悪い」は「非常に悪い」と「どちらかといえば悪い」の合計

*30:私は第Ⅰ象限の右派なので、基本的に二国間関係を性悪説で見る。その場合、対立する二国の双方ともまだ譲歩を望んでいない場合には、対立をそのまま維持するしかないと考える。この項はあくまで日韓の和解を目指すならばという前提付きである点、お断りしておきたい。

*31:日本のナショナリズムに意図的に寄り添っている私から言われたくないという反発があると思う。それはその通りと思うしその批判は甘んじて受けたい。ただそれでも1つだけ言いたいのは、意図的であるかないかに関わらず韓国のナショナリズムに寄り添うのも同じことだということだ。

*32:但し日韓関係を改善する効用はない。安定させる効用だけだと思う。

*33:2つの命題の答えは、「日韓は和解できない」も成り立つ。既に書いているが私はこの立場だ。だがこの項は和解のための分析を書いているので、この答えを採用していない。

*34:同じように第Ⅰ象限の右派と第Ⅲ象限の左派も議論はかみ合わない。第Ⅲ象限の左派は、第Ⅰ象限の右派も第Ⅳ象限の右派と根底は同じだとみなすことが多い。そして慰安婦問題では同じように強制性の認識について議論し批判する傾向が強い。一方、第Ⅰ象限の右派は、そもそも慰安婦制度の強制性の有無も含めてその内容について関心が薄い。慰安婦問題に対する譲歩は国益を損なわないか、ただその1点のみ興味がある。そのため議論はかみ合わない。

*35:従軍慰安婦問題を巡る常識と言論空間 | 木村幹

*36:なお、韓国の右派は、この政治的な左右の対立軸を「自由主義」と「共産主義」の対立軸と考えたがるが、イデオロギー的対立は冷戦の終了により世界的には後退しており、韓国だけその対立が重要だと見るのは適切ではないと思う。

*37:第Ⅱ象限の左派はこのような主張をしている「はず」と考えていた特徴は、①日本の法的責任について否定的である、②韓国の挺対協やそれに同調する人に対して批判的である、の2点だった。それを明確に書いている主張がなかなか見つからず苦労した。努力不足との誹りは甘んじて受けたいが、私は慰安婦問題の専門家ではないし、本当に興味を持っている分野とは違っていたこともあって、努力が足りなかったのだと思う。

*38:このコメントが「②韓国の挺対協やそれに同調する人に対して批判的である」に該当すると思ったから。