日はまた昇る

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北朝鮮は最後の賭けに。日本も覚悟が問われている。

朝鮮半島情勢は、いよいよ緊迫の度合いを増してきた

北朝鮮は、中距離弾道ミサイル「ムスダン」を発射する構えだ。
北朝鮮は、アメリカを交渉に引きずり出すため、挑発を繰り返している。しかし、北朝鮮の軍備はいくら言葉で脅しをかけようとも、アメリカ軍に大きなダメージを与える能力がないと思われている。いくら挑発を行っても、アメリカをはじめ、韓国も全く動じるそぶりがない。
日本も近隣という点では十分被害をうける可能性もあるのだが、全く動揺していない。
北朝鮮は、既に国際社会から「オオカミ少年」だと思われて久しいのだ。

国連安保理決議の評価

国連安保理決議について

北朝鮮の2013/2/12の核実験をうけて、国連安全保障理事会は2013/3/7に「国連安保理決議第2094号」を決議した。
以下は外務省による全文和訳と概要説明だ。

制裁は本当に厳しい処置なのか

決議第2094号は、従来の決議の延長上にある。
アメリカは、「厳しい処置」*1と自賛するが、決議第2094号の内容は、従来の決議と同様で、資金の凍結、人の往来の制限などが柱となっており、それぞれ対象を追加し一部を義務化したのが特徴だ。
過去の決議によってこれまでも経済制裁は行われていたが、これまではその効果は限定的だった。
今回の決議内容は本当に「厳しい処置」なのか。その有効性は中国が握っている。

中国は積極的に制裁を行っているか

中国はいったいどのような制裁を行っているのか、今は情報が少なくあるいは錯綜しているので、よくわからないのが現状だ。そのためいくつかの周辺情報から判断するしかないと思う。

アメリカから中国に対する批判は行われていない

この1ヶ月、注意深くニュースを読んできたが、アメリカは中国に対して批判は行なっていない。
確かにコーエン米財務次官が中国で交渉したという記事はあったのだが「米財務次官、中国による北朝鮮の金融取引監視強化を期待」を読むと批判というレベルではないように思える。
この点から推測できるのは、中国は少なくとも決議第2094号で決めた内容を、表向きは遵守しようとしていると思われる。

第3回目の核実験で中国の態度は変わったか

2013/2の通関統計で、中国から北朝鮮への原油輸出がゼロになったという報道(2月期の北朝鮮向け原油輸出はゼロ=核実験に対する制裁か―中国)があった。これは中国による北朝鮮への制裁なのだろうか?
株式会社エイジアム研究所が出した「中国の対北朝鮮原油輸出中止について」でも輸出停止の件が分析されているが、ここでは2005年~2008年も2月に原油輸出がストップしたことから、パイプラインの定期点検によるものではないかという分析を行っている。更に、原油ではなく、軽油・重油・ガソリンなどの石油製品の中国から北朝鮮への輸出は2月に反って伸びていることから、この2月に中国が北朝鮮へ原油輸出をストップしたのは、核実験による制裁と考えるのは早計だとしている。これは妥当な結論だと思う。
中国は不快感を北朝鮮へ表しつつも、北朝鮮への基本的な態度は変えていないと見るべきだろう。
傍証として、さらに中国網日本語版に2013/3/13に掲載された中国外交部の楊潔チ部長の会見内容(楊外交部長:朝鮮制裁は安保理の真の目的ではない)をあげておきたい。ここで楊部長は従来通りこの問題は話し合いによって解決すべきだという姿勢を崩していない。
以上から、中国は積極的に北朝鮮への制裁を行なっているとは私は考えていない。但し、全く制裁をしていないわけではないとも思う。少なくともアメリカから非難されない程度には制裁は行なっているのではないか。

アメリカの反応

私は、アメリカは、北朝鮮への軍事圧力を加える一方で、中国に北朝鮮への制裁をバックパッシング、すなわち、中国が北朝鮮への制裁を行うよう持っていくと思っていた。*2
安保理における交渉が思ったより早く終わったのは、今までの決議に更に制裁を加えた決議に中国も賛成したこともあり、アメリカは今度こそ中国は本気で制裁すると考えたからではないかと思う。だから「厳しい処置」と表現したのではなかろうか。
前述の「米財務次官、中国による北朝鮮の金融取引監視強化を期待」でも、中国が制裁を行うことへの期待感がにじみ出ている。
一方、戦略爆撃機B-52、ステルス爆撃機B-2、ステルス戦闘機F-22など、アメリカが持つ重要な兵器を米韓軍事演習に投入し、北朝鮮へ強い軍事圧力をかけていった。北朝鮮は強く反発した。
しかし、2013/4/5になって米韓軍事演習の公表内容をトーンダウンさせるという報道『米国は北朝鮮への刺激「トーンダウン」へ、米韓演習の公表方法で』が流れてきた。
北朝鮮は米韓軍事演習を監視する技術的手段、例えば監視衛星や電子偵察能力などが極めて乏しいと想定されるので、アメリカ軍が公表しなければアメリカ軍の力の誇示は北朝鮮へは行えない。つまり圧力をかけることにならず、何のために今軍事演習をしているか意味が減殺されると思う。それにも関わらず、アメリカが公表内容をトーンダウンさせた背景には、『「家の前で問題起こすな」中国が北朝鮮・米韓牽制』で伝えられたように中国からの不快感の表明があったからと思う。
アメリカは中国からの不快感に対応した。しかし、そうなれば挑発を繰り返す北朝鮮に中国ももっとコミットせよといらだちをつのらるのは当然だろう。カーター国防副長官は「米国防副長官、中国に「懸念するより説得に動け」 日韓には「核の傘で守る」」と発言した。
そして、アメリカ国民の意見も、「米国で北朝鮮に対する不安増大、悲観論広がる」で報道されているように、北朝鮮を脅威とうけとる悲観論が急激に広がり、もし韓国が北朝鮮に攻撃された場合、米国が韓国を守るために軍事介入すべきかどうかを巡っては、10人中6人が軍事介入を支持するようになった。

ひとつ見過ごせない中国の動き

私は、安保理決議をうけて、中国は陸軍を朝鮮国境沿いに配備するのではないかと思っていた。*3
やはり中国は、3月中旬ぐらいから陸軍を朝鮮国境沿いに配置しているようだ。朝鮮日報の「中国軍、北朝鮮国境で兵力増強」(魚拓)という記事によると、3月19日に「1級警戒命令」が下され戦闘準備状態にあるとしている。この真偽はまだわからないが、北朝鮮での万一の事態に備えるため中国が中国軍を国境に集結させている可能性は相当高いと思う。
目的は次の3つではないかと思う。

  • 北朝鮮での万一の事態に備える(公式の理由)
  • 北朝鮮に軍事圧力をかける
  • アメリカに中国軍の存在を誇示する

中国は、軍を北朝鮮への威嚇にも、アメリカへの牽制にも使える。アメリカも中国の真意を図りかねている可能性がある。

北朝鮮の挑発の整理と分析

主な挑発内容

決議第2094号の決議以降に北朝鮮が行った主な挑発内容を列挙してみる。

矢継ぎばやに挑発を繰り返しているのを再度確認してほしい。

挑発の目的

北朝鮮は自暴自棄にはなっていない

最終的な目標は、アメリカを二国間交渉の場につけることだという点は、衆目の一致しているところだ。
北朝鮮は、追い詰められて選択肢がなくなり闇雲に挑発を続けているのではないと考える。それは「中国の姿勢が従来と同じ」すなわち「中国は北朝鮮の崩壊を願っているわけではない」と北朝鮮は知っていると思われ、それを前提に考えれば決して今は自暴自棄になる必要がない状況だと思われるからだ。
確かに中国も北朝鮮に苛立っていると思う。しかし、中国の家先で紛争が起こることを望んでいない。
そこで検討すべきは、北朝鮮はどのような論理にもとづき、どれくらいの勝算があって、アメリカを交渉の場につけようと考えているかだと思う。

矢継ぎばやの挑発が意味するもの

矢継ぎばやの挑発を行なっているというのは、北朝鮮の思惑を考える上でひとつのカギになると思う。
ほぼ毎日のように挑発を繰り返しているということは、それらの挑発は既に準備され、一つの挑発に対するアメリカ、韓国などの反応を把握、分析することなく、次の挑発を行なっているということを示している。
つまりこれらの挑発は、アメリカなど相手の反応で中止することを全く考えていなかったということだろう。つまりこれら全ては北朝鮮が本当に行おうとしていることの布石と考えることができる。布石だから決められた手順で決められた通り挑発を行なっていると思う。

北朝鮮の頼りは金正日の遺産=核兵器である

北朝鮮が頼りにしているのは「核兵器」であるという点は異論がないだろう。北朝鮮は「核兵器」による脅しによって、アメリカを交渉の場につけようとしている。しかし、現状ではアメリカは北朝鮮がアメリカに対して核攻撃する能力がないと見ている。そのためせっかくの虎の子の核兵器であるが、まだアメリカに対する有効な脅しの材料となっていない。

北朝鮮の思惑の仮説

これからは、仮説の話となる。上記の分析をもとに、ありうるシナリオを描いてみた。

ステップ1:グアムを核攻撃する能力を示す

グアムは北朝鮮からもっとも近いアメリカ領(準州)だ。そして一番大きな要素として、そこに西太平洋の中で要となるアメリカの基地(空軍、海軍、海兵隊)がある。
ここを攻撃する能力があるということは、東アジアに存在するアメリカの基地(韓国、日本、グアム)全てを攻撃できることを示すことになる。
グアムを核攻撃する能力を示すために、北朝鮮は次の行動をとると予想する。

弾道ミサイル「ムスダン」の発射

ムスダンの射程距離は、3,000km以上である。グアムへ到達できる能力を持つと思われる。
ミサイル発射で示すことは、十分な射程があることと、正確に目標へ飛ばすことだ。但し北朝鮮はまだムスダンの発射実験は行なっていないから、正確性の確証はないと思う。そこで、目標地点を示さず最大射程に近い距離を飛ばす実験を行うのではないかと思う。つまり事前にコースを発表してアメリカや日本のミサイル防衛網による迎撃を受けたくはないから、発射は不意打ちになる可能性が高いと思う。
この場合、グアムやマリアナ諸島小笠原諸島近辺に着弾すると、本当の戦争を引き起こしかねないし、日本の首都上空を通過するルートは政治的にとても危険なので、そういったことを避け島嶼のない海域に飛ばすのではないかと思う。私は北朝鮮から東の方向へ飛ばすのではないかと予想している。東方向に発射すると、東北~北関東当たりの日本上空を通過するルートになる。

核実験

弾道ミサイル発射実験が成功したら、今度はその弾道ミサイルに搭載可能な核爆弾を持っていることを示すと思う。
そこで、核実験を実施し、実施した後、実験した小型化した核爆弾の映像を公開する。あるいはムスダンに搭載する再突入体を公開するかもしれない。
これによって、ミサイル搭載可能で実際に爆発する核爆弾を保有していることを示すと思う。

ステップ2:韓国に対するゆさぶり

米韓軍事演習で、アメリカと韓国は相互の協力体制と同盟の強さを北朝鮮に示した。
米韓が強固に結びついていることが北朝鮮への圧力になるということは、逆に言えば、米韓が離れれば情勢が変わるということでもある。
核兵器といえども単なる軍事的な脅しだけでは、アメリカは屈服しないことは北朝鮮も織り込み済みだろう。アメリカは既にグアムにミサイル防衛網を築いていて、北朝鮮のミサイル防衛網を破る力は未だ不十分だ。
そこで弱い側を狙う。そういった戦略をとると思う。

韓国の世論への働きかけ、操作

先日、日韓共同で世論調査が行われた。日本側(読売新聞)の報道は、もっぱら日韓の相手国に対する感情悪化しか報道していなかったが、韓国側(韓国日報)の記事に興味深い記述があった。

韓国日報と日本の読売新聞が共同で実施した「2013韓日国民意識調査」の結果、北朝鮮の核開発を「脅威と感じる」という回答は、韓国が76.7%、日本は84.7%であった。北朝鮮の核に対応する方法においても、韓国は「対話重視(50.5%)」が多かったが、日本は「経済制裁などの圧力重視(52.6%)」が多かった。
北朝鮮の核兵器への対応方法 韓国は「対話」、日本は「制裁」(韓国語)

対応に失敗した時、被害がより大きいのは韓国であるから、韓国の世論が「対話重視」であるのは理解できる。しかし北朝鮮は「アメリカとの直接対話」を求めて恫喝を繰り返しているのである。北朝鮮が、ここにつけこみ切り崩しの突破口を見出したとしても不思議はないだろう。
韓国の世論に対する働きかけは、先に表された中国の懸念を利用する形になるのではないだろうか。

「どちら側であれ、この地域において挑発的な言動を行うことに反対しており、我々の家の前でトラブルを起こすことは許さない」
「家の前で問題起こすな」中国が北朝鮮・米韓牽制

この中国の発言を利用して、「どちらが悪いのか?」議論を作り上げるという仮説だ。
そして韓国の世論が、「北朝鮮は対話を欲しており、韓国やアメリカが挑発を止めれば、北朝鮮は譲歩する」と考えるようになれば、朴政権は身動きが取りづらくなる。既に韓国の世論では「対話」による解決を望んでいる人の方が多い。
日本でも、「北朝鮮のミサイル発射は許せないが、それを利用して軍事強化を行おうとする(日米韓の)動きはもっと許せない」という言説が、ネットでちらほらと見かける。*4

韓国の弱点=輸出依存の経済を突く

韓国は輸出依存の経済構造である。自国だけでは資金が不足しているので、外資の導入と輸出が死活問題となる。
ここにつけ込む隙がある。そして北朝鮮はこの弱点を既に突いてきている。
特に次の2つだ。

そして、核による恫喝を繰り返すことで、マーケットも反応するようになった。韓国株は外国人投資家の資金引き上げの動きによって下がり始めている。

韓国の金融市場が動揺し始めたからです。韓国経済はいまだに外資依存体質で時々、資本逃避――金融危機が起きます。この持病を北に突かれると実に弱いのです。(6p)
韓国株まで揺さぶり始めた金正恩の核恫喝

経済が大きく動揺してくれば、今の韓国の余裕は失われると思う。韓国は脆弱な基盤の上に今の繁栄がある。

非対称戦の実施

上記の手段を実行してもアメリカが譲歩しない場合、高度の緊張関係の状態が続くことになる。
その場合、北朝鮮は手詰まりを打開するために更に強硬な策に打って出る可能性があると思う。
兵員数は多いが旧式兵器ばかりの北朝鮮軍と、近年の経済成長を反映し最新兵器を導入している韓国軍を比較すると、確かに圧倒的な差があるように感じる。しかし一つ忘れてはいけないことは、戦争は兵器が行うのではなく人間が行うということだ。慢心は弱点になる。
そして、兵力差がある場合に実施する戦争は、非対称戦とか低強度戦争とかと呼ばれるものになることがとても多い。
例えば、特殊部隊あるいは工作員を潜入させ、善良な市民に扮し、破壊活動を行うような活動だ。正規軍同士の戦いにならず、正規軍同士の戦いよりも散漫とした武力行使が行われるため、非対称戦とか低強度戦争とか呼ばれる。
一言で言えば「テロ」といってもよいと思う。当然、実行部隊を突き止められると国際社会から大きな非難を招くので、実行部隊は極力隠密活動を行う前提だ。
今回は、延坪島砲撃事件のように、実際に見える形で軍を使えば、即時に米韓は報復に出る可能性が高い。そのリスクを小さくして、相手にダメージを与えるためには、今回は秘密裏の「テロ活動」が選ばれるように思える。その時、韓国の朴大統領は実行犯を断定し「北朝鮮の挑発、政治的考慮なしに強硬に対応」し、正規軍同士の戦いにエスカレートすることが本当にできるのだろうか?
そしてそのようなテロが行われると、実行犯が誰であっても、たとえ不明であったとしても、上にあげた2点、すなわち韓国の世論に影響し、外資は一斉に逃げ出すという動きを誘発する。

なお念のため付け加えておくが、私はこういったことを望んでいるのではない。オオカミ少年と嘲られてもいいから、この予測がはずれていることを強く願っている。
ただ、これまでの北朝鮮の動きはただ一つの方向を指し示している気がしてならない。
十分に警戒すべきだと思う。

日本も覚悟が問われている

韓国でテロが行われる時、それが韓国だけで済むという保証は全くない。というより日本が北朝鮮に対して対決姿勢を示していることを鑑みると、日本もその対象になる可能性は相当高いと思う。
朝鮮戦争が終結して以来、日本が危機に巻き込まれることは久しくなかった。
しかし今回はもう巻き込まれているように思える。
この危機に、敢然と立ち向かう覚悟が、今、日本にも問われているのだと思う。


*1:米国財務省国務省の高官が日本政府と(北朝鮮・イランへの)制裁について協議 http://japanese.japan.usembassy.gov/j/p/tpj-20130319-01.html

*2:「北朝鮮の核実験で風雲急を告げる東アジア情勢」http://thesunalsorises.hatenablog.com/entry/2013/02/12/143731

*3:*2と同じブログ記事参照

*4:書いている人は良心に基づいているのだろうけど、逆の立場だと、その意見を持つ人々を利用できそうだと思う私が悪辣すぎるのだろうか