日はまた昇る

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韓国大統領選、朴槿恵候補勝利でも秋風が立つ日韓関係

韓国大統領選で与党セヌリ党の朴槿恵候補が勝利した。(1)

初めに韓国初の女性大統領の登場を心からお祝い申し上げたい。

 

与党候補の選挙勝利をうけて、さっそくアメリカのオバマ大統領と日本の安倍次期首相もお祝いのメッセージを出した。(2)(3)

 

李明博大統領の対米外交

日韓関係については、8月の竹島訪問によって決定的に悪化したが、一方、アメリカに対しては、一貫して李明博大統領は対米協調の外交を行った。例えばアメリカが苦慮するアフガニスタンに韓国軍を再派兵し(4)、国内の反対を押し切って米韓FTPを締結したなどだ。(5)

アフガニスタン派兵については、アメリカは日本の管政権にも要請した。菅首相(当時)が派兵を約束、医官・看護官を出張扱いで派遣しようと検討(6)したが結局断念した(7)ことと比較すると、オバマ大統領が李明博大統領を大事に扱ったのも頷けるだろう。(追記あり)

野田政権がTPP参加に躍起になったのも、米韓FTPを意識したからだと私は考えている。

(追記)管政権が検討していたアフガニスタン派兵の方式は、防衛省設置法上の教育訓練扱いで、アフガニスタン国際治安支援部隊の指揮下には入らない(出張扱いとなるので指揮下には入れない)というものであった。この方式は、そもそも防衛省設置法の教育訓練の趣旨にも反するし、なにより派遣される自衛隊員の安全確保の観点で非常に問題があり、派遣を断念して本当によかったと思っている。

 

経済面で中国の影響が大きくなった韓国

李明博大統領の政策は、シンプルではあるが効果的なものだったと思う。

為替をウォン安に誘導(ウォン安容認)し、名目賃金の上昇を抑え、電力料金を安く設定するなど、サプライサイド、特に輸出産業に有利となる政策をとり、価格競争力を高め輸出を増やし、経済規模(GDP)を大きくするというものだった。(7)

この政策によって、韓国の輸出は伸び、経済規模(GDP)は大きく伸びた。(8) もともと韓国は、輸出依存度が高い国であるが、この政策によって輸出依存度は更に高まった。(9) 輸出を大きく伸ばした相手国は中国。2011年には、韓国の輸出額に占める中国の割合は29.75%となっており、2位のアメリカ、3位の日本と比較しても、圧倒的な存在感となっている。(10)

(出典:通貨の命綱を中国に託した韓国

更に通貨についても、日本が通貨スワップの拡大枠の延長を行わなかったことで、中国依存が増している。(11) 

さすがに韓国国内でも、貿易の中国依存の危険性が認識されつつあるが(12)、韓国が輸出依存体質から抜け出ない限り、韓国経済における中国依存が高まることはあっても、そこから脱却できるとは思えない。

 

朴次期大統領の外交方針は?

李明博政権での韓国の動向をざっと振り返ったが、これをうけた朴槿恵次期大統領の外交方針はどのようなものであろうか? ご存じの通り朴次期大統領の所属する韓国の与党セヌリ党は右派政党だ。対立する韓国の左派は基本的に親北朝鮮、親中国が顕著であるのに対し、右派は北朝鮮には冷たく親米を基本路線としてきた。

選挙戦中に朴槿恵氏が公表した「外交・安保・統一公約」(13)(14)(15)(16)によると、「北朝鮮の挑発を抑制するため韓米同盟を含めた包括的防衛力を強化」したいとあるので、基本的にアメリカとの同盟を強化していくという李明博政権の方針を踏襲すると思われる。

一方、その外交公約の中で中国との関係の重要性を述べた項目はアメリカの3項目と同じ数だけあるのが注目される。朴槿恵氏は「外交・安保・統一公約」の中で「中国との関係を戦略的協力パートナー関係にふさわしくアップグレード」するとしている。それは李明博氏が選挙戦中に公表したものより更に明らかに中国との関係を重視していると思われる。

なお、日本との関係については、「悪化している東北アジアでの歴史葛藤に対しては国益の観点で断固として対処するつもりです。 どのような場合でもわが国の主権が侵害される状況は決して容認しません。正しい歴史認識を東北アジアに定着させるために韓・中・日政府と市民社会が共に歴史葛藤の克服と和解・協力の未来を着実に協議していきます」(引用元)なる1ヶ所でのみ触れられている。

 

経済は中国、安全保障はアメリカ。二股をかける外交

朴槿恵氏が発表した「外交・安保・統一公約」は、大きく分けると、経済や地域の発展は中国との、安全保障はアメリカとの関係強化を訴える内容となっている。

確かに、アメリカのオバマ政権は、アメリカ経済の浮上のカギとして、アジア圏との経済関係の強化を期待しており、2期目もそれを継続するだろう。(17) しかし、その一方で、中国との関係は、徐々に硬化させつつある。(18)(19)

このような中、韓国は中国とアメリカと双方の関係を強化しようとしているが、まるで二股をかけるような外交は、絶妙なバランスがなければ、いくつかの問題を生じさせる可能性が高い。

特に事実上破棄されたアメリカ肝いりの「日韓軍事情報包括保護協定」など、中国がいやがる軍事面での関係強化では、米韓の立場の相違がいずれ顕著になるだろう。 

 

日韓関係=ほんのひと時の小春日和 

朴槿恵次期大統領は、大統領選後の20日、日本の駐韓大使の別所氏と会談した。そこで日本との関係改善に意欲を示したと報道されている。(20)

日本の次期首相と目される安倍総裁も、朴槿恵氏勝利をうけて「朴次期大統領との間で緊密に意思疎通を行うことで、大局的な観点から日韓両国の関係をさらに深化させていきたい」とコメントを発表していることから、当面、日韓関係は対立の小休止という状態になるのではないだろうか。

これは、朴槿恵氏が今後どれ位歴史問題を取り上げるかで、日本側の対応が異なるだろうが、とりあえず韓国側は歴史問題を、日本側は領土問題を棚に上げて、朴氏も安倍氏も、より重要な国内の経済政策に注力したいと考えると思うので、ひとまず日韓関係は小春日和のような状況になると予想する。

日本側(安倍氏)も、朴氏勝利をうけて、2月22日に予定していた竹島の日の政府式典を見送ることにした。次は韓国が妥協(歴史問題を棚上げする)をする番だ。

 

懸念される韓国の動き

一方、日中間については、尖閣諸島問題が長引いている。中国も手詰まり(この件については、後日別に投稿したいと思う)になっていると思われるが、そういった状況で中国の新たな動きがでてきた。

それは大陸棚の延伸を国連に申請し、日本による尖閣諸島の国有化に対抗しようという動きだ。(21) この申請が直ちに国連で認められる可能性はほとんどないが、この動きに関連して、韓国でも大陸棚の日本側への延伸を申請する動きがある。(22)

この行動は、中韓が連携して動いているのが明らかであり、日本にとってはこの動きは外交上看過できないものであろう。まず日本としては、中韓の連携の分断を狙うのが常套策になる。

1.韓国に対して、国連へ大陸棚の延伸申請を行わないように、外交ルートを通じて要求する。

2.もし韓国が大陸棚の延伸申請を行うならば、日本は竹島の領土問題を国際司法裁判所へ正式提訴すると韓国に伝達する。

3.アメリカに対しては、日本は中国との尖閣諸島の問題を解決するよう動いているが、韓国の大陸棚延伸申請は、尖閣問題を複雑化させ、日中、日韓の関係を損ねる。それゆえ、延伸申請を行わないように韓国に圧力をかけるよう要請する。

このような外交を行なって欲しいと思う。

韓国が、中国と組んで大陸棚延伸申請を行えば、日韓関係の改善は遠のくだろう。

 

朴槿恵次期大統領の課題

韓国も日本と同じく経済面の課題が大きい。

大きな問題だと私が見ているのは、次の3つ。

1.インフレ

2.家計債務の大きさ(23)

3.金融セクタの脆弱性(24)

これらは、別々の課題ではなく、つながっている。

賃金が上がらずインフレが進むことで、家計で借金が増えていく。そういった人が、債務の返済に滞った場合、元々脆弱な金融機関が不良債権をかかえ、破綻の可能性が増す。

そのため、朴槿恵候補は、「経済民主化」というキーワードで、

1.貧富の差が広がるいわゆる「二極化」に歯止めをかける

2.蔓延する大企業の不正行為を排斥する

3.世代にあった福祉によって世代間格差を解消する

などの公約を出している。

二極化を広げないためにも、インフレは避けたいところだろう。インフレは低所得層を直撃するからだ。そのためには、今までのウォン安政策は維持できないだろう。ウォン安は原油など輸入品目の価格上昇につながりインフレを呼ぶ。

一方、ウォン高になると経済成長を牽引してきた輸出産業が収益を落とす。

唯一の経済の成長エンジンをなくすと、一般国民の賃金を上げる前に、失業が増えることになる。

いきすぎたウォン安もウォン高も許されない。朴次期大統領は、外交と同じく、金融政策でも絶妙な舵取りが求められている。

また大企業の不正行為の排斥は、社会正義としては正しいが、大企業の萎縮を生むとこれも韓国社会の活力を奪うことになる。福祉もその財源確保をどうするかという点で、バランス感覚が必要だ。

 

国民の不満が溜まった時には

朴槿恵氏のおかれている状況は厳しく困難な状況と言わざるをえない。国民の不満が溜まっている。そして選挙の終わった今、大きな期待を背負っている。

しかし、前述の通り、朴氏が行わなければならない政策は、前任の李明博大統領が行ったようなシンプルで効果的な政策ではない。それは複雑で繊細で絶妙な舵取りが求められるものである。まずはお手並み拝見といきたいところであるが、その困難性を考えると、早晩、国民に不満が溜まり、支持率の低下に見舞われると思う。

その時、どんな方策がとられるか。

親日と言われた李明博大統領が、政権末期に行った行動を考えれば、自明だと思う。朴槿恵氏は、保守政治家とはいえ、経済では中国しか頼るところがない。

国内の不満をそらす方策は、そんなに多くはない。韓国歴代の大統領と同じく、反日カードを切るという誘惑に勝てるとは思わない。

 

韓国の離米従中の流れは保守政権であっても止められない

東アジアでは、中国の台頭という、歴史的な転換点を迎えており、その中で徐々に韓国が中国へ接近していくのは、避けられないトレンドだと思う。

対北朝鮮の問題は残っているが、北朝鮮の経済は破綻しており、先軍政治をとり軍を優遇しているものの、軍事力では既に韓国軍の敵ではない。北朝鮮の核兵器は脅威ではあるが、それを使うことは北朝鮮の破滅を意味する。

2015年に、韓国はアメリカから戦時作戦権を移転することにアメリカと合意しているが、予定通り行うようである。それだけ韓国は軍事面での自信をつけている。

アメリカに対する安全保障上の依存性は急激に下がっている。

韓国の離米従中の前提条件は整いつつある。

 

日本はどうすべきか

一方、日本と韓国の戦略的互恵関係も薄れつつある。

少なくとも、経済面においては、日本の輸出産業は韓国との相互補完的な関係から、敵対(ライバル)関係となってきた。韓国企業が売上を伸ばせば、日本企業は売上を落とすという関係だ。確かに韓国への輸出は全体として増加しているが、主に電子部品などの加工前商品がメインであり、韓国の輸出産業が売上を落とせば、日本からの輸入も減る。

韓国の産業構造は、日本とよく似ているがゆえ、いずれこうなる宿命だったと思う。

そんな中、いずれ歴史問題と領土問題で、韓国から日本に非難が行われるだろう。それがいつであってもよいように、それに対する準備は着々とすすめておきたい。

カードの一つは、前にも書いたが、国際司法裁判所への提訴である。

さらに中国が尖閣諸島で行なっているような、竹島への艦船の派遣もひとつのカードになるだろう。

でもそれよりも大きなカードがある。

それは中国との関係修復と、日米関係の強化だ。

日韓関係の悪化は、それが韓国から仕掛けられたものであっても、どんな理由であろうとも、アメリカは不快感を隠さないだろう。アメリカにとっては、日韓関係の悪化で得るものはない。それにも関わらず、韓国が日韓関係の悪化を省みず反日カードを切れるのは、中国の存在があるからだ。その観点で考えれば、日中関係が今よりも良好、あるいは双方ともこれ以上強硬策をとらないと合意できれば、韓国も身動きがとりづらくなる。

韓国との関係を良好なままにおいておくためには、日韓関係という二国間関係だけを考えても限界がある。

今後は日米中の三ヶ国の関係という文脈を考えずに、日韓関係を捉えてはいけないと思う。日中関係を好転させれば、日韓関係の好転は自ずと見えてくる。

 

 

(追記) 

河野談話撤回について

なお、左派が大きな問題とする安倍氏の河野談話撤回論であるが、これは外交カードというより、宣戦布告または最後通牒の類で日本にとってメリットはほとんどないと思う。このカードは封印すべきだ。

 

韓国の情勢の変化によって考え方を変化させるべきこと

1.親北朝鮮・親中勢力である左派が急激に勢力を落とす

2.中国への輸出が減りアメリカへの輸出が増加し、シェアが逆転する

3.日本の最終生産物の輸入が増加する

など、韓国と周辺有力国との関係性に変化が生じた場合には、当然日本も外交方針を変えるべきと思っている。上記の3つの変化が現れた時には、日本はもっと韓国との関係を重視すべきだろう。

 

 
 
(追記その2)
2012/12/21 23:13 文脈を変えない範囲で、読みやすいように文章を再構成した。