日はまた昇る

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中国海軍のフリゲートの火器管制レーダー照射事件に対する所感

事件に対する報道

小野寺防衛大臣は緊急に記者会見し、東シナ海で先月30日、中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊護衛艦に射撃管制用のレーダーを照射していたことを明らかにしました。小野寺防衛大臣は「大変異常なことであり、一歩間違えると、危険な状況に陥ることになると認識している」と述べ、外務省が中国側に抗議したことを明らかにしました。
出典:中国艦船が海自護衛艦にレーダー照射

続報も出ているが、火器管制レーダーを数分という長時間照射することは、いつでも実際に武器を使える状態ということであり、とても危険な行為だ。
西部劇に例えると、2人のガンマンがお互いに銃を向け合っている中、撃鉄を上げる行為と言える。現場には相当の緊張が走っただろう。


事件の整理

中国海軍 :ジャンウェイⅡ級フリゲート
海上自衛隊護衛艦ゆうだち
事件の概要:ジャンウェイⅡ級のフリゲート(艦名不明)が「ゆうだち」に向け射撃管制用のレーダーを数分照射した。
両艦の距離:約3000m
出典:大臣臨時会見概要|防衛省

産経新聞には、事件が起こった位置関係について、もう少し踏み込んだ記事が載っている。

尖閣周辺の日本領海(22キロ)には海保巡視船が配置され、領海の外側に設定された接続水域(44キロ)から領海内に侵入してくる中国公船を警戒している。さらに、その北方で尖閣から約112~128キロ離れた海域には中国海軍のジャンウェイ級やジャンカイ級フリゲート艦など2隻が常時展開しており、それを海自艦艇がマークしている。
挑発さらにエスカレート 9月以降、海軍と海自の対峙も常態化

約112~128キロというのは、配置された中国海軍の艦艇の持つ対艦ミサイル(YJ-82)のレンジ内に尖閣がある距離であり、これは尖閣に突入させている海監などの船舶をカバー(援護)していると考えられる。その中国海軍の艦艇を海上自衛隊護衛艦が監視している状況が続いているという記事だ。
軍事的にみると日中両方とも妥当な艦艇配置を行なっていると思う。ただし、対峙する両国の軍艦が近接するという状況が続くわけであり、現場の艦船の艦長、乗組員は、プロフェッショナルな軍人としての強い自制心が求められる。


中国の意図、2つの解釈

中国ウォッチャーならば、この事件を知るとすぐに、「それが中国共産党の中央から指示されたものか」「現場の独断か」という点が気になるだろう。

中国の国営新華社(電子版)は5日夜、日本メディアの速報を紹介する形で事実関係のみを伝えた。ただ中国政府は同日夜現在、公式コメントを発表していない。危険な挑発の目的を巡っては2つの見方が浮上している。
1つ目が共産党指導部が軍に指示を出し、尖閣諸島を巡る対立をあおる狙いだ。(中略)
もう1つの見方が軍の現場の独走だ。
出典:中国海軍レーダー照射、党の指示か 現場の独走か

上記の記事は妥当な報道だと思う。一方、毎日新聞のこの記事のように、現時点で一つの見方に偏ってこの事件を見るのは早計だし、中国の真の意図を見誤る危険もある。慎重に分析をすすめるべきだろう。
少なくとも、数分という長時間にわたって火器管制レーダーを照射するのは極めて異常な事態であり、一歩間違うと交戦に発展しかねかったという状況は十分にふまえておきたい。


やっかいで重い現実

ただし、今回の事件が、党中央の指示であろうと、現場の独断であろうと日本にとってはやっかいで重い現実が見えてくる。

党中央の指示の場合

中国は、一歩間違えば戦争になりかねない挑発を行う国だということだ。
こういった国と外交交渉を行う場合、常に戦争勃発の危険を念頭において行わなければならない。挑発にのってはいけないが、安易な譲歩も危機を生む。恫喝が効果的だと思えば、将来それを多用するだろうからだ。
日本は、冷静で狡猾な外交を展開する必要がある。臆せず力まずだ。

現場の独断の場合

日本もそうだが、民主主義国の軍隊は「シビリアンコントロール」が効いている。
しかし中国の場合、人民解放軍中国共産党の軍であり、中国政府の指揮命令系統とは異なる指揮命令系統の組織である点は留意しておかねばならない。
現場の独断でこの事件が起こったのなら、近年強力な武装を手に入れてきた中国海軍の末端が、党中央の意向を無視して独断で事を行うかもしれないという状況だということになる。
軍の暴走による戦争。あまり考えたくもない将来が見えてくる。


日本は冷静に。まず見極めを。

現場の独断であれば、今回の日本政府の抗議により、ひとまずこのような行動は止む可能性が高い。軍の末端がコントロールできない状況は、中国共産党中央にとっても悪夢だからだ。
ひとまずは経緯をみたい。

まだ投稿を書ききれていないが、尖閣問題については、私なりに分析を続けている。
その結果は、「中国は挑発行動を止めず、軍事的な挑発をエスカレートする」だった。
ただし、そこに北朝鮮の核実験問題が浮上してきた。そして、安保理で中国はアメリカに譲歩した点に注目している。
私は、北朝鮮の核実験問題の方が、中国にとって尖閣問題より喫緊で重要度の高い問題だと考えている。北朝鮮の核実験問題は、アメリカと直接対峙する問題であり、舞台が国連安保理であること、核兵器拡散は世界からの注目が大きいこと*1がその理由だ。
そして中国はなにか外交上の対立が起こると、異なる二国と異なる内容で対立することを避ける傾向がある。そのため、一時的に尖閣問題を棚上げしてくるかもしれないと、尖閣問題への波及の可能性を考えていた。
しかし、この事件が党中央の指示ならば、中国は北朝鮮問題と尖閣問題は切り離して考えているということになる。
それは見極めたい。

この軍事的な挑発が続かないことを願うが、日本は慌てず中国に対する対処策を考えるべきだろう。
安易な妥協も、挑発に挑発を返すような猪突猛進な策も、日本の国益を損なうと言える。

※ブコメを見て確かに「中国は尖閣問題より北朝鮮の核実験問題を重視する」と私が考えた根拠があまり書かれていなくて薄いなと思いましたので、根拠を追記しました。

*1:領土問題は二国間問題であり他国は関わりたくない