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北朝鮮の核実験で風雲急を告げる東アジア情勢

核実験を強行した北朝鮮

やはり北朝鮮は核実験を強行した。
まだ確定的な情報は流れていないが、日本、アメリカ、韓国からの報道を総合するとほぼ間違いないだろう。*1
北朝鮮自身が、「北朝鮮“地下核実験成功”と発表」した。
北朝鮮の核実験は、許しがたい行動であり強く非難する。

(補足)
私はこのブログの「北朝鮮の核実験は東アジアの平和と安定を破壊する」という1月27日の記事に書いた通り、北朝鮮が(1月27日から)数週間以内に核実験を行うと考えていた。
そこでこの投稿は事前に準備していた。それに2月12日の動向を踏まえ若干修正した上で公開した。


北朝鮮は、本気で「核兵器」を作っている。

今となっては、さすがに北朝鮮の本気を疑う人はいないだろう。
ところで「核兵器」というのは核爆弾運搬装置が両方必要とされている。だから最初に北朝鮮は運搬装置の実験として弾道ミサイル実験を行った。それに成功したので、次は弾道ミサイルに搭載できるよう核爆弾の小型化を企図して核実験を行ったと思われる。この行動は、軍事的に見るととても合理的な行動だ。

もう一度指摘したい。北朝鮮は本気だ。本気というのは一切の迷いがないということだ。

核爆弾は、原料となる核分裂物質を必要とする。ウラン235プルトニウム239が必要になる。ウラン235は、天然ウランに0.7%しか含まれていない。これを集め濃縮しなくてはならない。プルトニウム239は、ウランを原子炉で核反応させ同位体を含むプルトニウムをつくった後、プルトニウム239を取り出さなければならない。兵器級の核分裂物質の入手は、一朝一夕にできるものではない。
飢饉により100万人を超す餓死者を出そうと、他国から非難され国際的に孤立しようと、非難が集まれば「ミサイル発射のモラトリアム」に合意してみせる*2など国際世論を騙しながら、しかし全くそれらに影響されることなく、ただひたすらに核開発にまい進してきた。

一切の迷いもなく。


北朝鮮は合理的な判断を行っている。但し独裁体制維持の範囲内で。

北朝鮮にとってみると、これまでの20年間、「ミサイル発射のモラトリアム」のような中途半端で検証できない、実質的には全く譲歩とはいえない形式的な譲歩を行うことで、国際社会、特に中国や韓国から援助を得てきた。
確かに、核実験と弾道ミサイル発射によって、国連安保理決議による制裁は行われた。しかし、北朝鮮の主な貿易国は中国しかない。中国との貿易は、ほとんど制裁による影響をうけず、昨年(2012年)には中朝間の貿易額は過去最高を更新した*3。そして時には、韓国の時の政権が太陽政策を掲げ、何も譲歩せずとも援助してくれた。
北朝鮮にとってみると、核開発での不利益はほとんどなく利益のみある状態だったと考えていい。
私たち日本人からすると、北朝鮮は「自ら孤立を選ぶ不合理な判断をする国」とみえるかもしれない。しかしそれは間違いだ。北朝鮮は冷徹に国際関係を分析し、極めて合理的に国益を追求している。アメリカと中国という大国の思惑の差を、冷徹に利用している。
北朝鮮の国民にとっては、中国やベトナムのように改革開放し生活水準を上げる方がずっとましな方策だ。しかし北朝鮮の最大の目的は金一族による支配を続けることそのものにある。
国民は生かさず殺さず。北朝鮮は21世紀においても封建体制の時と同じように、国民の犠牲を厭わず体制維持に徹しつつ、その前提の上で最大の国益を追求している。


北朝鮮は核開発を止めはしない。

先日、北朝鮮の金正日の遺訓を全文入手したとの報道があった。以下に引用する。

金総書記は遺訓で「核兵器と長距離ミサイル、生物化学兵器を絶えず発展させ十分に保有せよ」と指示しており、政府は北朝鮮の核実験強行の動きはこの遺訓を実現するためのものと分析しているという。
(中略)
遺訓は北朝鮮の非核化を目指す6カ国協議について「われわれの核をなくす会議ではなく、核を認めさせ核保有を公式化する会議にせよ」としている。
出典:韓国、金総書記の遺訓全文入手か 「核兵器発展させ保有せよ」

私たちは、6カ国協議などの交渉で北朝鮮が核開発を中止すると期待すべきでない。金正日時代はもとより、金正恩時代になってもその遺訓を守り、ひたすら核開発にまい進しているのが北朝鮮の真の姿だ。*4

北朝鮮には、交渉も、援助も、経済制裁も、効果がなかった。

それでは、日本は北朝鮮の核保有を甘んじて認めるべきなのか? 日本の安全保障上そんなことを容認できるわけはない。当然「否」だ。
しかし八方塞がりに見える今、日本はどうすればよいのだろうか?
そこで、関係各国の動きを予想しながら、日本のとるべき行動を考えてみたい。


アメリカ:強い行動とは何かが問われる。

2013年1月22日に決議された国連安保理決議第2087号では、北朝鮮が更なるミサイル発射実験や核実験を行った場合には、安保理として「重大な行動」を取ると警告している。

“19. Affirms that it shall keep the DPRK’s actions under continuous review and is prepared to strengthen, modify, suspend or lift the measures as may be needed in light of the DPRK’s compliance, and, in this regard, expresses its determination to take significant action in the event of a further DPRK launch or nuclear test;
出典:SECURITY COUNCIL CONDEMNS USE OF BALLISTIC MISSILE TECHNOLOGY IN LAUNCH

この項を入れさせたのは、アメリカだろう。当然、次を見据えての外交交渉だったと思われる。
それでは「重大な行動」とは何なのだろうか?
それはいずれわかってくることだが、傍証はある。

1機2000億円と言われ、アメリカも20機しか保有していないステルス爆撃機B-2が、グアムに派遣されている。また最新鋭のステルス戦闘機F-22も、沖縄(嘉手納基地)に派遣されている。これらはアメリカ軍の虎の子の戦力だ。特にB-2はよほどのことがない限り飛来してこない。B-2には、ピンポイント爆撃ができる通常爆弾を16発、あるいは地中の目標を破壊するバンカーバスター爆弾を8発搭載できる。
アメリカは、「重大な行動」として、軍事攻撃も選択肢のひとつとしているのは、間違いないと思う。


韓国:日米と歩調を合わせる。

韓国は、基本的に日米と歩調を合わせるだろう。

韓国が来月、安保理の議長国となることについて、キム国連大使は「北朝鮮などの問題について日本とも連携を強化したい」と述べ、現在安保理のメンバーではない日本とも、緊密に連絡を取る考えを示しました。
出典:韓国国連大使 北朝鮮に対抗措置を示唆

北朝鮮の核実験に対する対応の件では、韓国を当てにしていい。


中国:2つの選択肢。北朝鮮をかばうか、北朝鮮を制裁するか?

中国の対応は、2つの選択肢があると考える。
今まで通り北朝鮮をかばうか、それとも今回は自ら北朝鮮へ制裁するかだ。
核実験の実行前に書いた投稿「北朝鮮の核実験は東アジアの平和と安定を破壊する」にはもう少し詳しく書いているが、今回はさすがに中国も北朝鮮をかばうことで失う国益が大きくなってきているとみる。
今までであれば、中国が北朝鮮を制裁する可能性など一笑に付す程度のものだったと思うが、今回は検討に値する程度には可能性があると考える。

当然、日本にとっても、アメリカにとっても、中国が北朝鮮を制裁するのは歓迎だ。*5
であれば、日本とアメリカは、中国が北朝鮮への制裁を行なうよう、中国を日米の交渉と行動で追い込むことはできないだろうか?
中国の本音が北朝鮮に対する制裁は行いたくないということであるのは明白だ。しかし、中国に制裁を行わせるのを最初から無理だとあきらめず、その観点でアメリカの軍事攻撃オプションをもう一度吟味してみよう。


アメリカによる軍事攻撃は中国の大戦略を阻害する。

イラク戦争でのアメリカの攻撃方法から考えると、もしアメリカが本当に北朝鮮に対して軍事攻撃をするならば、それは、レーダーサイト、対空ミサイル、空軍基地などに対する攻撃から始められると予想する。韓国、日本、グアムの米空軍基地から出撃する航空機と、航空母艦から出撃する航空機による空爆。それから艦隊と潜水艦から発射される巡航ミサイルによる攻撃などだ。
例えば潜水艦が黄海から巡航ミサイル攻撃を行う場合、巡航ミサイルの航続距離が1500km以上に及ぶことを考えると、それは米軍がいつでも北京を攻撃できるという事実を中国に突きつけることにもなる。特に改オハイオ級巡航ミサイル原子力潜水艦は、1隻で154発もの巡航ミサイルを搭載している。大きな脅威になるはずだ。

北朝鮮に対するアメリカの攻撃は、アメリカの軍事力に対抗し中国本土への接近阻止を達成しようとする中国の大戦略*6を阻害することになる。
中国としては、絶対に容認できないことだ。


アメリカは本気で軍事攻撃を考えているか。

孫子に、「辭卑而益備者進也、辭疆而進驅者退也」*7(ことばつきがへりくだっていて守備を増強しているようなのは進撃の準備である。ことばつきが強硬で進攻してくるようなのは退却の準備であるという意)という節がある。
アメリカがわざとB-2の配備をリークし、北朝鮮に対し「核実験を行えば重大な行動を取る」と警告するのは、軍事攻撃したくないという本音の裏返しだろう。また韓国にしても、第二次朝鮮戦争の引き金になりかねない軍事攻撃は躊躇するだろう。

アメリカの本音は、北朝鮮に対する軍事攻撃は行いたくないということなのだろうが、それではアメリカによる軍事攻撃の可能性は全くないのだろうか?
4点考慮すべきことがある。

  • このまま北朝鮮の核開発を放置すると、いずれ核兵器の実戦配備が行われるのは明白だ。そして時間が経つにつれ北朝鮮の核爆弾の保有数は増えミサイルが増備されていく。
  • その結果、アメリカの威信とパワーが落ちたことを世界に印象づける。中国の台頭という歴史的転換点でもあることから、様々な国際問題に対するアメリカの発言力が落ちるだろう。
  • 石油権益への影響の観点などから、世界的には北朝鮮の核開発よりイランの核開発の方が大きな脅威とされているが、この実験の成果がイランに流れると、イランの核開発の脅威は飛躍的に高まることになる。
  • 当事者である日本・韓国とアメリカとの同盟関係が揺らぐ。それはアジア全体に波及し、アジアの安定が損なわれることに繋がりかねない。

北朝鮮への武力制裁は今が最後のチャンスともいえる。アメリカは、アメリカで苦しい選択肢を突きつけられている。
本音は軍事攻撃したくなくとも、アメリカは「軍事攻撃する意思も力もない」と見切られるとアメリカのパワーは大きく削がれることになる。


舞台は、国連安保理へ。アメリカと中国のチキンゲームが始まる。

国際世論

国際世論は、間違いなく「北朝鮮の核実験に対する非難」が大勢を占めることになる。
そして、安保理決議第2087号の警告を敢然と無視した北朝鮮に対し、第2087号でいう「重大な行動」をとるべきだという日米韓の要求に対して、容認する流れができると思う。

アメリカの動き

アメリカは、「重大な行動」として、国連憲章第7章第42条に基づく武力制裁を求めると予想する。本音はやりたくなくともここで弱腰になるのは何らアメリカの国益にならないからだ。
そして日本、韓国、グアムの米軍基地に増備を行い戦力を整えていく。それが北朝鮮のみならず中国への圧力になる。
アメリカは本気で武力制裁を行おうとしていると中国に思わせれば、それは有力な外交カードになる。アメリカにとって、安保理の議論は有利に推移するとみる。
狙いは、中国に北朝鮮に対する実効ある制裁を行わせることだ。中国にリスクを負わせ、北朝鮮へ圧力をかけさせる。これがアメリカにとってベストシナリオに思える。ただし中国の制裁がうわべだけのものに終わるなど不十分な時に備えて、アメリカの制裁を妨げないようにしておきたいだろう。

中国の動き

中国の本音は、北朝鮮への制裁は行いたくないだと思う。一方で武力制裁の名のもとに北朝鮮の領土領空をアメリカ軍の自由にさせることは絶対に阻止したい。しかし言うことをきかない北朝鮮を放置すると、これはこれで中国の威信にかかわる。もし北朝鮮への制裁を織り込んだ安保理決議に拒否権を使えば国際的に孤立し非難を招くだろう。
中国も苦しい選択を強いられている。アメリカが強硬に出ると、選択肢が更に限られていく。中国は、アメリカが本音ではアメリカ軍による武力制裁を望んでいないと看過してはいるだろうが、だからといって「やれるならやってみろ」と武力制裁を許容する動きもとれない。中国は対応に苦慮すると思う。
だから中国は、安保理で議論が行われている間に、北朝鮮から何らかの譲歩を得て、決議そのものを行わないで済む方策を探るのではないかと予想する。
そのためにも、中国は北朝鮮への圧力と対話を急ぐはずだ。
まず、通関検査事務を強化し貿易量を減らす。これは既に実施しているようだが貿易が事実上ストップするぐらいまで徹底するのではないか。
そして特使を送り半分恫喝混じりでも交渉を行うだろう。その時の圧力を増すために、中国軍の陸軍師団を国境沿いに配置するかもしれない。*8


日本はどうすべきか。

基本は「北朝鮮を強く非難し、中国へ圧力をかけながら、考えうる最悪に備えよ」だと思う。その観点で次のような対応をとるべきと考える。

  • 日本は、アメリカ・韓国と歩調を合わせて、世界が一つになって核の脅威と対決する国際世論を醸成し、北朝鮮への非難を強め、武力制裁を含む国連安保理決議を採決するよう関係国に働きかけること。
  • 中国に対して北朝鮮への制裁を行うよう働きかけること。
  • 日本自身は、憲法の制約で武力制裁ができない。そのため、その代替となる北朝鮮に対する独自の制裁を準備しておくこと。
  • 安保理が武力制裁決議を行った場合、日本周辺がいわゆる有事と呼ばれる状況になる可能性もある。それに対する体制、特に有事法制を整えておくこと。
  • 憲法第9条などの制約を順守しつつも、自衛隊ができる行動、例えば日本国内でテロが発生した場合の対応策などをリストアップしておくこと。

私たちは、北朝鮮が核兵器を保有するこということがNPT体制を大きく揺るがすことだということを、忘れてはいけない。
NPT体制が崩れるとタガが外れたように、世界中で核開発競争が起こるかもしれない。世界中の国が核兵器を保有する世界は、極めて不安定で危険なものであると認識しておきたい。そんな世界にしてはならない。
北朝鮮に対する安易な譲歩は、危機を増幅するだけだと心したい。




(付録)国際関係論の用語を使って要約

上記の分析は、一言で言えば、オフェンシブ・リアリズムで言う「バック・パッシング」*9をアメリカ(日本・韓国)は中国に対し仕掛けるという分析だ。
しかし、中国へのバック・パッシングに失敗したケース*10に備え、アメリカは「バランシング」*11も行うと考える。アメリカは二重構えでこのケースに臨むと思う。

大国政治の悲劇 米中は必ず衝突する!

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(脚注)

*1:首相官邸での官房長官記者会見 http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg7580.htmlなど

*2:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_korea/abd/un_k1695.html

*3:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130128/k10015111851000.html

*4:遺訓が本物でない可能性もあるが、これまでの金正恩政権の行動は、この遺訓通りである点を私は重視している。

*5:韓国世論はやや複雑な反応を見せるのではないかと感じるが、概ね歓迎すると思う。

*6:接近阻止領域拒否 A2/AD http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8E%A5%E8%BF%91%E9%98%BB%E6%AD%A2%E3%83%BB%E9%A0%98%E5%9F%9F%E6%8B%92%E5%90%A6

*7:行軍篇第九の七 新訂孫子岩波文庫)p121

*8:過去にも、金正日の入院や死去の際、中国は陸軍師団を国境沿いに配置したことがあるといわれる。

*9:バック・パッシングを一言で説明すると、抑止の責任を(中国へ)肩代わりさせる戦略のこと。

*10:中国がバックパッサーにならないというケースとバックパッサーになっても能力が不足して抑止に失敗するケースの両方がある

*11:バランシングについての説明は「海国防衛ジャーナル」のこの記事(http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50316882.html)がわかりやすい。