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「尖閣問題」とは何か(豊下楢彦著)に対する所感/takamm氏への返答

この投稿に至った経緯

この投稿は、id:takamm氏が、私のブログの記事(「自民党、政権復帰。しかし、圧勝に浮かれてはいけない。」)を引用した記事(「「嫌中・嫌韓」の友人と呑んで-彼は何に突き動かされているのか」)を書いたことに対する返答投稿だ。もっともtakamm氏の引用箇所は、私の自己紹介と当該投稿の4つの結論のうち1つだけで、かなり離れた2箇所を文脈を無視して繋げると、こういう切り取り方ができるのかと苦笑してしまったし、私の投稿の主旨(自民政権のとるべき行動)は、takamm氏の投稿の主旨(嫌中嫌韓の人の心底)に関係なさそうに思うので、とばっちり感が強いのだけど(笑)

私の投稿が引用されたので、takamm氏の投稿に対し、私は次のようなブクマコメントをつけた。

the_sun_also_rises
グローバル化の反作用としてのナショナリズムの台頭。これは日本だけでなく中韓にも顕著になっている動きだ。僕はこれをトレンドと捉えている。必要なのはコントロールすること。排外主義はまずいが愛国心は必要だよ

それに対して、氏より次のIDコールがあった。

takamm
セルクマ。ブログ更新。id:the_sun_also_rises コメント感謝。豊下楢彦「『尖閣問題』とは何か」(岩波現代文庫)をぜひお読みください。見解をうかがいたい。

私はIDコールで次のように返答した。

the_sun_also_rises_sub
id:takamm 主アカでメタブを積み重ねたのでこちらで/本を読む前に尖閣問題は記事を書くつもりなのでまずはそちらで/国際論の著作は立証できない事を主張する言は基本評価していない。そんな言説でないといいけども

このコメントには、takamm氏から「はてなスター」をいただいた。


この本に対する私の評価

豊下楢彦氏の著作を少しネットで調べると、かなり左に偏った主張を展開しているように思えたし、現在進行中の問題を問題勃発後わずか3ヶ月で出版した本の内容には期待できなかったので、正直言ってこの本を読むのはだるかった。しかし、私は尖閣問題に関してこのブログに記事を書きたいと思っているので、この本の中に私が持っていない視点があるかもしれないと思い直して、読むことにした。*1
結局、記事を書くより本を読む方が楽なので先にこの本をさくっと読んでしまった。そんなわけで当初の方針と異なり尖閣問題の記事より先にこの読書感想文を書いているわけだが、この本については、1020円+消費税という文庫にしては高い価格設定もあり、左派が好む言説とは何か知りたいという用途以外で、買って読む価値はないと思う。

「尖閣問題」とは何か (岩波現代文庫)

「尖閣問題」とは何か (岩波現代文庫)


軍事論あるいは軍事を含む国際政治論(国際関係論)の性質

この本を読みながら思い出したのは、大学時代のゼミの教授の言葉だった。私事になるが私は大学で国際関係論のゼミに入っていて、核戦略論に関する卒業論文(学士)を書くことにしたのだが、それを教授に伝えると次のようにおっしゃった。
「軍事はジャーゴンの塊だからそれを乗り越えなさい」
この言葉には、2つの意味があると私は解釈した。

第一の意味:軍事論はかなりの部分が技術論になる。そのためにジャーゴン(専門用語とそれが表す概念・技術という意)が多用される。それが理解できなければ議論の土俵にすら立てない。
第二の意味:一方で相手が軍事的に無知であると悪意ある論者が看過したとき、ジャーゴン(訳の分からない言葉という意)を多用し、相手を煙に巻いてしまう。そういった言説を行うべきでないし、そういった言説を行なっている人や書籍、文献などとは距離を置くこと。

私見ではあるが、現在、軍事に関係する国際政治論(国際関係論)の本で国内で販売されている書籍は、上記の「第二の意味」に該当するジャーゴンを多用するものがかなりの割合で存在し、読む価値がない、あるいは読んで信じてしまうと害悪があるものが多いと思っている。それらの本(以下、紛い物の理論の本という意味で「紛い物論本」と称する)は概ね次のような特徴(欠点)がある。


実証性の問題|社会科学も科学の一つであり実証できねばならない。

軍事論、国際政治論(国際関係論)は、社会科学の一分野だ。
確かに政治、特に外交と軍事の分野は機密が多く、実証が困難なケースが多いが、だからといって、「実証の必要性がない」わけではない。
少なくとも、その主張が事実に基づくことを示すため、その思考の根拠となったものを明らかにすべきである。
「紛い物論本」は、その論の肝心な部分で、思考の根拠になるものを示さない。
そしてそれを誤魔化すために、ジャーゴンを使用し、読者に読者自身の知識不足を匂わせ、自身の論を正当化することもある。すなわち、読者はそのジャーゴンを知らないはずなので、一般的な解釈ではなく、自分の論に都合の良い解釈を与えてもわからないのだ。(ひどい場合は読者に説明することなくジャーゴンを造語する場合もある) 読者は、新たな知識(似非知識なのだけどね)を得て一つ博学になったと思い、著者に感謝する一方で著者の論を信じる。これがジャーゴンの典型的な使い方のひとつだ。


客観性の問題|恣意的なトピックの選択

政治、外交、軍事などを扱う場合、それも歴史評価の定まっていない現在進行形の個別問題を扱う場合、その論にはその論者の政治的信条が影響する場合が多い。このこと自体はやむを得ないと思うが、「紛い物論本」の場合、それが顕著で、論者は自説の正当性、すなわち自分の政治的信条(時には単純な感情としか思えないケースもあるが)正当化する目的で書いている場合が多いと思う。
それなのに関わらず大抵の「紛い物論本」は、一見客観性が高いように装っている。
商業出版物の場合、「紛い物論本」であっても、ひとつひとつのトピックを読むと、なんとなく妥当な主張をしているように思える程度の書きぶりにはなっている。
実は「紛い物論本」が偏っているのは、トピックの選定だ。
全く表題と関係がないトピックが書かれるケースは稀だが、主題と関係性が薄いトピック、つまり時間的関係性、空間的関係性、論理的関係性などが薄いトピックが、整理されず脈略なく並んでいると「紛い物論本」の匂いが強くなる。
「紛い物論本」の著者は、まるで塩っ辛い味付けを薄めるために水を後足しするように、元々の論の恣意性が高いことを薄めるため様々なトピックをとりあえず陳列するのかもしれない。*2


有効性の問題|実現性の乏しい結論は無意味

端的に言ってしまえば、特に外交や軍事を扱った「紛い物論本」の結論は、「勇ましい」か「空想的理想論の塊」かだ。極端なものが多いと思う。
政治、外交、軍事などの議論は、現実の問題にどう対処するかを論じるわけであり、実現可能性がない議論ほど空虚なものはない。
「紛い物論本」を見分けるためには、最初に結論や提言を読み、「それは実現できるか?」を考えるとよい。
実現不可能な結論や提言が並んでいる場合、その本を読むのは大抵時間の無駄になる。
語弊を恐れずざっくり言ってしまえば、右寄りの読者は「勇ましい」結論を好み、左寄りの読者は「空想的理想論」を好む傾向があると思う。私はそのこと自体は批判しない。しかし、その政治的信条ゆえ、自分の好む結論に対する実現性の評価が甘くなることは認識しておくべきだろう。
「勇ましすぎる」結論も「理想的すぎる」結論も、現実社会の中ではほとんど実現しない。*3


この本を鳥瞰する

目次

この本は、序章から第六章の7つの章とあとがきによって構成されている。各章には、2~5の節があり数字で表されている。節にはさらに数個の項がある。項には数字ははいっていない。
章レベルの目次は次の通り。

序 章 「領土問題」の歴史的構図
第一章 忘れられた島々
第二章 米国の「あいまい」戦略
第三章 「尖閣購入」問題の陥穽
第四章 領土問題の「戦略的解決」を
第五章 「無益な試み」を越えて
第六章 日本外交の「第三の道」を求めて

ざっくりと説明すると、この本の構成は、序章~第三章の部分(以下、「前半」と称する)と、第四章~第六章(以下、「後半」と称する)の2つに分かれる。

前半の要約

前半は、アメリカと石原氏への批判が中心だ。その要約は次の通り。

尖閣諸島問題など日本の領土問題が複雑になっているのは歴史問題が交錯しているからだ。(序章)
尖閣諸島の日本領への編入と中国・台湾の主張を吟味したが、中国・台湾の主張は後出しの主張であり妥当性はない。尖閣諸島はまぎれもなく日本領である。(第一章)
尖閣の返還交渉では、日本はアメリカ、中国、台湾などと複雑な関係にあった。本来はアメリカは日本の主権を認めるべきだ。しかしアメリカは尖閣諸島問題に対し「あいまい」な対応を続け、それが問題を更に悪化させている。アメリカが「あいまい」な対応をとるのは「オフショアー・バランシング戦略」をとっているからだ。(第二章)
石原氏の「尖閣購入計画」が野田政権を尖閣国有化へ追い込んだ。その背景にはアメリカがあいまいな対応をしているのが尖閣問題で中国の不当な発言を許しているという問題がある。そこで石原氏はアメリカに出てこざるをえない状況を作る目的で、日中の緊張を煽り軍事紛争に持ち込もうとしている。(第三章)

後半の要約

後半は、提言中心となっているのだが・・・。言い淀んでいる理由は次に書いた要約から推察してほしい。

北方領土問題は、当初日本は2島返還でよいと考えていた。それをアメリカが恫喝し方針を変えさせた。日本はその呪縛から離れ外交目標に優先順位をつけ「戦略的解決(=2島返還)」を図るべきだ。一方、竹島は、紛れもなく日本領だ。しかし価値のない島で韓国と争うのは利益がない。韓国とも戦略的解決(竹島譲渡または放棄、あるいは主権主張の放棄)を行うべきだ。(第四章)
米中関係は構造的な変化を見せる。アメリカは中国との協調を志向している。日本の中国との対決姿勢はアメリカの方針と異なる。日本は中国との緊張を煽る無益な行動をやめ、中国との合意を目指すべき。その第一歩は資源だ。石油と漁業で妥協点を探れ。そして尖閣は領土問題と認め関係各国と協議に入れ。(第五章)
日本は対米追従対中追従でない第三の道を考えるべきだ。その方策として軍備を削減し軽武装による自主防衛、外交力を基本とした道を提唱する。
集団安全保障体制に移行することは日本の対米追従を強める。やめるべきだ。
日本のミサイル防衛政策は破綻している。無駄だ。核武装は考えるべきでない。
沖縄はアメリカの軍事戦略に組み込まれているため対中紛争が起これば、真っ先に攻撃をうける。沖縄はアメリカの戦略から離脱し、日米と中韓との橋渡しする独自の外交戦略をとるべきだ。
日米関係を基軸にするのでは展望が開けない。日本は全方位外交を行うべきだ。(第六章)

 

この本の問題点(1)|実証性の問題

この本の問題点のひとつとして、読んでいて、「あれ?そんな事実は知らないな」というものが多かった点がある。
そんな時、私は、脚注や参考文献を見るようにしているのだが、それでも判らずネットで調査したり、別に書籍を求めて検証しなければならないものが多かった。これはこの本に論拠を書いていないことが多いからだ。つまり実証性に問題があるということだ。
本来であれば、それをひとつずつ指摘すべきなのだが、それを本論(この投稿)に書くと、あまりに多いので、論の見通しが悪くなる。
そこで、『附論:『「尖閣問題」とは何か』に書いている内容は本当なの?』という別投稿に指摘をまとめたので、そちらを読んでほしい。
総じて、解釈を変えたり、検討すべきと思われる事実を書いていなかったり、異論があるものに対して一つの解釈をあたかもそれしかないがごとく断言しているなど、問題は大きい。


この本の問題点(2)|客観性の問題

この本の問題点のひとつに、尖閣問題とは関係が薄いとしか思えないトピックが多すぎるというのがある。
領土問題という点では、確かに北方領土竹島問題も同じ日本が抱える領土問題ではあるが、領有の過程・歴史、領土を奪われた経緯・歴史、施政権の現状、相手国など、全く異なるものであり、それらを無理やり同一視して共通項を見つけようとするのは、強引すぎると思う。*4 
その他、湾岸戦争イラン・イラク戦争*5横田空域*6第三次アーミテージ報告*7ブッシュドクトリン*8ミサイル防衛(MD)*9イランの核開発問題*10統合エア・シー・バトル構想*11国際海洋法条約*12などは、尖閣諸島の領土問題と関連性が大きいとは思えない。
それらのトピックは、全て日本かアメリカに対する批判という文脈で使われている。
この本の特徴は、執拗なまでのアメリカに対する不信感と非難だと思うが、それを強調したいがあまり、そういった関連性の低いトピックを並べているのではないか。


この本の問題点(3)|実現性の問題

最後の問題点は、結論の妥当性だ。

北方領土竹島問題の解決策

この著者の基本的なスタンスは、特に北方領土竹島において「争いは無益であるから、3つの領土問題ではそれが紛れもなく日本の領土であっても、相手国に譲歩し、領土の譲渡・放棄か、主権主張の放棄を行う」というものである。
この主張の問題点は、子どもの方が本質を突くかもしれない。
「公園でおもちゃ*13で遊んでいたら、大きな年長の知らない人がやってきておもちゃを盗られた」と泣いている子どもに、いろんな大人の事情で「我慢しなさい」と諭す大人の姿を思い浮かべたらいい。
「あのおもちゃは僕のものなのに、なぜ盗られたのを我慢しなければならないの? 代わりはないんだよ?」
この疑問に納得感ある答えを出せるだろうか?
この筆者は、「領土問題を解決するために、相手国に譲渡・放棄するか、領土だと主張するのをやめよう」というのを、国民の多数が納得すると思っているのだろうか?
他に方法があれば、それをとるべきだと思うだろう。
日本は民主国家であって、こういった国の根幹に関わる問題で、国民の多数が納得出来ない方策を実行できるはずもない。

尖閣問題解決の方向性

尖閣諸島の問題については、中国・台湾とは領土問題であることを認め、まずは資源問題から片付けようとしている。一つの選択肢ではあるが、日本が譲歩すべき根拠が薄い。さらにアメリカの領土問題の中立を捨てさせ、日本領だと認めさせるべきだと説く。これは正論であり日本外交の最終目標はここに置くべきだが、問題は時期だ。もし今すぐアメリカが日本領と認めたら、米中の関係は一挙に悪化し、東シナ海南シナ海全域で軍事緊張が高まるだろう。
それが解っているから、アメリカも簡単には了承しない。
この本全体に執拗に表れる筆者のアメリカへの不信感とあいまって、この本の筆者は、こういった強硬策を日本がアメリカに対して採ることで、日米関係の離反を望んでいるのではないかと勘ぐりたくなる。
リアリズム(現実主義)に立つと、尖閣問題については、他の方策を採るべきと思う。こういった領土問題には特効薬はない。じりじりとした動きに耐えながら、相手の反応に応じて対策をとっていくべきと思う。このことは後日「尖閣問題」の投稿に書きたいと思う。

沖縄問題

沖縄の基地問題は重要な局面を迎えている。この本で批判している内容は、沖縄の負担という点で考えさせられる内容だ。私は、沖縄の基地問題については、現在の自民政権で3つのバラバラな動き*14がはじまると思っているが、それらがはっきりしてきたらこれは別途記事を書きたいと思う。
それは認めたとしても、豊下氏の言う沖縄に対する独自外交の勧めは、沖縄の分離に繋がる考え方だと思う。それはとても危険な考えだ。
もし沖縄の分離論が現実味を帯びてきたりすれば、それこそ日米vs中国にのっぴきならない対立が生じ、日米vs中国の軍事衝突の危険が増す。下手をすれば内乱が発生し同国民同士が争う悲惨な状況になるかもしれない。
沖縄に対する独自外交の勧めは、かえって沖縄に戦争をおびき寄せる考え方だ*15。強く反対する。

軽武装外交力重視の戦略

最後に、軽武装で外交力を中心とした、独自外交の姿勢をとるべきだという主張については、現状の軍事情勢を無視した空論であると言いたい。


takamm氏はなぜこの本を薦めたのだろう?

なぜ、takamm氏は、私に対して「豊下楢彦「『尖閣問題』とは何か」(岩波現代文庫)をぜひお読みください。見解をうかがいたい。」なんてIDコールしたのだろうね? この本を読みながら、とてもいぶかしく思っていた。
それはどういう目的だったのだろうか?
少なくとも、takamm氏は、この本がよいと思ったから、薦めたのだろう。*16

推論1:私を試した?

takamm氏の元投稿「「嫌中・嫌韓」の友人と呑んで-彼は何に突き動かされているのか」を読むと、私もネトウヨ認定されているみたいに思える(笑)。つまり、彼の友人と私は、感情的な衝動により狭い見識で自分の主張をしていると思ったのかもしれないなと思った。今回、私が論理的な反論ができなければ、takamm氏のいう「優越が覆されるかも知れないことへの危機感、不正義を突き付けられることへの恐怖」によって、このような言説をとっているという論拠にでもなると思ったのだろうか?
この点で、ひとつ言いたいことがある。
保守とリベラル。この2つは政治に対する価値観の差であって、どちらかが優越するものではない。両方とも万能ではない。だから、現実にあてはめようとしたときには、保守とリベラル、どちらであろうと必ずうまく説明できない事例が発生し、それでもどう考えるべきかと突き詰めていくためには「深い知性」が必要になる。
「深い知性」がないと他責的な言をとりやすい。それが中国・韓国へ向かう人もいるし、そういった人を責める人もいる。情報が多くなり理解できない事象に苛立ちスケープゴートを見つけようとしているのかもしれない。スケープゴート探しは何ら現状を改善しないし、単なる知性の放棄でしかない。私は、対案を伴わない批判を安易に行わないようにして、こういった傾向にはまらないようには気をつけている。
当然、保守もリベラルも「深い知性」を備えている人より、そうでない人の方が圧倒的に多い。
私自身、単なるいちビジネスパースンでしかないし、休日にちょこっと本を読むぐらいしかできないわけで、現実の問題を見通すには圧倒的に知見が足りない。ただその点について、私は自分を過信しないし、謙虚な精神を維持できていると思っている。
私は「まだ見識が劣る人の言動」に対し自身の優越性を感じたりしない。*17
takamm氏が書いたような「優越が覆されるかも知れないことへの危機感、不正義を突き付けられることへの恐怖」というのは、全く的外れと指摘しておきたい。後ほど、リアリズム(現実主義)について記述するが、そういった感情と対極にある理論だと思う。

推論2:この本が本当に優れていて中立・公正な見解だと思った?

これが一番可能性が高いのかなと思う。
そうであればそのこと自体が、takamm氏の政治的信条、立ち位置を表しているのだろうなと思う。自分の意見に近い著作の評価は甘くなりがちだ。但しtakamm氏がいかなる政治的信条、立ち位置であっても全く差し支えないということは敢えて明記しておきたい。それを批判しているわけではない。
だからといって、このような党派性の強い主張の本を、中立・公正と思って誰とはなしに薦めているのであれば、それは感心しない。
それを理解するためには、次の本を読んでみてはどうかと思う。takamm氏の政治的信条、立ち位置を考えると、少し読んだだけで「これは偏っている」と感じるのではないか?

第二次尖閣戦争(祥伝社新書301)

第二次尖閣戦争(祥伝社新書301)


これも、『「尖閣問題」とは何か』と同時期に出版された本だ。
目次を列挙しただけでわかると思うが、これは「勇ましい結論」の「紛い物論本」のひとつと私は評価している。*18

目次
一章 正念場を迎えた日本の対中政策
二章 東アジアをめぐるアメリカの本音と思惑
三章 東アジアをじわじわと浸潤する中国
四章 やがて襲いくる中国社会の断末魔
五章 アメリカを頼らない自立の道とは

『「尖閣問題」とは何か』も『第二次尖閣戦争』も、冒頭で、久場島大正島のアメリカによる借受と、施政権と領有権を分離したアメリカの外交の二面性を指摘しているのが興味深いと思う。しかし、同じ指摘からスタートしているのに関わらず、結論は全く逆だ。
そして、『「尖閣問題」とは何か』は徹底してアメリカへの非難、不信が貫かれているが、『第二次尖閣戦争』には徹底して中国の弱点指摘の姿勢が貫かれている。
最後は、両方共、アメリカに頼らない独自の道を提唱している。しかし全く逆の方向で(笑)。
両極にあるものは、えてして左右正反対の鏡面反射のような関係になることがある。とても面白いと思う。これもその一事例だろう。
『「尖閣問題」とは何か』を薦めるのも、『第二次尖閣戦争』を薦めるのも、政治的立ち位置の左右の差はあれど、同じ事(=自分の政治信条の名刺代わりにはなっても、意見の異なる人には偏っている人と思われるだけ)と私は思う。


最後に。リアリズム(現実主義)の紹介

リアリズム(現実主義)とは

私は自己紹介に、「リアリスト」と書いている。リアリストは、リアリズム(現実主義)に基づく考え方をする人のことを指す。
リアリズム(現実主義)とは、国際政治論(国際関係論)の主要な理論のひとつだ。事実上の標準(デファクトスタンダード)といってもいいかもしれない。まずは、Wikipediaの記事を読んでほしいと思う。
リアリズム(現実主義)は、好悪、善悪を重視せず、国益をどう達成するかという観点で、国際関係を分析する。
そして他国との関係を、基本的には性悪説で捉えるため、冷たい、人間性に欠けると批判されることはあっても、takamm氏が指摘するような「隣国への優越感(およびその裏返しの劣等感、後ろめたさ)」はない。それどころか、そういった感情が残っていると正確な分析に差し支えるという考え方だ。
また、好戦的ではない。ほとんどのリアリストは、戦争を忌避する。但し、それは「戦争は悪である」という道徳的な捉え方ではなく、戦争は予測不可能な状況を生み、コントロール不能な状態になるからで、「コントロール」を重視する考え方だと思ってもらってもよいと思う。*19
さらに、takamm氏が指摘した現在の韓国のような「隣国が国力をつけ、戦争犯罪の問題は終わっていないと抗弁困難な主張」すること*20も、二国間関係で比較的よく起こるひとつのパラメーターと認識する。

takamm氏の元投稿について

在特会の主張には、あまり関心がないので詳しくは知らないが、ざっくりと見聞きした限りでは、彼らはリアリスト(現実主義者)ではない。
takamm氏の友人は、情報が少ないのでよくわからないが、まだリアリスト(現実主義者)ではなさそうに思う。しかし、その理論を知れば、シンパシーを持ってもらえるかもしれない。少なくとも、在特会のように「意図をもって」嫌悪を広めようとする人ではなさそうだ。
takamm氏の元投稿「「嫌中・嫌韓」の友人と呑んで-彼は何に突き動かされているのか」では、いくつかのサンプルを集め、共通の性質を探ろうとする方法をとっている。ご存知と思うが、この方法を「帰納法」という。しかし、いかんせんサンプル数が少なすぎる。そして異なる考え方を持つ人を同一視しようとしている。これでは説得力のある解は導き出せない。
それは帰納法を使う際よく起こす初歩的な間違いである「早すぎる一般化」という間違いを犯しているからだ。「早すぎる一般化」は、こちらの投稿(帰納法で失敗する原因)が、わかりやすく説明していたので、読んでもらえればと思う。
ネトウヨという侮蔑性のある言葉で、いろんな考えを持つ人を十把一絡げにはしないほうがよい。

id:takamm氏へ。
最後に一つ、言いたいことがある。
このような外交・政治に関わる290pに及ぶ書籍の所見は相当長文にならざるをえない。特にこの書籍には問題点が多すぎる。
今後「書籍の感想を求める」のであれば、まずご自身のブログにその書籍に対する意見を書き、論点を絞って意見を聞くようにしてほしい。今回は安請け合いをした私が悪いのできちんと書いたが、今後、その方法でなければご要望には添いかねる。また時間等の制約もあるので、例えそのように聞かれたとしても、必ずしもご要望にお応えするわけでない点も了解してほしい。

*1:もっとも読み終わった今は、安請け合いをした自分を呪っている。本の内容は簡単だったので3時間ほどで読み終わったが、この読書感想文を書くのはその10倍以上の時間がかかっている(笑) 本は最初から最後まで指摘すべき事項が続いているので(いわゆる突っ込みどころ満載という状態)、それを書くと文章量が非常に多くなった。

*2:恣意性を強く感じさせることを薄めるため、ジャーゴンが多用される場合も多い。

*3:私は「保守右派リアリスト」という立ち位置と自認している。リアリストという立ち位置を守るため、保守右派として「勇ましい」結論にやや甘くなりがちな傾向を認識し、書籍やその他の文献を読むようにしている。

*4:『「尖閣問題」とは何か』は、第4章全部を、北方領土問題、竹島問題にあてている。

*5:『「尖閣問題」とは何か』第2章 65-67p

*6:『「尖閣問題」とは何か』第3章 90-92p

*7:『「尖閣問題」とは何か』第6章 199-204p

*8:『「尖閣問題」とは何か』第6章 205-206p

*9:『「尖閣問題」とは何か』第6章 210-217p

*10:『「尖閣問題」とは何か』第6章 217-229p、263-269p

*11:『「尖閣問題」とは何か』第6章 256-263p、271-273p

*12:『「尖閣問題」とは何か』第6章 269-271p

*13:領土をおもちゃに例えるなんてという批判があるといけないので、ここでは子どもにとっておもちゃは「とても大切なもの」という意味で使っている。

*14:ひとつは期間を限定した一時的な辺野古移転を探る動きと普天間以南の米軍基地返還を早める動きがはじまると思う。残り2つについては現在はまだ憶測としかいえないので時期がくるまで伏せておきたい。

*15:これには前提条件が一つある。日本とアメリカの同盟関係が現状と同じくらい強固な状況が続いている場合という前提条件だ。もし日米が離反していれば、沖縄の分離活動が強くなると日本は中国に従属するしか選択がなくなるだろう。この筆者は一貫してアメリカへの不信を表明していることを考えれば、日米の離反、日本の中国従属というのが真意なのかもしれない。

*16:「本を読んで感想を聞きたい」というのは、手間かからずの反論メソッドとしても利用できる。相手に手間を掛けさせ、そして書いた感想のほんの一部だけを取り上げて再非難するメソッドだ。私はtakamm氏がそういった姑息な手段としてこのIDコールを行ったわけではないと信じたい。

*17:自分も「まだ見識が劣ること」を十分にわかっているから。

*18:事実の捻じ曲げの度合いは「第二次尖閣戦争」の方が「尖閣問題とは何か」よりましに思えるが、いかんせん結論が極端すぎ現実性がない。

*19:コントロールができるのであれば、対立を深める方策もとるため、好戦的と誤解されているかもしれない。しかしほとんどのリアリストの最終目標のひとつは「戦争回避」だ。その中で国益を最大化する方策を考えている。

*20:抗弁困難かどうかはわからないが、直接歴史問題を否定する方法に現状有効性がないのは認める。