選挙の争点にならなかったまだ道半ばの震災復興
衆議院選挙の前、12月11日に毎日新聞が最重視する争点を世論調査で聞いていた。
それによると、最も多い答えが景気対策で32%、そして震災からの復興と答えたのは7%だった。
(出典)2012衆院選:「景気」最重視争点に 「震災復興」「原発」は7%にとどまる
7%という数字は決して大きいとはいえない。語弊を恐れずに言えば、今回の総選挙で震災復興は主な争点とはならなかったといえる。
なぜだろうか?
復興が問題なく進んでいるかというと、全くそうではないようだ。
人件費・材料費の高騰
テレビ東京が、復興事業が進まない理由となるひとつの問題についてレポートしている。
復興事業が多く行われる中、人件費や材料費が高騰し、県などが発注する単価では採算が合わなくなっている実態がわかる。(1)(2)(3)
これに対するひとつの答えとして、「コンストラクション・マネジメント方式」という方法が説明されている。
正直に言って、私は土木などの専門家でないので、これらを詳細まで理解し評価することができない。ただ次のことはわかる。
1.従来型の入札方式では、採算が合わなくなっており、入札が不調に終わるケースが頻発している。その結果、復興のスピードが遅くなっている。
2.CM方式などの発注方法の工夫も可能だが、そのためには前例に囚われず関係者で知恵を出し合わなければならない。
これらは、公共事業が公正・公平な受発注を行わなければならないために定めたルールが、かえって復興の邪魔をしている典型的なケースのように思える。
不必要な事業、ばらつく予算執行
一方、入札の問題にも一部関係するが、直接震災復興と直接関係がないと思われる事業にまで予算が流用されていたり(4)、様々な理由で、せっかく予算がついてもその執行が地域、事業により大きくばらついている。(5)
これは選挙の前から、相当量報道されていたので、知っている人も多いと思う。
復興庁の役割と批判
震災復興のために様々な事業を行おうとすると、そこには法律と規制の壁が存在する。様々な申請、認可が必要になることも多い。当事者間で話し合い復興計画を作る必要がある場合もある。
ところが、そういった申請、認可は、現在の官庁がいわゆる縦割りとなっているため、複数の官庁にまたがって大量の書類を作成し申請、認可をうけなければならない。
そういった縦割り行政の弊害を軽減し、窓口を一本化する目的で「復興庁」が新設された。復興庁の役割は必要なものだと思うし、新設されたメリットはあると思うが、一方で「復興庁を作るのは屋上屋を作るだけだ」という批判も根強かった。(6)(7)
そもそも各省庁からの出向者が中心で、わずか300名ほどの寄り合い所帯でしかなく、予算規模こそ2兆円と巨大であるが、その大半は大元の省庁、特に国土交通省の紐付きである現状で、これ以上の期待を復興庁に求めるのは酷なのだろう。(8)
少なくとも、復興庁の職員は少ない人数で徹夜辞さずのハードな仕事に耐えている。しかし、そもそも権限も人数も少ないのだ。これではなかなか十分な仕事はできない。そんな中でも復興庁はがんばっていると思う。
一言で言えば、縦割り行政の弊害と言えるのかもしれないが、縦割り行政そのものは、法律(例えば国土交通省であれば、国土交通省設置法)で定められているわけであり、官僚にしてみればルールに基づきやっているだけにすぎない。
各党とも「一生懸命にやる」という公約しかない
上記は震災復興問題のほんの一角にすぎない。地域、事業内容により、問題は様々でこの解決には万能薬というものがない。ケースバイケースなのだ。
震災復興に当たっている人も、ルールと権限の枠内で一生懸命にやっている。
これをやればうまくいくというような銀の弾丸はないのだ。
選挙における各党の公約も、そんなわけで「一生懸命にやる」という公約しかない。というよりそうとしか公約できないと言ったほうがいいかもしれない。一言二言で説明できるような万能な解決策がないので、具体性に欠ける公約が並んでいる。(9)
選挙の争点にならないのも、当たり前といえるだろう。
困った人を助けるのが政治の基本
自民党の小泉進次郎氏が、「政治っていうのは簡単なことなんですよ。困っている人を助ける。それが政治なんですね」と言ったというブログを読んだ。真偽はわからないが、私もこの言に同感する。法律を作るために国会で議論するのは、手段であって目的ではないと思う。
震災でいまだ多くの人が困っている。いろんな困り方をしている。
それを助けるのは、やはり政治の仕事だ。
政権与党だった民主党もよくがんばっていたのだと思う。ただし、政権交代した以上、もっとよい方法はないか、改善の余地はないか考えてみるのが、次の政権の役目でもある。
震災復興のように、前例が役立たず、状況が複雑で、従来のルール・組織が必ずしも役に立たない、あるいは邪魔をする問題の場合、その問題の解決にあたっている人に十分な権限を与え、資金面の手当てをし、うまく実行できない原因となっているものを(必要であれば立法して)取り除くのが、政治の仕事といえる。
このような状況では、当然民主党もやっていたことだが、人事、組織、予算を整え、その後出てくる問題に柔軟に対応するのが常套策だろう。
復興大臣、復興副大臣、復興大臣政務官の人事
民主党も、数日で辞任した最初の復興大臣を除き、大臣、副大臣、政務官とも全体として実務家を揃えたと思う。政務官は現地常駐をしており、その点は評価する。
震災復興は、県や市町村など地方自治体が主体となってやるが、国土交通省、農林水産省、経済産業省、厚生労働省などと関わりが深く、当然、このような省庁との折衝が必要だ。
復興を担当する政治家は、現地と地方自治体、省庁との間にたち、判断・指示するのが責務であるので、関係省庁の実務に精通しているのが望ましいと思う。
また被災地では復興する方法について、複数の意見で住民の意見が衝突することもある。例えば、高台への集団移転か現地の再建かで衝突する事例があると聞いている。そんな時、両方検討したらいいというどっちつかずの判断をするようでは、結果として復興を遅らせることにもなりかねない。(10)
様々な意見を根気よく聞きながら、最後は決断し説得することが必要になると思われる。決断力と人間味あふれ説得力を持つ、実務的な布陣を期待したい。
復興庁、問題は多々あれど、組織を変更する時間はない
立ち上がり時、様々な批判にさらされた復興庁であるが、徐々にその評価は変わってきたように思える。宮城県の村井知事は「真骨庁」と呼び復興庁に賛辞を送った。(11)
たとえ復興庁に問題が多々あろうとも、組織を変更するのには、また1年以上の時間がかかってしまう。今はもうそういったことに時間を使うべきではなかろう。
もし省庁の縦割りの弊害が大きくなってきたら、省庁をまたぐタスクフォースをたちあげるなど、現行の枠組みの中で工夫をして対応すべきだと思う。
予算遂行を推進すべき
2011年度の復興予算については、せっかく予算ついたのに関わらず、予算消化できない自治体が多数にのぼっている。(12) それぞれの地方自治体での専門職員不足などが原因と言われているが、今年度はどのような状況なのであろうか? 専門職員不足は解消されたのであろうか?
被災直後は、全国の地方自治体などから出向受け入れを行なっているようだが(13)、今も不足しているのであれば、引き続き実施すべきだと思う。
政府はもっと広報を
震災からもうすぐ2年たとうとしている。被災地以外では日常生活が取り戻されており、震災が過去のものとなっていく。しかし、被災地では震災は現在進行形なのだ。その意識のギャップはどんどん広がる。
被災地以外に住んでいると、放射線の問題はまだ気がかりな人は多数いるようだが、それ以外のもうほとんど復興は終わったのではないかという錯覚に囚われることもある。こういった状況は、真の復興のためには好ましくないだろう。
政府は、もっと被災地の状況について広報を行うべきだと思う。
その観点で野田政権の人事を見ると、ひとつ気になることがある。
首相補佐官の担当職務だ。
震災から2012年2月までは、震災復興担当の首相補佐官がいなくなっている。これは同じ2月に復興庁を立ち上げたことで、不要になったという判断なのかもしれない。
自民政権は、もう一度復興重視の視点からも、首相補佐官の一人に震災担当を任命したらどうだろうか? 実務は復興庁と担当大臣以下が担う。補佐官は実務ではなく、現地視察によってより大きな問題を洗い出し、首相に率直な意見を伝え、マスコミなどへのスポークスマンとして働く。こんなイメージである。
現地視察の際、被災者が壁を作らず話ができ、マスコミが好んで取り上げてくれるような人が望ましいだろう。例えば、首相補佐官任命が取り沙汰されている、自民党の若手のホープ、小泉進次郎氏とかではどうなのだろうか?
さいごに
復興は政府の存在そのものを賭けるべき義務だ。絶対に成し遂げなければならない。復興は選挙のために行うのではない。それは重々承知しているが、あえて言いたいと思う。
震災復興に対して、冷淡、無策と人々に感じられれば、参院選勝利もありえないし、政権の維持すら危うい。それを十分にふまえて取り組んでほしいと思う。
震災は天災であるが、復興は人が行う。
最後は人なのだ。復興担当の人事はとても重要だと思う。