日はまた昇る

コメントを残したい方は「はてなブックマーク」を利用してください。

トランプ政権発足。それは新たな世界秩序の始まり

トランプ大統領誕生

2017年1月20日。アメリカのトランプ大統領が就任した。
トランプ氏の支持者には申し訳ないが、世界中のかなり多数の人が、就任後の世界に不安を感じていると思う。
私もその1人だ。

どんな就任演説を行うのか、アメリカの大統領の就任演説をはじめてリアルタイムで見た。今回のトランプ大統領の就任演説は、夜遅いのに関わらずどんなことを言うのか見なければ眠れないと強く感じた。だからテレビの中継をずっと見ていた。高揚感は全くなく不安だけがあった。オバマ大統領の就任演説は、後日文章でしか読まなかったが、その時とは大違いだ。

そして就任から10日余りが過ぎ、さまざまな情報が断片的に報道されてきた。正直に言って、いろんな情報が錯そうし混沌としていてよくわからない。
だがトランプ氏が本気なことは伝わってきた。トランプ氏は世界を変えるかもしれない。
それは、一民間人の私にも影響があるかもしれない。だからこそ、現在わかっている情報から自分なりに予測をしてみようと思った。トランプ氏がもたらす変化によって私自身が被る被害を、少しでも少なくしたいという思いからだ。

就任演説の内容

www.huffingtonpost.jp
世界中が注目したトランプ大統領の1月20日の就任演説を要約すると次の通りになる。まずは評価を加えず、内容を把握しようと思う。

アメリカ第一

  • 貿易、税、移民、外交問題に関するすべての決断は、アメリカの労働者とアメリカの家族を利するために下す。
  • (産業の)保護主義(注:保護貿易の意ではない)が偉大な繁栄と強さにつながる。
  • アメリカは、雇用を取り戻し、国境を取り戻し、富を取り戻し、夢を取り戻す。

国を再建する

  • 新しい道、高速道路、橋、空港、トンネル、そして鉄道を、国の至る所につくる。
  • アメリカのものを買い、アメリカ人を雇用する。

同盟と安全保障

  • 古い同盟関係を強化し、新たな同盟を作る。
  • 過激なイスラムのテロを地球から完全に根絶する。
  • 私たちの政治の根本にあるのは、アメリカに対する完全な忠誠心だ。
  • 私たちは、軍隊、法の執行機関によって守られている。

アメリカを再び偉大に

  • 私たちは大きく考え、大きな夢を見るべきだ。
  • 全てのアメリカ人に、二度と無視されることはないと伝えたい。団結を呼びかけたい。



ホワイトハウスHPに掲載された基本方針

トランプ政権発足直後、ホワイトハウスのホームページに次の6つの基本方針が掲載された。これはトランプ政権の政権移行チームが準備したものと思われるので、トランプ政権の今後の方針を考えるうえで重要だと思う。これもまた、まずは評価を加えず、要約して内容を把握しようと思う。

エネルギー政策のポイント

外国の石油への依存から脱却する。

  • シェールガス、オイルの採掘の増産。そしてその収入を、道路、学校、橋、公共インフラの再構築に使う。
  • きれいな石炭技術の開発。石炭産業の復活。
  • OPECや敵対国の石油への依存から脱却する。及び反テロ戦略の一環として湾岸諸国と協力する。
  • きれいな空気と水の保護。自然の生息地を保護し資源を保護する。

外交政策のポイント

力による平和を指向する。

  • ISISや他の過激なイスラムのテロ群を倒すことが最優先事項。必要な場合には共同軍事行動や軍事提携を行う。
  • 国際的な協力を行い、テロリストへの資金を断ち切る。
  • 情報を共有して、ネットでのプロパガンダと人員募集を中断させるサイバー攻撃を行う。
  • アメリカ軍を再建し、軍の優位性を確保し続ける。(別項で更に説明している)
  • 全てのアメリカ人のための貿易協定(別項で同様の内容を再度説明している)

雇用政策と成長政策のポイント

今後10年間で2500万人の新規雇用を創出し、年間経済成長率を4%にする。

  • 労働者と企業を支援するために成長促進税制改革を行う。
  • 各税率区分でアメリカ国民の税率を下げ、税法を簡素化し、世界最高水準の法人税率を下げる。
  • 雇用に関する新しい連邦規制の一時停止を提案し、その間に廃止すべき雇用規制を特定する。
  • 貿易相手国に、違法もしくは不公平な取引慣行をさせない。

国防政策のポイント

軍を再建し、軍の優位性を確保し続ける。軍人と退役軍人に対するケアを拡充する。

  • 他国の軍事力がアメリカを上回ることを許さない。最高水準の軍備を維持する。
  • 軍予算の強制削減処置を停止し、新たな予算処置をとる。軍指揮官に必要な軍備を計画させる。
  • イランや北朝鮮などの国からのミサイル攻撃を防ぐ最新のミサイル防衛システムを開発する。
  • 国家安全保障の秘密とシステムを保護する防衛的で攻撃的なサイバー能力を保持、拡充する。
  • 軍人とその家族に、従軍中だけでなく退役時にも、最良の医療、教育、支援を行う。
  • 退役軍人が必要なケアを必要な時にいつでも提供する。

安政策のポイント

法執行力(警察力)を強化し、犯罪や暴力をなくす。

  • 殺人などの凶悪犯罪を減少させる。
  • 憲法修正第2条、つまり銃保持の権利の規定を維持する。
  • 不法入国を阻止し犯罪者と違法薬物の流入を止めるため、国境の壁を建設する。
  • 国境法を制定することに加え、不法移民を保護するサンクチュアリシティを終結させ、不法移民の流入を止める。
  • アメリカにいる凶悪犯罪を犯した不法外国人を追放する。

貿易政策のポイント

アメリカ労働者とビジネスを優先した貿易交渉を行う。これにより雇用をアメリカに戻し、賃金を増やし、アメリカの製造業を支援する。

  • 太平洋横断パートナーシップ(TPP)から撤退する。
  • 新たに貿易協定を締結する際にはアメリカの労働者の利益になることを確かめる。
  • 北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を必ず行う。もし該当国が交渉を拒むなら脱退する。
  • 貿易協定に違反する国を徹底的に取り締まる。



トランプ政権の閣僚・高官からみるトランプ政権の性質

次にトランプ政権の閣僚・高官の中から、数人注目している人をピックアップして、トランプ政権の性質を考えてみたい。
www3.nhk.or.jp
www.johoseiri.net

スティーブン・バノン首席戦略官兼上級顧問

「オルタナ右翼」の定義はとてもあいまいだ。強いて言えば、既存の保守主義にあきたらない人としか言いようがない。少なくとも「オルタナ右翼」に思想的統一性はない。
それをふまえてもなお、トランプ政権の「オルタナ右翼」的側面を指摘せざるをえないと思う。
トランプ政権での「オルタナ右翼」の代表格は、バノン首席戦略官兼上級顧問と思う。バノン氏は最近こんな発言をして注目を浴びた。
digital.asahi.com魚拓

「オルタナ右翼」は「新保守主義ネオコン)」を嫌っている。
「オルタナ右翼」は「旧保守主義(ペイリオコン)」とは比較的相性がよいが、宗教的厳格さでは「旧保守主義(ペイリオコン)」と意見を異にする。
「オルタナ右翼」は「新自由主義リバタリアン)」と共通する要素も多いが、自由貿易や移民政策では「新自由主義リバタリアン)」と意見を異にする。
「オルタナ右翼」の排他的な言動や露骨な嫌悪感情に目が行きがちだが、政策を予測するにはそれだけでは不十分だ。
「オルタナ右翼」に思想的統一性はないが、「反グローバリズム」「反移民」「反自由貿易」「反エリート」「反リベラル」という特徴があり、その考えが、トランプ政権に影響を及ぼすのは間違いないだろう。
www.newsweekjapan.jp

ピーター・ナヴァロ国家通商会議委員長とジェームズ・マティス国防長官

バノン氏のような「オルタナ右翼」と思われる閣僚・高官がいることと同時に注目すべきことは、トランプ政権には、ナヴァロ国家通商会議委員長、マティス国防長官のように「国際関係論でいう現実主義」(以降「リアリズム派」と統一して記述する)と思われる閣僚も相当数存在しているということだ。
ナヴァロ氏は対中強硬派といわれるし、マティス氏は狂犬マティスとよく報道される。彼らの強面(こわもて)な部分に注目が行きがちだが、その根本となる考え方は、バノン氏のような人とは異なる。この違いを認識すべきだ。
www.bbc.com
jp.wsj.com
なお、「国際関係論でいう現実主義」、すなわち「リアリズム派」についての説明は、次の文章がわかりやすいように思う。

第8章 国際関係理論とは何か?(PDF)
国際関係論 <第2版> 弘文堂 (立ち読みとして公開している)

トランプ政権の性質

トランプ氏自身はともかく、トランプ政権を「オルタナ右翼」政権とだけレッテル張りするのは、偏った見方だと思う。トランプ政権は「リアリズム派」が支えている。彼らが実務で主導権を握れば、トランプ政権は「リアリズム派」政権の性質が強くなり、「オルタナ右翼」と思われる閣僚が主導すれば、トランプ政権は「オルタナ右翼」政権の性質が強くなる。
各閣僚・高官の考え方、政治的立ち位置を把握した上で、その閣僚が責任を持つ分野に注目すべきと思う。その観点から導いた、私のトランプ政権の予測その①は次の通り。

予測その①
トランプ政権は「オルタナ右翼」的側面と「リアリズム派」的側面と二面性を持つ。
個別の政策では、この二つが混在する形で表れてくる。
私は、トランプ政権では、「移民、国境管理、入国審査」「国内治安対策」「メディア対策」などでは「オルタナ右翼」的政策が中心となり、「外交」「安全保障政策」「通商政策」などでは「リアリズム派」的政策が主となると予測する。
総じていえば、国内向けには「オルタナ右翼的側面」が、対外向けには「リアリズム派的側面」が前面に出てくると予測する。



『米中もし戦わば 戦争の地政学』の内容(まとめ)

米中もし戦わば

米中もし戦わば

トランプ政権の政策を考える上で、この本は必読だと思う。トランプ政権は、経済重視の政策をとってくると思う。私はその際、トランプ大統領によって強い権限を持って新設された「国家通商会議」が重要な役割を果たすと考えている。その「国家通商会議」の委員長が自ら書いた本であることが、この本を重要だと思う理由だ。

この本は、原題を“Crouching Tiger: What China's Militarism Means for the World”(飛びかかろうとする虎 世界における中国の軍国主義の意味)という。
中国がとびかかってくると危機感を露わにしている分、原題の方が邦題より、この本の内容をよく表しているようにみえる。

邦題を読んだだけでは、アメリカの方が中国と戦争をしたがっている好戦的な本と誤解する人がいるかもしれない。それは誤りだ。
この本の主題は、米中戦争の回避にある。

ここではまず『米中もし戦わば 戦争の地政学』を簡単にまとめておきたい。
そして項を改めて、この本の内容と、前述のトランプ大統領の就任演説、およびホワイトハウスHPに掲載された方針とを比較しながら、トランプ政権の「リアリズム派」的側面を分析したいと思う。

構成

この本は、第一部~第六部の六部構成になっている。

  • 第一部:中国が軍国主義をとる理由を3つ挙げている。
  • 第二部:中国の持つ軍事力を、全部で14個のトピックで分析している。
  • 第三部:アメリカと中国が戦争になるとすれば、どのようなことで生じるのか、全部で10個のシチュエーションで分析している。
  • 第四部:アメリカと中国が戦争になった場合、どのような戦争となるのか、全部で5つのトピックで分析している。
  • 第五部:アメリカと中国の戦争を交渉で回避する可能性について、全部で6つのトピックで分析している。
  • 第六部:アメリカと中国の戦争を回避し、平和を維持する方法について、全部で6つのトピックで分析している。

第一部「中国は何を狙っているのか?」

中国が軍事力を増強している狙いは3つあると考えられる。2つは平和的な目的だが、1つはその意図に疑念を持たざるをえない。
中国の狙いは、次の3つと考えられる。

  • 侵略を受け続けた屈辱の100年間を繰り返さず、2度と侵略されないため。
  • 現在の経済成長を支える海上貿易のシーレーンを守るため。
  • 現状の国際関係における中国の立場に不満があり、経済成長と軍事力をアジアにおける影響力拡大に利用するため。

第二部「どれだけの軍事力を持っているのか?」

中国は、近代化の進む通常兵器(機雷、ミサイル、空母、戦闘機)だけでなく、アジアのパワーバランスをラジカルに変える恐れのある、破壊力の極めて大きい軍事技術の数々を保有している。
それは、まず対艦弾道ミサイル、次に多種類の対人工衛星兵器、そして戦闘機を墜落させたり航空管制や銀行ネットワークや地下鉄システムなど敵国内の民間施設を麻痺させる能力のあるコンピュータ・マルウェアなどである。
現状変更意図を持つ中国の軍事力が増大し続けるにつれて、紛争が起きる可能性も増大し続ける。中国は間違いなく、アジアの平和と安定にとって脅威になる。

第三部「引き金となるのはどこか?」

米中戦争の引き金となる可能性がある事象は、具体的には、台湾併合、北朝鮮尖閣諸島西沙諸島、九段線、中国のEEZの領海化、水不足のインド、中国のナショナリズム、中国の地方官僚の暴走、中露軍事同盟成立などである。
中国とその周辺国の現状には、不確実なことが増大しており、これもまた将来米中間で戦争が起こる可能性を年々増大させている原因でもある。

第四部「戦場では何が起きるのか?」

もし米中間で戦争が起こった場合、質で勝るアメリカ軍に対して、中国軍は量で対抗する。質についても、中国軍の技術力が進歩し、その差は年々縮まっている。
今後アメリカ軍のとるべき戦略は、「エアシーバトル戦略」(中国本土への攻撃も視野に入れて、前線、特に海空で戦う)なのか、「オフショア・コントロール戦略」(チョークポイントで海上封鎖し中国の通商路を絶つ)なのか、あるいはその「ハイブリッドな戦略」なのか。

比較検討をしてみたが「エアシーバトル戦略」も「オフショア・コントロール戦略」も「ハイブリッドな戦略」も問題を抱えており、米中間に戦争が起これば短期間で勝利できる可能性はほとんどないと考えられる。米中間の戦争がもし生じれば、戦争は長期化する。更に核戦争にまでエスカレートする可能性は十分にある。被るダメージを考えれば戦争は論外だ。だからこそ戦争にならない方法を見つけ出す必要がある。

第五部「交渉の余地はあるのか?」

クリントン政権は、中国を欧米流の平和的民主国家に変えるためのツールとして中国との経済的関わりを促進し、中国のWTO入りの道を開いた。
WTO加盟後、産業界は一斉に生産拠点を中国へ移しはじめ、アメリカでは産業の空洞化が進み、貿易赤字が膨れ上がった。
中国に相応の市場開放をさせることなく、アメリカの市場を開放したことは、結果として中国共産党の独裁体制の強化と、中国軍の軍事力増強を強力に推進することになった。それにより戦争の危険は増大し続けている。

軍事的な抑止、つまり核兵器による通常戦争抑止についても、中国には効きにくい。例えばオバマ大統領のアメリカのように、アメリカが合理的で穏当な判断を行うと中国が確信すればするほど、例え中国が通常戦争を起こしても、それによってアメリカが核兵器で報復しないと考えるようになる。
さらに中国は、軍の意図や軍備などを不透明にし、危機時のコミュニケーション手段をアメリカに与えず、中国は何をしでかすかわからないとアメリカに思わせることで、アメリカの報復意図を挫こうとしている(マッドマン・セオリー)。

更に中国は、自国の利益のために、公然と条約を破ることも辞さない。
中国との交渉は非常に困難だ。
ならば中国との平和を維持するには、力を利用した平和以外の選択肢はないと思われる。

第六部「力による平和への道」

中国は、単に軍事力だけではなく、「総合国力」の視点から世界を見ている。
「総合国力」とは、軍事力という「ハードパワー」だけでなく、経済力、労働力の熟練度、政治体制の安定度、天然資源、教育制度、技術革新、その国の同盟の性質や強度といった「ソフトパワー」も重視している。
「総合国力」というコンセプトは、「戦わずして勝つ」という孫子の格言に根ざしている。「戦わずして勝つ」といっても、全く戦わないということではない。政治戦、経済戦、科学技術戦、外交戦など、ありとあらえる手段を使い中国の勝利を手に入れるという考え方だ。

アメリカは、「総合国力」を保たねば平和を維持できない。

まず「経済を健全化しなければ、アメリカは中国に対抗できない」ということだ。
そのために必要な第一の戦略は、対中貿易の不均衡の是正である。アメリカが、中国製品を買えば買うほど、中国の軍事力増強に手を貸すことになる。インフレ率の上昇を招いても、貧困層に負担が偏るという左派からの批判をうけても、自由貿易を信奉してきた右派からの批判をうけても、対中貿易赤字を放置してはならない。
第二の戦略は、税制改革である。アメリカの世界一高い法人税は、製造業と雇用が国外へ流出する原因となっている。政治的論争を引き起こすだろうが、法人税率の引き下げは重要だ。
第三の戦略は、現在中国に略奪されるがままになっている、軍用及び民間の知的財産権の保護である。企業秘密や軍事機密の窃盗を中国に一切許してはならない。
最後に、教育制度の再建も必要だ。奨学金という多額の負債を生徒自身に負わせることなく将来の職業人を育てる必要がある。

次に軍事力の強化が必要だ。中国がアジアで軍事的優位に立てば、それはさらなる侵略行為に繋がる。それを防ぐには、中国の対抗戦略のターゲットにされているアメリカの戦略の脆弱性をなくすことだ。
第一に、脆弱性を持つアメリカ軍基地人工衛星資産を強化すること。中国の人工衛星ネットワーク破壊のための兵器の開発だ。これは比較的安価にできると考える。
第二に、制空権の確保を続けるということだ。これは戦闘機の価格の高騰の問題があり、多額の予算が必要と思われる。
第三に、潜水艦戦と機雷戦が抑止力の鍵を握るということだ。これは中国の対処戦略をそのまま逆に中国にしかけるという効果がある。

アメリカは同盟国を守るという鉄則を貫く必要がある。
もしアメリカが尖閣諸島を守らなければ、アメリカの深刻なダメージになる。アジアの平和と繁栄を持続させるためには、台頭する中国の力を相殺してバランスを取るための同盟が必要だ。
さらにアメリカは中国の脅威を直視する必要がある。中国は、多額の費用を支払い多数のロビイストを使うことで、アメリカの政治プロセスに直接介入している。
また中国に対するマスコミの論調を和らげるために、中国は巨額の広告費を使っている。中国をネガティブに書かなくなったという自主規制の動きは、マスコミだけでなく、ハリウッド映画にも、研究・教育機関にも広がっている。

(まとめおわり)

補足

先にも書いたが、この本は「国際関係論でいう現実主義」に基づき書かれている。ここでいう「現実主義」とは一般的な意味の「現実主義」ではないので注意してほしい。実際この本にも訳者注としてこんな記述がある。

国際関係論で言うリアリズムは、日常用語としての現実主義とはかなり異なっている。(p312)



就任演説、基本方針と『米中もし戦わば』の共通点

経済政策

トランプ政権は、2500万人の雇用と4%の経済成長を掲げた。
『米中もし戦わば』では、『「総合国力」を保たねば平和を維持できない』と指摘し、そのために「経済を健全化しなければ、アメリカは中国に対抗できない」と指摘している。
経済成長を約束するのはどの政権も同じであるが、『インフレ率の上昇』や『貧困層に負担が偏る』ことや『自由貿易』を制限してでも(中国との)貿易赤字を削減する意欲を見せているのは、トランプ政権の特長である。
貿易赤字については、この本では中国に対する貿易赤字を問題にしているが、実際上は中国だけの貿易赤字を問題視することはありえないので、貿易赤字の大きい*1、中国、メキシコ、日本と名指ししているのだろうと思う。なおドイツに対するアメリカの貿易赤字は、日本より大きいので、いずれ標的になると思う。
(追記:この記述は2015年の数値に基づき書いた。この投稿を書いた後、2月8日に2016年のデータが発表された。2016年のアメリカの貿易赤字額は日本の方がドイツより大きかった。)
その他、法人税の削減など、細かな点で一致点は多い。

予測その②
トランプ政権が行う二国間貿易協定交渉では、雇用を取り戻すことと並んで貿易赤字の削減が目的になる。
貿易交渉の主たる対象国は、中国、ドイツ、日本、メキシコだろう。特に問題視しているのは、中国であると考えられる。一方、最も交渉を行いにくい相手と考えているのも中国と思う。
まずは、交渉相手国に交渉上の弱みがある日本とメキシコを優先して交渉する。その際、為替と関税をちらつかせ、交渉を優位に進めようとするだろう。
中国とは、十分に準備を整えてから、貿易戦争辞さずという強い態度で交渉に臨むと予測する。

軍事政策

「他国の軍事力がアメリカを上回ることを許さない」という強い決意は共通である。
アメリカ軍の脆弱性の防衛強化と、それを実施するために必要な予算処置が政策の柱になると思う。
『米中もし戦わば』では、制空権の確保と潜水艦戦・機雷戦の重視があげられているが、それを踏まえたと思われるトランプ大統領の動きもある。
www.nikkei.com
diamond.jp

予測その③
トランプ政権の軍事政策では、最大の仮想敵国は、ロシアではなく中国になると予測する。
中国に対しては、軍事的により強い対応をとるようになる。
その主たる舞台は、南シナ海東シナ海、それに宇宙とサイバー空間になるだろう。
なお、軍事政策は技術的な部分が大きく影響するため、その政策実行はマティス国防長官が代表する専門家チームに任されると予測する。

なお、軍事政策のうち、イスラム過激派に対するものは、別項で考えることにする。


異質な政策=治安政

トランプ政権のとてもエキセントリックな雰囲気から受ける印象とは異なり、ホワイトハウスHPに掲載された基本方針のうち、雇用政策、成長政策、貿易政策、外交政策、国防政策、そしてエネルギー政策の一部については、(実現困難度は別として)目的は十分理解可能と思う。「アメリカ第一」のフレーズが独り歩きしているきらいはあるが、アメリカがアメリカの国益を追求することは責められないし、当然と思う。

しかし、ホワイトハウスHPに掲載された基本方針の中で、他とは異質な政策がある。
「治安政策」である。

ここでもう一度「治安政策」のポイントを記載しようと思う。以下の通り。

  • 殺人などの凶悪犯罪を減少させる。
  • 憲法修正第2条、つまり銃保持の権利の規定を維持する。
  • 不法入国を阻止し犯罪者と違法薬物の流入を止めるため、国境の壁を建設する。
  • 国境法を制定することに加え、不法移民を保護するサンクチュアリシティを終結させ、不法移民の流入を止める。
  • アメリカにいる凶悪犯罪を犯した不法外国人を追放する。

上記から、注目すべきキーワードをひろうと次のようになる。
「銃保持の権利維持」
「国境の壁」
サンクチュアリシティの終結」
「不法外国人の追放」

これらについては、少し考えただけでも、様々な問題や疑問が出てくる。
例えば、
アメリカに広く蔓延する銃が、逆に凶悪犯罪やテロの温床になっているのではないか?
国境の壁を建設することで、本当に不法入国を阻止できるのか?
サンクチュアリシティは、本当に不法移民の天国なのか? それを終焉させれば、本当に不法移民はなくなるのか?
不法移民を追放することが、本当にアメリカの国益になるのか? 憲法違反ではないのか? 等々だ。

この投稿は、これらの是非を考えるのが趣旨ではないので指摘に留めるが、これらの問題、疑問に対して、アメリカ国内のコンセンサスはないと認識している。これらはアメリカ国民のそれぞれの政治的立ち位置により、完全に見解がわかれるものだ。
つまり「治安政策」は「党派性」が強くでているものになっていると言える。
「治安政策」こそ、トランプ政権の「オルタナ右翼」的側面が強く出ているものと思う。それはアメリカの分裂を更に広げることになるだろう。

予測その④
トランプ政権の「治安政策」は「オルタナ右翼」の主張が前面に表れたものになる。
その結果、トランプ政権の「治安政策」は、アメリカのリベラル層を中心に強烈な反発を招く。その一方で、共和党支持者を中心に支持、評価も広がる。
アメリカは更に分断し、深刻な亀裂を抱えることになる。
いずれそのこと自体が、アメリカの治安を脅かすことになると予測する。トランプ政権であり続ける限り、騒動は絶えない。
そして、それは世界を巻き込んでいく。

正直に言うと、この予測は外れてほしい。アメリカが深刻な亀裂を抱える前に、和解し、団結と協力体制が築かれることを望んでいる。ただとても残念なことは、もしトランプ政権がこの政策を取りやめれば、リベラル層は快哉を叫ぶだろうが、そのことがまたアメリカの断裂を深めるだろうと思えることだ。続けても断裂を深め、止めても断裂を深める。この問題の場合、続けるでもなく、止めるでもない答えというのは、そもそも存在するのだろうか?


イスラム過激派のテロ根絶政策とイスラムフォビア

イスラム過激派のテロ根絶」こんな強い言葉は、日本の政治家には言えないなと半ば感心しつつ、例えアメリカでもそれは相当困難だろうと思う。
なぜならば、テロ根絶の決定打は未だ見つかっておらず、テロ防止の手段も限られたものしかないからだ。
外交政策のポイントにあげられたテロ対策は次の通り。
「共同軍事行動や軍事提携」
「テロリストへの資金を断つ」
「プロパガンダと人員募集を中断させるサイバー攻撃

これらの対策は、妥当なもので効果も期待できるが、残念ながら即効性のある決定的な対策ではない。そういった対策の効果をトランプ大統領は気長に待つのだろうか?
答えは「NO」だろう。

トランプ大統領がテロ対策に対して性急に成果を求めたとき、トランプ政権の持つ二面性から、2つの異なった動きがでるのではないかと考える。
それを垣間見せるできごとが既にあった。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170130/k10010857481000.htmlwww3.nhk.or.jp
トランプ政権は、明らかにイランに対して対立の姿勢を見せていて、その姿勢からこれまでオバマ政権の対応に不満を持っていたサウジアラビアから譲歩を引き出しやすくなっていると思う。
サウジアラビアと、同じスンニ派の国であるアラブ首長国連邦を説得して、シリアとイエメンで安全地帯を作るという構想について支持をえた。またトルコはもともとこの安全地帯構想を支持している。
イエメンの紛争はもう少し長引きそうだが、シリアでの安全地帯の設定構想は、シリアの紛争の幕引きを見据えた動きと考えるべきだろう。
シリアでは、ロシアの支援するアサド政権側が優勢となっている。その現状をサウジアラビアに認めさせ、シリアのスンニ派の生き残る場所を確保しつつ、アサドを支援しているロシアと取引を行う前段階の動きと考える。
(もともとそんな理念はトランプ氏にはなかったと思うが)オバマ政権時代の『「アラブの春」による民主化の戦い』という理念を捨て、シリアの紛争を「世界vsテロ組織」という一軸の対立構造に整理し、ISとアルカイダ系組織を叩くことだけに集中する。この一連の流れはとても「リアリズム派」的だなと思う。

一方で、悪評高い「イスラム7か国の入国禁止」を命じる大統領令も同時に出した。
この入国禁止令にテロを防止する効果はないと思う。それすらわからないほどトランプ大統領は愚かなのだろうか? それすら指摘できないほどトランプ政権の閣僚、高官たちは愚かなのだろうか?
これもまた、答えは「NO」と考えるべきと思う。
では何を狙ったのか?

一つめの仮説は、なぜ入国禁止対象とした国に、イランが入っており、サウジアラビアが入っていないのか?ということを考えることによって導いた。入国禁止の大統領令によってイランとの対決を明確にすることで、オバマ政権時代にイランと接近したことで傷ついたサウジアラビアとの関係を修復し、同盟強化を呼びかけているように思える。
そして、二つめの仮説だが、トランプ政権の支持層の持つイスラムフォビアをなだめるために出したというものだ。この仮説は「そんなもの誰でもわかってるよ」と言われると思うが、私は心の片隅で「アメリカ国民の多数は、こんな乱暴な政策に反対するだろう」という予断を持っていたようで、この仮説を否定していた、いや否定したかったのだと思う。
ところが、ロイターの世論調査を見て、私は正直びっくりしてしまった。
jp.reuters.com
トランプ大統領は、正しくアメリカ国民の現状をみている。
この入国禁止令は、「オルタナ右翼」的政策といえる。だが「オルタナ右翼」な人がアメリカ国民の半数もいるとは思わない。この政策は、多様性のあるアメリカ国民の比較多数に届いている。
そしてこの政策で時間をかせぎ、ロシアとの交渉などの準備を行い、軍事作戦を行うのだろうと思う。

予測その⑤
イスラム過激派のテロ根絶政策は、「オルタナ右翼」的政策と、「リアリズム派」的政策が、混在一体となった政策が打ち出されていく。
その一見わけがわからない組み合わせの裏側では、アメリカ国民の比較多数の支持を狙い、演出がなされていく。
それによって稼いだ時間を使い、同盟国だけでなくロシアとの協同も行いつつ、軍事作戦を遂行する。トランプ政権は、イスラム過激派に対する軍事力行使を躊躇しないと予測する。
ISなどのテロ組織は、ダメージを被る。
しかし、テロリズムはより細胞化し、ホームグロウンテロの脅威*2は、世界中に広がると思う。



シェールオイル開発と環境対策

アメリカの経常収支の赤字額は、4840億ドル(2015年)*3
石油輸入額は、1325億ドル(2015年)*4
トランプ政権の貿易赤字を削減するという政策目標を掲げているが、原油を増産し輸入額を削減することができれば、この目標を達成できると考えるのが自然だ。

安全保障上も、中東の石油に依存しなくなることは、有利に働く。
トランプ政権のエネルギー政策は、経済政策とも軍事政策とも整合性がとれている。

逆に、大きな矛盾を抱えるのが、環境保護だろう。
トランプ政権は、オバマ政権時代の環境保護政策を全否定し、シェールガス・オイルの開発に障害となっている規制をとりはらっていくと思う。

予測その⑥
トランプ政権は、シェールガス・オイルの開発の障害となっている規制を撤廃していく。オバマ政権時代の環境保護政策は、全否定される。
それは、環境保護を訴える人の反発を招き、トランプ政権との衝突は激化していくと予測する。

予測その⑦
原油価格は、生産国の生産調整で一旦上昇すると思われるが、アメリカのシェールガス・オイルの増産が進むにつれ、弱含みとなると予測する。
それは、原油生産国の経済にとりダメージとなる。
原油価格が弱含みで、原油がだぶつき気味になる状況は、ロシアの外交にも影響を及ぼす。ロシアの石油輸出先がヨーロッパ主体である(現在約6割)状況は変化しないだろうが、ロシアは中国と日本への石油輸出を増やすよう動くだろう。
一方、OEPCの影響力は減少すると思う。



対日政策

就任前の発言も含めて、トランプ大統領が日本に要求した主な項目は次の通り。
自動車産業非関税障壁をなくせ」
「為替を操作し円安誘導するのをやめろ」
日米安保条約へのタダ乗りはやめろ」

さて、これらの発言だが、就任後10日余りが過ぎ、トランプ大統領の暴言とも思われる一連の発言について、単なるはったりではなく、本気でやろうとしていることだと考えを変えた人は多いと思う。

アメリカのTPP離脱は決定的で、トランプ大統領が翻意するとも思えないので、トランプ大統領が求める二国間貿易協定の交渉に、日本は応じざるをえないと思う。
www.yomiuri.co.jp
アメリカに誤認識があるものについては、それを正していく必要はあるだろうが、そんなに誤認識はないと思う。トランプ大統領自身は、首脳会談で二国間貿易協定の交渉を要求するだけに留め、交渉そのものは交渉担当者が任命されると思うからだ。

トランプ政権が考える二国間貿易協定の目的は、貿易赤字削減とアメリカの雇用確保である点を忘れないようにしたい。
貿易赤字削減について、アメリカ側が日本に自動車産業非関税障壁撤廃を求めるなら、逆に日本はアメリカに日本がほしいものを輸出するよう要求すべきではないだろうか。
例えば、今後増産するはずのシェールオイル。日本も原油輸入先の多角化は国益に沿う。
あるいは、iPhoneなど高付加価値の電子通信機器工場をアメリカに取り戻すよう要求し、それを輸入することでもいい。
トランプ大統領は、交渉相手に大きく要求し、自分の望む取引をしようとするだろう。日本もアメリカに大きく要求しなければ、ずるずると譲歩を迫られることになる。

「日米成長雇用イニシアチブ」はよいアイディアと思うが、トランプ政権はそれだけでは満足せず、貿易赤字削減策を日本に飲ませようとするのは必定と思う。
jp.reuters.com

為替については、トランプ政権が導入しようとしている「国境税調整」の導入等で大きく動くものであり、「国境税調整」がどんな内容なのかわからない状況では予測のしようがない。もっとも「国境税調整」が導入されれば、自動車産業などは否応なくアメリカでの現地生産を進めざるをえなくなるので、交渉もそこそこに導入するのかもしれない。申し訳ないが、未決定事項が多いため、この件は保留にしたい。

一方、安保タダ乗り論についてだが、この件はそんなに心配していない。
トランプ政権には「ラスボス」中国との交渉が待ち構えている。
その交渉において、アジアにおけるアメリカ軍のプレゼンスの確保はアメリカにとり重要なものであり、日本が日米同盟でアメリカに対して貢献しているものは、地政学的な意味においても、駐留経費負担の意味においても、とても大きいものだと思われる。
逆に、軍国主義に突っ走る中国に対抗するため、日本も自衛隊装備を充実させ対応力を強化することが必要であり、それはアメリカの国益にも一致するので、歓迎されると思う。
トランプ政権になっても、安全保障分野では、日米関係は良好な状態を保てるだろう。

予測その⑧
日本は二国間貿易協定の交渉を受けざるをえない。アメリカからの要求は強く大きく交渉は難航すると予測する。交渉では日本もアメリカに大きく要求した方がよいし、交渉が進むにつれそうなっていくだろう。
二国間貿易交渉が難航することでトランプ大統領の攻撃(口撃?)は何度もあるだろうが、日米関係全体を悪化させることはないと思う。
なぜなら安全保障と日米同盟に対する認識は一致しており、安全保障上の日米関係は良好な状態が続くと考えられるからだ。
但し、今後アメリカと中国との関係悪化が予想される。その結果、自衛隊もアメリカ軍も大きな緊張を強いられる状況になり、それが続くと予測する。




対中政策

対中政策は、前述した『米中もし戦えば 戦争の地政学』に書いていることがどれだけ実行されるか見守ることにして、予測しないでおこうと思う。
再度指摘しておきたいのは、『米中もし戦えば 戦争の地政学』は、「国家通商会議」の委員長が自ら書いた本ということだ。中国との通商交渉で、ナヴァロ委員長自身が陣頭指揮をとるなら、それは相当強硬な要求になるだろうと思う。



対ロシア政策

ロシアとの関係改善が一気に進むとは思わない。一気に進めると、トランプ大統領のスキャンダルが持ち出されるかもしれないという点も抑制的な動きに繋がる。
しかし、オバマ政権と違って、いずれロシアとは融和的になるだろう。
トランプ政権は、中国と強く対決しようとしていると思う。そんなときに、中露両国と対立するのは得策でないし、中露を接近させてしまったら、中国との交渉に差し支えがでる。



トランプノミクスの行方

トランプ政権の経済政策によって、アメリカ経済が成長するのかしないのか、今の時点では予測はできない。
二国間貿易交渉の行方、国境税調整の中身などに大きく影響するからだ。

二国間貿易交渉がアメリカのよいように締結できれば、アメリカの経済は成長するだろう。

国境税調整は、一般的にはドル高が進みインフレになると言われる。輸入品の価格が上昇するため、アメリカ国内におけるアメリカ製品の価格競争力が上がり、製造業の雇用が増えるかもしれない。だがインフレになれば消費が落ちるという悪影響がある。その一方で、税収は上がると考えられ、それをインフラ再構築(公共事業)に使うことで経済成長に繋がる可能性がある。国境調整税は、アメリカの経済成長にプラスの面とマイナスの面があり、影響の予測が難しい。少なくとも、具体的な内容が決まるまでは、効果を予測することができない。

法人税減税と所得税減税は、経済成長にはプラスになる。それからシェールオイルの増産は、少なくとも短期的には経済成長にプラスだろう(長期的には環境保護の対策費が増大し経済成長にマイナスの影響がでる可能性はある)。

未決定事項が多すぎて、現時点で予測するのは不可能だ。申し訳ない。



トランプ大統領は、パンドラの箱を開けた

トランプ大統領は、厄災の詰まったパンドラの箱を開けた。パンドラの箱の中身はトランプ大統領が詰め込んだわけでない点は、大事なことなので強調しておきたい。
厄災を詰め込んだのは、冷戦終結後の歴代の大統領と政権だ。

クリントン大統領は、パンドラの箱に「軍国主義化し脅威となる中国」を詰めた。
ブッシュJr大統領は、パンドラの箱に「イスラムの人々の怒りと悲しみ」を詰めた。
オバマ大統領は、パンドラの箱に「大量難民という問題」を詰めた。
3人の大統領が、パンドラの箱に「富の偏重と格差拡大」を詰めた。
3人の大統領が、パンドラの箱に「アメリカからの製造業の流出」を詰めた。
3人の大統領が、パンドラの箱に「忘れられたアメリカ人の怒り」を詰めた。
そして、パンドラの箱の中には「リーダー国なき世界」という混沌が育った。

予測その⑨
トランプ大統領は、厄災の詰まったパンドラの箱を開けた。
そして、「リーダー国なき世界」という混沌が飛び出た。
それは、たとえトランプ大統領が早期に罷免され退場したとしても、もう箱の中に戻らない。
世界は、混沌という新たな秩序(?)の時代になった。
せめて、パンドラの箱の中に、「希望」が残っていますように。

(最後は予測じゃなくて願望を書いてしまいましたね。申し訳ありません。)



追記:トランプ大統領との交渉について

トランプ大統領は、敵認定すると容赦ないと思われる。それは同盟国であってもだ。
同盟国といっても、その国の影響力とアメリカに対する貢献の差で、本音レベルでは同じ扱いであるはずもない。それでもこれまでの大統領であれば、儀礼的に対応していたであろうが、トランプ大統領は「儀礼などくそくらえ」であろうと思う。交渉の中で、トランプ大統領の考えと真っ向から異なるものをぶつけられると、即座に敵認定される。
「正しいものは正しい」そういう外交を選ぶのもよいが、アメリカとの良好な関係がその国の国益に繋がるのであれば、交渉方法はおのずと限られる。
たぶん、その観点では、ドイツのメルケル首相はトランプ大統領と徹底的に合わない。
オーストラリアのターンブル首相の考え方、主張は全く正当なものと思うけれど、国益を考えたときにどう対処すべきであったかは、意見がわかれるところだろう。
トランプ大統領は、扱いづらい。
だが、1国を背負う以上、うまく付き合うしか方法はないと思う。あれでも「自由陣営」の盟主なのだから。
www3.nhk.or.jp


追記その2:対EU(特に対ドイツ)政策について

www.newsweekjapan.jp
本文にも書いたが、アメリカは対ドイツとの貿易で、対日本以上の貿易赤字を出している。
トランプ政権の政策から考えると、貿易赤字削減を求めて、日本やメキシコに対するのと同じか、それ以上の強い圧力を加えてくるだろう。
ただドイツが有利な点は、日本とメキシコとは違い、通貨がユーロという多くの加盟国のある統一通貨であることだ。ユーロがドイツを守っている。ナヴァロ氏の「ユーロは過小評価されている」という批判は、ドイツに対しては正しく、イタリアやスペイン、ギリシャなどの南欧諸国に対しては正しくないと思う。私は、ユーロはドイツには通貨安で、南欧諸国には通貨高だと思う。
南欧諸国は、本来通貨安にして経済的な苦境を脱出したいと考えるはずだが、統一通貨であるゆえに思い通りにいかない。その一方でドイツは輸出で優位にたつ。
「ドイツはもっと支援すべきだ」との批判は南欧諸国からもでている。
一方、ドイツ国民は、なぜ自分たちの税金で南欧諸国を支援し続けねばならないのかと考えている。
アメリカのトランプ政権は、ドイツは不公正な貿易を行っていると見ている。
この状態が長続きするようには見えない。
ナヴァロ氏はその綻びをついたのだろう。
トランプ政権が、ユーロの崩壊を目的にしているとは思わない。だが、目的にしている「ドイツの対米貿易黒字の削減」を目指す対応が、ユーロの崩壊を招きかねないのは事実と思う。
上記のニューズウィークの記事は、目的と結果を逆転して書いているように思う。



アパホテルの行為に対する私のコメの真意

id:hima-ariさんへ

id:houjiT さんへ。(はてなハイク)

上記のハイクでIDコールをいただき、ハイクの記事だけでなくブクマタワーも含めて全部読ませていただきました。私の考えをご理解くださったこと、本当にありがとうございました。

私は、南京事件を否定していません。
したがって、アパホテルの代表の見解に、賛同していません。
その観点から、昨日別のコメで下のように書いた通り、私はアパホテルを避けています。

和泉徹彦 Tetsuhiko IZUMIさんのツイート: "TLにアパホテル終わったとか、微博で5500万再生とか流れてたので何かと思って調べたら、客室内の冊子に南京大虐殺否定の記事があったそうな。それ

こういう会社が社会的制裁を受けることについて僕は容認するよ。批判は当然と思う。それにしても客商売らしからぬバカな会社だなと思う。ちなみに僕はアパホテルを一度も利用したことはない。今後利用する気もない。

2017/01/17 16:02
b.hatena.ne.jp


にも関わらず、id:houjiT氏のように、偏見に満ちた見方をする人が一定数出てくるのですよね。
それに関しては、私の考え方を否定したいという気持ちが特に強い人に、特徴的なものと思っています。そういう人を私は「はてサ」と呼んでいます。
特に「はてブ」では、私はギリギリのラインを狙ってコメを残しているため、また字数に限りがありどうしても端折らざるをえないこともあり、「はてサ」たちは私が意図していない行間を読み「曲解」するのだと思います。
疑義があれば、真意をコールなりで聞けばよいのにと思いますが、きちんと適切な内容と表現で真意を聞いてくる人はとても少ないですね。今のところ数人です。そういう聞かれ方をすれば、私は都度都度丁寧に考えを説明しているのですけれどね。ちょうどこの投稿のように。

でも「はてサ」たちは、いきなりポリコレ棒をふるってくるのですよ。「お前は間違っている」(注:今回の場合は「南京事件否定論を僕が肯定している」って批判の文脈で指摘されたこと。誤解があるみたいなので1/20に追記)ってね。罵倒されたり蔑視的な表現を使われることもよくあります。本当に彼らは単純だなと思います。
もっとも私は以前から「はてサ」たちの癇に障るようなコメをわざと残して、そういう反応を楽しんでいることもあり、私自身へ直接ふるわれるポリコレ棒は、いわば私の望むところ(自業自得?)と思っています。
そういう底意地の悪さ(その点は自覚しています)も、「はてサ」たちの癇に障るのでしょう。

今回、hima-ariさんが期せずして、そんな不毛なやり取りに巻き込まれてしまった点について、申し訳なく思います。
ここからは、不毛なやり取りを私に引き取らせていただければと思います。


(hima-ariさんにあてた文章はここまでです)

昨日の私のコメの真意

経緯

以下は、昨日の私のコメに対するhima-ari氏とhoujiT氏のやりとりを引き取るための説明です。

次のコメが問題になった昨日の私のコメです。

客室設置の書籍について | 【公式】アパグループ

政治主張は言論の自由で守られる。それは正しい。一方批判するのも言論の自由で守られる。更に宿泊しない自由の行使は誰もができる。当然中国人も。この件はアパホテルのホスピタリティの欠如の証左と僕は考えている

2017/01/17 18:17
b.hatena.ne.jp
これに対しid:kyo_ju氏がつぎのように私にIDコールをしてきました。
客室設置の書籍について | 【公式】アパグループ

突っ張るなら「このたび中国語版も設置することとしました」ぐらい書いてみろ。/id:the_sun_also_rises この人達にホスピタリティがあったらどんな対応になると?

2017/01/17 18:53
b.hatena.ne.jp
それに対しhima-ari氏が、メタブクマで次のようにコメしました。
はてなブックマーク - 客室設置の書籍について | 【公式】アパグループ

黒い日の丸の人はどう考えてもアパホテルに対して良い感情を持ってないと思えるコメント出してるのに、トンチンカンなIDコールに星いっぱいなの見るに党派性メガネって怖いですね感しゅごい。

2017/01/17 22:08
b.hatena.ne.jp
このコメにhoujiT氏がhima-ari氏に次のようにIDコールしたことからブクマタワーが積み重なったようです。後述の説明を読んでいただければわかると思いますが、houjiT氏の解釈は曲解です。
はてなブックマーク - 客室設置の書籍について | 【公式】アパグループ

id:hima-ari 批判ってか具体的にどんな対応を想像しているか聞いてるだけじゃ?「政治にも学術的にも逆行した作文をおもてなしの心で披露すれば問題ない、ってどんな披露の仕方よ?」っつう。

2017/01/17 23:39
b.hatena.ne.jp
その後いくつかやりとりがあったようで、最終hima-ari氏のハイクの次の文に繋がります。

アパホテル側の政治的思想に賛意を示している」
という前提があるから
「意見者は提供方法の問題を指摘している」
という解釈上の縛りが発生するのではありませんか?

アパホテル側の政治的思想に賛意を示していない」
という可能性を鑑みれば
「そもそもそんなモノを置いておくのがオカシイ」
という解釈に行き着くのが自然だと思うのです
id:houjiT さんへ。(はてなハイク)

hima-ari氏の指摘は過不足なく私の真意を説明しているのですが、やり取りを引き取るにあたって、もう少しくわしく説明することにします。

コメの真意

コメの100字制限をはずし、私の真意を説明すると次のようになります。

私はアパホテルの代表の見解に賛同していない。
しかし、賛同しない見解だからといって、民主主義国である日本では言論の自由があり、アパホテルの代表には、代表の政治主張を表明する権利がある。本の出版について言論の自由だと主張することは正しい主張だ。
一方で、その見解について批判するのも、当然言論の自由で守られるわけで、今回の炎上は自業自得と思う。
代表の見解に対する賛否を譲ったとしても、経営者であれば経営している会社の利益を上げることが責務であり、中国人のみならず他の顧客も宿泊をボイコットするような動きを招いた「客室に本を置く」という経営判断を行ったのは、経営者として失格だという批判は免れない。
アパホテルは、ホテル業でもっとも大切なもの、ホスピタリティの欠如したホテルだと思う。

もっとも真意をきちんと説明しても、「はてサ」たちの中には、「私がウソをついている」あるいは「後出しじゃんけんだ」と信じようとしない頑固者もいそうなのが残念です。

歴史問題に対する私のブコメのスタンス

私は、歴史問題についてのブコメは、次のスタンスで臨んでいます。

  1. 歴史問題を政治的に利用することについて、そもそもそれ自体を批判的に見る。
  2. そしてその考えや行動が、日本の国益に反すると考えられる時、ブコメで批判コメを残す。

16000以上のコメを書いているので、上記の原則に反するコメもいくつかあるかもですが、歴史問題に対するほとんどのコメはこの原則を守っていると思っています。

(国際関係論でいう)現実主義

今回のアパホテルの(代表の)行動は、上記の1、2両方に当てはまるので、批判コメを残しました。
上記の原則に、「歴史問題の解釈の是非」は入っていないのが、私の考え方の特徴だと思っています。
善悪を物差しとせず、国益を物差しにする考え方は、(国際関係論でいう)現実主義の特徴なのですが、どうもそれを「はてサ」たちは受け入れたくないようです。
そして「はてサ」たちが最も大事だと思う「歴史問題の解釈の是非」を私が基準にしないのは、「はてサ」たちが批判している解釈を私が内心では肯定していると決めつけるようです。今回のhoujiT氏の私のコメに対する解釈もそれに該当しそうです。

はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - 客室設置の書籍について | 【公式】アパグループ

id:hima-ari いや、そういう前提ではないですね。ただ否定論をデマ等でなく言論としたのを見て、最後の一文は「客に出すやり方を間違えたから炎上した」と個人的には解釈しました。賛同してないけど認めてはいる的な

2017/01/18 00:48
b.hatena.ne.jp

もっとも上記の原則に従うと、必然的に、日本に対する批判コメより、中国と韓国に対する批判コメが圧倒的に多くなるため、上記のような偏見を持つのかもしれません。

民族主義に対する私のブコメのスタンス

今回のアパホテルの(代表の)行動は、日本の行き過ぎた民族主義が引き起こした事例とみることもできるかと思います。
そこで最後に「民族主義」について、私の見解を書いておきます。
私は、「民族主義」だけでなく、「全体主義」「社会国家主義」「共産主義」「国際主義」「現実主義」「理想主義」など全ての主義について、正負両面があると考えています。
民族主義」の最もよい面は、「民族主義」がその人のアイデンティティの確立によい影響をもたらすという点だと考えています。
民族主義」の最も悪い面は、「民族主義」が行き過ぎると他の民族へ攻撃性が高まることと思います。
正直に言って、私は現在の日本と周辺国の「民族主義」については、負の要素が大きいと考えるので、あまり肯定的にみていません。

私は「民族主義」だけでなく、「どんな主義でも、それに傾注するのが行き過ぎると、その主義に引きずられて事実の認知が歪む」という負の影響があると考えていますが、韓国の「民族主義」は既に国全体としてその段階にきているのではないかとみているため、韓国には辛辣なコメが多くなっています。それも「はてサ」たちには気に入らないのかなと思います。

付け加えると「民族主義」についてのブコメは、次のスタンスで臨んでいます。

  1. 行き過ぎた民族主義について、そもそもそれ自体を批判的に見る。
  2. そしてその行き過ぎた民族主義が起こした事柄が、日本の国益に反すると考えられる時、ブコメで批判コメを残す。

上記の原則に照らしても、アパホテルの(代表の)行動に対しては、批判コメを残すということになります。

なお、日本の「民族主義」に対する批判コメが私のブクマで少ないのは、内容はともかくとして、意外と日本の国益に反するものが多くないとみているからです。


昨日のコメに対する説明は、以上の通りです。


追記

kyo_ju氏のIDコールには次のように返答しておきました。

突っ張るなら「このたび中国語版も設置することとしました」ぐらい書いてみろ。/id:the_sun_also_rises この人達にホスピタリティがあったらどんな対応になると? - kyo_ju のコメント / はてなブ

id:kyo_ju ホスピタリティがあれば「部屋に本を置く」などというバカなことは行わないよ。君のコメを起点になぜかブクマタワーが積みあがったようなのでブログに説明記事を書いたから読んで→https://goo.gl/0vhQlo

2017/01/18 15:54
b.hatena.ne.jp

追記その2

やり取りを引き取った後の顛末

kyo_ju氏と、ハイクでやり取りしました。
以下の通りです。

kyo_ju氏

ブコメを書いた人が誰だろうと、
「(オーナーが書いた歴史修正主義本をホテルの客室に備え付ける行為は)ホスピタリティの欠如という点で問題だ」と言われたら、
その人はこの案件に対して「メッセージの内容に問題はないが、TPOや伝え方に問題がある」という立場、
つまり「オーナーの主張内容には賛成か、少なくとも強く反対はしないが、不快に思う客もいることを考えたらホテルの部屋に置くのは好ましくないんじゃないの?」という立場なんだなぁ…と普通に理解しますが。

「××という行為は○○という点で問題だと思う」という言明は、暗に「他の点では特に問題ではない」という意味を含むものです(そうでなければ、「○○という点でも問題だ」と書くでしょう)。

私はこの案件について、他の国家や民族を攻撃するような内容でさらには虚偽の内容を書いた本を客室に置いて誇示する行為自体が客や当該の国家、民族に対する威圧や侮辱になることが問題なのだと認識していました。おそらくこの問題でアパホテルを批判している人の多くがそうなのではないかと思います。
対して、id:the_sun_also_rises氏の「ホスピタリティの問題だ」という意見は、そうではなく客への配慮不足の問題にすぎないのだ、と言っているように聞こえます。だから真意を問うたわけです。

それにしても、もし「ホスピタリティの問題」としてアパホテルを批判したとして、「むしろ本を置くことがわが社なりのホスピタリティの発露なのだ」とか「少数の客を不快にしないことより『歴史の真実』を伝える方が優先する」と言われたら、「ホスピタリティの問題だ」という批判は無効になるでしょう。
「ホスピタリティの問題。ちゃんと客に配慮せよ」という批判の仕方は、アパホテルの経営者のような思想的にかたくなであろう相手に言うことを聞かせる方便としてすら機能しないように思えますが、どうなのでしょうかね。
http://h.hatena.ne.jp/kyo_ju/299869465187079104

僕は「ホスタビリティが欠落した会社だ」という批判は、ホテル業の会社に対する「最大の批判」と思っているんだ。
だからあのコメだったのだけどね。
代表がどのような思想を持つかは自由だと僕は考えている。
ただし経営者としての責務からは逃れられない。だからこそ、経営者としての問題点を指摘したのがあのコメの真意。
僕のブログ投稿を読んでも理解できなかったのかい?
このコメントを読むと、そう感じるよ。
ブログ投稿に対するブコメは重箱の隅をつつくようなものだったしさ(笑)
http://b.hatena.ne.jp/entry/316544581/comment/kyo_ju
なお君の最初の質問コールそのものは、僕は気にしていないよ。
http://h.hatena.ne.jp/the_sun_also_rises/316617226769275358

kyo_ju氏

ホテル経営者として「ホスピタリティが欠けているかどうか」は確かに重要でしょうが、ホスピタリティは本質的に主観的なものなので、アパホテルのオーナーが「これぞホスピタリティの発露だ」と心底信じていればそこで試合終了であること、上のハイクでも述べたとおりです。
一方、ホテル経営者として「他国や他国民を威圧したり侮辱したりしないかどうか」も負けず劣らず重要でしょう。で、威圧や侮辱かどうかは客観的に判断可能なわけです。

あなたのブログ記事に対してのブコメで記事の一部にしか言及していないのは、単純に私が興味を持ったのがその箇所だけであることと、返答が必要な箇所はないと考えたことからです。
私はこの問題でホスピタリティを云々するのは本質を外していないか?と考えたから質問したわけですが、ブログ記事を読んで「やはり本質を外しているのだな」と思いましたし(どう本質を外しているのかはこのハイクと上のハイクで述べたとおり)、私はそもそもあなたが「アパホテル側の政治的思想に賛意を示している」という前提に立って質問を投げかけてなどいないので、はてサガーと言っている部分については誤爆ないしもともと対象外ですし。

取り急ぎ返信まで。
http://h.hatena.ne.jp/kyo_ju/279638451995090551

代表がいくらホスタビリティについて強弁したとしても、会社の業績は数字として出る。
それこそ「客観的」と思わないのかい?
そもそもあのブクマは、会社のリリースに対するものなのを忘れてないか?
だからこそ、その会社の経営者としての問題点指摘を行ったのだが、それを「本質的でない」と考えるのは、相当ゆがんだ認識と思うよ。
「威圧」や「侮蔑」が客観的という考えも同意できない。
それこそ正に主観的なものだ。
http://h.hatena.ne.jp/the_sun_also_rises/81796727899638787

kyo_ju氏

ホテルの来客数を決定する大きな要因として需給がある以上、ホスピタリティで会社の業績は決まりません。
また、会社の業績がどんなに順調でも、反社会的な行為(たとえば他国や他民族への威圧や侮辱)を行なっている会社がそのことについて社会的制裁を受けるべきである点には変わりありません。

客観的な犯罪の事実認定が可能であることを前提とした近代刑法典において侮辱罪や脅迫罪という犯罪類型が存在していることからもわかるように、他人を威圧する行為や侮辱する行為は客観的に認定することが可能です。

以上です。
http://h.hatena.ne.jp/kyo_ju/299851874076326425

この件は、侮辱罪や脅迫罪という犯罪に該当しないよ。日本の刑法をきちんと調べたのかい?
だけど君は犯罪類型の存在をもって客観的といっている。論理破たんをおこしているよ。
犯罪に当たらなくても、侮辱や脅迫になることはあるのはわかっている。
ただ、それはとても主観的なものだ。

それからアパホテルの件だが、中国の旅行社が取引を拒んでいる。中国政府も批判している。このような状況下では、業績の悪化は必至だろうよ。
そういった客観的な評価を君はできているのかい?
これこそ「ホスピタリティの欠如による業績悪化」といえるだろうに。
http://h.hatena.ne.jp/the_sun_also_rises/81814320355374628

kyo_ju氏

侮辱や脅迫という行為が客観的に認定可能なものだから、それが犯罪類型の一つとして規定されているわけです。
私の文面はこのことを指摘したものであり、「すべての侮辱や脅迫が犯罪に該当する」などと言っていないのは一読すれば明白ですよね。

今回の案件に対する反応としての中国政府の批判や中国の旅行会社の取引中止が、あなたには「ホスピタリティの欠如による業績悪化」に見えるのですか。
私には、「他国や他民族への威圧や侮辱という反社会的行為に対する社会的制裁の結果としての業績悪化」に見えますが。見解の相違ですね。
http://h.hatena.ne.jp/kyo_ju/83467986020285669

この件は、犯罪じゃないのだよ?
日本の刑法によって客観的に認定すれば、侮辱でも脅迫でもないという結論を得る。
これを侮辱や脅迫と君は主張しているのだろうが、それを認定する規定はないよ。
規定がないから、僕はこれを主観的と言っているのだが、君が客観的とする根拠はなにか?

業績悪化するということは認めるのだね。
2つ前の君のコメ「ホテルの来客数を決定する大きな要因として需給がある以上、ホスピタリティで会社の業績は決まりません。」というのは、撤回するということでよいのかな?
それであれば、君と僕とは、見解の相違ということでよいよ。
見解の相違はあるが、僕も君も問題のない認識をしているということだね。
http://h.hatena.ne.jp/the_sun_also_rises/315649657549040242

kyo_ju氏

行為の性質上、侮辱や脅迫は客観的に認識できる(主観的な受け取り方の問題ではなく、客観的な行為の態様によって認識される)。その中で刑法典上の侮辱罪や脅迫罪に該当するものは訴追され、罰せられることがある。という関係です。

・上記引用箇所の趣旨は、「需給という別の大きな要因がある以上、ホスピタリティだけで会社の業績が決定されることはない」ということです。そのことを指摘することで、ホスピタリティが欠如すれば会社の業績悪化に直結するのだというあなたの主張は前提から誤っているのだと述べたものです。
また、いうまでもなく、社会的制裁を受けてもそれだけで必ず会社の業績悪化を招来するとも限りません。しかし、私の立場は業績悪化につながろうがつながるまいが関係なく、他国や他民族を侮辱したり威圧したりするような会社は社会的制裁を受けるべきであろうというものなので、業績悪化がどの程度の蓋然性で起きるかという問題は議論に影響しません。
http://h.hatena.ne.jp/kyo_ju/299869466969817360

一番重要な問いかけに答えてくれていないのが残念だ。
前回問いかけたのがわかりにくかったのかもと思うので、もう一度わかりやすく問いかけたい。それに答えてほしい。

今後、アパホテルの業績悪化が予想される(この点に認識相違はない)
君は、「他国や他民族への威圧や侮辱という反社会的行為に対する社会的制裁の結果としての業績悪化」とみている。
僕は、「ホスピタリティの欠如による業績悪化」とみている。
君も僕も、自説の方がよい解釈だと思っているが、それは見解の相違と言える。
少なくとも、双方の意見を「完全に否定」するほどの重要な問題はその解釈の中にない。

上記の整理に、君は同意するのだろうか?それとも同意しないのだろうか?
同意するのなら、この議論はここで終わりなのだと思うよ。
では返答を待つよ。
http://h.hatena.ne.jp/the_sun_also_rises/228779457575149615

kyo_ju氏

今回は、たまたま今のところアパホテルの業績悪化を招きそうな状況になっていますが、あなたのいう「ホスピタリティに欠ける対応」や私のいう「他国や他民族を威圧したり侮辱したりする反社会的行為」をすれば必ずホテル業の業績悪化を招くとは言えません。
現にこれまでは(同様の対応を続けていたにも関わらず)炎上しなかったわけですし、これからだって、たとえば歴史修正主義を支持する人達がアパホテルを「泊まって応援」しようと運動を繰り広げたりして、業績悪化しないで済む展開もあり得るでしょう。また、ホスピタリティの有無・程度や、反社会的行為の有無・程度だけでホテルの業績が決まらない(立地、価格など他の要因の影響が大きい)ことは前述のとおりです。
以上のとおり、「オーナーが書いた歴史修正主義本を客室に備え付けた」⇒「業績悪化」が必然であったとはいえないと考えます。もしあなたがこれを必然だったと考えるのであれば、見解に相違があります。

それ以上に本質的な見解の相違は、
 ・あなたは、この問題について「ホテルの業績悪化を招くから経営者として不適切な判断だ」と考えている。
 ・対して私は、「(業績悪化を招こうが招くまいが)他国や他民族への威圧や侮辱的言動を行なったこと自体が社会的非難を受けるべきだ」と考えている。
という違いです。
この違いについては、hima-ariさんへのあなたのリプライで、あなた自身も
 ・kyo_ju氏は、アパホテルの代表の「歴史認識」を重視した。
 ・私は、アパホテルの「代表の経営者」としての責務を重視した。
と、若干言い方は異なりますが同趣旨の指摘をしていますね。

以上二点、見解に相違があります。
もっとも、見解の相違が明確にされることも議論の一つの意義ではありますので、相違があることを確認して議論を終了してもよいと考えますが、どうしますか。

以上はさておき、あなたのブログエントリ(http://thesunalsorises.hatenablog.com/entry/2017/01/18/145832)で次のような趣旨で「はてサ」について論評していますね。

(1)「はてサ」たちは、いきなり「お前は間違っている」とポリコレ棒をふるってくる。
(2)「はてサ」は私の考え方を否定したいという気持ちが特に強いために偏見に満ちた見方をする。
(3)私の言動は「はてサ」たちの癇に障っているようだ。

(1)について(「ポリコレ棒」という概念の意味にも疑問がありますが)、the_sun_also_risesさんはブコメ等でいきなり「お前は間違っている」と他人を批判したことは無い、との理解でよろしいでしょうか。
また、(2)と(3)については、言及相手の内心の決めつけを含んでいると思いますが、the_sun_also_risesさんは他人の内心を決め付け、それを前提として何らかの主張を展開するようなやり方に対しては肯定的である、と理解してよろしいでしょうか。

上記のブログ記事でいう「はてサ」に誰が含まれるのかは不明ですが、日頃「はてサ」と呼ばれることも多い者の一人として、今回の議論をきっかけとしてなされた上記の「はてサ」への揶揄的な論評は看過できないものと考えるので、認識を明らかにされるか、論評自体を撤回されることを求めるものです。
http://h.hatena.ne.jp/kyo_ju/81814358298799942

返答ありがとう。
これでやり取りを終了することは、既に表明している通り、異論はない。
その論評をしたから、このやり取りがあったのだから、論評自体は撤回しないつもり。
経緯がまったくわからなくなるからね。
批判は自由と思うので、ハイクなり自身のブログなりで行えばよいと思うよ。
もっとも、ハイクなりブログなりで、長文の批判をいただいても、正直、時間がとれないので、ブコメでしか返答しないと思う。
今回は、巻き込まれたなとhima-ariさんに申し訳なく思ったので、特別にブログやハイクで対応したので。
http://h.hatena.ne.jp/the_sun_also_rises/83468023942331279

このやりとりは、これでひと段落だなと思います。
正直に言って、このやり取りが見解の相違で落ち着くのは、最初からわかっていました。
そして最後にkyo_ju氏が私を批判したの点は、今回のやり取りの本筋ではないのですが、その点は理解できます。

(1)について(「ポリコレ棒」という概念の意味にも疑問がありますが)、the_sun_also_risesさんはブコメ等でいきなり「お前は間違っている」と他人を批判したことは無い、との理解でよろしいでしょうか。
また、(2)と(3)については、言及相手の内心の決めつけを含んでいると思いますが、the_sun_also_risesさんは他人の内心を決め付け、それを前提として何らかの主張を展開するようなやり方に対しては肯定的である、と理解してよろしいでしょうか。

これについては、僕の言がそれに該当すると思えば、具体的に批判すればよいだけと思っています。(1)について指摘しておきたいのは、私はこれまで自分からIDコールして上記のような行動をとったことはないということです。逆にいきなり「はてサ」と思われる人物からいきなり罵倒IDコールされたこと(これをポリコレ棒と呼んでいます)は幾度となくあります。その時はこちらもコール主を侮蔑した対応をとらせてもらっていますが、繰り返しますがそんなことを自分から仕掛けたことはありません。
本文にある侮蔑の事例としては、コールはしなくても私に対して「暗黒太陽」(「自爆ボタン先生」というのもあるみたいだけど)などという侮蔑を含んだ名指しをするような無礼なコメもいくらでもあります。しかし私はそのような侮蔑を含む名指しをしてコメを残したことはありません。指摘された部分は、そういったできごとを指しています。
「暗黒太陽」を検索 - はてなブックマーク

それから、仮に万が一そういう事例があったからといって、別事例ですから今回の事例を撤回することにもならないかなと考えています。
日本の法律(と今回の場合にははてなの規約)に従えば、批判はお互いに自由なんですからね。

ただ一つだけ書いておきたいのは、kyo_ju氏がコメントに書いた『「××という行為は○○という点で問題だと思う」という言明は、暗に「他の点では特に問題ではない」という意味を含むものです』と私は考えないということです。その考え方は、偏見に繋がりやすいと思うからです。一方、誰かの論説がなぜその件にふれないのか疑問に思った場合は、触れていないという事実の指摘を行って偏った見方だという批判をするように心がけています。
なお付け加えると、今回kyo_ju氏も同様だったと思いますよ。そのラインを踏み越えた人はいましたが、kyo_ju氏とは別人です。
そしてその態度は、私も同じだったと思います。だから、kyo_ju氏の「私の考え」に対する批判は、批判として受け止めた上で、見解の相違として終わらせているわけです。

最後に、kyo_ju氏の言について、hima-ari氏も同様に問題指摘をしていましたので、それとそれに対する私の返答を記載してこの記事を終えます。(つもりでしたが、若干追記があります)

追記その3

hima-ari氏

kyo_ju氏の『「××という行為は○○という点で問題だと思う」という言明は、暗に「他の点では特に問題ではない」という意味を含むものです』というコメをうけて

わたしはその
「他の点では特に問題ではない」
という解釈がそもそも勘違いでは?
という話をさせて頂いたつもりです。

誰だってちょっとした文意の読み違えぐらい日常茶飯事でしょうし、
今回は詳しいお返事も来たわけですから

「そうだったんですね。お返事どうも」

って程度でアッサリ終わる話だと思うんですよ。
お互い傷の残る話というワケでも無いですよね。

むしろここで発言者の本意を無視して、
文意解釈上ではああだこうだと忖度して回るのは、
一般的に「挙げ足取り」と言うもので、
こちらはガッツリ傷の残る話になることが予想されるため、
それは止めた方がエエのではー… と心底思う所です。

なお、ここ以降に伸びてるお話については、
わたしには難しくてついて行けてません。
orz
http://h.hatena.ne.jp/hima-ari/315649659597119666

hima-ariさんへ

kyo_ju氏とやり取りをするにあたって、最初にここまで持ってこようと思ったところまでやり取りをしました。
今は、kyo_ju氏の返答待ちです。
相手のあることなので、途中であさっての方に行きかけたのは、私の不徳とするところですが、ここまで持ってくれば、私が何を考えていたのか少しはわかってもらえるのでは?と微かに期待しています。

・kyo_ju氏は、アパホテルの代表の「歴史認識」を重視した。
・私は、アパホテルの「代表の経営者」としての責務を重視した。

hima-ariさんは最初からご理解くださっていたことですが、この2つは、別に対立概念ではなく、並列できる概念なのだと私は考えているのですが、それをkyo_ju氏が認めてくれるかは、返答を見ればわかると思います。
私は、『「××という行為は○○という点で問題だと思う」という言明は、暗に「他の点では特に問題ではない」という意味を含むもの』ではなく、何を重視するのか優先順位の表明にすぎないと考えていますし、その認識は、hima-ariさんと一致していると思います。
仮にそれをkyo_ju氏が認めないとしても、これ以上やり取りを続けても、不毛なやり取りが続くだけと思いますので、どんな返事がこようとこれでやめようと思います。

ご協力ありがとうございました。
また、今後ともよろしくお願いいたします。
http://h.hatena.ne.jp/the_sun_also_rises/83468020541556646

kyo_ju氏

お返事どうも。

彼(もしかすると彼女かも)とのやりとりで見解の違いは明確になったと考えられます。
明確になった内容は、彼あてのリプライで先ほど書いたとおりです。
その上でどちらが正しいかまで決着を付けるのかどうかは、彼の自由でもあり、私の自由でもあるでしょう。ということです。

それにしても、ついさっき知ったんですが、「ホスピタリティ」とは別に「ホスタビリティ」という言葉があるんですね。
彼の「「ホスタビリティが欠落した会社だ」という批判は、ホテル業の会社に対する「最大の批判」」という文章がtypoとも思えなかったので一応ぐぐってみた次第です。
もっとも、彼も大元のブコメでは「ホスピタリティの欠如」と書いているので、何らかの意図をもって書き分けをしているのかは不明ですし、彼のいうホスピタリティ(の欠如)の内実がはっきりしない(結局、客を怒らせる結果になったから後付けで「ホスピタリティが欠けていた」と言っているようにしか見えない)のは変わりませんが。

では。
http://h.hatena.ne.jp/kyo_ju/316617265725451529

いくつか補足しておいた方がよいかなと思うので、返答するね。

1.どちらが正しいかまで決着を付けるのかどうかは、彼の自由でもあり、私の自由でもあるでしょう。ということです。
僕は批判はするし、僕の考えに対する批判は自由だと思っているのだけど、「どちらが正しいかまで決着を付ける」なんてことは考えたことがないんだ。
正確にいうと、大学卒業するまではわりと相手を論破したいという衝動もあったかもだけど、社会に出てから変わったよ。今は「着地点」をみつけて交渉事とかしようとしているよ。「着地点」が見つからない時も、できるだけ早く見つけられるように心がけている。今回も同じだ。
それは、「正しさ」というのは、立場がちがえば全く違うものになるということを、社会に出て身にしみて知ったからだと思っているのだけどね。

2.「ホスピタリティ」とは別に「ホスタビリティ」という言葉があるんですね。
「ホスピタリティ」が正しく、「ホスタビリティ」は誤用と思うよ。もし僕のコメで「ホスタビリティ」と間違っているところがあれば、それは単なるミスだよ。
判らないように使い分けるとか、そういう「卑怯な」ことは僕はやらない。(卑怯な方法は、社会では決して得をしないからね)

それから、君とのやりとりは、あのブログ記事に追記として掲載させてもらったので、改めて連絡しておくよ。
若干、やりとりが終わった後の感想も書いている。
http://h.hatena.ne.jp/the_sun_also_rises/81796767290914280

追記その4

これで終わりかなと思ったのだけど、kyo_ju氏からハイクがきたので追記します。
なお、このまま永遠に終わらないのかもだけど、追記はこれで終わります。

kyo_ju氏

そうですか。

>その論評をしたから、このやり取りがあったのだから、論評自体は撤回しないつもり。

やり取りのきっかけは「ホスピタリティの欠如が問題」というブコメであって、「はてサがポリコレ棒」云々と書いたブログ記事は、それより後の話ですよね。
つまり、私からすると
ブコメの真意を質問したら、冒頭に『これだからはてサは…』と言った質問と無関係な揶揄が書き連ねられた返事がきた」
という状況なわけです。

なお、経緯がわかる形で撤回する方法としては、ブログ記事の当該部分に見え消しで取り消し線を引いた上で、「この部分は○月○日、××の理由で撤回しました」などと注記する方法もあります。

どうしても撤回はしないと言うのであれば、さきのハイクで書いた次の質問に回答してください。

>(1)について(「ポリコレ棒」という概念の意味にも疑問がありますが)、the_sun_also_risesさんはブコメ等でいきなり「お前は間違っている」と他人を批判したことは無い、との理解でよろしいでしょうか。
>また、(2)と(3)については、言及相手の内心の決めつけを含んでいると思いますが、the_sun_also_risesさんは他人の内心を決め付け、それを前提として何らかの主張を展開するようなやり方に対しては肯定的である、と理解してよろしいでしょうか。
http://h.hatena.ne.jp/kyo_ju/279638490805968014

さっき、別のハイクで書いた通りなので、そちらをみてね。
それから上記の点については、ブログに追記している。
このコメで僕はもうハイクでの返答はしないので、あとは批判記事をブログに書くなり、ハイクに書くなりしたらよいと思うよ。
その批判で、何か反論したいことがあれば、ブコメを書くと思うので。
http://h.hatena.ne.jp/kyo_ju/279638490805968014

参院選の感想。今こそ憲法9条の『現実的』改憲を望む。

参院選の結果について

2016年7月10日、参院選が終わった。
結論からいえば、勝者なき選挙だったかなと思う。
自民党は27年ぶりの単独過半数に届かなかった。激戦が伝えられた1人区で11人の落選者がでた。野党共闘は一定の成果をあげたことを認めざるをえない。公明党は選挙巧者ぶりを発揮したが、1人区で自公共闘野党共闘に敗れたことで、自公の選挙協力の限界を示すことになった。
その一方で、注目された与党(自民+公明)におおさか維新等の改憲に前向きな勢力の議席数だが、いわゆる改憲勢力で実質的に3分の2を超えた*1。3分の2阻止を旗印にした野党連合は阻止に失敗した。
民進党野党共闘の成果は認められるものの大きく議席を減らした。共産党議席を伸ばしたもののそれほど多く議席を伸ばせなかった。おおさか維新は関西圏以外に浸透できなかった。社民党は党首が落選した。

ほとんどの党に忸怩たる思いが残る結果になったと思う。とはいえ、全体とすれば、与党の政権基盤を強くしたと思うので、完勝とまではいかないが与党勝利と呼べるかもしれない。

一方、大きく議席を減らした民進党にとっては悩ましい結果だと思う。完敗ならば野党共闘という選挙戦術を否定できた。改憲勢力の3分の2を阻止できていれば野党共闘を評価できた。結果はどちらでもなかった。民進党の選挙総括は難しいだろう。

私は、民進党は、55年体制社会党のような「なんでも反対党」ではなく、「政権交代を担える政党」を目指すべきだと思う。そのためには、声を出さない大多数の国民の声なき声を拾い上げ、それに真正面から向き合ってほしい。そうすれば、自民党の政策に心底満足しているわけではないが、自民党政権しか選択肢にないと考える多くの人々の姿とその苦悩が見えるはずだ。

国民が望んでいるのは、一に現実的で前向きな「社会保障」であり、二に現実的で前向きな「経済政策」だ。
立憲主義を守れ」とか声高に叫んでも選挙結果はついてこない。それは日本国憲法が施行後、既に69年経ち、日本国憲法の安定性を市井の人々は信じているし、事実、日本国憲法は安定しているからだ。
安保法改正を戦争法と呼び、あたかも戦争前夜のような感情的な選挙戦を展開しても、その感情論には動かされない。今回の参議院選挙は、国民の成熟性が現れた選挙結果だったと思う。

国民のコンセンサスを得る改憲が必要

国民の願いは、一に現実的で前向きな「社会保障」であり、二に現実的で前向きな「経済政策」だということは忘れてはいけない。安倍政権がまず取り組むべきは、困難を増す経済運営に全力を尽くすことだ。

改憲勢力で3分の2を確保したからといっても、改憲について白紙委任されたとは考えるべきでないだろう。とはいえ、憲政史上初めて改憲勢力で衆参両院とも3分の2を確保したことは重視したい。

国連憲章で認められている集団的自衛権の行使は、独立国として当然の権利だという点は強調しておきたい。そして、中国が荒々しく周辺国と対立している今、中国と比べて非力な日本は、同じく中国の脅威にさらされている国々と協力して中国に対するのが、唯一の現実的な対応策だと思っている。
中国の軍拡は、今後数十年以上続くということを忘れてはいけない。今でも相当の脅威なのに、20年後はどうなっているか考えてみてほしい。
20年後の中国は、間違いなく日本の自衛隊を圧倒する海軍と空軍を持つだろう*2。その状況でどうするか? 多国間の協力体制は、一朝一夕にはできない。今から時間をかけて準備しておかねば、時すでに遅しとなろう。

集団的自衛権の行使は、中長期的視点に立てば絶対に必要なものだ。だが一方で、今回の安保法改正は、相当強引なやり方だったことも認めざるをえない。それは欺瞞に満ちた日本国憲法第9条第2項をそのまま放置し続けたツケだと思う。そしてそのツケを更に将来に残すのは、賢明ではない。
改憲勢力が3分の2を確保した今こそ、将来に禍根を残さないよう改憲すべきだ。
そのためには、自民党は批判の多い自民党の『日本国憲法改正草案』を封印し、国民のコンセンサスを得られる改憲案を示して、民進党の議員も含めて同意者を増やす努力をすべきだ。

憲法第9条第2項無効論

私は、現行憲法の第9条第2項は無効な条文だと考えている。少なくとも裁判規範性はないと考えている。つまり第9条第2項に違反していると裁判を起こしても、裁判所は「統治行為論」によって判断を行わない条文だと思う。
以下にその考えを記したい。具体的に論拠を書くととても長文となるので、ここでは私の主張について概略を示すことにしたい。

概略

  • 日本国憲法は、その成立過程に問題があり、成立当初から無条件で正統なものとはいえない。
  • 憲法の正統性に対する学説は、八月革命説が主流となっているが、ポツダム宣言受諾を民衆革命と同じ効果を持つとする八月革命説はそもそも無理があり、八月革命説を否定する。
  • 日本国憲法は正統性に問題を抱えたまま発布されたと考えるべきだ。一方で正統性に問題がある日本国憲法に対し、その正統性を否定できるのは、大日本帝国憲法で主権を持つ昭和天皇だけである*3。しかし昭和天皇はその生涯を通じ、国民主権日本国憲法を遵守し尊重した。その考えと立場が確かと広く信じられた時、正統性に不備はありつつも国民主権は確定した。(この説を「天皇による主権禅譲説」と名付ける)
  • 主権者たる国民は、憲法を制定する権限を持つ唯一の存在である。国民が定めた憲法(民定憲法)だけが国民主権下では正当性を持つ。しかし日本国憲法は、欽定憲法である大日本帝国憲法の改正という手続きで制定された。日本国憲法は、その施行の当初は、形式的にも実質的にも民定憲法の要件を満たしていない。
  • 確かに日本国憲法は、主権者たる国民が直接制定、改正する機会が、施行後69年にわたり一切なかった。その事実は重いが、しかしだからといって、全ての条文について、「直接的な手段で民定されていないために正当性がない」とは言えない。日本国憲法は、その大部分の条文を国民は遵守し、その条文に基づき法律が作られ、その条文に基づき司法判断が行われている。その状態が長く続いたため、日本国憲法は、その大部分の条文について実質的に民定したと同じと考えられる。(この説を「消極的民定憲法説」と名付ける)
  • 一方で「天皇による主権禅譲説」と「消極的民定憲法説」から導かれるのは、日本の独立回復つまり主権回復時からしばらくの期間、日本国憲法はその正統性と正当性が確立していない不安定な時期があったということになる*4
  • まさに日本国憲法の正統性と正当性が確立していない時期に作られたのが「警察予備隊、現在の自衛隊」である。「警察予備隊、現在の自衛隊」を保有することは、第9条第2項で禁止される戦力保有にあたり、「警察予備隊、現在の自衛隊」は第9条第2項の条文に反する存在である。
  • 日本国憲法の正統性と正当性が確立していない時期に作られた「警察予備隊、現在の自衛隊」の存在を、国民は一貫して許容し続けてきた。そしてその状況が長期間にわたるということは、「消極的民定憲法説」に立つと戦力の保有を禁じた第9条第2項の条文を、主権者たる国民が民定したとは認めがたい。
  • 上記から、日本国憲法は概ね正統性と正当性はあると考えられる。よって無効論も否定する。但し唯一第9条第2項はその正当性を否定し無効な条文と考える。少なくとも第9条第2項には、裁判規範性はない。

概略の要約(サマリーのサマリー?)

概略を更に短く要約すると次の通り。

  • 日本国憲法は、占領、すなわち日本の主権が制限されていた時期に制定された憲法であり、主権者たる日本国民が民定した憲法ではない。
  • だが、日本国民は長らくその憲法を概ね守り続けた。その事実によって実質的に民定した憲法と同じと考えられ、正当性は認められる。
  • しかし、主権回復からの全期間、日本は第9条第2項に反する自衛隊を保持し続け国民はそれを許容した。第9条第2項だけは実質的に民定したと考えられず無効だ。

なお、「天皇による主権禅譲説」と「消極的民定憲法説」に立つと、憲法施行当初、内閣の国会解散権は第69条のみと考えられていた(1948年なれ合い解散)ものが、1953年に第7条を根拠として解散できるように解釈が変わり、そのまま定着したことも、十分説明可能だ。

主張

私は、憲法とは国民のものであり、その条文解釈は、国民が理解できるものであるべきと強く思っている。憲法憲法学者のものでもなく、政府(内閣法制局)のものでもない。国民が理解できない解釈でどうやって「立憲主義」を守ろうというのか。
上記の私の解釈は、起こったことをできる限りあるがままに評価し、できる限り理解しやすい解釈をと心がけて行った。
そうすると、たった1つの条文、第9条第2項だけはその正当性を否定せざるをえなかった。
世界有数の実力を持つ自衛隊を、憲法第9条第2項で保有を禁止する戦力ではないという解釈は無理がある。そんな一般人としての感覚は大事にしたいと思っている。その一方で、自衛隊の存在を国民は認め続けてきた。その矛盾をどう解釈するのかが重要だと思う。それは国民が理解できる解釈であるべきだ。
その観点では政府(内閣法制局)の解釈も、護憲派の主張も、欺瞞としかいいようがないと思っている。

提案したい改憲

憲法第9条第2項を巡る堂々巡りの議論から抜け出し、激動する国際環境の中で本当に必要な安全保障の議論を行うためには、私たちは、現状をそのまま認める改憲を行うべきだと思う。その観点で、私は次のような改憲案を提示したい。

現行の規定

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

私は、第9条第1項の「戦争放棄」の項の修正を行う必要性を感じていない。日本国民の全てといってもいいほど圧倒的大多数は、戦争を望んでいないと思われる。戦争の放棄は日本国憲法の重要な条文だと思う。
私は、第2項だけを改正すべきと思う。

改憲

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の規定は、我が国の平和と安全とを維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置を執ることを妨げない。
3 第2項に定める自衛のための措置を執るため、自衛隊保有する。自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣とする。

この改定案は、現状をそのまま認めたものだ。改憲に反対する人は、第2項の「我が国の平和と安全とを維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置」を憲法で認めることは現行の憲法を大きく毀損するものと考えるかもしれない。しかしこれは砂川事件最高裁判決で確定している判例をそのまま条文案にしただけだ。現行憲法最高裁の判断を全く変えていない。

(裁判要旨から抜粋)
四 憲法第九条はわが国が主権国として有する固有の自衛権を何ら否定してはいない。
五 わが国が、自国の平和と安全とを維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置を執り得ることは、国家固有の権能の行使であつて、憲法は何らこれを禁止するものではない。
「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反」事件の最高裁判決(刑集 第13巻13号3225頁 昭和34年12月16日)

そして、第3項で、自衛隊保有を認めているが、現状と何か変えている点は全くない。現状をそのまま認める勇気を私たち国民は今こそ持つべきだと思う。
自民党は、改憲勢力で3分の2を確保したからといって、強引に改憲へ突っ走るのではなく、野党、特に民進党とよく議論し、与野党の多数が賛同できる改憲案をまとめるべきだ。
解釈改憲が何度も繰り返されるより、解釈の余地が少ない条文に改憲した方が、「立憲主義」を守るためにはよほど有効だ。

現状を認める憲法第9条改憲を行った上で、批判の多かった「改正安保法」について、新しい憲法条文に則り、再度議論すべきと思う。
そうすれば、「立憲主義を守れ」と繰り返すだけの教条的な憲法解釈議論や、「安倍政権の暴走」というレッテル張り議論を脱し、「我が国の平和と安全とを維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置」とは何かという具体的な議論に収れんしていくだろう。その議論こそ、将来の日本の安全保障にとって本当に必要な議論だと思う。

安倍首相の自民党の総裁任期はあと2年しかない。この参議院選挙によって、安倍政権の政権基盤は強化された。それだけに、安倍政権の責任は従来にもまして重くなったと思う。
 

 

*1:改憲に前向きと思われる諸派、無所属の議員を含む。

*2:陸軍と戦略ミサイル軍は既に圧倒している。

*3:終戦時には天皇機関説は排除されていたため、ここでは天皇主権説をとる。

*4:その期間はかなり短いと考えるべきだが、それでも日本国憲法の正統性と正当性が不安定な時期があったという認識が重要である。

慰安婦問題は「最終的かつ不可逆的に」解決した

最終解決に正直とまどっている

2015年12月28日、岸田外務大臣訪韓し、韓国の尹炳世外相と慰安婦問題の解決に向け会談し合意した。
これによって、日韓両政府とも「この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」した。これによって日韓両国の最大の懸念となっていた慰安婦問題は解決した・・・
少なくとも字面上は・・・

でも本当なのか。本当ならばとても喜ばしい。でもまだ疑心暗鬼な気分でもある。

1年半前、私は「河野談話検証で手詰まりとなった日韓両国」という投稿を書いて、慰安婦問題に対する対応として日本は次の4つを行うべきと書いた。

  • アメリカの圧力を利用する
  • 時間をかける
  • 韓国軍慰安婦に対する対応を見極める
  • 韓国のいやがる外交を行う

河野談話検証で手詰まりとなった日韓両国 - 日はまた昇る

今読み返しても概ね認識に変化はないが、1つだけ「日韓関係は手詰まりな状況であり、慰安婦問題は慰安婦の存命中に解決することは困難」という認識には誤りがあった。この点については私の不明を反省し、安倍首相と朴大統領の政治決断に対し素直に賛辞を贈りたいと思う。

合意内容を分析する

合意内容のまとめ

今回の日韓合意については、外務省のHPに日韓外相の共同記者会見の文言が掲載されている。

日韓両外相共同記者発表 | 外務省

この共同記者会見で明らかにされた合意内容は次の通り

  • 日本は「軍の関与」を明言した
  • 日本政府の「責任」を認めた
  • 責任が「法的責任」「道義的責任」かは解釈の余地を残した
  • 安倍首相は「心からおわびと反省の気持ちを表明」した
  • 韓国政府は元慰安婦の支援を目的とした「財団を設立」する
  • 日本は上記の財団に運営資金を「政府の予算」から支出する
  • 慰安婦の支援事業を「日韓両政府が協力」して行う
  • 韓国政府は在韓日本大使館前の「少女像問題の適切な解決」のため努力する
  • 日韓両政府は慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決」されることを確認する
  • 日韓両政府は慰安婦問題について国際社会で「非難・批判することは控える」

特に法的責任問題は『1965年の請求権並びに経済協力協定によって「完全かつ最終的に解決された」(同協定第2条1項)との立場を堅持する日本政府に対して、韓国政府は、「反人道的不法行為」である慰安婦問題は同協定によって解決されたとみなすことはできず日本政府の法的責任は残っている(2005年日韓会談外交文書公開の後続措置に関する民官合同委員会の発表)、との立場をとってきた。両国政府の立場変更は望めないことから、この問題で妥結点を見出すのは極めて困難であるとみられてきた』だけに、この合意は日韓両政府がギリギリまで歩み寄った結果だと思う。
この合意を非難する人は、日本か韓国かどちらかの国の主張や立場を一切認めない人であろう。

上記の『 』内の文は、下記コラムから引用
慰安婦問題、歴史的合意を待ち受ける課題 | 西野純也 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 

「最終的」かつ「不可逆的」解決の意味

「最終的」の意味は明確だ。今後、日韓の外交問題として慰安婦問題が提示されることはないということだ。そして日韓両国とも国際社会で慰安婦問題について相手を非難・批判しないということだ。韓国によって唯一つけられた留保は、韓国政府が設立した財団に日本政府の予算から運営資金を支出し、日韓両国が協力して支援事業を行うという点だけ。支出する金額は10億円とされ、金額面から考えてもこの実行は容易だと思われる。この「最終的」な解決は、日本側が強く望んだものだろう。
一方「不可逆的」の意味には解釈の余地がある。この文言は韓国側が要求してつけられたという報道もある。

「不可逆的」という表現を入れる問題は交渉中に韓国側が先に提起したものだという。日本の政治家が旧日本軍の慰安婦強制動員を初めて認めた河野談話(1993年)などを否定する発言を繰り返すことを念頭に置き、「もうこれ以上は言葉を変えるな」という趣旨で強調したということだ。
<韓日慰安婦交渉妥結>「不可逆的」めぐり韓日間で解釈の違い | Joongang Ilbo | 中央日報

日本における報道では「不可逆的」とは問題を蒸し返さないという意味だと捉えられているものが多い。

大切なのは、日韓共同の新基金事業を着実に軌道に乗せるとともに、韓国が将来、再び問題を蒸し返さないようにすることだ。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20151229-OYT1T50009.html

私は、「不可逆的」の意味には、今後河野談話等、過去の日本が示した認識に対する否定をしないという意味と、再び慰安婦問題を蒸し返さないという2つの意味があると解釈している。
 

韓国は本当に慰安婦問題を蒸し返さないのか?

例えば、ツィッターではこんな反応があった。推測だが、かなり多数の日本人が「政権が変わると韓国は外交上の約束を反故にするのではないか」と疑問視していると思う。


参考:慰安婦問題の最終的かつ不可逆的解決、日韓外相の合意内容よりも韓国がいつ蒸し返すかに注目集まる : 市況かぶ全力2階建

私は、この合意に関わらず、韓国が慰安婦問題を蒸し返す可能性は否定できないと思っている。
例えば、韓国の最大野党である共に民主党文在寅代表は、「この合意は無効だ」と発言している。もし文在寅氏が次の大統領選で勝利したらどう韓国が動くか自明なのではないだろうか。*1

共に民主党文在寅代表は30日、日韓に妥結された慰安婦の交渉について、「私たちは、この合意に反対し、国会の同意がなかったので、無効であることを宣言する」と述べた。
(原文は韓国語なのを自動翻訳した)
문재인 "위안부 협상, 국회 동의 없었다…무효 선언" | 연합뉴스



韓国が慰安婦問題を蒸し返したら?

文在寅氏が大統領となり、氏の発言通り「国会の同意がなかったので日韓合意は無効だ」と主張したらどうなるのだろうか? 少し予測してみたい。
 

韓国の国際関係、特に米韓関係が悪化する

今回の日韓合意については、水面下でアメリカの仲介(圧力というべきかもしれない)が行われていたと報道されている。日韓の合意形成の経過をよく知るがゆえに、合意発表から間髪入れずに「歓迎」の意を表明できたと思われる。

ケリー米国務長官は28日、日韓両国が慰安婦問題で合意したことについて、「歓迎する」との声明を発表した。
http://www.yomiuri.co.jp/world/20151229-OYT1T50014.html

今回の日韓合意は、日本と韓国両国だけでなく、アメリカの外交成果でもある。それに真っ向から歯向かう姿勢を示せば、関係が悪化しないほうがおかしいというもの。
逆に言うと、韓国がアメリカとの関係を悪化させてもよいと政治的な判断をした状況でのみ、慰安婦問題を蒸し返すことができるともいえるだろう。

蒸し返しの条件①:韓国がアメリカとの関係悪化を許容する時

 

日韓関係は決定的に壊れる

それでなくても、日本人の対韓感情はかつてないレベルで悪化している。それに追い打ちをかける行動をとれば、日本国内で韓国擁護の言説は徹底的に批判にさらされると思われる。
その結果、日韓関係は決定的に壊れる。それは政治だけでなく経済でも影響していくだろう。
逆に言うと、韓国が日本との関係を決定的に壊してもよいと政治的な判断をした状況でのみ、慰安婦問題を蒸し返すことができるともいえるだろう。

蒸し返しの条件②:韓国が日本との関係を決定的に壊してよいと判断した時

 

中国は内心では蒸し返しを歓迎する

中国は今回の日韓合意に意表をつかれたと思われる。すぐには見解を発表できなかった。
ようやくでてきた反応は、日韓合意を支持する一方、その裏に複雑な思いも見え隠れしている。

韓両政府が従軍慰安婦問題の決着で合意したことについて、中国外務省の陸慷報道局長は28日の定例記者会見で「両国関係の改善がこの地域の安定と発展に寄与することを希望する」と述べ、歓迎する意向を表明した。
http://this.kiji.is/54136296198768124?c=39546741839462401

中国は、もし韓国が合意を破り、慰安婦問題を蒸し返したら、内心では歓迎するだろうと思う。
逆に言うと、韓国が中韓関係に重きをおき、中国の支持を期待できる状況になった時、慰安婦問題を蒸し返すともいえるだろう。

蒸し返しの条件③:韓国が中韓関係を最重視した時

 

間違いなく蒸し返しのハードルは高くなった

これまで慰安婦問題をどれだけこじらせても、蒸し返しても、韓国の政治的リスクはほとんどなかった。
だが、今後、慰安婦問題を蒸し返すことによる韓国の政治的リスクは相当高いものとなった。日本とアメリカは協力して、上記の「蒸し返しの条件」が整わないように韓国との関係を構築していく必要があると思う。
 

韓国に慰安婦問題を蒸し返しさせないため日本がすべきこと

韓国という他国の行動を日本はコントロールすることはできない。だが何らかの影響を与えることは可能だと思う。そこで、韓国に慰安婦問題を蒸し返しさせないため日本がすべきことを考えてみたい。
(追記)2018/11/3
2017年に朴前大統領が弾劾され、文大統領が就任した。
韓国は、慰安婦問題を蒸し返すわけではないが、「最終的不可逆的」解決を事実上骨抜きにした。2018年現在は、中途半端な状況といえるが、韓国は、事あらば「蒸し返す」気マンマンなのは間違いないだろう。
2017年の韓国の政権交代によって、この「韓国に慰安婦問題を蒸し返しさせないため日本がすべきこと」の項は、もう無意味な記述となってしまった。
河野談話を含む日本の過去の公式見解を堅持する」の項は、2018年現在も堅持すべきと思うが、その他の項は、逆に日本が行うべきでない、あるいは動きを止めるべきものとなっている。
 

河野談話を含む日本の過去の公式見解を堅持する

「不可逆的」という語の意味を、慰安婦問題に対する日本の公式見解を変えないという意味と解釈している以上、日本がその公式見解を変えようという素振りを見せただけで韓国は強く反発してくると思う。
もし、文在寅氏のように「合意は無効」という考えを持ち、それを公約にして大統領選挙に勝って大統領になった場合、その大統領は日本の合意違反を理由に合意の無効を主張するかもしれない。
日本が先に原因を作った場合、日米関係もおかしくなる。
したがって、河野談話など日本の過去の公式見解を否定する発言を政権内部から絶対に出さないよう最大限の努力を行うべきだ。
一方、一部の政治家や民間からは、引き続き河野談話の否定を主張する発言が出てくると思われる。その際のダメージコントロール、特にマスコミ対策はしっかりやっておく必要があるだろう。
それでなくても、この合意が気に入らない左派は、安倍政権の失敗を心待ちにしている。そんな負の期待にわざわざ応えるのは愚か者だ。

第二次安倍政権になってからも、安倍自身は河野談話を引き継ぐとしてきたものの、裏では自民党を使って慰安婦の存在そのものを否定するような動きを強めてきた。
それが、今回、軍の関与、政府の責任を認め、心からのお詫びを表明したのだ。右派の目には裏切りだと映るだろうし、リベラルから見ると、大きな前進をしたように思えるのは当然だろう。
だが、これは別に、安倍首相が改心したわけではなく、たんに、アメリカの圧力に屈したというだけにすぎない。
慰安婦日韓合意でネトウヨが「安倍、死ね」の大合唱! でも安倍の謝罪は二枚舌、歴史修正主義はさらに進行する|LITERA/リテラ

 

安倍首相のお詫び文を正式に発表し国際的な評価を固める

慰安婦問題では、償い金事業で日本の首相のお詫び文書を渡していて謝罪も行っているが、国際社会にその事実が広く知られているという状況になっていない。

そこで1997年1月11日、金平輝子理事を団長とする基金の代表団がソウルのホテルなどで7人の被害者に償い金、総理の手紙、理事長の手紙をお渡ししました。
各国・地域における償い事業の内容-韓国 慰安婦問題とアジア女性基金

「日本は謝罪していない」そんな誤解が国際社会に残ったままだと、韓国はそれを奇貨として「合意の無効」を主張する理由とするかもしれない。
それを防ぐためには、元慰安婦に渡す安倍首相のお詫び文を早々に起草し、それを韓国政府に正式に届け、その内容を広く世界に発表すべきと思う。そのお詫び文の内容が合意内容に沿っていれば、この合意が世界的に評価されたように、安倍首相のお詫び文も世界的に評価される。日本を代表して内閣総理大臣の安倍首相が正式に、そして元慰安婦に個別にお詫びしたという事実を広く世界に発信したい。
 

韓国の挺対協に対する日本国内の再評価を促す

日本国内でこの日韓合意に反対する勢力のうち、気をつけるべきは2つだと思う。
1つは、河野談話を否定する主張を行う「ナショナリスト」グループだ。このグループに対する対処は上に書いた。
そしてもう1つは、韓国の韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)の主張に賛同する市民団体や支持者のグループだ。
合意発表後すぐに挺対協は非難声明を発表したが、日本の団体もすぐにそれに呼応した。

昨日の日韓外相会談を受けて挺対協から声明が発表されました。人権侵害を受けた当事者が不在の「合意」によって人権の問題を本当に解決することなどできるのでしょうか。
昨日の日韓外相会談を受けて挺対協から声明が発表されました。人権侵害を受けた当事者が... - アジア女性資料センター Asia-Japan Women's Resource Center | Facebook

日本でも最近挺対協の存在は少しずつ知られてきているが、まだ十分認知されているとはいえない。
だが韓国では、対日政策について事実上の拒否権を持つともいわれる圧力団体として存在している。その活動内容について、賛否両面から議論を行い、日本国内の再評価を促したい。
私の見るところ、挺対協がこの日韓合意の実行上、最大の障害だと思う。挺対協を深く知ることは、日韓合意を実行するためにも重要だと主張しておきたい。
 

安保上の協力体制を整える

安全保障は、慰安婦問題と全く関係がない。だが事実上、この2つはリンケージしている。
2012年6月、日韓は「日韓秘密情報保護協定」を締結寸前までいったのだが、締結の1時間前に韓国は締結を延期した。その理由としたのが慰安婦問題であった。そして今もこの協定は締結できていない。そのため日本の自衛隊と韓国軍との間の情報共有に問題が発生し、主に北朝鮮の動向情報について、日韓の間の情報共有がうまくできていないという問題が生じている。
まずはこの「日韓秘密情報保護協定」の締結に向けて、全力で取り組むべきだと思う。この協定は、韓国のみならずアメリカにも実利があり、当然日本にも実利がある。
締結を拒む理由は全くないし、日韓の安保上の協力体制が深まれば、前述の「慰安婦問題を蒸し返す条件」は整いにくくなる。
 

経済面での協力体制を作る

今回の日韓合意の背景として、中国経済の減速の影響も無視できないと思う。韓国は輸出によって経済が成り立つ国だ。これまでは中国への輸出を成長エンジンにして経済成長してきたのが、ここにきて怪しくなってきている。
具体的に言えば、韓国はTPP入りを欲していると見る。新たな経済成長のエンジンが欲しいのだ。
そこで日本は韓国のTPP入りに向けて協力体制を作るべきだ。
韓国のTPP入りは、アメリカにとっても実利があるし、当然日本も対韓国輸出増が期待できるので実利がある。経済外交はWin-Winの関係を作ることに徹したい。
なお、韓国は日本との通貨スワップ協定の再締結も望む可能性があるが、通貨スワップ協定については日本に実利がない。韓国の変化が確実なものとなるまで、通貨スワップ協定の再締結は留保すべきだと思う。
 

日韓関係は改善するか

今の日韓関係は過去最悪といっていい状況にあり、短期的にはそれよりも少し関係が改善すると思う。
問題は、中長期的に改善するかだろう。
今回の合意履行については、日本もだが、韓国により大きな責任が生じた。例えば、日本大使館前の少女像の撤去(移設)とか、挺対協等の非難をもろともせず新たに作る財団の事業を認めてくれるように元慰安婦を説得することとかだ。
正直、履行はやさしくはない。
それでも一歩ずつ前進できるか。その成否に日韓関係の改善はかかっている。
安易に改善するとは考えないほうがよい。まずは日本にも韓国にも実利のある合意をひとつずつ積み上げていくことに徹するべきだろう。欲張りは損をするというものだ。

*1:崔碩栄氏のこのツィートhttps://twitter.com/Che_SYoung/status/682014867813892096から、原記事を確認した。

分離独立運動は流血を招く(中)

お詫び

前編を書いてから、5か月あまりが経過した。
id:Mukke氏からの宿題という認識はあったが、まとまった時間がとれず伸ばしてしまった。その点、申し訳なく思う。
いまさら感は大きいのだが、宿題は宿題なので、7月以降、仕事が落ち着いてきて時間が取れるようになったこともあり少しずつ書きためている。
ようやく、中編を書きあげたので公開したい。

前編はこちら

分離独立運動は流血を招く(前) - 日はまた昇る

冷戦終結後の分離独立や自決権を持つ高度な自治を求める運動

列挙の理由

私はこの投稿のタイトルにある通り、沖縄での「分離独立運動あるいは自決権を持つ高度な自治を求める運動」が大きくなった場合、それは流血を招くと主張している。なお、これ以降は「分離独立運動あるいは自決権を持つ高度な自治を求める運動」を略して「分離独立運動」と称する。

もし将来沖縄の分離独立運動が大きくなっていったらどうなるか? 流血が生じるのか?生じないのか? それを論じるために、他の分離独立運動などの事例を分析しどうなる可能性が高いのか、推測してみようと思う。
まずこの中編では、冷戦終了後、具体的には1990年以降の25年間(たった四半世紀の事例だと強く言いたい!)での分離独立運動を列挙し、一つ一つ簡単にまとめてみたい。その後、後編で分析することにする。最初は中編、後編に分けずに書こうと思っていたが、書いてみたら文章量がとても多くなってしまい、中編、後編に分けざるをえなかった。
なお列挙した分離独立運動は、当時の新聞や雑誌の記事などでこんな運動の記事を読んだ記憶があるという、いささかおぼろげなものを頼りに調査してまとめた。割りと多く列挙できたと思うが、これで全てではないのは確かだ。但し、記憶にあるものは全部列挙し、恣意的に列挙しないように努めてはいる。*1
また分離独立や高度な自治を求める運動の起源が冷戦終結以前であっても、この25年間に何らかの動きがあったものは列挙の対象にした。
なお、ソ連崩壊時にCIS(独立国家共同体)を構成した国は、構成国全体が旧ソ連の継承国であると考え、いわゆる分離独立とは性格が異になるとして列挙の対象からはずした。一方CIS成立過程あるいは成立後、旧ソ連圏内で起こった分離独立運動は列挙の対象とした。

カテゴリー

あとで分析しやすいように、以下の通り、いくつかカテゴリー分けした。

  • 民族/部族民族主義、民族運動、あるいは部族による分離独立運動
  • 宗教:宗教や宗派の違いなど宗教的対立による分離独立運動
  • 政治体制:政治体制・イデオロギーの違いによる分離独立運動
  • 経済/資源:経済格差や資源分配に対する不満による分離独立運動

なお、上記のカテゴリーは、どれか一つを適用するのではなく、重複して適用する場合もある。

流血の有無と独立や高度な自治の達成

ひと目でわかるように、その運動で流血がない場合や、独立や高度な自治を達成した場合には、次のように記載している。

  • <流血なし>:その運動が始まってから流血がない(テロや武力抵抗、武力弾圧等による死者がいない、但し刑死は除く)場合
  • 《独立達成》:独立を達成した(領域を実効支配し国際承認を受けている)場合
  • 《自治達成》:自治を達成し運動が終焉した場合
  • 実効支配:広く国家承認は受けていないが領域を実効支配している場合

なお、戦闘が盛んに行われ、領域が流動的な場合には、実効支配とはしなかった。


東アジア

台湾(政治体制)実効支配

1950年、55年、58年など、領土(支配地域)を巡って中華人民共和国と激しく戦った台湾情勢も、冷戦終結後は比較的安定している。しかし1997年には第三次台湾海峡危機が起こったし、中華人民共和国は2005年に反分裂国家法を制定し台湾への武力侵攻の法的根拠を制定するなど、現在も一定の緊張関係がある。2014年のひまわり学生運動も記憶に新しい。
台湾は国共内戦に敗れた国民党が遷都したことが起源であり、分離独立運動によって現在の状況となったわけではないが、独立を目指す勢力もあることから列挙した。
現状の分類については、事実上の独立状態ではあるものの、国家承認している国が少ないため実効支配に分類した。

香港(政治体制)<流血なし>

1997年にイギリスは香港を中華人民共和国に返還した。返還にあたって中華人民共和国一国二制度を実施し民主主義を維持することを約束した。
しかし、2017年の行政長官選挙を実施するにあたり、中華人民共和国が行政長官候補は指名委員会の過半数の支持が必要であり候補は2、3人に限定すると決定したことにより、完全な普通選挙の実施を求めて、2014年に香港反政府デモが行われた。デモは約3ヶ月後強制排除された。

チベット(民族/部族、宗教、経済/資源)

チベット中華人民共和国の西南の山岳地帯。
1948~52年、中華人民共和国チベットに侵攻した。圧倒的な軍事力の差がありチベット中華人民共和国の支配下に入った。その後、中華人民共和国チベットへの支配強化を強め、その結果チベット仏教の指導者であるダライラマ14世は亡命した。
今もこの対立は解決していない。中華人民共和国による宗教弾圧は続いていると伝えられており、チベット人による抗議活動(武力抵抗でなく焼身自殺による抗議であることも多い)が断続的に続いている。

東トルキスタン/新疆ウィグル(民族/部族、宗教、経済/資源)

東トルキスタン/新疆ウィグルは、中華人民共和国の西の辺境地帯。
第二次世界大戦の最中、ソ連の援助によって東トルキスタン共和国が樹立されたが、中華人民共和国成立後、中華人民共和国軍が東トルキスタン領域に進駐し領有した。1955年には「新疆ウィグル自治区」となったが自治は中国共産党の指導下で行われている。ウィグル人の宗教はイスラム教であるが信教の自由は制限されていると伝えられ、多数のウィグル人が政治犯として収容されているといわれている。
対立構造は冷戦終結後も続き、2009年にはウィグル騒乱が発生した。現在も、テロなども含めて抵抗活動が続いている。


東南アジア

ミンダナオ(民族/部族、宗教、経済/資源)

ミンダナオはフィリピンの南部の島。
ミンダナオにはイスラム教の布教が進んでいた。ところがフィリピン全体はスペイン統治時代、アメリカ統治時代を通じキリスト教の布教が進み、イスラム教徒は宗教的な少数を余儀なくされた。独立闘争も失敗を続けた。その後日本統治時代を経て、日本の敗戦後フィリピンは独立したが、イスラム教徒はミンダナオでもキリスト教徒の数が増え地域の主導権も失っていった。それを不満に思ったイスラム教徒のモロ族などを中心に、ミンダナオ島西部で抵抗活動が始まった。
21世紀に入り、米比両軍の抵抗勢力掃討作戦により抵抗活動は沈静化したといわれるが、まだ紛争の再燃が危惧されている。*2

タイ深南部(民族/部族、宗教、経済/資源)

タイの最も南の地域は、イスラム教徒が多く歴史的にもシャム(タイ)とは異なった地域である。この地域を植民地としたイギリスが、対日戦の協力を求めるためにこの地域の独立の約束をしたが、戦後それを反故にしたことから独立運動がはじまった。
2004年には大規模な武力衝突が発生するなど、現在に至るまでテロ活動などが続いている。

アチェ(民族/部族、宗教、経済/資源)

アチェインドネシアスマトラ島北部の地域。
アチェは、インドネシアの中でも最も早くイスラム教の布教がすすんだ地域。オランダによる植民地化の過程でアチェは強く抵抗した。
抵抗むなしく植民地となったものの、第二次世界大戦アチェを占領した日本軍と協力体制を築き、日本の敗戦後、オランダが再植民地化をすすめようとした際、アチェはオランダの占領に強く抵抗した。
インドネシア独立後、天然ガスが発見されたもののその開発の利益は中央にとられることに対する不満が高まり、独立運動が起こった。以来、反乱、テロなどが繰り返され内乱状態にあったが、2004年のスマトラ沖地震で壊滅的な被害をうけたことでインドネシア政府と和解し、2005年和平協定が結ばれた。

東ティモール(民族/部族、宗教、経済/資源)《独立達成》

東ティモールインドネシア東部のティモール島の東部地域。
ティモール島は東部をポルトガルが、西部をオランダが植民地化した。ポルトガルカトリックの国であり、その影響もあって東ティモールカトリック教徒が多数である。日本の占領を経てオランダからインドネシアが独立してもなお東ティモールは(形式的には)ポルトガルの植民地として残った。ところが1975年インドネシア東ティモールに侵攻したことから抵抗運動が起こり、以来、ゲリラ戦法による抵抗活動が続いた。1999年国連主導の住民投票によりインドネシアの占領から解放され、2002年に独立した。

マルク(民族/部族、宗教)

マルク(旧名モルッカ)諸島はインドネシア東部の香料諸島と呼ばれた地域。中心地はアンボン。
オランダ植民地時代、マルク諸島には主にキリスト教徒が住み、オランダ植民地支配をサポートした。インドネシア独立後、この地域にイスラム教徒の移住が進み、人口が拮抗することで地域の断裂が始まった。そして双方の衝突が発生。2000年には独立を目指すキリスト教徒によるマルク主権戦線が設立され、以来、イスラム急進派との間で騒乱が繰り返されている。解決のめどはたっていない。

パプア(民族/部族、宗教、経済/資源)

パプアはインドネシア東部のニューギニア島(面積が世界2位の島)のうち、島西部の地域のこと。イリアンジャヤとも言う。
パプアはオランダの植民地で、第二次世界大戦時日本が占領した。第二次世界大戦インドネシアが独立したが、オランダはパプアをパプア人を中心とした別国家として独立させるように画策した。それに反発したインドネシアとの間で紛争となり、一旦パプアは国連の統治下に置かれたのち、インドネシアの統治下に入った。
しかし、インドネシアの軍事政権がパプア人への弾圧を始めると、それに対する抵抗運動がはじまった。
現在でも、弓矢、刀剣などによる襲撃事件が断続的に起こっている。

カチン(民族/部族)

カチン州はミャンマー北部の中国国境に面する山岳地帯。
カチン族はミャンマー建国時、政府と協力体制にあったが、ミャンマー軍事独裁になるとたもとをわかち、分離独立運動が起こり武力衝突が生じた。ながらくカチン族居住地域は中国との密輸、翡翠や麻薬などの貿易などを行い、政府の統治が及ばない半独立状態となった。
1994年和平条約が結ばれたものの、2011年には再度武力衝突が生じた。2013年に再度停戦協定が結ばれた。

カレン(民族/部族)

カレン州はミャンマー東部のタイと国境を面する地域。カレン族は他にカレン州の北にあるカヤー州にも居住する。
カレン族はカチン族とは異なり、ミャンマー建国当初から独立運動を開始した。ミャンマー軍事独裁になると各地の分離独立運動と呼応し、内戦状態となった。
1994~95年のミャンマー軍の掃討作戦により要衝を奪われた後、抵抗は小さくなっているもようだが、僅かに残る支配地域を防衛し現在に至るまで解放闘争を続けている。

ワ(民族/部族、政治体制)

ワ州は中国雲南省と接するミャンマーのシャン州の一部。黄金の三角地帯の中心地として知られ大量の麻薬が作られていた地域。
ワ族は歴史的に中国と関係が深く、国共内戦によりワ族居住地に流入した国民党軍によりケシ(麻薬)の栽培が始まった。その後中国共産党指導下にあるビルマ共産党のもとケシ栽培は続いた。
ビルマ共産党との関係は冷戦終了期に事実上消滅したが、その後もワ族は中華人民共和国の影響下にあると考えられている。1989年、ミャンマー軍政と停戦協定に合意した後は,ミャンマー国軍に協力し、「シャン州軍南部*3」との戦闘を活発化させた。

コーカン(民族/部族)

コーカン族は主にミャンマー東北部のシャン州コーカン地区に居住し、中国明朝の遺民を祖とすると考えられ、中国との繋がりが強い。
コーカン族は過去にビルマ族の支配下にはいったことがなく、ミャンマーがイギリス植民地であったころも事実上コーカン地区の実権を握っていた。
ミャンマー独立後も中華人民共和国の影響が強く、コーカン地区はビルマ共産党の本拠地とされる。ケシ(麻薬)の栽培も疑われている。コーカン族とミャンマー軍とは2009年にも武力衝突したし、武力衝突は今も続いている。*4

ロヒンギャ(民族/部族、宗教)

ロヒンギャミャンマー南西部のラカイン州に住む人々。
仏教徒が圧倒的多数を占めるミャンマーにあって、イスラム教徒であるロヒンギャミャンマー政府は不法移民とみなす。国際的にも孤立無援といえるロヒンギャは、今も迫害を受け続けている。2012年にはロヒンギャ追放運動をすすめる仏教徒と大規模な衝突があった。*5*6
ロヒンギャの場合、分離独立というより、ミャンマー政府側の民族浄化という性質の方が強いと思われる。


オセアニア

ブーゲンビル(民族/部族、経済/資源)《自治達成》

ブーゲンビルはパプアニューギニア領内東方のソロモン諸島にある一つの島。
ニューギニア島東部とソロモン諸島はドイツ植民地を経て、オーストラリアの委任統治領になった。
1975年にパプアニューギニアは独立したが、パプアニューギニア政府はブーゲンビルにある世界最大級の銅山の権益を守るため、島民を強制移住させるなどの手段を用いたことから独立運動が発生し、それが激化し内戦状態になった。
1998年、オーストラリアとニュージーランドの仲介により停戦合意が行われ、2005年に自治政府が設立された。*7


南アジア

タミル・イーラム(民族/部族、宗教)

タミル・イーラムは、スリランカ北部と東部にタミル人が建国しようとした国の名称。
スリランカは、国民の7割程度をシンハラ人が占め、2割弱をタミル人が占める。シンハラ人の大半は仏教徒であり、タミル人の大半はヒンディー教徒である。歴史的には共存してきた両民族であるが、イギリス植民地時代、イギリスが少数のタミル人を重用した統治を行っていたため、両民族の対立の根ができた。
スリランカ独立後、スリランカ政府はイギリス植民地時代とは逆に多数派であるシンハラ人優遇政策をとったことから対立が深まり、1983年に武装組織である「タミル・イーラムの虎」との間に内戦が勃発した。
以来、26年にわたって内戦が続いたが、2008年スリランカ政府軍がタミル・イーラムの虎を撃破し内戦は終了した。

カシミール(民族/部族、宗教)

カシミールはインド北部とパキスタン北東部の国境付近にひろがる山岳地域である。
インドはヒンディー教、パキスタンイスラム教という宗教対立を背景に、カシミールの帰属は長く争われてきた。
1990年代以降は、パキスタンに支援されたとみられているテロ組織によるテロが頻発するようになった。ここ数年、テロは少なくなってきたがいまだテロ組織の活動は続いている。*8

インド北東部(民族/部族、宗教)

アッサム州を中心としたインドの北東部8州にも分離独立運動がある。
ボド族という先住民族と、バングラデシュからの移民であるイスラム教徒との対立が根っこにある。それに北東部の開発にインド政府があまり関心を寄せなかったことなどにより、分離独立運動組織によるテロや、民族衝突が頻発している。*9

トライバルエリア(民族/部族)実効支配

トライバルエリア(連邦直轄部族地域)は、パキスタン北東部のパキスタンにあるどの州にも属さない地域である。国際的にはパキスタンの領域に編入されているが、パキスタン中央政府の支配はほとんど及んでいない。黄金の三日月といわれるケシ(麻薬)栽培地域の一部である。
この地域は、タリバンが活動しているとも伝えられており、タリバン支持部族や武装勢力が、パキスタン軍と政府支持部族およびアメリカ軍と断続的に交戦を行っている。

北センチネル島(民族/部族)実効支配

北センチネル島は、ベンガル湾アンダマン諸島の西にある島。国際的にはインド領とされている。
島にはセンチネル族が住んでいると言われるが有史以来、外部との交流を完全に拒んでいることからよくわかっていない。最近でも流された漁民が殺されたり、来訪する者を一切拒んでいる。
過去、インド政府は交流を試みたが成功しなかった。近年は交流を断念し、離れたところからバックアップする方針に転換した。一般人がこの島へ近づくことは禁止されている。*10*11



※ネパールでは、1996年~2006年、マオイスト(毛主義者)による内戦があったが、これは分離独立運動というより、ネパールの国王制を終焉させるという政体を巡る抵抗運動として捉えているので、ここには列挙しなかった。


中東(西アジア

タリバン(宗教)

タリバンは、ソ連アフガニスタン侵攻後の内戦の中から生まれた武装勢力
一時、アフガニスタンの大部分を支配下におき、アフガニスタンイスラーム首長国を建国したが、アメリカ同時多発テロ事件をうけてアメリカ軍を主力とする諸国連合が武力介入したことで瓦解した。以来、タリバンとアメリカ軍、アフガニスタン政府軍などとの間で、武力衝突が続いている。

ISIL(宗教、経済/資源)

ISIL(別名:ISIS、IS=イスラミックステーツ、ダーイッシュ)は、イスラム国家樹立運動を行うイスラム過激派組織である。イラクとシリア両国の国境付近を中心とし両国の相当部分を武力制圧し、国家樹立を宣言し、ラッカを首都と宣言している。但し国家承認をした国はない。
ISILは、イラク軍、シリア軍をはじめ、シリア反政府武装組織、クルド人組織などと戦っている。周辺国は、ISILに対し爆撃を実施している。ISILは捕虜や人質の殺害、奴隷化など深刻な人権侵害も行っている。

クルディスタン(民族/部族、宗教、経済/資源)

クルディスタンは、トルコ東部イラク北部、イラン西部、シリア北部とアルメニアの一部分にまたがり主としてクルド人が居住する地域のこと。
クルド人の居住領域は、フランス、イギリス、ロシアによって引かれた恣意的な国境線によって、トルコ・イラク・イラン・シリア・アルメニアなどに分断された。これが分離独立運動の基となっている。
特に人口の多いトルコ、イラクでは分離独立を求め、長年武力闘争を行っている。またISILの台頭により、ここ数年ISILとの間で激しい戦闘が続いている。*12*13

イエメン(民族/部族、宗教、経済/資源)

イエメンは、1990年に南イエメン北イエメンとが統一してできた国だが、北は主にシーア派の一派のザイド派教徒が、南はスンニ派教徒が住む。
統一後に就任した北イエメン出身の大統領が、北側に優位な政策を敷いたとして、旧南イエメン出身の副大統領派が反発し分離独立を求め、1994年には内戦が勃発した。
内戦は北側が勝利したものの、政情は安定せず、2011年にはイエメン騒乱が発生、2015年にはザイド派武装組織のフーシがクーデターを起こし、以来、フーシと、クーデターで退陣させられた暫定大統領派と、サラフィー・ジハード主義組織の「アラビア半島のアル=カーイダ」との間で、三つ巴の内乱状態となっている。

パレスチナ(民族/部族、宗教)《自治達成》

パレスチナ問題は、日本でもよく取り上げられているので、知っている人も多いと思う。この問題の遠因は遠くローマ帝国によるユダヤ人の離散に求められるかもしれない。
現在のパレスチナ問題は、現在のイスラエルの建国、すなわちパレスチナ分割を起源にする*14。以来、数度にわたる戦争が生じ、イスラエルの植民や武力侵攻とパレスチナ人の武力闘争やテロなどが頻発した。
紆余曲折の後、パレスチナ人居住区にはパレスチナ自治政府が樹立され、イスラエルとの和平の道を探ってはいるものの、近年でも、2008年にはガザ紛争が発生したし、騒乱は現在も続いている。
自治政府が樹立されているので、一応、自治達成としたが、事実上アッバース自治政府とガザ・ハマース自治政府の2つの自治政府が存在し、ガサ・ハマース自治政府はイスラエルに対する武力闘争を継続中であり、完全な自治達成には遠い状況である。

北キプロス(民族/部族、宗教)

北キプロスは、東地中海にあるキプロス島の北部地域。
キプロス島には、ギリシャ系住民とトルコ系住民が居住する。1974年ギリシャ併合賛成派によるクーデターが発生した際、トルコ系住民の保護を名目にトルコ共和国軍がキプロス島北部を占領した。
以来、キプロス島は、南部をギリシャ系(キプロス共和国)、北部をトルコ系(北キプロス・トルコ共和国、但し国家承認はトルコ共和国のみ)に分割されている。
その後も南北の紛争は続いているが、2008年南側のキプロス共和国がユーロに加入したことをきっかけに、再統一に向けた取り組みが行われている。



※1990年~1991年には、アメリカを中心とした有志国連合が、クウェートを侵攻したイラクと戦争を行った(湾岸戦争)が、これは国対国の戦いだったため、列挙しなかった。

※2001年からは、アメリカを中心とした有志国連合が、アフガニスタンタリバン政権と戦争を行ったが、これは国対国の側面が大きい戦争と考えたので、列挙しなかった。

※2003年からは、アメリカを中心とした有志国連合が、イラクフセイン政権と戦争を行ったが、これは国対国の側面が大きい戦争と考えたので、列挙しなかった。


旧ソ連の領域

バルト三国(民族/部族)《独立達成》

バルト三国は、第一次世界大戦の後ロシア帝国の支配を逃れて独立したものの、第二次世界大戦で独立を失った。戦後ソ連に編入された。
1980年代、ソ連ペレストロイカが進展すると、バルト三国では独立機運が高まった。そして1989年のベルリンの壁崩壊によって一気に独立へ動き始めた。
まず1990年3月リトアニアが独立を宣言し、次いで同年5月ラトビアが独立を宣言、エストニアも続いた。
しかしソ連バルト三国の独立を認めなかった。
リトアニアに対しては、1990年に経済封鎖を開始し、1991年には軍隊を派遣した。血の日曜日事件といわれる。
ラトビアでは、共産主義を支持する勢力が政権を転覆しようとした。
エストニアにも、軍隊を派遣する動きがあったが、民衆による人間の鎖に阻まれた。エストニアでは流血は生じなかった。
これら一連の動きは、歌う革命と呼ばれる。1991年ソ連の8月クーデターが失敗に終わりソ連が崩壊した後、国際社会はバルト三国の独立を承認した。

チェチェン(民族/部族、宗教)

チェチェン共和国は、ソ連崩壊によって成立した北コーカサス地域の国。住民は大半がチェチェン人であり、チェチェン人の大半がイスラム教徒である。
1991年のソ連崩壊後、ロシア共和国を中心として「ソビエト主権共和国連邦」の創設が合意された。しかしチェチェンでは「ソビエト主権共和国連邦」に加わらずソ連を離脱する動きを見せた。それに対しロシアは軍隊を派遣し離脱を止めようとした。
以後、1994年に第一次チェチェン紛争が、1998年に第二次チェチェン紛争が発生した。
これらの動きにより、チェチェンの独立を目指す武装勢力に、イスラム過激派の影響が増したといわれ、以来、武装組織によるテロとロシアによる報復の連鎖が続いている。

ナゴルノ・カラバフ(民族/部族、宗教)実効支配

ナゴルノ・カラバフは、南コーカサスアゼルバイジャン共和国西部にあるアルメニア人居住地域。
ソ連の崩壊に伴ってこの地方のモザイクのような民族分布の中、アゼルバイジャン人の支配を嫌いナゴルノ・カラバフアルメニア人が分離独立運動を起こした。
なお、アゼルバイジャン人はイスラム教シーア派が多く、アルメニア人はキリスト教の一派であるアルメニア使徒教会の信徒が大半である。
この地域の帰属を巡る戦いは、ナゴルノ・カラバフ戦争と呼ばれる。紛争は長期化し泥沼化している。現在は、アルメニア人勢力が実質的に領域を支配している。*15

南オセチアアブハジア(民族/部族)実効支配

南オセチアアブハジアは、ジョージア共和国(グルジア)の北部と西部に位置する。
ソ連の崩壊により、北オセチアは共和国として独立したのに対し、南オセチアは同じ時期に成立したジョージア共和国(グルジア)の一自治州となった。以来、分離独立運動が続いている。もともと南オセチアはオセット人が主であり、ジョージア共和国のジョージア人との間に民族対立があった。
一方アブハジアは、アブハジア人、アルメニア人、ジョージア人の混住地域であり、ジョージア共和国成立時にアブハジア人とジョージア人の対立が深まった。
2008年、ジョージアは、南オセチア自治州を回復しようと軍を侵攻させたが、逆にロシア軍に支援された南オセチア側が反撃しジョージア軍を押し返した。それにより事実上の独立状態となった。
アブハジア南オセチアでの動きにあわせて、ロシアの影響のもと事実上の独立状態となった。*16

クリミア(民族/部族、経済/資源)実効支配

クリミアは、黒海に面するウクライナ南部の半島。
クリミアには、ロシア人、ウクライナ人、クリミアタタール人などが居住し、その中で最も多いのはロシア人である。
1954年にフルシチョフによって、クリミアはロシアからウクライナへ帰属変更された。その後のソ連崩壊によってウクライナ共和国が成立した際、ウクライナから分離独立する動きが強まったものの、結局ウクライナ自治共和国として存続することになった。
2014年親ロシア政権に対する騒乱によってウクライナの政権が倒れると、クリミアではウクライナから分離しロシアへ帰属変更する動きが強まり、ロシア軍の援助をうけたロシア系民兵の武力蜂起によりウクライナから分離した。その後ロシアは併合を宣言したが、それを承認した国はごくわずかに留まる。
現在では、ロシア併合反対派やタタール人へ迫害が行われていると伝えられている。*17

ウクライナ東部(民族/部族、経済/資源)実効支配

紛争が起こったのは、ウクライナの東部、ドネツク州、ルガンスク州の2州。ウクライナ東部は、もともとロシア系住民が多い地域である。
2014年ウクライナ騒乱によりウクライナの親ロシア政権が倒れ暫定政権が成立すると、それを不満に思う東部地域が武装蜂起した。ロシアは否定するが、事実上ロシア軍も武力介入しているのではないかと疑われている。その後、ウクライナ政権側と親ロシア派との間で武力衝突が繰り返された。民間機の撃墜事件も起こった。
現在、政権側と親ロシア派との間で停戦合意が成立しているが、テロや武力衝突が散発していると伝えられる。*18
まもなくウクライナ東部の自治を認めるウクライナ憲法改正が行われる予定であるが、現状はその憲法改正が発効していないので、実効支配に分類した。

沿ドニエストル(民族/部族、政治体制、経済/資源)実効支配

沿ドニエストルは、ソ連崩壊後成立したモルドバ共和国の東部に位置する。ロシア人が多く住む。
ソ連が崩壊し、モルドバ共和国が成立した際、モルドバで「ルーマニア民族主義」が台頭した。モルドバモルドバ人が多く住むが、隣国であるルーマニア人とほとんど同一の民族である。そのルーマニア民族主義に反発した沿ドニエストルに住むロシア人が独立闘争を開始した。
モルドバ共和国は軍による鎮圧を試みたが、沿ドニエストルに駐留していたロシア軍が独立勢力側についたため、本格的な戦争となり、モルドバ共和国軍は撃退された。*19
以来、沿ドニエストルにはモルドバ共和国の支配は及んでいない。一方、経済封鎖は続けられており沿ドニエストルは経済的な苦境が続いている。*20



※1992年~1997年、タジキスタンでは各勢力が入り乱れて内戦が勃発した。分離独立というよりタジキスタン全土を巻き込んだ内戦になったため、分離独立の一例としては列挙しなかった。なお内戦終結後も、現在までこの対立は続いておりテロや抵抗活動が散発している。*21

※2010年、キルギスバキエフ大統領の退陣を求めて騒乱が発生した。これは分離独立運動ではなく政権交代を主張する抵抗活動と認識したので、ここでは列挙しなかった。*22


ヨーロッパ(旧ユーゴスラビアを除く)

チェコスロバキア(民族/部族)<流血なし>《独立達成》

冷戦が終結すると、それまで社会主義国であるチェコスロバキア民主化運動が活発になった。
連日30万人を超えるといわれるデモが発生し、それがストライキなどの抗議に発展した。但し、それらは全て平和的なもので、抗議活動によって一人も死者はでていない。
大規模な抵抗活動が続いたため、政権党であった共産党と市民側との間で、円滑な体制転換についての話し合いが行われ、共産党一党独裁の放棄と複数政党制の導入が合意された。ここに社会主義体制は崩壊した。ビロード革命と称される。*23
その後行われた選挙によってチェコスロバキア民主化を達成したが、チェコスロバキア双方の意見が食い違うようになり、これもまた話し合いによって、1993年、平和裏にチェコスロバキアは分離し、それぞれが独立した。*24
流血なく平和裏に分離独立を達成した、極めて稀な事柄だと思う。

北アイルランド(民族/部族、宗教)

北アイルランドは、アイルランド島の北東部にあるイギリス(グレートブリテン島及び北アイルランド連合王国)の一地域。
アイルランドは1800年の連合法によりイギリスと連合王国を築いたが、20世紀に入りアイルランド独立戦争が起こり1922年に北部6州を除く南部26州が分離し、1937年アイルランド共和国となった。
イギリスとの連合王国に残った北アイルランドでは、1960年代になり、カトリック住民とプロテスタント主体の北アイルランド政府との間が険悪化し、分離派と連合王国派による騒乱が発生した。イギリスは、北アイルランド政府を廃止し、北アイルランドを直接統治するようになったが、それ以降も、分離派、連合王国派双方がテロや攻撃を繰り返してきた。
1990年代に入り、双方の歩み寄りが見られるようになり、1998年のベルファスト合意により、事実上分離運動は集結した。とはいえその後も合意を好ましく思わない一部の人によりテロや暴力事件が散発している。*25*26

スコットランド(民族/部族、経済/資源)<流血なし>

スコットランドは、グレートブリテン島の北部地域。歴史上、グレートブリテン島の南部地域を支配するイングランドと長年戦ってきた。
1707年イングランド議会とスコットランド議会が、双方とも「連合法」を採択したことにより、以来300年以上、イングランドとの間で連合王国を形成してきた。
連合法では、イングランドスコットランドは対等という建前であったが、スコットランド側からは不満があり、1922年に連合王国からアイルランドが分離独立したことと比較しつつ、1990年代に入り、スコットランドの分離独立運動が大きな社会勢力となっていった。
特に、2000年代に入り、北海油田による恩恵がスコットランドに少ないという主張が賛同を集めはじめ、2014年には分離独立を問う住民投票が行われた。
しかし投票の結果、分離独立反対票が賛成票を上回り、独立は否定された。
賛成派も反対派も、主に経済や社会のありようを巡って論戦が行われ、宗教や民族は大きな対立点とはならなかった。*27*28

バスク(民族/部族)

バスクは、ピレネー山脈の両麓、ビスケー湾に面するスペインとフランスとにまたがる地域。分離独立運動の主体となっているのは、スペイン側である。独自の言語を持っている。
バスクは、第二次世界大戦の直前、スペイン内戦時に抑圧を受けた。ピカソの絵で有名な「ゲルニカ爆撃」もこの時期に行われている。
戦後、バスクでは分離独立運動が大きくなっていった。1959年に武装集団「バスク祖国と自由(ETA)」が結成され、爆弾テロや要人暗殺などの過激な行動を行った。1979年自治権が認められバスク自治州となったが、ETAは隣のナバラ地方やフランスの一部を含む独立を主張している。*29
2006年、ETAは停戦を宣言したが、今も緊張感は続いている。*30

カタルーニャ(民族/部族、経済/資源)<流血なし>

カタルーニャはスペイン北東部の地域。中心地は1992年にオリンピックが行われたことで有名なバルセロナ。独自の言語を持つ。
カタルーニャの独立運動は、元をたどれば1701年~1714年にハプスブルク家オーストリア)とブルボン家(フランス)との間で行われたスペイン継承戦争で、カタルーニャ自治権を失ったことに起因しているのかもしれない。
以来、カタルーニャはスペインからの独立心を保ち続けてきたといわれる。
さらに近年、2010年欧州ソブリン危機、2012年のスペイン金融危機に対するスペイン政府の対応が、カタルーニャに不利益だという不満も高まっており、独立機運に繋がっている。*31
2014年には非公式ながら独立を問う住民投票が行われ、独立賛成が多数となったと伝えられている。*32


ヨーロッパ(旧ユーゴスラビア地域)

スロベニア(民族/部族、経済/資源)《独立達成》

スロベニアは、旧ユーゴスラビア連邦の構成国のうち、イタリア、オーストリアに隣接する地域。旧ユーゴスラビアの中では経済的先進地であった。
冷戦の終結に伴う東欧の革命と、それに伴う旧ユーゴスラビア連邦の経済的苦境が表面化すると、スロベニアは連邦からの離脱を図る。
1991年にクロアチアと同時に連邦からの離脱と独立宣言を行った。
それに対し連邦政府連邦軍を派遣し、十日間戦争*33が起こった。連邦の中心であるセルビアスロベニアは国境を接しておらず、セルビアは同時に独立を宣言したクロアチアとの戦争に戦力を割かざるをえず、スロベニアの十日間戦争は散発的な戦闘が行われた後終結した。1992年、スロベニア国際連合に加盟した。

クロアチア(民族/部族)《独立達成》

クロアチアは、旧ユーゴスラビア連邦の構成国のうち、セルビアスロベニアボスニア・ヘルツェゴヴィナに囲まれる地域。一部はアドリア海に面する。
冷戦の終結に伴う東欧の革命と、それに伴う旧ユーゴスラビア連邦の経済的苦境が表面化すると、クロアチアも連邦からの離脱を図る。
そこには、セルビア民族主義に対するクロアチア人の反発が背景にある。
1991年にスロベニアと同時に連邦からの離脱と独立宣言を行った。
それに対し連邦政府連邦軍を派遣した。スロベニアは10日ほどの散発的な戦闘で終結したが、クロアチアは連邦の中心であるセルビアと隣接しており戦闘は続いた。1992年に起こったボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争ともリンクしはじめ、情勢は泥沼化した。
クロアチアは1992年国連に加盟した。そして国連国際連合保護軍を派遣したが、それでもスロベニア政府側と親セルビア勢力側との戦闘は止まなかった。
最終的にNATOの支援の下、クロアチア政府側が「嵐作戦」*34と呼ばれる軍事作戦を遂行し、親セルビア勢力側から国土の大半を奪還し、紛争は事実上終結した。

ボスニア・ヘルツェゴビナ(民族/部族、宗教)《独立達成》

ボスニア・ヘルツェゴヴィナは、旧ユーゴスラビア連邦の構成国のうち、セルビアクロアチアモンテネグロの囲まれる地域。ごく僅かネウム周辺にアドリア海に面した海岸はあるのだが大きな港はない。
1991年にスロベニアクロアチアが独立宣言を行い、独立戦争が生じたことで、ボスニア・ヘルツェゴヴィナも独立の機運が高まった。
スロベニアクロアチアカトリックスロベニア人クロアチア人が主体であるのと異なり、ボスニア・ヘルツェゴヴィナは、イスラム教徒であるボシュニャク人カトリッククロアチア人、正教のセルビア人が混住していた。
そのため独立か連邦残留かは容易に決まらず、1992年にセルビア人がボイコットする中で行われた国民投票によって独立が決まった。
以来、独立を求めるボシュニャク人クロアチア人、連邦残留を求めるセルビア人との間で戦争が生じ、泥沼化した。民族浄化(虐殺)事件も起こった。
最終的にNATOが介入し、1995年NATOの大規模な空爆によってセルビア人勢力が壊滅。国連の仲介によりデイトン合意が成立、紛争は終結した。

コソボ(民族/部族、宗教)《独立達成》

コソボは、旧ユーゴスラビア連邦の構成国のセルビアの自治州のひとつ。アルバニア共和国と面する。コソボの住民の多くは隣国のアルバニア共和国と同じアルバニア人である。宗教はほとんどがイスラム教といわれる。
コソボについては、1980年代がら抗議活動があり、それは暴力的なものと変質していった。それに対しセルビア側は自治権の剥奪と弾圧で応じた。
冷戦の終結に伴う東欧の革命が起こると、コソボも独立の機運が高まり、1990年にはコソボ共和国の独立宣言が行われたが、以来、コソボではアルバニア人勢力とセルビア人勢力との間で紛争が続いた。
1999年にはNATOによる大規模な空爆が行われた。更にNATOコソボへの陸上兵力による攻撃を企図した。その動きをうけてセルビアは、NATOが関与する国際連合主導での平和維持軍の駐留に同意し、ここにコソボ紛争は終結した。
コソボは、その後2008年に独立を宣言したものの、独立承認国は111ヶ国にとどまり、不承認国は85ヶ国にのぼる。日本はコソボの独立を承認しているので、ここでは《独立達成》に分類した。*35

モンテネグロ(民族/部族)《独立達成》

モンテネグロは、旧ユーゴスラビア連邦の構成国のうち、セルビアボスニア・ヘルツェゴヴィナと接する地域。西部はアドリア海に面し、南部にはアルバニア共和国がある。
モンテネグロは、スロベニアクロアチアボスニア・ヘルツェゴヴィナが内戦状態になる中、一貫してセルビアと歩調をあわせていた。
しかし、コソボ紛争が激化すると、アルバニア人が多いモンテネグロセルビアの関係が悪化した。
モンテネグロセルビアの対立は、EUの仲介で2国の国家連合である「セルビアモンテネグロ」が成立して一旦解決した。しかしその後実施された国民投票を経て、2006年モンテネグロは独立を宣言した。セルビアも独立を承認し、モンテネグロはEUおよび国際連合にも加盟した。*36*37

マケドニア(民族/部族)《独立達成》

マケドニアは、旧ユーゴスラビア連邦の構成国のセルビアの南に位置する地域。西はアルバニア共和国、南はギリシャ、東はブルガリアと接する。
マケドニアは、スロベニアクロアチアの独立宣言とほぼ同時に独立宣言した。
コソボ紛争が勃発すると、多数のアルバニア人が流入した。アルバニア人が増加することによってアルバニア民族主義が高まり、2001年流入したアルバニア人の武装勢力が武力蜂起した。それに対しマケドニア政府は武装勢力の掃討作戦を展開した。
その後EUの強い圧力で、アルバニア系住民の権利拡大を認める和平合意文書(オフリド枠組み合意)に調印して停戦、NATO軍が駐留を開始し平穏を取り戻した。*38


アフリカ

エリトリア(民族/部族)《独立達成》

エリトリアは、紅海に面するアフリカの北東部にある国。スーダン、エチオピア、ジブチと国境を接する。
エリトリアは、1961年から30年、エチオピアに対して独立戦争を続けていた。ソ連の崩壊により、エチオピアに対するソ連の軍事援助がなくなりエチオピアのメンギスツ政権軍の士気はさがった。その機に乗じ、エリトリア武装勢力はエチオピアの首都アジスアベバに突入、陥落させ、メンギスツを退任させた。その結果、エリトリアは1991年に独立した。1993年には国連に加盟した。
その一方、独立後もエチオピアとの間は、緊張関係にあり、1998年~2000年には国境紛争が発生した。2010年にも国境で軍事衝突が発生した。*39
国内でも独裁による弾圧が続き、エイトリア難民に対する殺害、強姦、臓器売買などが報告されており、極めて厳しい人権状況にあるとされる。*40

ソマリランド(民族/部族)実効支配

ソマリランドは、アデン湾に面するアフリカの北東部にあるソマリアの一地域。
1980年代から続く内戦でソマリア政府が崩壊し無政府状態になると、1991年にソマリランドが独立を宣言した。ソマリランドは旧イギリス領ソマリランドの西半分を支配下におく。
ソマリアはさながら戦国時代のような群雄割拠状態にあり、様々な勢力が入り乱れている状態である。
その一方、ソマリランドは比較的安定した治安を確保し、事実上の独立状態にある。民主化も順調に進んで、複数政党制による地方選挙や総選挙を実施した。しかしソマリランドを国家承認した国は今のところない。*41*42

西サハラ(民族/部族)

西サハラは、アフリカ大陸の北西部にあり、モロッコ、アルジェリアモーリタニアに接する。西は大西洋に面している。
西サハラは1884年にスペインの植民地となり、スペイン領サハラと呼ばれた。
1976年のスペインの撤退に伴い、西サハラの北部をモロッコが、南部をモーリタニアが占領した。一方西サハラの独立運動を行っていたポリサリオ解放戦線は、アルジェリアの支援のもと「サハラ・アラブ民主共和国」の独立を宣言し武力闘争を継続する。その結果南部地域からモーリタニアを撤退させたが、そこにモロッコが進駐しほぼ全域を占領する状態となった。「サハラ・アラブ民主共和国」はアルジェリアを拠点に、現在も独立闘争を続けている。*43*44

スーダン(民族/部族、宗教、経済/資源)《独立達成》

北アフリカにあるスーダンは、イギリスとエジプトとの共同統治が行われた植民地だった。北部はアラブ系のイスラム教徒、南部は土着宗教のアフリカ系住民が多く住む。
スーダンは、1956年の独立以来、主に内戦とクーデターを繰り返し、政情が安定しなかった。
2005年、22年間続き多数の死者がでた第二次スーダン内戦の包括的な暫定和平合意が成立し、南部スーダンは、南部スーダン自治政府が自治を行うことになった。
2011年、分離独立の是非を問う住民投票が実施され、分離独立賛成が多数となり、南スーダンは独立した。同年、国連にも加盟した。*45*46
独立後の政情は安定していない。2011年、2012年とスーダンとの間で国境紛争が起こったし、2013年にはクーデター未遂事件が発生し、現在も抗争が続いている。*47

ダルフール(民族/部族、宗教、経済/資源)

ダルフールスーダンの西部にある地域。ダルフールにはアラブ系だけでなく、非アラブ系のさまざまな民族が住んでいるとされる。
スーダンは、長くアラブ系を中心とする北部と、アフリカ系を中心とする南部で内乱状態にあった。その内乱が収束に向かう中、南北の合意は、ダルフールの非アラブ系の活動家には不満の残るものだった。
そのため、2003年ごろからダルフールの非アラブ系の反政府組織が、軍や警察などの拠点を襲撃するようになっていった。それに対抗して、スーダン政府は民兵組織を支援し、反政府組織の制圧を行わせた。
反政府組織と政府側民兵の相手への攻撃は、いずれ制御できない水準にエスカレートし、虐殺、略奪、強姦などが横行するようになった。
2010年、ようやく双方の停戦へ向けた協議の合意ができ、2013年、停戦が合意された。*48
停戦したとはいえ、現在でも、アラブ系、非アラブ系の衝突は頻発している。*49

マリ北部(民族/部族、宗教、経済/資源)

マリは、西アフリカに存在する内陸国家。西をモーリタニアセネガル、北をアルジェリア、東をニジェール、南をブルキナファソコートジボワール、ギニアに接する。
マリは1960年の独立以降、トゥアレグ族による反政府闘争が続いてきた。それはトゥアレグ族の居住地域が、マリ・アルジェリアニジェールに分割されて抗議の声が高まったことや、同じトゥアレグ族居住地域である隣国ニジェールのアクータ鉱山で産出するウランを巡る争いなどが原因とされる。
トゥアレグ族は、2011年のリビア内戦に参加した。その経験によって戦闘能力を高め、高性能の武器をマリに持ち帰ることにより軍事力を強化した。
2012年、トゥアレグ族を中心に結成されたアザワド解放民族運動がマリ軍駐屯地を襲撃し、トゥアレグ紛争(アザワド戦争)が勃発した。*50
それに対し、旧宗主国であるフランスは、国連決議を受けた形で欧米やアフリカ各国の軍事協力を得て、マリ政府軍とともにアザワド解放民族運動を討伐する軍事作戦(セルヴァル作戦)を遂行した。作戦によってフランス軍とマリ政府軍は、マリ北部の要衝を奪回した。その後フランス軍は撤退し、アフリカ主導マリ国際支援ミッションが治安維持にあたっている。*51*52

ボコ・ハラム(民族/部族、宗教、経済/資源)

ボコ・ハラムは、主にナイジェリア北部で活動するイスラム過激派組織である。ナイジェリアは、南部にキリスト教徒、北部にイスラム教徒が多く住む。ナイジェリア南東部には油田があり、その利権が紛争と腐敗の原因となっている。
ボコ・ハラムは、ナイジェリア政府の打倒、イスラム法の施行、西洋式教育の否定を目的として設立された。
2002年頃には、北部ナイジェリアで警察と小規模な衝突を繰り返すようになっていた。転機は2009年、警察による大規模な取締りをきっかけに、バウチ州の警察署を襲撃、その後ナイジェリア治安部隊との間で戦闘を激化させた。
近年、ボコ・ハラムは、北部住民の拉致、虐殺、強姦などの行動をエスカレートさせており、拉致した女性などの強要自爆テロなどを繰り返している。支配地域も少しずつ広がり、支配地域に対してはイスラム法による統治を行おうとしている。*53
ナイジェリアは政府内部の腐敗等の理由で、ボコ・ハラムに対して有効な対策をうてていない。*54

ウガンダ北部(民族/部族)

ウガンダは、アフリカ東部に位置する、北が南スーダン、東がケニア、南がタンザニアルワンダ、西がコンゴ民主共和国に接する内陸国である。南はビクトリア湖に面している。
ウガンダでは、1980年代以降、内戦とクーデターが繰り返しており、治安が安定していない。ウガンダ北部では、1980年代から20年以上、反政府武装組織の一つである神の抵抗軍と政府軍との間で、内戦が続いている。
神の抵抗軍は、殺害、略奪などの犯罪行為を繰り返し兵士や性的奴隷とするために子どもを誘拐している。*55*56
2000年代に入り、政府軍の攻勢により神の抵抗軍の規模は小さくなったといわれている。2006年からは停戦協議がすすめられている。まだ合意には至っていないが、治安はかなり回復したといわれる。*57



コンゴ民主共和国では、1996年~1997年、1998年~2003年と2回、ツチ族フツ族の内戦があった(コンゴ戦争)。民族対立によって生じた非常に凄惨な戦争(犠牲者が540万人といわれる)ではあるが、資源獲得と相手民族の制圧を目的としていた戦争と評価しているので、分離独立運動としては列挙しなかった。*58*59*60

中央アフリカ共和国では、クーデターが繰り返され、一時は無政府状態となった。そのため国連PKO部隊を派遣し、治安の回復に努力している過程である。ここ数年キリスト教徒とイスラム教徒の対立も激化しているとも伝えられている。この紛争は国の主導権を争う抗争の延長上にある紛争と捉えたので、分離独立運動としては列挙しなかった。*61*62

アンゴラでは1975年~2002年アンゴラ内戦が生じていたが、これは冷戦期の米ソ代理戦争としての性質が強いと考えたので、分離独立運動として列挙しなかった。これも多くの死者がでた戦争であり、この25年間の死者も百万人以上にのぼると思われる。*63

シエラレオネでは、1991年~2002年内戦が起こった。これはシエラレオネのダイヤモンド鉱山を巡る内戦の性質が大きいと考えたので分離独立運動としては列挙しなかった。*64

※いわゆるアラブの春チュニジアに始まり、エジプト、リビアで政体が変わった運動については、分離独立運動とは異なると考えたのでここには列挙しなかった。*65


アメリカ大陸

ケベック州(民族/部族、経済/資源)

ケベック州はカナダの東北部の州。旧フランスの植民地であり旧イギリスの植民地と異なった歴史と文化を持つ。カナダでは唯一フランス語を公用語としている。
1960年代には分離独立を求める諸派が集まりケベック党を結成、分離独立運動を行ってきた。1963年に登場したケベック解放戦線は、連邦施設の爆破、要人誘拐などのテロを行い、1970年非合法化された。
カナダは、長らく憲法典の改正などについてイギリス議会が権限を留保していたが、1982年憲法の制定によってカナダへ全権限が移った。これによりカナダの独立プロセスが完了した。しかしケベック州は、全州の合意が得られなくても連邦単独で憲法制定権を持つこの憲法の改正に反対し承認していない。*66
1995年、カナダ政府は、ケベック州による憲法の承認を取り付けようとしたが2度失敗したため、逆にケベックがカナダからの独立するかどうかを争う住民投票が行われた。結果は僅差で独立は否決された。

メデジン・カルテル、カリ・カルテル(経済/資源)

メデジン・カルテル*67やカリ・カルテル*68が分離独立運動かというと、それは違うと思う。
メデジン・カルテルとカリ・カルテルはコロンビアのメデジンサンティアゴ・デ・カリを拠点とする麻薬製造と密輸の犯罪組織だった。
しかし、世界を見渡すと、黄金のトライアングル地帯*69*70、黄金の三日月地帯*71のように、中央政府の支配が及ばない地域での分離運動が、麻薬製造に手を染めるケースが多くあり、それと表面上よく似ていることから列挙した。
両カルテルとも、私設武装組織を持ち、事実上コロンビア政府の統治が及ばない状況を作り、要人の誘拐、殺害などのテロなども頻発した。
しかし、1980年代後半からはじまったコロンビア政府とアメリカ政府共同による徹底した麻薬撲滅作戦(麻薬戦争とよばれ軍も投入された)によってほぼ組織は壊滅し、2002年ごろには終結した。*72


中編のまとめ

中編では、冷戦終結語、このわずか四半世紀(25年間)で起こった私の記憶のある限りの分離独立運動を列挙してみた。

分離独立運動を数だけで評価するのは分析上あまり意味のないことは重々承知しているが、それでもこの四半世紀の分離独立運動の多くでおびただしい量の血が流れたのも事実だ。この四半世紀の分離独立運動で、おそらく百万人を大きく超える人が死んだと思われる。
それにも関わらず、分離独立運動に対する世界の関心は低い。たった今も多数の人が死んでいる。そして多数の難民が発生している。
分離独立を求める根拠や緊迫度はそれぞれの運動によって全く異なると思う。でもその実態を私たちはほとんど知らない。ただ人が死に、難民が発生する。世界はその数だけにしか注目していないようにみえる。

とはいえ、世界にはチェコスロバキアのように平和裏に分離独立したケースも稀にある。
先日、分離独立の可否を巡る住民投票が行われたスコットランドのように民主的な手続きをとったケースも稀にある。

沖縄で分離独立運動が行われるとどうなのか。自決権を持つ高度な自治を求めるとどうなるのか。後編では上記の事例をもとに掘り下げて分析を書いてみたい。


(お詫び)
このペースで書いていると、後編を書き終えるのに、更に1~2ヶ月程度かかりそうだと思う。
時間がかかる点は、更にお詫びしておきたい。

*1:どうしても記憶はアジアでの分離独立運動のものが多く、遠方になればなるほど、特にアフリカの分離独立運動の把握は、あまりできていないという認識はある。

*2:ミンダナオの忘れられた戦争

*3:シャン州軍南部 | 国際テロリズム要覧(Web版) | 公安調査庁

*4:【アジアの目】ミャンマー・コーカン紛争 色濃い中国の影…工藤年博・アジア経済研究所研究企画部長 (1/3ページ) - 産経ニュース

*5:コラム:ロヒンギャ「孤立無援」のなぜ | Reuters

*6:ロヒンギャはなぜ迫害され貧困に苦しむのか 背景に人身売買組織の「難民ビジネス」

*7:ブーゲンビル島の悲劇

*8:海外安全ホームページ: テロ・誘拐情勢

*9:http://www.indas.asafas.kyoto-u.ac.jp/static_indas/wp-content/uploads/pdfs/CI2_03_kimura.pdf

*10:入ったら死あるのみ。世界一訪れるのが困難な島がある | Amp.

*11:「北センチネル島」なる世界で訪れるのが最も難しい島がスゴイ!!6万年前から続く閉鎖された島!! | コモンポスト

*12:http://www2.aia.pref.aichi.jp/koryu/j/kyouzai/PDF/katsuyo-manyual-2/siryo/G/1/4.pdf

*13:クルド人問題

*14:パレスチナ分割案/パレスチナ分割決議

*15:ナヒチェバン ナゴルノカラバフ

*16:外務省: わかる!国際情勢 Vol.7 グルジアという国 ロシアと欧州にはさまれた独立国家

*17:併合1周年クリミアの惨状 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

*18:ウクライナ首都で親露派自治権めぐり衝突、1人死亡 120人超負傷 写真8枚 国際ニュース:AFPBB News

*19:沿ドニエストル共和国

*20:ロシアに棄てられ、瀕死の沿ドニエストル かつての西ベルリンを彷彿させる"経済封鎖"に直面 | JBpress(日本ビジネスプレス)

*21:タジキスタン国防副大臣、内務省機関を襲撃 22人死亡:朝日新聞デジタル

*22:流血革命のキルギス、内戦の懸念も 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News

*23:チェコスロヴァキアの民主化/ビロード革命

*24:チェコスロヴァキアの連邦解消

*25:継続IRA(CIRA) | 国際テロリズム要覧(Web版) | 公安調査庁

*26:真のIRA(RIRA) | 国際テロリズム要覧(Web版) | 公安調査庁

*27:元在住者が聞いた!3分でスッキリ分かるスコットランド独立住民投票の賛否! | 牧浦土雅

*28:ここに注目! 「なぜスコットランド独立?」 | おはよう日本 「ここに注目!」 | NHK 解説委員室 | 解説アーカイブス

*29:バスク問題

*30:スペインのバスク自治州、独立機運が下火に―カタルーニャと好対照 - WSJ

*31:カタルーニャ州、スペインから独立めざす理由は? 住民投票めぐり綱引き

*32:カタルーニャ州「独立望む」が8割 非公式な住民投票:朝日新聞デジタル

*33:崩壊と戦争

*34:クロアチアから見たベルリンの壁崩壊(4)|藤村100エッセイ|ブログ|法政大学 藤村博之 WEBサイト

*35:コソヴォ問題/コソヴォ紛争/コソヴォ自治州/コソヴォ共和国

*36:モンテネグロ

*37:https://ir.lib.osaka-kyoiku.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/596/1/2_56(1)_1.pdf

*38:マケドニア

*39:(特活)アフリカ日本協議会:アフリカNOW No.73(2006年発行)

*40:|エリトリア|圧政と悲惨な難民キャンプの狭間で苦しむ人々 - IPS Japan

*41:ソマリランド共和国

*42:http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/somalia_fact_sheet.pdf

*43:西サハラ | 国連広報センター

*44:西サハラ (サハラ・アラブ民主共和国)

*45:https://www.teikokushoin.co.jp/journals/geography/pdf/201103g/03_hsggbl_2011_03g_p03_p06.pdf

*46:内戦危機の南スーダン、誰と誰がなぜ対立してるの? | THE PAGE(ザ・ページ)

*47:建国から1年 南スーダンは希望の国から生き地獄へと化した

*48:ダルフール紛争

*49:ダルフールでアラブ系と黒人系が衝突、死者発生 スーダン 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

*50:マリ | 国際テロリズム要覧(Web版) | 公安調査庁

*51:フランスはマリで何をしているのか?―イグナシオ・ラモネ | Ramon Book Project

*52:マリにおける国連平和維持活動:その経緯 - 国連大学

*53:ボコ・ハラム | 国際テロリズム要覧(Web版) | 公安調査庁

*54:特集:豊かな原油に蝕まれるナイジェリア 2007年2月号 ナショナルジオグラフィック NATIONAL GEOGRAPHIC.JP

*55:http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/uganda_fact_sheet.pdf

*56:ウガンダ北部グル市-発展していく街角から- - 世界HOTアングル

*57:ウガンダ北部グル市-発展していく街角から- - 世界HOTアングル

*58:特集 コンゴ紛争|創成社

*59:[目撃する/WITNESS]暴力が支配するコンゴの鉱山 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

*60:人間を傷つけるな!「第13回 世界最悪の犠牲者を出しているコンゴ民主共和国 - WEBマガジン[KAZE]風

*61:中央アフリカ共和国人道危機:果たして「宗教紛争」なのか? | OCHA Japan

*62:反政府連合に不安募らせる市民、仏大使館前で暴徒化 中央アフリカ共和国 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News

*63:http://www.special-warfare.net/database/101_archives/africa_01/angora_01.html

*64:シエラレオネ内戦を長引かせた「紛争ダイヤモンド」 : BIG ISSUE ONLINE

*65:外務省: 「アラブの春」と中東・北アフリカ情勢

*66:国立国会図書館デジタルコレクション - ダウンロード

*67:メデジン・カルテル - Wikipedia

*68:カリ・カルテル - Wikipedia

*69:黄金の三角地帯 - Wikipedia

*70:「世界の工場」中国の次 浮上する黄金の三角地帯 :日本経済新聞

*71:黄金の三日月地帯 - Wikipedia

*72:世界の貧困を伝える旅: 巨大麻薬組織メデジンカルテルとコカインの生産と流通事情